とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある笑顔の守り方



「上条当麻、なにか弁明があるのなら聞いてあげるわ」

 十二月もそろそろ中旬に差し掛かったとある放課後。上条当麻の『不幸』は、級友のそんな一言から始まった。

「えーと、吹寄さん? それは一体どういった意味でしょうか…?」

 やっと授業が終わったかーそーだ今日はスーパーの特売日だったじゃーん、なんて晩飯の事を気楽に考えて立ち上がっていた上条は、放課後になるや否や突然自分の前に現れたオデコMAXな女子に冷や汗を流しながら問うてみた。
 オデコな級友こと吹寄制理は、じりじりと後ずさる上条をジロリとひと睨みすると、どっかの刑事ドラマの取調室みたいに机をバシンッ! と手を叩きつけた。

「貴様は、心当たりがない。そう言いたいわけね?」
「そ、そもそもですよ吹寄さん? わたくし上条当麻はそんな後ろめたい人生を送っているワケがありませんのことよ?」
「そう……残念ね。自首なら少しは罪が軽くなったものを」

 ぜんぜん残念そうじゃない表情を浮かべる吹寄は、なにやら周りに向かって目で合図を送る。そんな様子を? な顔で眺めていた上条だったが、教室に残るクラスメイト全員が突然動き出した事で焦りはじめた。

「こ、これは何事でありますか!?」
「にゃー。カミやんここは大人しく吐いた方が身のためだぜー?」

 なにやら机を動かしているらしい級友たちの中から土御門元春が顔を出し、上条の肩に手をおいて忠告してきた。
 上条からしてみれば笑って聞き逃したいところなのだが、この土御門という男の立場を考えてみると、いかんせん冗談に聞こえなくもない。

「捕まった捕虜への拷問──もとい尋問は厳しいぜぃ?」
「止めて! そんな生々しく言わないで!」

 ぎゃーぎゃーと騒ぐ上条と土御門を尻目に、無表情で作業をこなしていく級友たち。しばらくガタガタやっていると、吹寄から終了の号令が出る。

「こんなもんかしらね。上条!」
「は、はい!?」

 土御門とじゃれて(?)いた上条は、吹寄の怒声に肩をビクリと震わせ、彼女に向き直る。
 基本街の不良なんかにはあまりビビらない上条だが、どうもこのオデコな級友には苦手意識があるらしく、ビクビクしながら返事をしている。
 上条さん、カッコ悪い。

「ちょっとそこに座りなさい」
「そこ…と言われましても吹寄さん? 床なんですが」
「正座!」
「はいッ!」

 残ったプライドを殴り捨て、ピョンとジャンピング正座を華麗に決める上条。
 そこでふと周りを見渡してみると、何故か自分が皆に囲まれていることに今更気付く。机や椅子は教室の隅に追いやられ、とっくに帰りのチャイムが鳴ったにも関わらず未だに誰一人帰っていないクラスメイト。


(ま、まさかこれは予想以上にヤバイ状況なんでせうか?)

 内心やっとこの殺伐とした空気を理解し、滝のように冷や汗を流し始める。
 神の右席? この空気に比べたら全然怖くないですよ、はい。

「さて」

 と、

「準備も整ったようだし、早速始めるわよ上条。土御門」
「任せるにゃー」

 吹寄に呼ばれたシスコンサングラスがうきうきしながら姿を現す。

「ではこれより──『カミやん×常盤台異端尋問会』開催するぜぃ!」
「は!?」

 いえーいと盛り上がる男子と、静かに睨む女子、そして未だに状況を理解しない上条とで、三者三様な反応を起こす生徒s

「ちょ、ちょっと待てよ! 異端尋問!? なにそれ意味わかりませんのことよ!?」
「被告人は静粛に。貴方に発言権は認めません」

 上条の必死の抵抗も、ばっさりと吹寄切り捨てられる。どうやらこれはちょっとした議事裁判らしく、裁判長は吹寄、検事は土御門、その他のクラスメイトは傍観者、そして被告人は上条という風になっているらしい。

