プレゼント希望
晴天の霹靂であった。
今日は美琴の誕生日だ。
仲良し4人組は、誕生日プレゼントを選びながらお買い物の最中だった。
そこに近づく1つの影。
皆さんご存じツンツン頭の少年である。
やつは彼女たちの正面に立つと、
大きな声で叫んだ。
「美琴!! 悩んだけど、お前にオレの体ごとくれてやる!! 受け取ってくれ!!」
もう一度いう。
晴天の霹靂であった。
意識はない。
彼女の目の前を、友人である佐天涙子の手がヒラヒラと動く。
「ダメですね、目を覚ましません」
湯気だけはずっと出てたりする。
温暖化促進の一要因である。
「こっちもダメです」
返事したのは初春飾利
彼女は白井黒子の肩を揺さぶっていた。
真っ白のまま固まっている白井。
魂が出かかってる。
芸術である。
「あー、なんかスマン」
とりあえず謝るのは上条当麻。
理由はわからないが、原因が自分であることはわかっているらしい。
理由こそわかれよ。
佐天は美琴の頬をつつき、「熱いっ!!」と呟きながら、
地面に正座する上条を眺めた。
「御坂さんの代わりにお聞きしますけど、誕生日プレゼントなんですよね?」
「おう、プレゼントはオレだ」
「ぬっふぇ「待って!! 耐えて初春!! あたしだけになっちゃうじゃん!!」あ、はいっ!!」
まったく、この男は…………。
「なんでそんな結論になっちゃったんですか?」
「いろいろ世話になってるから礼をしたいんだけどさぁ、オレ金なくてさ。だから、体で支払おうと思ったんだ」
真顔でシリアス顔だった。
結局初春が脱落した。
つまり、ツッコミがいなくなったのだった。
「ってことで、明日1日上条さんをレンタルしたんで」
「「「なんですと!!?」」」
佐天宅。
プレゼント贈与終了直後の大告白だった。
因みにプレゼントの内容としては、
佐天からは高性能イヤホン。
地味にうれしい。
初春からは可愛らしいティーカップ。
みんなとお揃い。
白井からはスケスケネグリジェ。
ごみ箱いき。
白井からさらにアダルト下着。
ごみ箱いき。
白井からさらに媚薬。
ごみ箱いき、白井焼き。
白井からさらに可愛らしいクッション。
ようやく頂戴した。
しかし、そんなプレゼントの後に、
上条からとんでもないプレゼントがあることが判明したのである。
「な、なんでそ、そそそんなことしちゃうのよ!!?」
「まったくですの!! 類人猿をレンタルしてもウキウキうるさいだけですのよ!!」
「佐天さん、GJです!!」
プロレス技をしかける白井と喚く初春。
その横で佐天は美琴に悪魔の囁きをする。
「明日は、午前中から夕方までレンタルして、デートですね」
「で、でー、と…………」
『悪い、遅くなったな』
わたしの姿を見て、
待ち合わせの5分前だというのに走ってきてくれた。
これだけでうれしくなるのだから、
やっすい女だと思う。
『ううん、全然待ってない…………あと』
『???』
『いつもの服じゃ、ないわよね?』
『あ、あぁ、せっかくのデートだし、に、似合ってないよな』
そんなことない、とすぐに否定する。
ファッション雑誌の表紙になってもおかしくない。
何より、彼がそこまでこのデートを意識してくれたことが嬉しかった。
『そっか…………み、美琴、も、似合ってる、ぞ…………』
一瞬で顔が赤くなってしまった。
彼も顔が赤くなっているのが、
よりいっそう羞恥と歓喜につながる。
寮則をやぶってまで冒険してよかった。
『じゃ、じゃあ行こうか』
差しのべられる手に驚いたが、
『デート、なんだし、手ぐらい繋ごうぜ』
真っ赤な顔で、笑顔を向ける彼に、
もう、視線は向けることはできない。
***********************
日が傾く。
もうすぐ完全下校時刻だ。
わたしたちは公園のベンチに腰を下ろしていた。
わたしはまだ帰りたくない。
右隣に座るコイツも、そう思ってくれているのだろうか。
『あ』
隣を見ると、コイツは空を眺めている。
そこには、気球。
画面には、最近名前が売れてきた歌手の姿。
『あの歌手の歌で好きなのがあるんだよ。なんだったかなぁ』
頭をひねる当麻の横で、
わたしはポケットからオーディオを取り出す。
『あの人の曲ならあらかた入ってるけど?』
『ほんとか!!? 聞かせてくれよ』
コイツは勝手にイヤホンをヤツの左耳に付けた。
これは、片方を自分の右耳につけろ、ということだろうか?
