小ネタ 不幸だなんて言わせない
二人が付き合いだしてから初めての記念日が来た。
時は12月下旬。とある少女は寒空の下とある少年を待っていた。
ちなみにこの日、二人とも都合が悪く午後の5時を回った時間からしか会うことができなかった。
「おっそいなーアイツ…」
少女の名は御坂美琴。この学園都市では名の知れた能力者だ。
能力名は超電磁砲<レールガン>と呼ばれるもので同じ能力者からはあこがれの的である。
「美琴ー」
今『美琴』と名を呼んだ少年の名は上条当麻。こちらの少年も学園都市では少しは名が知られている。
その理由は彼の能力――ではなく彼自身の不幸体質から来るものだった。
ちなみに彼には何も能力はない。ただ生まれ持った『不幸』があるだけだ。
この不幸にも理由があるのだが知っている人間は数少ない。
「アンタ遅いわよ!」
「本当にゴメン!行く道々で信号に引っ掛かりまして…」
「アンタお得意の不幸体質ね?」
そう言って美琴はクスッっと笑った。
「それを言われると悲しくなりますよ…はい」
「ごめんってば、で?今日はどこ行くの?私たちが付き合いだして初めての記念日なんだから記念になることがしたいんだけど?」
「あー…何ていうか…いやなんでもない。記念になることなぁ…なんだろうな?」
本当はサプライズを用意している。それも美琴が知ったら卒倒しそうなほどのものを用意している。
しかしこれはこの日の最後にしようと上条自身が決めていたので彼はとぼけたふりをする。
「アンタほんと無計画男よね…まぁ私は当麻と一緒に入れたらいいんだけどね?」
「悪いな、じゃあとりあえずいろんなとこみて回るか」
「私何処か店の中に入りたい。当麻待ってる間に体冷えちゃってさ」
「どれどれ…うわ!?めちゃくちゃ冷めてーじゃねぇか!?」
上条は美琴の体温を確かめるために彼女の手を握る。
「だからアンタを『待ってる間に』って言ってるでしょ?」
「あーじゃあ美琴の手がぬくくなるまで俺が手をつないでてやるよ」
「まぁ私もそれが狙いだったんだけどね?」
アハハと美琴は笑う。上条はそんな美琴を見て一人心の中で呟く。
(美琴の奴付き合いだして間もないころは手繋いだだけでも漏電するしデレまくったりしたのに…)
上条がぼーっと考えていると、
「アンタ今『漏電しなくなった』とか考えてるでしょ?」
「え!?いやいや、上条さんはそんなこと少しも考えていませんよ?」
「嘘つき、アンタ考えてること口に出しすぎよ」
「えー!?上条さんそんな失態を…」
「まぁ私だって、その…漏電しなくなったのは褒めてほしいけどさ、甘えたいなーとかわいつも思ってるわよ?」
「でもお前そう言いながら昔みたいに甘えてこねぇじゃねぇか」
「ア、アンタにめんどくさそうにされるのが嫌なだけよ」
「俺はそんなひどい人間じゃないですよ?てか俺も甘えてほしいさ」
「バ、バカ!なにこっ恥ずかしいこと言ってんのよ!」
美琴は顔を冬の寒さであからめていた顔をさらに赤く染め上条をたたく。
「痛い!ってか言わせたのは美琴だろ!?」
「べ、別に言えだなんて言ってないでしょ!」
「あー不幸だ」
「何が不幸よ!あーもういいから早く店入ろ?」
美琴は当麻の右手を引っ張りながら近くのデパートへと入っていた。
「あったかーい」
「そりゃ店内だからな。とりあえず適当にブラブラしようぜ?」
「そうね。じゃああっちから見て回りましょ?」
二人は入ってすぐそばにあるペットコーナーへと向かっていった。
「うわーかわいい。ねぇ、あれ当麻に似てない?」
「俺はあんなエリはもってません!」
美琴が指をさしたのはエリマキトカゲだった。
そのエリがツンツンしてたので美琴はそう言ったのだ。
「じゃああれは美琴だな。」
「な!?ア…アンタねぇ…恥ずかしくないの?」
「そうか?俺は美琴だと思うんだけどなぁ…」
上条が指をさしたのはペンギンだった。
そのペンギンの上には手書きの文字で『寂しいアナタを癒してくれる癒し系ペット』と書かれている。
ちなみに上条がそのペンギンを見て美琴だといった理由はただ単にペンギンの模様が雷に似ていたからなのであるが美琴はそれには気がつかない。
「てか、美琴今何時だ?」
「え?今ちょうど6時20分過ぎたあたりだけど…まさか『今日はこれで!』とか言って帰るんじゃないでしょうね?」
「やっべぇ…美琴!7時になったらいつもの待ち合わせしてる自販機の前に来てくれ。じゃ!」
美琴にそう告げると上条はデパートから行きよいよく出て行った。実際美琴と過ごした時間は1時間にも満たない。
「あのバカ!どこ行くのよ…あっ、今のうちに…」
かくして、美琴も上条がいない間にとある物を購入するためにデパートの人ごみへと歩いて行った。
「ありがとうございましたー」
上条はとあるランジェリーショップから出てきた。
「ふぅ…流石に緊張するな…アイツきちんと答えてくれるかな?」
上条が事前に予約していたのは『指輪』だった。
しかもこの日のために美琴に隠れてバイト等をして買ったものだ。
「てか付き合って1年でプロポーズってなぁ…今更だけど断られたりしたらどうしよか…とりあえず集合場所に向かうか」
小さな不安を抱きつつ上条は一人美琴との待ち合わせの場所へと歩いて行った。
午後7時
今回は美琴のほうが遅れて待ち合わせ場所に着いた。
「遅かったな美琴。」
「ごめん。ちょっと色々迷っちゃってさ…はいこれ」
美琴が差し出したのはニット帽とマフラー、それに手袋だった。
「アンタ寒そうにしてたし…だからこれ。付き合って一年のお祝いだからね」
「ありがと美琴。すげー嬉しい。」
「どういたしまして。でも手作りじゃなくてゴメンね。このごろ忙しくってさ。」
「いや、お前からもらえるものだったら何でもいいよ。」
「そっか。」
二人の静寂が訪れる。その均衡を破ったのは上条だった。
「あのさ美琴…今から言いたいことがあるんだけどさ…いいか?」
「どうしたのよ改まって?あ、別れ話なら却下ね。私当麻と別れる気なんてないから。」
「俺だってないさ。…あのさ――」
「こんな不幸な俺だけどさ…俺はお前の事を愛してるし、愛されたいとも思っている…だからさ」
上条は一呼吸を置いて最後の一言を話す。
「俺と結婚してくれ美琴」
思いを伝えると上条は指輪の箱を開け、美琴に渡す。
「条件があるわ。私の前で『不幸』なんて言わないで、後は…浮気は禁止よ?」
「そんなので…いいのか?」
「そんなのってなによ!アンタもしかして浮気しようとしてたんじゃないわよね??」
「そんな気はねぇーよ!…本当にいいんだな?」
「何回も聞かないで。私の気持ちは変わらないから」
「ありがと、美琴」
「私だってすっごく嬉しかったわよ?と・う・ま」
美琴は笑顔で上条に抱きついた。それはとても幸せそうな顔で。
「不幸だなんて…言わせないんだから!」 fin、