小ネタ 抱きしめる
眼前には、漆黒。
無限に広がる、闇、闇、闇。
手元も見えない暗闇の中に、
御坂美琴は立っていた。
状況を確認しようと、周囲を見渡し、
視点が一点に止まる。
そこにいたのは、
闇にすら飲まれない。
何もかもを殺菌、消毒したような、
白。
その後ろ姿を確認して、
息を飲んだ。
狂気の周囲にいくつも横たわるのは、
己と同じ姿をした…………。
「一方通行ァァァァアアあああああああああ!!」
電撃を纏ったそのとき、
絶望は振り向く。
『…………なにキレてンだ? 同類』
え?
目を見開く。
目の前にいるのは一方通行ではなかった。
闇にくっきりと浮かび上がるは、白衣。
全てを飲み込みそうな白だった。
彼女は美琴の頬に手を添える。
『こんにちは、可愛い人殺し。助けてほしい人がいるのよ』
彼女の視線が横にずれる。
見たくなかった。
しかし、顔がそちらに向くのを止められない。
視線の先には、恐ろしい光景。
上条当麻を壁に押し付け、
首を絞めつつ、上条の口に異物をいれようとする、
妹達。
息を飲んだそのとき、
さらに事態は進んでいた。
いつのまにか、御坂はあの禍禍しい兵器を構えている。
「…………ぃや…………」
どこからか、声だけが響く。
『さぁ、同類、大切なものを守るために、他をすべて捨てましょう』
勝手に機器が蠢く。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
要塞すら破壊する砲撃が、
放たれた。
そして、
衝突の直前、時間が止まり、
暗闇が砕け散った。
とあるマンションの一室。
時刻は午前3時。
高校2年生になった美琴は、
ベッドで静かに寝息を立てている。
もう、うなされてはいない。
そっと美琴の涙がぬぐわれた。
滴に濡れた右手の持ち主は、
彼女と寝床を共にする、
上条当麻。
彼の表情は、
安心しているようで、
怒っているようで、
慈しんでいるようで、
泣いているようだった。
彼は知っている。
その悪夢が、右手で壊せる幻想ではないことを。
彼女が、自分のためなら何もかもを、
誰かの命や、己の命すら、
捨て去る可能性があることを。
故に、彼は、
再び彼女を力強く抱き締めた。
ただただ、抱き締めた。