とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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第3部 第11話 第三章(1)


9月18日(金)5時

さすがに9月も後半になると5時でも日は昇らずまだ薄明るいくらいで、朝の
散歩もだんだんつまらなくなる。これで涼しくなればまだましだが、地球温暖化は
着実に進捗し、肌にまとわりつく熱気は一向に収まる気配がない。

能力さえ使えば、大気から放出される赤外線を操作していくらでも暑さを凌ぐこ
とはできるが、それでは風情がないので、能力は使わず、まとわりつく暑さを甘受する。
(まあ当麻にはそんな芸当はできないし、まあいいでしょ)

私は、婚約者が律儀に婚約指輪を忘れずに付けてくれていることを確認し、わざと
体を密着させて、ゆっくりと歩く。当麻は面倒くさいのか、私と密着させて歩くのが
恥ずかしいのか、急ぎ足で歩きたがるが、意地悪な私は袖をひっぱり当麻をしばしば
止める。
(まったく・・今更照れることないじゃない。婚約式までしたんだからさ・・)
私は、手を絡ませ、ほとんど競歩選手のように先を急ぐ婚約者を引き留め、声をかける。

「ね・ねえ・・」
「ん?」
「んはないでしょう。そんな急いでどうするの?」
「いや暑いし。さっさとエアコンの効いた部屋に帰りたい」

(まったく・・当麻て結構わがままよね、)
「ハイ・どうぞ」
私は、携帯しているカバンから緑茶のPETボルトを当麻へ差し出す。
「あ・ありがとう。美琴は用意いいな」
「まあ・・学園都市は何が起こるかわからないからね・・宇宙空間でも使える衛星通信
電話くらいはいつも携帯しているわよ」

「風紀委員会副委員長は大変だな」
「本当、2足の草鞋はつらいわよ。でも、当麻と一緒に風紀委員できてうれしいわ」
「そうか・・」
「それに・・」
「ああそうだな。明日からは大覇星祭だな」
「ええ」
 ・・・・・・

私は、エプロンを装着し、手早くあらかじめ下ごしらえをした朝食を作り始める。
朝食は、時間がないこともあり、生野菜のサラダを除きある程度下準備をしている。
まな板で手早く、生野菜を丁寧にカッティングし、軽くドレッシングをかける。
前日に調理した味噌汁と、焼き魚を電子レンジで温め、素早く配膳する。

まだ朝食を作り始めて、3週間だがもう手慣れたものですっかり習慣づいた。

家事も、やるべきことを定め、計画を作成し実施するのは能力開発と同じ。
理屈がわかれば、どんどん楽しくなり、のめり込む。

当麻が、食事を待つ合間に英語のリスニングを行っているのを微笑ましく眺め
ながら配膳を終える。

「さあ、当麻朝食食べよう」
「ああ ありがとう」
食卓に並べられた焼き魚と海苔と味噌汁が、グルタミン酸をベースとするうま味
成分を放出し、食欲をそそる。
「珍しいじゃない、いつもはフランス・パンとオーリブオイルをベースにしたカリ
カリサンドとオニオンスープかクラムチャウダーなのに」

「まあたまには和食を食べたい時もあるのよ」
「そうか・・あ・・なるほど」
「なるほどて?何よ」
「いやなに、美琴も多忙なひと時が終わって少し気分を変えたいのかなと思ってさ」
当麻が味噌汁をすすりながら話を続ける
「でも・・本当多忙だったな」

「ええ、でも本当楽しかったわ」
「この学園都市には様々な研究者や教師、生徒がいることを実感できたし」
「私にとってはいい経験だったわ」

「そうか・・、でも無理するなよ。美琴の体は美琴だけじゃない」
「ふふ・うれしいわね。ありがとう」

私は、味噌汁を飲み終え、当麻を食べ終えた食器を洗浄機に入れ、朝食を終える。
「当麻も無理しないでね」
私は、当麻を背中からぎゅうと抱擁する。当麻の吐息と心臓の鼓動が心に響く。
「もう魔神と対策なしに戦うなんて私がさせない」