ゆっくりとつける。
ポップな音楽が耳に流れ込んできた。
終わるまで聞いていたが、どうもこれではないようだ。
次の曲が始まった。
3、4曲めで、隣から『これだ』という声が聞こえた。
実は自分も好きな曲だったりする。
それを伝えようと隣を向いた。
自分の顔が、彼の目に映り込んでいた。
少しずつ、それは大きくなり、
わたしはついに目をつむった。
右耳から聞こえる歌声が、
はじめてのキスの味を例えていたが、
そんなものは嘘っぱちだった
「とかどうでしょう?」
ノリノリで話す佐天のセリフを聞き、
ドッダーン!!と美琴はテーブルに頭突きした。
顔は勿論真っ赤である。
「意外とロマンチストですね、佐天さん」
「初春には言われたくない……あれ?」
いつのまにか初春が復帰している。
視線を白井に向けると、どこかへ電話していた。
「で、ですから、あれは人命を優先したとっさの判断でして…………へ? し、始末書?? あ、あぁ、どーしましたでしょう? 明日には準備しますので!!」
あぁ、情報戦で負けたのか。
守護神は、キッチンから水を入れたヤカンを持ってきた。
美琴の頭に乗せる。
すぐにヤカンはピーっと歌った。
紅茶をつぐ初春。
美琴、佐天、初春の3人はとりあえず一服した。
紅茶を置き、初春は断言した。
「私は夜にレンタルするべきだと思います」
「……よる?」
『よっ、美琴』
『静かにね』
窓から暗い部屋に侵入したのはわたしの想い人、上条当麻。
『お招きいただき光栄だけど、いいのか?』
『バレなきゃいいのよ』
『白井は?』
『今日は風紀委員の仕事で戻ってこれないって』
なんだかんだいって、あの子はわたしのことを第一に考えてくれる。
今日も……。
『そっか……しかし、いいのか? 女の子1人、夜中に男を招き入れて。誘ってるようにしか思えませんぞ?』
『さ、誘ってたりして』
『へ?』
『な、なんでもない!!』
***********************
紅茶を飲みながらベットに座り談笑するわたしたちを、
月明かりがそっと照らす。
時間はゆっくりとすぎた。
ふと、当麻が棚を見た。
『あれ、お前が持ってるティーカップと同じじゃないか?』
『そうなの。いいでしょ!!』
『あぁ、おそろいっていいよな』
『おそろ、い…………あのさ』
『ん?』
『おそろい、欲しい?』
『いただけるなら欲しいですな』
わたしは、ありったけの勇気を振り絞り、今日購入していた、あの指輪を渡す。
『こ、これ、指輪? オレに?』
わたしは、目をギュッと閉じて頷くことしか、できない。
当麻は、ゆっくりと指輪を受け取ってくれた。
『お前の、分は?』
いわれるがままに差し出す。
当麻はそれを手にした。
どうするつもりか疑問に思い目を開けると、当麻の姿がない。
見ると、ベッドから降り、跪く当麻の姿。
彼は、わたしの手を取ると、薬指に指輪をはめた。
目を見開くと同時に、涙が浮かぶ。
『ちゃんとしたおそろいは、しばらく待ってくれ。必ず、用意……!!』
「どうしたの?」と声を出そうとしたら、口を押えられた。
ようやく、廊下に靴音が響いていることに気付く。
少しずつ近づく音に神経を尖らせる。
そのとき、ようやくわたしと当麻は自分たちの距離が近いことに気付いた。
口を押えていた手がほほに移動する。
そして、
ドタンッ、という音を聞いた寮監は、わたしの部屋のドアを大きく開けた。
そこには、真っ赤な顔で床に崩れ落ちるわたしと、
