小ネタ ミコっちゃんって猫に似てるから
いきなりだが、ここにいる上条当麻は何かと捨て猫に縁がある。
そもそも同居人のインデックスが拾ってきた三毛猫を、寮部屋で飼っているし、
(上条の住んでいる学生寮はペット禁止。ついでに言えば、男子寮なので女性と同居する事も禁止)
御坂妹が黒猫を拾って飼うきっかけを作ったのも上条だった。
そして今日もまた、ダンボールの中でうずくまる白猫を見つけてしまった。
どうしよう…と上条は考える。
上条家のエンゲル係数は、これ以上は誰も養えないと悲鳴を上げている。
オティヌスはペットボトルの蓋に盛ったご飯2~3杯でお腹一杯になってくれるので家計に優しいが、
先に紹介したインデックスと三毛猫・スフィンクスは、とにかく食費がかかるのである。
なのでこの白猫には悪いが、飼ってあげる事は出来ない。
犬と違って、猫ならば野良でもたくましく生きていけるだろう…
と、上条は自分で自分を納得させようとする。しかし。
「ううぅ…やっぱり放っておけねーよなぁ……」
困っている人がいたら助けずにはいられない性格の上条には、
捨て猫を見つけて素通りする事も出来なかった。とりあえず猫用のミルクだけでも買って来て、
ダンボールの中に置いておこうかと考えながら、その白猫に手を伸ばす。
「にゃーにゃー」
周りで誰も見ていないので、猫の鳴きマネなんかしてみちゃう上条。
こんな姿を知人に見られたら、いい笑いものにされそうだ。
しかしこの直後、上条はとんでもない事実に気付いてしまう。
『ガサッ…』
手を伸ばして触ろうとしたその白猫は、白猫ではなかった。というか、猫ではなかった。
ビニール袋である。それはもう、猫と見間違えていただけのビニール袋だったのである。
一瞬「猫になる呪いがかかっていたビニールを、幻想殺しで元に戻したのかな?」とか、
現実逃避な考えをした上条だったが、そんな訳がないのは上条が一番よく分かっている。
上条はその場でスッと立ち上がり、早々にここを離れる事を決意した。
誰にも見られていなかったが、恥ずかしい事この上ないのだ。
だが、ご存知の通り上条は不幸体質。このまますんなりと行く訳がないのである。
突然背後から、
「…っぷ! くすくすくす!」
と明らかに上条に向けて含み笑いをする声が聞こえてきた。
上条が真っ赤になって振り向くと、そこには美琴の姿が。
「なっ!? お、お前、い…いつからそこにっ!!?」
「ぷっくくく…! い、いつからって、ア、アンタがレジ袋に向かって、
『にゃーにゃー』って言った時か、ら……あはははは! もうダメ限界! あはははははは!」
ついに決壊して、お腹を抱えて笑い出す。
美琴はいつものように上条を放課後デートに誘おうとしたのだが、
上条を見つけた時には既にダンボールの中のビニール袋とにらめっこしながら、
何かに悩んでいたので、何か面白そうな事が起きそうだと判断した美琴は、
そのまま声を掛けずに様子を見て【およがせて】いたのだ。
結果的には思った通り…いや、思っていた以上に面白い瞬間を目撃してしまった。
一週間は困らないような話のネタ【おちょくるざいりょう】である。
上条は真っ赤な顔のまま「ぐぬぬ」と唸ると、ちょっと涙目になりながら文句を言う。
「だ、誰にだってこんな間違いあるだろ!? つーか笑いすぎだろ!」
「だ、だって…! あんなに堂々と、にゃ、にゃーって、あっはははははは!」
「~~~っ!」
美琴は中学二年生にしてはかなり大人びてはいるが、
それでも箸が転んでもおかしい年頃である事には間違いない。
大笑いは止む事がなく、上条はそっぽ向いて不貞腐れてしまう。
「ああ、そうかよ! 悪かったなビニールに『にゃー』とか言っちまって!」
「あははは……はー、はー…ごめん、ごめんってば! もう笑わないから!」
ようやく落ち着きを取り戻した美琴は、上条の肩をポンと叩く。
笑いすぎて溢れた涙を人差し指で拭いながら。
しかしそれで上条の気が晴れる訳ではない。笑われたままでは何か悔しい。
なので上条は、美琴に仕返しをして、今度はこっちが笑ってやろうと決意する。
「ふっ…ふっふっふ! あれー? こんな所に大きな猫がいるなー!」
突然、棒読みな芝居口調でそんな事を言い始める上条。
だが周りには猫などいない。またレジ袋でも見つけたのかと、再び吹き出しそうになる美琴だったが、
その刹那、上条がとんでもない事を言い出してきた。
「おやおやー? この猫は何だかビリビリするなー。電気猫なのかなー?」
「……………へ?」
上条は真っ直ぐ美琴の顔を見ながら、意味不明な供述をする。
というかそもそも、電気猫って何だ。電気ねずみなら有名だけども。
「でも猫は猫だからなー。首をこうやって撫でれば、ゴロゴロ鳴くんじゃないかなー」
「にゃっ、にゃにゃにゃ…ふにゃっ!!?」
しかも今度は、美琴の首を指でコチョコチョしてきやがった。
どうやらこれが上条式の仕返し方法らしい。
おちょくられた分は、きっちりおちょくり返してやろうと思っているのだろう。
しかし実際にやっている事は、端から見ればただのイチャイチャに過ぎない。
知らない人が見たら、恋人同士がふざけ合っているようにしか見えないのである。
そのまま爆発しなさい。