「美琴まだ気にしているのか」

この前も僧正に対峙し死にかけたのに、何事もなく軽く返事を返す当麻に少し
腹が立つ。私が安全策を提示したのにそれを無視し、敢えて縁もゆかりもない上里と
いう訳のわかんないやつにために命を張った、底知れないお人よしである上条当麻

私はこれからあと何回、結婚してもいないのに未亡人になる危機におびえなければ
ならないのか?私は詰問するように口調を強める。

「当たり前じゃない。当麻だって当麻だけの体じゃないのよ。」
私は少々涙目になり当麻を見つめる。
「ああそうだったな。でも、・・俺は絶対死なない。だから・・」
「ええ、でも本当に当麻がいないと私は生きていけないわ」
当麻はいつにもなく真剣な表情で私を見つめる。
「ああ」

私には分かっている。上条当麻という男は、目の前の不幸を見逃すことができな
い、熱い心を持つ男、これからも何度でも全力を尽くして死にかけるだろう。そん
な難儀な男を愛してしまった私。だけど、そんな上条当麻だから、私は愛してし
まったんだ。だから・・私は冷静にいつもように答えを返す。

「私が絶対当麻を死なさない。何が起きてもかならず地獄の底から救い出す。」
(ふふ・・ちょっと臭いセリフかな)
「アア俺も絶対何があっても死なない。かならず美琴の元へ帰る」
「じゃ・・約束しよう、ね」
私は子供みたいに、当麻に手を差出し、指切りげんまんを促す。
ジンクスみたいなものだろう。でも今はこんなことで心が安らぐ。

私は、久々に当麻の学校へ一緒に手を繋いで登校する。
もう婚約自体はとある高校の面々に知れ渡っているので、隠す事に意味
がないと思うが、当麻にいまだに私との登下校をあまりに喜んでくれない。
今日は無理やり私がねじ込んで久々のデートのような登校に持ち込んだ。
当麻が何も喋ってくれないので、退屈な私が話を振る。

「美琴は大覇星祭で選手としてでるのか」
「正直今年は多忙を理由に断るつもりだったわよ」
「でもできないか・・客寄せパンダは大変だな」
「まあ莫大な奨学金や研究協力費をもらっているからね・・断れないわよ」

「でも警備責任者だろう」
「まあ私の仕事は、警備計画作成でほとんど終わっているけどね」
「そうか」
「まあ警備責任者の一人しては少々憂鬱な気分かな」
「というと?」
「大覇星祭は外部の特に学園都市の敵対勢力が流入するじゃない、それに抑えるの
が結構大変なのよ」
「そうか」

「まあ親御さんも含めて大量に観客が入国するからね。どうしても防ぎきれない」
「いくら計画しても不安はつきないわ」
「そうか、まあ完璧主義者の美琴ならそう思うだろうな」
「責任者は面倒くさいわね。いくら完璧な計画でも実施は皆の力が揃わないと
計画は失敗する」
「そうか、まああんまり無理すんなよ。」
「ありがとう」
私は校門で立ち止まり当麻の頬に接吻をかわす。
「じゃ・・」
「あ・・あ」
周囲で黄色い歓声と悲鳴が聞こえたような気もするが、私は無視を決め込み
立ち去る。

(まあ、当麻のファンにはそろそろ諦めてもらないわと私もつらいわ)
(だから当麻・・もう無駄なフラグなんて立てないでお願い)

12時
常盤台中学 談話室

私は、研究所での事務作業を終え、
明日からの大覇星祭で、外部のアンチスキル・風紀委員が立ち入りできず
いつも警備計画の穴になりがちな学び舎の園の警備員と計画の打ち合わせという
名目で母校の常盤台中学を訪問する。もっともそんなのは単なる口実にすぎない。

