小ネタ バレンタインでの不幸(?)
御坂美琴に呼ばれて、上条当麻は自販機の前にきていた。
目の前には美琴は少し顔を赤くしながら上条を見つめている。
その視線が少し照れくさくって、上条は視線を合わせられない。
実をいうと、上条は美琴のことが好きだった。
それも、友達ではなく、異性として。
だから、この日に呼ばれたことに上条は少なからず期待していた。
だけど美琴の気持ちには一切気づいていない。
どころか、上条は美琴に嫌われているとさえ思っていた。
「は、ははは、はいっ! こ、こここれあげるわよ。せ、世話になってるし」
そういって、上条にチョコを差し出す。
その手は緊張で震えているのだが、上条はそれを勘違いして。
(震えるくらいに嫌なのなら、渡さなきゃいいのに)
「………ありがとな」
勘違いで勝手に傷ついているだけなのだが、上条は期待をした分落ち込んでいた。
ただ、気になることがあった。
でも、それは恐らく聞けば上条は傷つく。
けれど、聞いておこうと思った。
いつぞやの魔術師ではないけれど、美琴が幸せになるのならそれでいいと思って。
「なあ、支えになってるっていう奴にはあげたのか?」
「は?」
美琴がキョトンとした顔になる。
どうやらイマイチ伝わっていないらしい。
「いや、あの時寮に入った時に白井から聞いたんだけどな」
寮に入ったという言葉を言った時に美琴の眉がピクリと動いたが見なかったことにする。
嫌われてるなぁと自嘲して。
「食事の際に入浴の際に就寝の際に嬉しそうに話してるっていう男のことだよ」
そう言った時、美琴は口を開けたまま止まってしまった。
少しして、口をパクパクと開閉させた後、「黒子……後で覚えときなさい」などと言っていたが、上条は続きを言う。
「好きなんだろ? そいつのこと」
美琴の動きが再び止まった。
すぐに顔が赤くなっていく。
実はわかっていないことに対する怒りで赤くなっていっているのだが、上条は照れなのかと勘違いした。
「だから、もうチョコを渡して想いを告げたのかなぁと。ちょっと気になっただけだ。気にすんな」
これ以上聞くべきではないと判断して、上条は引く。
美琴は顔が赤いのを収めると、俯いて考えているようだった。
上条はじゃあなと言って帰ろうかと思って口をじゃの形にした時、美琴が口を開いた。
「……まだ、告げてないわよ」
それは、好きな人がいるという肯定で、その事実は上条の心に突き刺さった。
美琴は深呼吸をしているのだが、上条はその衝撃で気づけない。
「私は、アンタが好き」
「……………へ?」
今度は違う意味で衝撃が襲ってきた。
すぐにその言葉の意味を理解することができない。
いつまで経っても、告げたのことに対する反応がなかったので、美琴は電撃をバチバチいわせながら怒りだした。
「好きだっつってんのにここでもアンタは私をスルーすんのかぁ!!!」
「え? い、いやいや!! あまりの衝撃の事実に頭が追いついていないというか、まさか両想いだったという事実が余計頭を混乱させているというか!!」
「……………え?」
今度は美琴が止まる。
どうやら上条の言葉に対して理解が追いついていないようだ。
しばらくして、ようやく言葉を搾り出す。
「両、想、い……?」
「あ、う、そ、そうだよ! 俺は、上条当麻は御坂美琴のことが好きです!! これで文句あっかコラァ!!」
半ばヤケになった上条はもう意味のわからない告白になってしまう。
だけど、その事実だけはしっかりと美琴に届いていて。
「う……そ……?」
信じられない。というような顔をして美琴は上条の方を見ていた。
そのすぐ後に、美琴の瞳から涙が零れだす。
それを見た上条は大慌てになる。
「え? お、おい? な、なんで泣いちゃうんですか美琴さーん!? う、や、やっぱりヤケになった告白の仕方が悪かったのか!? な、ならば! ………好きだ。付き合ってください」
その言葉を聞いて美琴は告白は紛れも無い真実なのだと再確認して、余計に涙が零れてしまう。
それを見た上条はもう訳がわからない。
「えぇえ!? な、なんでさらに泣いちゃうんですか美琴さん!!?? い、一体どうすれば!? そ、そうだ!!」
混乱して訳のわからなくなった上条は美琴を抱きしめた。
美琴はもう嬉しくて涙が止まる気配を見せない。
でも、とりあえず誤解を解くことにする。
「………バカ。嬉し泣きよ」
「……ぇ? う、嬉し泣き?」
「……うん」
「よ、よかったぁ~。あまりにもアホな告白だったから泣いたのかと思いましたよ」
心から安堵している様子の上条を、ちょっとからかってみる。
半分くらいはからかいではなく本気だが。
「あー。確かに酷い告白だったわね」
「うっ!?」
「最初のなんて特に」
「………すいません。許してください」
「どうしよっかな~」
涙が止まった美琴は悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
だが、どうにかして許しを得ないとヤバイと勘違いした上条は考えた末突拍子もない行動にでた。
「なーんて―――んぐッ!!??」
嘘よ、と続けようとした唇が何かに塞がれる。
キスされたのだということには唇が塞がれていたのが離れてようやく気づいた。
当然、美琴は顔を瞬時に真っ赤にする。
上条の方も美琴程ではないが赤かった。
顔の赤いのがとれる前に、上条が言う。
「これで許してくれないか?」
「わ、わかったわよ。………馬鹿」
美琴は本当のことなんて言えずに、目を背ける。
上条は再び安堵した。
だが、それは次の言葉で粉々に砕かれる。
「でも、条件が一つだけ」
「え? ナ、ナンデゴザイマショウカミコトサン!!」
緊張で完全に片言になってしまった。
美琴は言いづらそうに少し手をモジモジさせる。
やがて意を決したのか、美琴はそこに爆弾を落とした。
「もう一度してくれたら、許してあげる」
「ッ!!!???」
さっきのはもう完全に勢いでやってしまったので、少し冷静になった今そんなことなどできるはずがない。
だが、美琴はすでに目をつむって準備万端いつでもOK状態でスタンバっている。
もう、選択肢など一つしか用意されていないことを悟る。
今の上条に頬やおでこに逃れるなどということは思い付かなかった。
(うわあああああああああ!!!???)
10分後、心底嬉しそうに寮に走っていく美琴と、その場に呆然と立ち尽くした
上条が発見されることになる。
終わり。