とある乙女の恋事情 1 看病編
十月某日
今日は一端覧祭の準備のため多くの学校が午前中準備でその後放課となっている。
そのためか平日にもかからわず多くの学生たちが行き来している。
その中、常盤台中学校のエースである御坂美琴は少しおぼつか無い足取りで帰路についていた。
「はぁ・・・熱があるのに無理して学校なんか行くモンじゃないわね・・・。」
そう美琴は風邪を引いていた。
無理して学校に行ったのにも理由がある。
(アイツに今日一端覧祭の予定聞こうと思ったけど、風邪を拗らせるわけにはいかないか・・・
今日は大人しく寮に帰って寝よ。)
意識もしっかりしているので寝れば治るだろうと思いつつ寮に向かってく。
と、その時後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「よぉ!御坂ー」
ツンツン頭の学ランを着た高校生が美琴の肩に手を置いてそんな事を言ってきた。
「っえええ!!?」
美琴は意中の人が突然現れたことと、肩に手を置かれたことでぐるぐると目を回してしまった。
ツンツン頭こと上条当麻はそのことに、
「み、御坂!?大丈夫かッ!?」
驚きを隠せない様子で膝から崩れ落ちた美琴を何とか支えることに成功する。
(ヤベェ・・・どうしよ、、さすがにこのままってわけにもいかないし、
顔真っ赤だけどコイツ熱あるみたいだな、もしかして俺のせい・・?
こっちから話しかけるとか慣れないことはしない方がいいのかな・・・)
心の中で意外と冷静に物事を整理している上条だが、結局「不幸だー」とか言いながら男泣きをしている。
思いっきり具合の悪そうな美琴を早く休ませた方が良いのは一目瞭然でとりあえず上条の寮に連れて行くことにした。
「常盤台の寮に連れて行くといってもこっからじゃ遠いし早く寝かせた方がいいからな。」
女子中学生を部屋に連れ込むことになまじ抵抗があるようで、心の中では(仕方がないから、仕方がないから・・・・)
と念仏でも唱えるように念じていた。
幸いにも寮の目の前であったので誰に見られることもなくおぶって上条の部屋に入ることができた。
熱のあるせいか呼吸が荒いので起こさないようにそっとベッドに寝かせた。
「とりあえず熱下げなきゃだよな・・?」
洗面所に行き洗面器に水と氷を入れ、その中にタオルを入れて美琴のそばで腰を下ろした。
タオルの水を絞り優しく額に乗せた。
「あとは薬を飲めば簡単に治るんだけど、寝てる内は飲ませられないし・・・。」
学園都市には研究施設やら、薬科大学などがごった返してあるため多数の薬会社がある。
そのため市販の薬は通常では考えられないほどの安値になっている。
効き目も通常では考えられないくらいに効く。
上条は不幸体質というのもあって救急セットや薬を買い溜めしているので薬は余るほどある。
風邪薬も例外ではない。
ちょっとした風邪薬程度なら広告ティッシュを配る要領で試供品を配ったりする会社もある。
学園都市外の人が見たらどう考えても危ない、街中で薬を配っているのだから。
上条宅にあるのはちゃんと買ったものだが
「んーっ・・・」
上条はぐっと背伸びをする。
(今日も疲れたなぁ・・・)
今、隣で寝ている美琴を忘れてしまうくらいに今日は疲れた。
つまんない授業やら、友人達との遊び(遊びと書いて殴り合いと解釈する)やらで
かなり疲労が溜まっているのだった。
そしてそのまま上条はベッドに背中を預けて眠ってしまった。
何時間ぐらい寝ただろうか?
ポケットに入っている携帯を取り出し時間を確認する。
『15:12』
(そういえば今日は午前放課だったけ・・・?)
寝ぼけた感の頭を動かし今日の授業が終わった時間が十二時過ぎぐらいだったのを思い出す。
(ところでインデックスどうしたんだろ?帰ってきた時いなかったよな・・?)
ふと、自分が帰ってきた時のことを振り返る・・・
(俺は確か帰り道で・・・、み、御坂!!!)
上条は鮮明に帰路であったことを思い出し恐る恐る寄りかかっていたベッドの方を見てみる。
まだ美琴は寝ていた。
(ふぅー、よかっt、って何で俺はほっとしてんだ!取り合えずタオルを変えないと)
寝る前のままであったタオルは二時間ほど経ってすっかり水分が奪われていた。
(熱はさっきよりは下がったけど、まだ微熱って感じだな)
心なしか呼吸が落ち着いている美琴を見てちょっと安心しつつも急いでタオルを水につけ絞り
美琴の額に乗せた。
「んっ・・・」
急いでしまったせいか、目を覚ましたようだ。
「御坂っ!?大丈夫か?」
呼ばれて美琴はちょっと鼻声で
「・・うん、大丈夫・・。アンタが看病してくれたの?」
「ああ、お前いきなり倒れたからびっくりしたぜ。正直俺のせいで倒れたのかと思った;」
美琴はあながちその通りなんだけどね、と思いつつある疑問を抱く。
「ここどこ・・?」
見慣れない殺風景な部屋を眺めながら上条に問う。
「ここ?俺の部屋だけど。まぁ、あそこからお前の寮まで運ぶのは流石に遠すぎたからな。看病するにも都合が
良いかと思って」
「へ、へぇー・・」
表では興味ないです的な振る舞いをしているが内心
(こ、こ、ココがアイツのへ、部屋!!!?? ついに来ちゃった)
と顔が真っ赤だが幸い上条は熱だと思ってあまり気に留めてない。
「取り合えず熱が下がるまでウチに寝てろよ」
「う、うん」
(ってことは、か、風邪引いている内はこうしていられるのかな・・・?)