久々に悪友の食蜂に会いたくなっただけだ。上条当麻と違った意味で私が社会生活
を営む上で盟友的な存在食蜂。

「御坂さ~ん 久しぶり」
「食蜂、久しぶり」

「なんか御坂さんがいないと寂しいわよ」
「へえアンタからそんな事聞くなんてね。でもお世辞でもうれしいわね」
私は、微笑みを浮かべ食蜂を眺める。食蜂の顔はわずかに赤く染まる
「御坂さんは無自覚力のたらしよね」
「へ?」
「まったく・・戦闘力満載でカッコイイくせに、笑顔力が可愛いなんて反則でしょ」

「褒めてくれるのはうれしいわ」
食蜂が見慣れないびっくりした表情で私を見つめる。
「なんか素直力満載な御坂さんて結構新鮮ね」
「え?そう。まあ、婚約して考え方が変わったかもね」
「上条さんのおかげで階段を上ったわけエ・・☆」

「御坂さ・・ん?」
「私は、多くのファンから上条当麻を奪ったその責任は命を賭けてとるわよ」
食蜂がシイタケのように目を光らせる。
「御坂さん、やっぱり変よお」
「この1月、切った張ったを続けたからか、それとも・・」
「やっぱり婚約者ができるとつまらない意地を張る暇もなくなるのかな」

「上条当麻は真心をぶつけないと彼の心を掴むことはできない・・かあ」
「ええ」
「本当に幸せなのね、今の御坂さんは」
「ええ、本当に世界中の誰よりも幸せよ」

食蜂の瞼からうっすら涙のような水滴が零れ落ちることに私は良心の呵責のような
ものにさいなまされる。上条当麻は記憶障害で食蜂を認識すらできないことを
私は知っている。・・それを知りながら婚約の事実を進め、なおかつ婚約式の司会
まで厚かましくお願いした私。(なんて・・残酷な私)

(でも・・私は誰にも当麻を譲るつもりもないし、誰よりも当麻を愛する)
私は、脱線しかける話題を、本論へ戻す。

「そろそろ本論に入るわ、縦ロールさんはずいぶんお世話になったわ」
「警備計画の件?」
「ええ、まあ学び舎の園自体は外部へ公開しないから直接は関係ないけど、それが
逆に警備の穴にならないようにする必要がある」
「なるほどで、御坂さんの腹心の初春さんを送り込んできたわけエ」

「私が提唱するAIによる犯罪の阻止という観点で、彼女の力は必要不可欠
だから私の代わりにシステムを組んでもらっているわ」
食蜂が意外な顔で見つめる
「御坂さんも変わったわね・・。大事な仕事を人に任せるなんて」

「まあ、食蜂も分かっているとは思うけど、超能力者もできることは知れているわ」
「だから事情を話して、みんなの力で少しでもこの街を変えていきたいわ」

「ふふ・・青臭いのは変わらないわね、御坂さんは」
「でも・・やる気力満載なのは事実よね」

「ありがとう。食蜂にはいつも感謝しているわ」
私からの素直な好意になれていない食蜂が顔を赤らめる。
(さてそろそろ本論へ移るか)

「私はね、そろそろ自分の派閥を作ろうと思っているのよ」
「むろん、その神輿は上条当麻」
「私と食蜂が核で上条当麻を支える」

「え・・それてどうゆうこと?」

「もう、あまり時間がない」
「私が何をしたいか、何をするべきか旗幟を鮮明しなければならない日が」

「私は甘かった。私が絶対能力者にさえなれば、しばらくは当麻と私とこの
街に安寧が訪れると思っていた」
「だけどそんなことはなかった。先延ばしどころからどんどん事態は迫っている」
「この街の独裁者は上条当麻を放置することはない」

「プラン・・か」
「でも、私たちの計画はまだ‥何もかもが足りないわよ」
あの普段は甘たるい耳障りな口調の食蜂が、ビジネスライクに変わる。
「それはわかっている」
私は食蜂に現実を突きつける。
「だけど木原唯一や上里もこのままでは収まらない」
私は席を外し、床に這いつくばり、頭を深々と下げ土下座を始める。
そして、腹の底から力を籠め、声を振り絞り一言を発する。
「力を貸してほしい」