「なお、被告人には弁護人を付けるので彼に発言してもらうように。以上」

 吹寄が上条の後ろを指差して言い放つ。文句を言わさない勢いの彼女にビクリとしつつも、一応弁護士がいることにホッと胸を撫で下ろす上条。
 だが、その安心は一瞬にて不安へとチェンジした。

「僕に任せるんや、カミやん!」

 上条、土御門を含める三馬鹿の一角にして、委員長を務める人類の最底辺・青髪ピアスがそこにいた。

「なんだこりゃ! 明らかにやらせの裁判じゃねえか!!」

 瞬間、上条が吼えた。確かに自分の命運をこの男が握っているのだとしたら、それかなり不安に違いない。

「ちょ、いきなりカミやん酷くない!?」

 青髪ピアスが後ろで騒いでいるが無視を決め込む。いない方が有利に決まっているからだ。

「じゃあ俺から始めるぜぃ」

 無視ですかー! という上条&馬鹿の叫びをスルーしつつ、裁判を再開する。
 土御門は手に持った紙の束を広げながら、キラリとサングラスを光らせる。

「まずひとつめの証拠だにゃー。カミやん、カミやんはさっき、自分に心当たりはなーい、みたいなこと言ってたよにゃー?」
「え、あ、はい」
「ならば…これを見てみろー!!!」

 そう言って土御門は盛大に何かをばら撒く。皆がそれを拾う中、上条もひとつ手に取る。どうやら写真らしい。
 と、それを見た瞬間上条は思い切り吹き出した。

「ぶッ! な、なんだよこれ!?」

 写真を見てワナワナと震える上条。
 そこには、なにやら仲が良さそうに並んで歩く男女の姿があった。しかも男の方は買い物袋を片手に下げており、それはまるで夕飯の事を楽しく語り合うカップルに見えなくもないわけで。もちろん、男はツンツン頭の上条当麻その人であり、女は上条が良く知る常盤台の電撃姫である。
 上条は思わず喉から悲鳴をあげた。

「さぁカミやん。どう切り抜けるつもりかにゃー?」

 どうしたと言わんばかり攻めてくる土御門。

(いや確かにこの前買い物に付き合っていただいたけれども! でもあれはたまたま通りかかったビリビリにスーパーの『お一人様○個限り』の特売品に付き合ってもらっただけですよ!? それだけなんですよ!?)

 心の中で言い訳を繰り返す上条。更にニヤリと笑ったサングラスは、次なる追い討ちをかけてくる。

「続いていくぜぃ!」

 そして更にばら撒かれる赤裸々な嵐。上条は必死にそれを回収しようと手を伸ばすが、いかんせん相手が悪すぎた。敵は三〇人以上なうえに、皆何かしら能力を持っているのだ。いくら上条の右腕があらゆる異能を打ち消す『幻想殺し<イマジンブレイカー>』だったとしても、これをすべて受け流すのは不可能だった。
 ましてや……

「「「またカミジョー属性のフラグかァァァ!!!」」」

 なーんて鬼気迫るクラスメイトに太刀打ちできるわけもないのだ。というかできるかァ!
 上条はなんとか写真を奪取するも、確認する間もなくまたしても土御門が叫んだ。

「以上が俺からの証拠提出だにゃー」
「おいこら土御門! さっきからばら撒いてるこれ、犯罪じゃないのか!」
「おいおいカミやん。人聞きの悪いこと言うなよ。そもそも撮影したのは俺じゃないぜぃ?」

