夢と現実の君
穏やかな休日の昼下がり、学園都市内のとあるショッピング街を仲睦まじげに歩く男女がいた。
「あ!これこれ!このストラップかわいぃ~。ねぇねぇ、お揃いで買わない?」
「ん~?またカエルかよ・・・」
「む。カエルじゃないもん。ゲコ太とピョン子だもん。何度も教えたでしょっ?」
「わぁってる、わぁってますよ。冗談だっての。んじゃ、買うか?」
「やた~♪」
あからさまに恋人同士の会話である。
「お、このネックレスなんてどうだ?」
「え?どれどれ・・・・って磁気ネックレスってどういうことよ!!」
「いやぁ、エレクトロマスターが磁気ネックレスつけたらどうなるのかな~って。」
「・・・・・」
「御坂?」
「・・・・・うぅぅ・・・ひっく・・うぇぇん。当麻がいじめたぁ。」
「ご、ごめん。つい調子に乗っちまって・・。ゴメン!機嫌直してくれよ。な、御坂?」
「・・・って呼んで。」
「は?」
「美琴って呼んで。」
「へ?あ、はは・・ちょっと恥ずかしいし・・」
「なんでよ!私たち恋人同士でしょ!名前で呼ぶなんて普通よ!!まったくもう!当麻はいつまでたってもぉ!!ぶぅぅぅぅーーー」
おいおい、ぶぅぶぅ豚さんみたいに唸り始めちまったぞ・・・それでいいのか花も恥らう女子中学生・・・
ぶぅぅぅ、ぶぅぅぅ・・・・ぶぅーん・・・ブゥーン・・ブゥーン・・
「ん?へ?・・・あ・・・。」
上条当麻、起床。
携帯がテーブルの上でバイブしている。その音で夢の世界から抜け出したようだ。
「おっと、電話か・・」
起き抜けの頭を覚醒すべく両手で頬をパンとひと叩きして電話に出る。
「あ~もしもし?」
「お、おはよ。御坂美琴だけど。」
「ん、美琴か?なんかようか?」
「!・・アンタ今、美琴って・・」
「あ!いや間違えた!気にするなって。で、御坂、何か用か?」
まだ覚醒しきってないようだ。
「・・・まぁいいわ。でね、えーっと、たいした用事でもないんだけど・・。もしアンタがよかったらなって・・」
「なんのことかさっぱりわからねぇ。」
「だ、だからね、要するに今日ヒマ?」
「んまぁ、ヒマだぞ。」
「ホント!? じゃあ、ほら、えと、その・・そうだ!・・ちょっと前にしたのを、またお願いしたいんだけど・・・」
「だから何をだよ?上条さんは無能力者ゆえテレパシーは通じませんよ?」
「わかってるわよぉ・・。あのね・・・恋人ごっこ・・またお願いできたらなぁって。」
「・・・」
「なんで無言なのよ!最近また付きまとわれててね・・追っ払いたいのよ!」
「なんだと!!」
「ど、どうしたのよ急に・・・」
急に大きい声を出す当麻に美琴もたじろぐ。
当麻は偽海原の一件を思い出していた。
(まさか、また御坂を狙ってるのか!?そうはさせるか!!)
「誰なんだそいつは!御坂に手出しするヤツは許さない!!」
(どうしたのかしら?・・!まさかヤキモチ?この反応の仕方はヤキモチ焼いてるようにしか・・アイツが私にヤキモチ?・・・手出しするヤツは許さないって・・・・・・ふにゃー)
美琴KO。
「おいっ!どうした?大丈夫か?」
「おいっ!御坂!まさか!?御坂!今どこにいるんだ!?」
電話の向こうで応答が無くなってしまった美琴に対し、当麻は真剣に焦りだす。
「・・・・あ、ああ大丈夫よ。アンタこそ落ち着いて・・・。私はまだ寮の部屋にいるわよ。起きたばっかりだもん。」
「よし、そこで待ってろ!すぐ行くからな。部屋を出るんじゃないぞ!」
「え!?ちょっと待って!」
電話は既に切れていた。
(これからって・・・。それにしてもアイツが私にヤキモチ?それって私のことを、す、す・・キャー!どうしよ?どうしよ?「美琴は俺のものだ!誰にも渡さない!」なんちゃって、キャーキャー!)
「お姉様、朝のお風呂使わせていただきました・・・・わ?」
黒子はいまだパジャマ姿のままでベッドの上でひとり悶えている美琴を目撃した。
「あのー?どこかお加減でも悪いんですの?」
まだぐるぐる転がっている。たまに止まってニヤ~としたかと思うとまた盛大に転がり出す。
「お姉様!」
ハッ!「く、黒子!いつからそこに・・・?」
「今しがたですが・・お姉様、具合でも悪いので?」
「違う違う!えっと、そのちょっと背中がかゆいな~って」
「それであの悶えっぷりですの・・・?」
「あ、ははは~。だから私もお風呂でサッパリしてくるわ!黒子はジャッジメントのお仕事でしょ?気をつけてね!」
美琴は苦しいごまかしを残し、バスルームへ逃げ込んだ。
さっとシャワーで寝汗を流したあと、軽く湯船につかりながら先ほどの電話の内容を反芻する。
思い出すだけで、にへら~と幸せそうな笑顔を浮かべる美琴。
(あ!そういえばアイツ今すぐ行くって・・こうしちゃいられないわ。)
慌ててバスルームから飛び出る。黒子もちょうど出かけるところのようだ。
「早かったですわね。では私はいって参りますわ。」
「うん、がんばって~。」
黒子を送り出したあと、あわてて髪を乾かし梳かす。
続けて着替え。いつもの制服に腕を通しスカートも身につける。お決まりの短パンも装着だ。
(髪、おかしくないかな?)