「御坂さん卑怯なんだぞ・・断るわけないじゃない・・私達・・親友でしょ」

食蜂の目から透明な液体が滴り落ちる、それが諦めきれない乙女の後悔の念か
私へのアンビバレントな感情か私にはわからない。が、私はさらに言葉を紡ぐ。
「ありがとう」
その一言が私にとってなによりうれしかった。


午後 4時 風紀委員会本部

私は、来客に会うため本部へ急ぐ。常盤台での、警備員の会議が終え、なぜか
大覇星祭の決起集会で、全校生徒の前で選手宣誓をさせられ、行事を終えたころには
面会時間の5分前だったので慌てて、能力で高速移動する。

いつもなら当麻と一緒にとある高校から一緒にタクシーで、本部へ移動するところ
だが、余裕がないので当麻には一人で予約したタクシーで移動するように告げる。
(テレポートを使えば・・一瞬だけどさ、そんな目立つことはできない)
(その事実を身内以外に最終決戦の日までは明かすわけにはいかないし)
(今は、準備期間なのよ・・)

なんとか、エレベータまで無理やり制御し1分前に到着する。
(まあドアくらいは静かに開けたいわね10秒前では無理だわ)
16時ちょうどにアポを取っていた珍客は、秘書の子に案内され応接室に座っていた。

私の実質的な能力開発者にして、SYSTENの権威、木原幻生、私を極大の生体砲台に
変えた男。

「お久しぶりです。幻生先生」
「まずは封印の解除の件おめでとう」
「ありがとうございます。先生に解析をお願いした玩具はお役に立ちましたか」
「理想送りの件かね?ああ解析中だが幻想殺しや八龍以上に興味深いね」
「先生が相変わらずなのでホッとしました」
「君が相変わらず元気でうれしいよ。」

「それで、先生にぜひお願いがあるんですか」
私は、木原幻生に私が関知する範囲の五行機関と虚数学区に関するデータを
渡し、私のプランへの協力を求めた。
「なるほど、ぎりぎり及第点かな」
「だが・・まだ粗削りだな」

「ええ・・さすがに先生の採点は辛口ですね」
「僕は、生徒に妥協は許さない性格でね」
「だが、君が一番出来のよい生徒であることは保証するよ」
「ありがとうございます」

「まあ分かっているとは思うが、アレイスターを甘く見るなよ」
「ええ、・・」
「それさえわかっているなら私から言うことはない」

私は深々と敬礼し、私の師匠を見送る。

もう多分・・私は彼に会うことはないだろう。そんな気がした。

 ・・・・・・・
風紀委員会本部 副委員長室
午後4時30分 

私が、幻生先生へ依頼を終えたころ、当麻が本部へ到着した。
当麻の学校でも大覇星祭の決起集会があり、30分ほど到着が遅くなる。

今日は、風紀委員も私の部署以外は、警備に駆り出され、本部にはほとんど他人
がいない。
「決起集会お疲れ様」
「ああ、だけどなんかわくわくするね」
「私はどちらかと言えば裏方だけどなんか楽しいわね」
「でも美琴は、今年はそんなに出ないだろう。どっちかと言えば実行委員だし」

「まあでも合同開会式の選手宣誓とかやるけどね。それと何種目か配点の高い競技
には出るように常盤台から言われているわ、今年こそ総合1位になりたいとか」
「ふーん、人気者はつらいね」
「まあ、自分が学園都市の客寄せパンダの自覚くらいはあるわよ」

「それと警備計画の責任者と兼務ね・・重労働だな」
「そうね、でも一応応援もいるのよ、だからなんとかなったわ」

「応援?」
「先週から177支部の初春さんに協力いただいているわ」

「初春さん?」
「黒子の同僚よ」
「ひょっとして凄腕ハッカー?」

「ええ、書庫の守護神と言われている凄腕SEよ」
「美琴が凄腕SEと言うくらいだから相当な腕だろうね」
「それは間違いないわね、暗号解析・構築の技術なら学園都市のトップレベルだ
と思うわ」


「へえ・・で・・初春さんを本部へ上げたと」
「ええ、私も過労死したくないし背に腹は変えられないわ、もちろん黒子とコン
ビでね。その上司の固法さんも含めて支部ごと私の応援に回ってもらっているわ」

