気付いた?
「へくちっ!!」
12月。
冬真っ盛りの学園都市。
街道の木々も寒々しく、
数枚しか残っていない木葉を見るとさらに心が滅入ってくる。
しかし、2人が落ち込んでいるのは寒さが原因ではない。
「へくちっ!! っうー、今日は一段と寒いわね」
「はい。今季最低気温らしいですよ。スパリゾート楽しみにしてたんだけどなぁ」
「風紀委員の集会なら仕方ない、のはわかってんだけどね」
うー寒い、といって美琴はまた肩を震わす。
そして美琴と佐天は空を見上げて同時にため息を吐いた。
週末約束していたスパリゾートの予定。
クリスマスを控えた臨時集会なんてものに例によって邪魔されたのである。
白井は勿論、初春も「憂鬱」の文字を顔に貼り付けて会議に向かった。
「へくちっ!! 今日はどうしよっか?」
「そうですねぇ……」
4人で計画した予定を2人で実行する気にもなれない。
自販機で買ったhotの「西瓜紅茶」に舌鼓を打ちつつ今日の予定を再思案する。
暫く続いた沈黙を破ったのは佐天だった。
「じゃあ、今日は上条さんにアピールしましょう」
「ぶーーーっ!!ゲホッゲホッ!!」
常盤台中学にふさわしくない行動だ。
3分間くらい咳き込む美琴を尻目に、ホットドリンクを堪能する佐天。
ようやく落ち着いたらしい。
「さ、佐天さん。どうしてここでアイツが出てくる「だって御坂さん上条さんのことが好きじゃないですかー」ゴホッ!!ゲホッ!!」
全然落ち着いていないのだった。
仕方なく佐天は妥協する。
「わかりました。じゃあお洒落を楽しむだけにしましょう」
「……ゲホッ、ゲホッ、お、お洒落?」
「はい!! 近くに無料でお化粧を試せるお店があるんです!!」
試供品(サンプル)を集めて宣伝効果を期待しているのだとか。
とはいえ、
「んー、寮則が厳しいからなぁ」
「寮に戻る前に落とせばいいんですよ!! 化粧落としの試作品も見れるりましたから!!」
美琴だって女の子である。
お化粧には興味津々だ。
他に案もない。
それに……
「じゃ、行こっか!!」
あのツンツン頭の後姿が、頭をよぎった。
さて、
佐天と美琴のキャッキャウフフを期待していた諸君には申し訳ないが少し時間を進める。
本題からそれるので勘弁してほしい。
一気にクライマックスに進めようと思う。
「で、佐天、用ってなんだ?」
(なんでコイツがいるんだぁぁぉぉああああああああ!!)
本題登場である。
店員さんに試供品を薄く着けてもらった美琴達。
テンション高く外に出たらヤツがいた。
口紅がうっすらついた口を、
パクパクと動かしながら隣を見る。
とびっきりの笑顔を向ける自慢の親友がいた。
(いつの間に連絡したの佐天さぁぁぁぁぁああああん!!)
本当にこの子の行動力には頭が痛くなってくる。
頭を抱えた。
「うぅ~~……ん?」
ふと気づく。
「ふぇ??」
アイツが自分の顔を覗き込んでいる。
「えっ? あれっ?」
佐天もついてこれていない。
心臓がバクバクいってきた。
「……」
なにも言わず、少しずつ顔を近づけてくるアイツ。
美琴大混乱。
(まさか化粧にこんな即効性があるなんて!!
いやいや、能力関係ないって店員さん言ってたし!!
どうしよっ!!
顔の赤みが引かない!!
体温あがってきた!!
意識が朦朧としてきた!!
うわーーーーー!!)
あうあう言い出した美琴を、上条は華麗にスルー。
しかし、目は逸らさずに声を出す。
「佐天」
「え? あっ、は、はい!!」
「お前の用って急用?」
「い、いえ!! いつでも大丈夫です!!」
「そっか」
そういって、あのヤロウ、
美琴の頬に右手を添えやがった。
美琴大混乱。
(びゃぁぁぉぉあああああああああああああああああああああああああ!!!!)
若干唇を突きだし、
\(///>3<///)/
↑のような状態の美琴を再び上条はスルー。
「じゃ、オレとコイツ急用できたんでまた今度な!!」
そう言って、ヤツは美琴をお姫様抱っこして颯爽と去っていった。
「はい、口閉じていいよ」
目の前にはゲコ太先生がいた。
つまりは病院である。
美琴はいまだになぜここにいるのかわかっていない。
「くしゃみ、寒気、咳、頭痛、微熱。
典型的な風邪だね」
「風邪……ですか?」
「……?? 自覚してなかったのにここにきたのかい?
不思議な患者さんだね?」
「いえ、半ばムリヤリ連れてこられて…」
「ふむ、じゃあその人に感謝したほうがいいかもね? 早めに対応できたからすぐ治るだろう」
「はぁ」
「今年の風邪はたちが悪いから、ひどくなる前でよかったね?」
薬出しとくから飲むようにといわれ、診察室から追い出された。
「……えっと……」
アイツがいない。
通りがかりの看護師に聞いてみた。
「あぁ、彼氏さん?」
「ちっ、違います!!」
「メールを見た瞬間すごい形相で出ていったわよ」
きっと、また誰かを助けにいったんだ。
「でも、彼氏さんすごいわね。本人すら自覚してない風邪に気づくんだもん」
あなたのことよく見てるのね、
といって去っていく看護師に顔を赤くする。
ポカポカ温かいのは、
きっと微熱があるからだ。
(アイツ……最後まで化粧には気づかなかった……)
今も自分じゃない誰かのために動いている。
でも、でも、
(……気づいて、くれた)
あの時、あの瞬間だけは、
アイツの目には、自分しか写っていない。
そう、考えると……。
動悸がする。
体が震える。
頭がぼーっとする。
本当に、この風邪はたちが悪い。
さて、そろそろ、
あの佐天を放置してしまったことに気づこうか。