 土御門の言葉に、え? 一瞬首を傾げる。だがその疑問はすぐに解決した。

「どや、カミやん! 僕の撮影技術なかなかイケて…」
「テメエかぁぁぁ!」
「げるぶぁ!?」

 上条はすぐさま、後ろでどや顔をする盗撮魔を殴り飛ばした。

「盗撮は犯罪ですよ!? っつか弁護人役に立たないどころかむしろ追い詰めてますよね!?」
「何を言うねん! 萌えのあるところに常に我ありやで!」

 なにかかっこ良いことを熱弁する青髪ピアス。一瞬上条も尊敬しかけたが、今の状況を思い出して頭を振る。
 しかしそこで、忘れかけていた存在が口を開く。

「これより判決に移るわよ!」
「まだ続いていたんですか吹寄サン!?」

 今まで裁判長みたいに静かに聞いていた吹寄が、静かに口を開いた。
 それに対し、約一名がボソリと小さくつぶやいた。

「………死刑に一票」

 さすがにこれは、教室中がシン─…と静まり返った。

「え、ええっとですね姫神さん? 今の裁判制度は多数決とではなくてですね?」

 滅多に冗談を言いそうにない姫神秋沙に対し、上条は顔を引きつらせながら弁明をしようと必死に頭を巡らせたが、無駄だった。

「じゃあそれで」

 なんとも投げやりな吹寄の一言により、上条は言い訳もままならないままもみくちゃに囲まれる。

「吹寄サン!? いえ吹寄大裁判長様! これでは裁判の意味が! だあぁぁぁ不幸だぁぁぁ!!!」

 教室でクラスメイト達にもみくちゃにされながら、上条当麻は本日何度目かの声をあげた。



「はぁぁぁ……酷い目にあった」

 それから約一時間後。上条当麻はやっとの思いで悪魔たちから開放され、トボトボと家路についていた。
 空を見上げれば、雲はすでに赤く染まっており、学園都市も茜色に包まれていた。当然、スーパーの特売にも出遅れている。家に一匹暴食魔獣を飼っている身の上条としては、なんとも痛い失敗だった。

「にしても」

 学ランのポケットに突っ込んでおいたブツを引っ張り出し、上条はハァとため息を吐く。
 まさか撮られているとは思わなかった。一枚目をよくよく見直してみれば、客観的に見て完全に恋人同士に見える。
 この時ビリビリってこんなに笑っていたっけ? と首を捻ってみたが、当時貴重なタンパク源である卵を二つも手に入れてホクホク状態だったせいかよく覚えていない。
 そういえばもう一枚あったっけ、なんて思い出してポケットを探っていると、突然声をかけられた。

「あ、ねえアンタ」
「うん?」

 振り向けば、さっきまで会話の渦中にいた少女が立っていた。

「おー御坂じゃんか。どうしたんだ?」

 名門・常盤台中学のエースにして、学園都市が誇るレベル5の電気使い(エレクトロマスター)、『超電磁砲<レールガン>』こと御坂美琴。
 上条は、そんな少女に続けて声をかける。

「今帰りか? っつってもこっちお前の寮と別方向だよな。なんか用事か?」
「べ、別に。用が無かったらこっちに来ちゃいけないわけじゃないでしょ」
「ま、そりゃそーだ」

 ツンツンした頭をガリガリと掻くと、上条は美琴の様子がいつもと違うことに気付く。
 いつもなら出会い頭に電撃の一発も飛んできそうなものだが、そんな様子は見当たらなかった。

「アンタこそ遅かったじゃない。高校ってもっと早く終わるんでしょ?」
「ん? いやまぁ少しいろいろありまして…」

 ハハハ、と力なく笑う上条の態度に美琴は少し引っかかって、詳しく突っ込んで聞いてみる。

「なに? またアンタは厄介ごとに首突っ込んでるワケ?」
「その言い方だと、まるで上条さんが好きで問題に巻き込まれてるみたいな感じですね。まぁ良いけど。って言っても今回は違げーよ。どっちかっつーと俺とお前の問題、かな」
「私?」