「でもさ美琴の事務処理能力なら計画なんてさっさと作成できるだろう?」

「不思議に思う?確かに計画作成くらいなら1日で終わったわよ。
だけど会議とその事務局までさせられて親船理事も人遣い荒いわよ」
「まあ、私が仕事を断らないのがいけないけどね」

「美琴はワークホリックだよな・・」
「今は種まきの時期だからしょうがないかな」

「え?」
「大人を批判するには、大人がなぜそうしているか、一回は大人の理屈をしらなきゃ
ないということよ」
「まあ統括理事長の指示で風紀副委員長なんてさせてもらっているけど、想像以上に
面倒な仕事なのは確かだわ」

「そうだな・・」

私は、気晴らしにちょっと運動したくなったので当麻に声をかける。
考えがネガティブになったときはそれが一番頭の回転を柔軟にする。

「ね 久しぶり運動しない?」
私の事を気使かってくれたのだろうか
いつもは余りいい顔をしない当麻が珍しくやりたそうな顔をする。
「え・・まあいいか・・」
私は、当麻を地下の訓練場へ案内する。

俺は、美琴に案内されて訓練場に案内される。
美琴が俺に運動したいと言うのはバトルしたいという意味だ。
(だけど何にもない河原でも対抗しようがないのに、狭い空間じゃ
逃げ場もない)

もともと、電撃使いだった美琴は、電子操作能力を拡張し、その根源の素粒子の
運動を司る超能力者になり、封印解除後は、運動を司る源のエネルギーを創生、かつ
そのエネルギーでいかなる物質も操作する絶対能力者になった。

そんな彼女に、狭い空間で対峙するのは自殺行為に等しい。異能を打ち消す俺の
幻想殺しは、飽和攻撃に相性が悪く、この空間自体を瞬間的に超高温プラズマに
変える美琴にはあらがいようもない。

多忙な美琴がそんな決まりきった勝負なんて今更するはずもなく、美琴は意外な
事を提案してきた。

「ね・・今日は能力なしに、純粋に体力だけで勝負しない?」
「え?」
「もちろん磁力を使ってズルなんてしないし」
美琴の磁力を使った高速移動は、レベル4の肉体強化系も真っ青な能力があり
それを使われれば勝ち目がない。それすらも封印すると言っている。

(どうしたんだろうな・・まあ怪我させるわけにいかないし、適当に
やるか・・美琴も汗かいてじゃれたいだけかもしれないし)

「ああわかった。でルールはどうする」
「一応・・私は能力がなければか弱い女子だから顔面パンチはなしね。
それで15分1本マッチでいいかしら」

「わかった」

(美琴も慣れない調整事でストレス溜まっているのかな)
(だけど、能力なしの14歳の女の子に格闘技・・ね)

俺は、ボクサーのようにアンチスキルの黄泉川先生から教わった要領でボクサーの
構えをする。路地裏の喧嘩ではない構え。

正拳で体重を乗せ踏み出す。
「やあ・・」
だが・・すんでのところでかわされる。
「さすがに女子にしちゃ破格の体力はあるな・・」
「たいしたことはないわ。せいぜいレベル4の肉体強化系くらいよ」
「それって結構すごいんじゃねえ」

(さりげなくレベル4をdisてるじゃねえか・・)
俺は、ジャブを小刻みにぶつけ態勢を崩そうとするがまったく当たらない。
極限まで神経を研ぎ澄まし、隙を狙うが、事前に避けられる。
美琴は華麗ともいえるバックステップで躱し続ける。

「でも・・当麻の体の頑丈さも大概じゃない」
「まあ右腕一つで路地裏の少女を助けまくったからな・・」
俺は、あらゆる小技が交わされ続けるので、少々やり方を変える。
体重を移動し、パンチとみせかけてタックルをかける。咄嗟のことで
美琴も態勢を崩す。

