とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part008

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第1章-08


バタフライ効果という言葉がある。

力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化により、
その後の力学系の状態が、変化のない状態に比較して大きく
異なってしまうという現象である。

いわゆるカオス理論で扱うカオス運動の予測困難性、初期値
鋭敏性を意味する標語的、寓意的な表現である。

とある気象学者が、蝶がはばたく程度の非常に小さな撹乱でも
遠くの場所の気象に影響を与えるか?
という問い掛けと、もしそれが正しければ、観測誤差を無くすことが
できない限り、正確な長期予測は根本的に困難になる、という
数値研究の研究から出てきた提言に由来する。

御坂美琴は、小学校の能力開発の段階で数学・統計学・物理学
については特に念入りに叩き込まれたので、通常なら理工系
大学院生でも、うろおぼえの事象でも、すらすら暗唱できる
いわばガチガチの科学脳だから、このバタフライ効果や、カオス
理論も、すべての思考の前提で理解できているつもりだが、その
科学脳ではどうしても理解できない存在があった。

「樹形図の設計者(ツリー・ダイアグラム)」である。
そのスペックであらゆる演算を可能とし、天気予報から、あらゆる
数値実験を可能とし、一方通行を被験者とした自分のクローン
1万31人を殺すという悪魔の実験の元となったアレ。

だが、御坂美琴の知る限り、つまり既知の学術理論では、初期値
が完全に観測できない限り特に気象における完全な数値計算は
できないはずなのだ。

 流体力学にはナビエ・ストークス方程式があるが、非常に難解
であり、かつ初期値の設定とそれによる近似解しかないという
のが、御坂美琴が学んだ話だ。

実際外の世界の天気予報は
おおむね80%程度しかあたらないらしい。
わずか2~3%精度を上げるために何十倍の演算を必要することも
知識では知っている。

 ではなぜ100%正確な気象予報ができるのか?
アルゴリズムの改善や、演算速度を少々上げたところで
できるはずはない。
つまり、2つのありえないことを学園都市が
実現できているということだ。




全地球の素粒子レベルの正確な観測による初期値の確定と、
今はできないはずの完全な
流体力学理論とカオス理論があり、すべてのバタフライ効果を
演算で再現できたということ。

それは量子理論で葬り去られたはずのラプラスの魔があると
いうことだ。
観測の限界などないという話になる。

そこまでできる学園都市がなぜ?
不完全な演算しかできない生身の人間の能力者を育成し、
国際法違反の、というより人倫に反する行為を犯してまで、絶対
能力者進化実験を行ったんだろう?

数々のfive over 兵器ことに、僧正を一発で仕留めたアレを持つ
学園都市には、絶対能力者など不要だろう?
超能力開発には、脳の演算能力を飛躍的に高める側面もあり、
私も外の世界ではありえない、殊に0と1の世界では
チート級頭脳があるという自負はある。
能力開発が学術研究において学園都市にアドバンテージを
与えていることは否定できない。

だが、クローンを殺すために2万人作成し、
1人に殺させるなんて頭がいかれているとしかいいようがない。
そんな必要などどこにあるというのだろう。

超兵器ならここにある、演算なら樹計図の設計者でできる。

百歩譲って実験に意味があるにしても外にばれたらどうするのか?
しかも外部にも顔を知らている
私のクローン2万人を使うなんてふざけている。

もしも、それが明るみにでれば、私の母御坂美鈴は
万策を使っても御坂美琴を脱出させようとするだろう。
そんなことが起これば学園都市は終わりだ。

常盤台でも特に有名な私の母がそのような運動を起こしたら?

でもそんな事は多分起きない。
その前に母は殺されるだろう。国際法違反のクローンを
作成し、殺すことにためらいのない学園都市。
1人の一般人を殺すことにためらいなどあるはずもない。
事務的に殺して終り。記録には事故死としか記載されないだろう。

あらためて私の周りの平和というやつが、きわめて危うい均衡の元に
成り立っていることに気が付かされる。

私はドラマでいえば「知りすぎた女」
それなのにいつ崩壊してもおかしくないきわめて
脆弱な基盤の上で何も知らずに
のうのうと騒動の中心人物との恋愛に身を焦がして
暮らしていた自分。

ふーうとため息をつく、あーそうか
知らぬが仏とはよく言ったものだわ。知ってしまった以上、知らない
という逃げ道は
もはやないのね。

よし・・・だったら全部知ってやろうじゃないの。
運命というやつに立ち向かってやろうじゃないの。
持前の負けん気が私を突き動かす。

そして、心眼を研ぎ澄まし、入手した情報を整理する。
落ち着いて、私のすべての枠を外して、学園都市自体の
闇を直視する。

丁寧なほぼ無音のエアコンが発するごくわずかな作動音
のみが響く、いかにも高級そうなマンションの一室で
瞑想しながら、手をPDAにかざし、0と1の数字を転がす。

僧正、グレムリン、イマジンブレカー、絶対能力者進化実験、自身
の暴走、僧正を破壊したアレ
クローン、9月30日事件、ロシアで見たアレ

そうか。天使みたいなアレ、僧正や上条当麻右腕の力の謎。
ヒントはあるじゃない。

0と1の世界ではチートな脳がフル回転をはじめ、膨大な
収集した電子情報の解析と評価を始める。

頭の中に、学園都市の本当の目的らしきなにかが浮かびあがる。
そして。。。それがはっきりと頭に像を描き始める。
だが自分のわずかに残った理性がそのさきの回答を
必死に妨害しようとする。

それ以上知っちゃだめ、知ったら元には戻れない、まだ早い。
そうね、それは彼にあってからにしよう。いまならまだ引き返せるわ。

自分はすでに知りすぎた女、これ以上知ってしまえば、ふつうの
何も知らない一般学生など戻れるはずもない。
そうね、まだ切り札を出すには早すぎるわね。
いまは戦略的撤退中の身だったわね。
罰ゲームでない、偽データでない本当の最初のデートまでは
保留にしておきましょう。
もう一度契約の効力を確認しよう。
上条当麻、8月31日の約束は覚えているわよね。
「御坂美琴と周りの世界を守るという。」
もし覚えていないならただでは済まさないわよ。
地獄の底まで追いかけてやるから覚悟しなさい。








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