開いた窓の風に、カーテンがはためくだけだった。
何が起こったかは、月だけが知っている。
「とかですかね!!」
「そっちのが少女趣味じゃん!!」
佐天のツッコミの横で、
美琴はテーブルに突っ伏し湯気を出している。
「横に並んで談笑している」の段階でK.Oしていた。
佐天たちは無視している。
初春にツッコむ佐天は問題点をさらに指摘する
「それに、御坂さんは上条さんともうおそろいしてるよ」
たまらず美琴は真っ赤な顔を上げた。
「まって佐天さん!! 指輪はまだ渡してないから!!」
「へ? ストラップはお揃いでしたよね?」
自爆。
少し時間を空け、再び美琴は突っ伏した。
きゃーきゃーいう2人。
しかし、嬌声は止まる。
空気に冷気が含まれたのだ。
「なんてことしてくれますの、初春。本当に風紀委員の仕事で今日は帰れそうになくなりましたの」
もはや怨霊である。
きゃーきゃーいう2人。
「今日の夜はお姉様とお楽しみの予定でしたのに……まぁ、いいですの、明日の、明日の深夜こそ、お姉様としっとりねっぷりうぇへへへへへへへ」
「し、深夜に……しっとり、ね、ねっぷり……」
『いいだろ、美琴』
『い、いいわけないでしょ!!』
もう寮全体が寝静まった深夜、
ここからは、わたくしとお姉様だけの時間。
抵抗するのはそぶりだけ、
可愛らしいクッションしか、わたくしとお姉様の間に障壁はありませんの。
それも、ここで退場しますわ。
『よっと』
『あっ……』
『そんなスケスケなネグリジェ、床に乱雑に置かれたアダルトな下着、
盛り付け終わった料理にしか、上条さんは見えませんよ』
『す、スケベ……』
『スケベっていうのは、そんな恰好した美琴さんじゃないですか?』
顔を真っ赤に羞恥で染め、そっぽを向くお姉様。
ゆっくり押し倒しても、抵抗らしい抵抗はありませんの。
『……変態』
わたくしは苦笑して、顔を耳元まで近づけますの。
『罵倒に力がないぞ?』
声とともに出た吐息に、背筋を震わすお姉様。
だんだん、息も乱れてきましたわ。
『はぁ、はぁ、から、だが、熱い』
『さっきの媚薬がようやく効きだしたか』
『な、んて、くっ……こと、してくれてん、はぁ、は、くっ、のよ』
『正直に、やってほしいことを言った方が、オレもやさしくできるぞ?』
『な、いうわけムグッ』
まだ抵抗しようとするお姉様を、自身の口で黙らせますの!!
お姉様の目がうつろになったのを確認して、ようやく服を「ふにゃーーーーーーーーーー!!!」
「「「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ」」」
翌日、正午。
公園のベンチに座るのは真っ赤な顔をした御坂美琴。
遠くのしげみで見守るのは、佐天と初春。
その後方には大きなたんこぶをつけ、気絶している白井。
凶器は金属バットである。
「あ、来ましたよ!!」
「なんで制服?」
のんびりあくびしながら来たのは上条だ。
「おーっす美琴―。補修がちょうどよく終わってよかったよ」
ほぼ内容は美琴に届いていない。
上条が来たことを確認した美琴は勢いよく立ち上がる。
「あ、アンタに、す、す、す、好きなめ、命令していいのよね!!!!」
「おう、金さえかからなければバッチコイだ」
佐天と初春は息を飲む。
美琴は大きく息を吸い込んだ。
「しばらく、わたしの頭をなでなさい!!」
「帰ろ、初春」
「そうですね」