(もらった、このままマウント・ボジションをとり関節技で締めあげる)
が・・
美琴はすんでのところで態勢をよじり、回転して、肘を使い反動を器用に使い
立ち上がる。

「甘いわよ、・・当麻の動きてアンチスキルの教本どおりなのよ・・そんな教本
通りでは動きを読まれるわよ」

「さすがだな。・・」

「私はもともと低レベルの能力者、能力だけでは身を守れなかった、だから
護身術は結構まじめにやったわよ。空手、剣道、柔道、キックボクシング」
「だから当麻の付け焼刃の武道なんて、怖くないわよ」
(俺は勘違いをしてた、確かに美琴の言うとおりだ、型どおりでは、武道を
本式にやった奴には勝ち目がない。)

「ありがとうな美琴、確かにその通りだ。」
俺は、型を取り繕うのを止め、今までどおり喧嘩殺法へ切り替える

俺は、目をつぶり美琴の気配を感じる。美琴ならそれを演算で分析できるだろう。
細かな生体電流の流れさえ、電子の単位で操作できるほどの頭脳。

俺は、感覚としてしか理解できない。だが、目をつぶり真贋を研ぎ澄ますことで、
コンマ・ミリ秒の単位で細かな佇まい、挙動を感じる。
(今なら・・当てられる・・)
俺は右手に力を籠め、一心に美琴の腹へ拳を打ち抜く。
(え・・・?)

俺の右腕は空をきり俺はおもいっきり前のめりになる。
だが、無様に態勢を崩した俺に美琴は自ら負けを宣言する。

「さすがね、当麻・・私の負けよ・・避けきれず、能力使って緊急回避しちゃった」
「後1分しのげば・・終わりだったけど」
(美琴は嘘をついている・・能力なんて絶対使っていない。美琴が能力を使った
気配なんて感じなかった。)

「ありがとう、当麻、久しぶりに運動できて気が安らかになったわ」
「美琴・・俺は美琴の能力を使った気配なんてかんじなかったぞ」

「さすがね・・そこまでわかるんだ」
「え?」
「私は今回の緊急回避は、脳と神経細胞にしかごくわずかな生体電流を使ってい
ない。だから気配を感じるはずがない。だからそこまでわかるのがさすがよ」

「はあ・・それじゃ神経細胞の動きにしかすぎないじゃないか」
「ふふ・・当麻・・一般人に最高度の訓練なしに神経細胞の伝達速度をマックス
まで上げるなんてできないわ・・だから私の負け・・能力を使ったのは事実」
「でも・・負けは負けよ」

あの負けず嫌いな美琴は、さして悔しいそぶりもせず、柔らかなアルトボイス
で語り掛ける。
「ね、当麻・・最近当麻が武道を黄泉川先生に習っていると聞いたわ」

「ああ、知っていたか」
「私は、表向きレベル0の当麻が強くなりたいのはわかるし、それを止めるつもり
もないのよ。でも・・今は自分の右手を信じてほしいのよ」

「それは・・」
「私は当麻と違って本式に護身術は知っている。だけど、それでもプロとは言えない」
「結局最後は自分の誇りである能力に頼る」
「だから・・当麻も・・自分の右手をもっと信じていいんじゃないかな」

「ね・・」

「当麻が魔神を見て悩むのはよくわかるわ」
「私が、一方通行に昔蹂躙されたときもそうだった」
「本当に自分だけの現実を壊されるほど」
美琴は過去を思いだしたのか、遠い目をした。

「でも、当麻には私がいる。」
美琴は俺を後ろから抱擁する。
「何があっても私は当麻を守る」
俺は、美琴のまっすぐな棲んだ瞳を見つめ声をかける。

「俺も・・美琴をかならず守る」

「ありがとう」
俺は、美琴に軽く接吻をかわす。

問題は山積し、敵は少なくない。自分を見失うことなく強大な敵に
立ち向かう。美琴は折れそうになる心を俺とのふれあいで耐えている。
過酷な日常な仲で美琴の言う通り自分を見失っていた自分。

適度な運動で2人のすべきことを思い出した。
自分を見失わず、焦らず、勇気を振り絞り、でも冷静に心眼をすまし相手に
立ち向かう。原点を確認した気がした。

続く











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