 うん、とうなずく上条。そこでまぁ話しといた方が良いかななんて考えた上条は、放課後のことをかいつまんで話すことにした。一応写真は見せない方向で。
 
 で、五分後。

「わ、私とアンタがかかかかかかカップル!?」

 頭からバチバチと火花を散らせる電撃姫が出来上がっていた。

「落ち着け御坂。誤解は解いた…多分」

 一応説明はしたのだが、あの騒ぎの中で一体何人が正確に聞いていたのかとても不安ではある。
 それを思い出して、上条は頭を抱えた。

「………ねえ、アンタさ」
「うん?」

 少し暗い美琴の声を聞き、上条は頭を上げる。そこには、レベル5でも『超電磁砲』でもない、一人の少女の寂しそうな顔があった。

「アンタは…私がいると、迷惑?」

 美琴は、何かを考える前に言葉を吐き出していた。
 それは、彼女がずっと考えてきたこと。夏休み終盤に、自分と妹達を救われてからずっと。心の片隅に小さく眠っていたソレは、上条と日常を過ごしていくうちにどんどん膨らんで、今では美琴を押し潰そうとすまでに成長していた。
 自分は上条当麻のお荷物なのでないだろうか? コイツは多分、私の知らないところでたくさん戦い、たくさん傷ついている。それを誰にも言わず、誰にも助けを求めないのは何故だろうか?

 何故、上条当麻は御坂美琴に助けを求めないのだろうか。

 それを考えた時、美琴は一番最悪な答えを想像してしまったのだ。
 即ち、上条当麻は自分のせいで事件に巻き込まれ、それなのに美琴本人は足手まといになっているのではないか、と。今回もそうだ。規模は違えど、自分と居ただけで彼に迷惑をかけたではないか。

 そう考えた途端、美琴は何故だか泣きたくなった。前が滲んで見えてくる。喉がかすれて声が出ない。

 やっぱり、私は……

 そう思いかけた瞬間──

「ばーか」

 美琴の頭に、暖かい何かが乗っかった。

「お前…様子がおかしいと思ったらそんなことかよ」

 それはとても暖かで、

「あのなぁ御坂。前にも言ったと思うけどさ」

 いつも私の願い(げんそう)を守ってくれる、

「お前は笑ってて良いんだよ。もう俺はお前の絶望した時の顔なんて見たくねーよ」

 大好きな人の大きな右手。

「だから安心しろ。お前から笑顔を奪うことはしねえ。迷惑なんかじゃねえし、むしろ退屈しないで済むくらいなんだよ」
「……うん」

 今感じた感想が恥ずかしいやら嬉しいやらで、ドギマギしながらうなずく美琴。

「つっても、俺にできることなんてたかがしれてるかもしんねーけどさ」

(ううん。アンタがいてくれるだけで──傍に立っていてくれるだけで私は幸せ)

 そして美琴は静かに決意する。

(見てなさいよ。絶対に気付かせてやるんだから)

 夕日が放つ、綺麗な茜色が二人を包み込んでいた。
 いつの間にか、美琴の内にあった負の感情は綺麗さっぱり無くなっていた。




「そう言えばさ」

 少し涙ぐんでいた瞳を隠しつつ、美琴は思い出したように切り出した。

「私、まだ写真見てないんだけど?」
「ぐっ、いえいえアレは見せるもんじゃありませんですから…」
「良いから見せなさいよ。私だけ見てないなんて不公平じゃない!」
「バカ言え! あんな恥ずかしいもん、そうほいほい見せられるかっ!」
「なら泣くわよ!」
「御坂センセーはそんなにも汚いお方なのですか!?」

 上条が着る学ランのポケットには、まだ上条が確認していない写真がある。
 それは、一端覧祭の時に撮られたものだった。無理に約束までこぎつけて、半強制的に連れまわした写真。
 それでも、二人はどうしようもないくらい明るい笑顔だった。


  Fin


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