髪も整え、髪留めもつける。
若いとはすばらしい。化粧などしなくてもかわいい女の子のできあがりだ。
(ん、まぁいいわね。おしゃれしたいけど、校則だし制服で仕方ないか。)
さて、身なりの準備は済んだ。次は心の準備を・・・
などと思っていると携帯がゲコゲコと鳴る。
(わっ!もう?)
「俺だ。上条だ。お前の寮についたぞ。とにかく詳しい話を聞きたいんだが。」
「詳しい話って?」
「バカ!お前につきまとってるヤツのことだよ!」
「ちょ、ちょっと待ってね。今そっち行くから。」
(まずいわね、さっきのはアイツを連れ出すためについ口から出ちゃったことなのに・・・)
つまり真相は口からの出任せであった。嘘をついていたことに焦り始め、先ほどまでのふわふわ雰囲気から覚めて冷静になってくると連鎖的に思い至ることがある。偽海原の件は美琴も事情を知っている。つまり上条が美琴にまた害がおよぶ心配をしているのだということにも気がついた。
(そっか・・・ヤキモチじゃなくて、心配して・・・ごめん。どうしよ、怒られるかな。嫌われちゃうかも・・・)
バツの悪そうな顔をして美琴が玄関から出てくる。
「御坂!大丈夫か?で、そいつはどこのどいつだ?知ってるやつか?」
「・・・・・」
「おい、御坂!」
「・・・・ごめんなさい。」
「は?」
「その・・・・嘘なの。つきまとってるヤツがいるなんて・・。」
「なにぃ?なんでそんな嘘つくんだよっ!」
「ごめんなさい!!」
美琴が頭を下げ真剣に謝っている。腰の角度は90°、指先もピシッと伸びている。お嬢様学校である常盤台中学では謝り方の授業でもあるのだろうかというほどである。
ポタ、ポタ・・
美琴の顔の下の地面に水滴が落ちていく。美琴の眼から涙がこぼれていたのだ。
(嫌われたらどうしよう。嫌われたらどうしよう。そんなのやだ・・ごめんなさい・・・)
普段見せない美琴の姿に、一瞬頭に血が上った当麻も毒気が抜かれる。
(はぁ、まったくこいつは・・。まぁ、危険が近づいてるわけじゃないって事実の方がありがたいか・・。)
「ん、わかった、わかった。しょうがねぇな。もう嘘はつくなよ?」
「う、うん!」
顔を上げた美琴は涙をいっぱいに浮かべ当麻を見つめる。
「もう泣くなって!似合わないぞ。学園都市3位の超電磁砲さん?」
「うん、わかった・・ありがと。」
美琴も少し安心したのか表情が柔らかくなる。
(ふぅ、女の子に泣かれるのは苦手だぜ。)と、その時、
ぐぅ~
朝ご飯も食べずに全力疾走してきた当麻の腹が突然鳴った。
「はは、安心したら、急に腹減ってきたぜ。」
「ぷっ」
見事な音に思わず美琴も吹き出す。
「じゃあさ、朝ご飯おごってあげる。食べに行こ?」
この後、一緒に出かける口実が出来ると思い、とっさに口にする美琴。
「おごり!?それは貧乏学生上条さんにとって天使のようなお言葉です!でもいいのか?」
「いいから、いいから、大丈夫よ。で、何食べたいっ?」
こぶしをなぜか突き上げ、うれしそうに聞いてくる美琴。
「おごられる身としては何でもいいけどなぁ。御坂の食いたいもんで。しっかし、お前今泣いたカラスがもうなんとやらだな~。」
「む~」
美琴は恥ずかしさから顔を赤らめ、頬を膨らまし上目遣いで当麻をにらむ。
(こ、これが、女の子の上目遣い攻撃・・・か、かわいーじゃねーか・・・そういや今朝の夢の御坂もかわいかった・・な。てか、俺もあんな夢見るなんて・・。)
「そんな顔するなって、さ、行くぞ!」
「あん!」
照れから、思わず美琴の手を取り急に歩き出す当麻。突然のことに軽く悲鳴をあげる美琴。あさっての方を向いた当麻の顔は美琴に劣らず赤く染まっている。
「ちょっと、急に引っ張らないで・・」
小さく抗議の声を上げながらも、手を握られさらに頬を染める美琴。
(やたっ。心配させて申し訳ないことしちゃったけど、これはデ、デートよね。ようし、今日はいつもよりも素直に・・・)
美琴も握られた手に勇気を出して力を込め、握り返す。
「ね、お昼も一緒に食べよ?おいしいランチのお店知ってるの。あ、それと行きたいアクセサリーショップとかもあるんだ。いいでしょっ?」
「お、おぅ、いいぞ。」
「ありがと!」
二人とも赤い顔をして、手をつなぎ歩いている。いつもよりちょっぴりお互いを意識したこの二人。初々しい恋人にしか見えない当麻と美琴は、今日これからの楽しい出来事に胸を膨らませ街へ繰り出すのだった・・・。
穏やかな休日の昼下がり、学園都市内のとあるショッピング街を仲睦まじげに歩く男女がいた。
「あ!これこれ!このストラップかわいぃ~。ねぇねぇ、お揃いで買わない?」
「ん~?またカエ・・・ゲコ太とピョン子だな。よくできてるんじゃねぇか?」
「お、わかってるぅ。ご褒美に買ってあげるねっ。」
自分の趣味に理解を示した当麻に美琴は大喜び。
当麻は眼を細め、はしゃぐ美琴を愛おしげに見つめ思う。
(ふふ、夢の続きが見れそうだな・・・・。)
おわり。