小ネタ 苦くて甘い
さて、目の前のテーブルの上に並ぶ、絶品料理の数々。
オムレツ、青椒肉絲、ピザ、金平、炒飯……
統一性が、ないように見える。
しかし、箸を握り、固まってしまった高校2年生の美琴はすぐに気づいたのだった。
「……彼氏さん彼氏さん」
呼ばれてキッチンから出てきたのは、大学1年生の上条。
この前美琴からプレゼントされた、フリッフリのかわいいエプロンを装備してる。
「なにかね? 彼女さん」
「まず、彼氏の主夫力に衝撃なんですけど」
「もうすぐスープもできるぞ」
「あと、こいつが重要なんですが」
「なにかね?」
「なんですべてにピーマンが使用されてるの?」
「……」
沈黙。
バッ、と美琴は玄関に向かって走るも上条に軽々と捕まる。
「い、いやだーーー!!」
「いやだじゃない。食べろ」
「鬼ー!! 食事に誘われてウキウキ来て……なんで拷問されなきゃなんないのよ!!」
「この前遊びに行ったとき、レストランでこっそりピーマン残してるのを見ましてね、美鈴さんに聞いたら昔からだと」
「あのバカ母なにペラペラと!!」
「美鈴さんにも頼まれたんだよ。ニガテを克服させてやってくれって」
「あの人ニンジン食べられないくせに!!」
じたばた大人気なく暴れる美琴。
こんな姿は上条にしか見せられない。
「ダメ。ピーマン食べるまでは……」
暴れる美琴を後ろから抱きしめる上条。
最近ようやく恥ずかしくなくなってきた。
「抱きしめた後のナデナデはなし」
抱きしめられて急におとなしくなっていた美琴が、またまた突然頭をあげた。
表情ですぐにわかる。
それだけは避けたいらしい。
「将来子供ができたときも教育できなくなっちまうぞ?」
美琴がまばたきをした。
少しずつ顔が赤くなる。
小さく「こ、こども…」と呟いている。
絶妙なアメとムチなのだった。
「……」
いつもは年上の余裕を見せるのに必死な上条。
今は後ろから抱きしめているのでその心配はない。
顔面がぐにゃぐにゃにニヤけているのである。
「ほい、わかったら座る。スープもできるころだ」
頷き、トテトテとテーブルにつく美琴。
しかし、テーブルに整然と並ぶ緑色を見て、顔色は赤から青に変化していく。
スープを2人ぶん持ってきた上条も席についた。
さてさて覚悟を決めなされ。
「……しょーがない。ほれ、あーん」
「!!!!」
アメ追加。
「ぜ、全部ふーふーして、あーんしてください」
ゆっくり箸を一度置く上条。
行儀わるいなぁ。
「調子乗るな」
ビシッとチョップが入る。
改めまして、
「ほれ、あーん」
美琴はしばらく逡巡したが、目をギュッと瞑って箸と上条の愛をくわえた。
少しずつ口を動かす。
すると、美琴は目を見開いた。
背景に電流が走る。
能力で。おかげで幻想殺しの出動である。
「あれ? 美味しい?」
「なにしてんだよ……ま、ピーマンはちゃんと味付けして、きちんと熱を通せば美味しいんだぞ」
「美味しい!!」
箸がどんどん進む。
味付けだけじゃない。
やはり、隣に座る人間の愛が美味しいのだ。
「これなら毎日食べられる!!」
「将来こども生まれても、これで笑われないな」
「こ、こども………あっ!!」
「どうした?」
「お礼しなくちゃ」
「ん? いいよ、別に」
「よくない!! 明日はわたしが腕によりをかけてつくる!!」
「そっか、ありが「アスパラガス料理を!!」…………え?」
「気づいてないとでも、思った?」
顔の陰影はなんとなく母を思い出させる。
「ちょ「子供の前ではカッコいいパパでいたいでしょ?」ぐっ……」
そのまま美琴は上条に抱きついた。
「大丈夫、絶対美味しくするから!!」
そういわれるとなにも言えない。
ため息がでるが、今から楽しみにしている自分に、内心驚く上条だった。
「あぁ、楽しみにしてるよ」
今日のキスは美味しいピーマンの味がした。
「まことはぴーまんも、あしゅぱらもだーすきよ?」
「「なんか悔しい!!」」