美琴は嬉しさのあまりに悶えていた。
一端覧祭に誘うことを忘れてしまいかねないほどに・・・
そうだ、と何かに気づいたらしい上条は買い溜めている薬の山から風邪薬を取り出し美琴の前に差し出す。
「これ飲んどけよ、市販のやつだから特効薬って訳じゃないだろうけど楽になると思うぞ」
上条は熱なのか嬉しさ故なのか顔が赤い美琴の右手にそっと置く、ちなみに上条は前者だと理解しているが
美琴本人は後者による赤面であった。
「あ、ありがと・・」
上条の垣間見える優しさに胸打たれる乙女な美琴であった。
ぐぅ~~
上条の腹の虫が鳴る。
「何か安心したら腹減ったなぁ、御坂腹減ってる?」
美琴はちょうど上条からもらった薬を飲み終わったところだった。
「ちょっと減ったかな・・?」
先ほどの上条の優しさに半分酔いつつ、自分の腹部(胃のあたり)を軽く抑えながら答える。
「時間も時間だしな腹へって当然か、でも中途半端な時間に食うと夕飯も食えたり食えなかったり
するよなー」
うーん、と顎に手を当てて某考える人みたく悩んでいる上条は
「そうか、お粥でいいか。それなら御坂も風邪で消化のいいものだしついでに俺もちょっとつまむ
程度にすればちょうどいいな。」
それを聞いた美琴は驚いたように
「えっ!?アンタご飯作れるの?」
「おいおい、一人暮らしなめんなァァ!っていうかお粥くらい誰でもできんだろ?
まあでもお粥一つでも上条さんの家事スキルを発揮するには十分過ぎます」
とニカッと笑う上条を見てくらッときてしまった美琴は直視することさえままならない。
「そ、そう、じゃあその一人暮らしの家事スキルとやらを見せてもらおうじゃないっ!」
俯きながら言っているので具合でも悪いのかと上条は頭に?マークを浮かべながら
声は元気そうだし大丈夫かと一人頭の中で勝手に解決する。
実際、美琴フィルターによる美化された上条を直視できないだけだが無論そんなことを言える美琴ではない。
「じゃっ、作りましょうかね!」
気合を入れたのかYシャツの袖をまくり台所へと進む。
そんな姿を眺めていた美琴は
(なんていうか、コレって夢じゃないのよね・・?)
幸せすぎる現実にこれは幻想を抱いているのでは?という疑問が頭から離れない。
だがそんなふざけた幻想は上条のエプロン姿で台所にいるのを見て打ち殺された。
彼は美琴に対しては右手以外にも幻想殺しがあるらしい(美琴の幻想もとい妄想のみ)
また幸せな現実に戻ってきてふにゃーという感じになってからポケットの中身が震えた。
マナーモードのため震えるだけで気づいたのは美琴だけ、上条は鼻歌を歌いながら楽しく
料理中である。
ゲコ太携帯を取り出し誰からなのかと思い着信をみる
どうやらメールではなく電話のようだ。
携帯のテロップには「母」と表示される。
「母」とは美琴の母親の御坂美鈴である。
正直、今一番かかってきて欲しくなかった相手と言っても過言ではない。
他にも白井というのもあるが、彼女はいくらでもごまかせる。
だが、美鈴の場合出ないで無視すると「何で出なかったのかな~?電話に出られない時間じゃなかったよね
美琴ちゃんが電話に出られない理由って何だろねー?」
と目でわかってますオーラを出されながら誘導尋問にかけられるに決まっている。
よって無視するという選択肢は今後のことを考えると抹消された。
何コールしただろうか、バイブなのでポケットから出すといまいち分からないが留守電に接続される
前に出なくてはならない。
ゆっくりと通話ボタンの上にある親指に力をかける。
「・・も、もしもし?」
布団に隠れながら声を押し殺し通話相手だけに聞こえる声で問いかける。
『美琴ちゃん!?もぉー遅いからママ心配したのよ~』
見た目もさることながら声色もお姉さんと思わせるような感じで話す美鈴に
「用があるなら早くしてよねっ」
ツンとした美琴得意の態度で対応する。
『美琴ちゃんのいじわる~!というか急がなきゃならないことでもあるのかしらん?』
ヤバイッと美琴は下唇をかみ締めて危機感を覚える。
突き放す意味でツンとした態度を取ったことが仇となったようだ。
伊達に美琴の母親をやっているわけではないのである。
美琴のツンツンした態度も「母」美鈴からしてみれば意思疎通なのである。
一方的な意思疎通ではあるが。
言葉に詰まらせた美琴が声を出さずに唸っている時、台所からアイツが話しかけてきやがった。
「御坂~、お前梅干食えるか?」
上条単にはほとんど完成したお粥に梅干を入れるか、入れないかでそういえば御坂って梅干食えんのかな?
嫌いなヤツとかも結構いるしなという思考によって訊ねただけなのだ。
そこで美琴が電話していることを知った上条は、
心底申し訳なさそうに顔の前に片手を立てて声を発さず口の動きだけで「わりぃ」と謝罪した。
その前にはもう既に思考停止してしまった美琴は顔を真っ赤にし口をパクパクしているだけだった。
電話からは
『え!?今の上条君??もしかしてあなた達同棲しちゃっているの?キャーーー!!
美琴ちゃんやるじゃんっ!お母さん見直したわ、ホント。大覇星祭の時なんて
あんなにウブだった美琴ちゃんが今はもう同棲!?子供の成長って早いって言うけど
あれから一ヶ月でこうも変わっちゃうと心臓に悪いわー。
でも美琴ちゃんの恋は全力で応援するからねん♪じゃあねー上条君によ・ろ・し・く』
ここで通話が切れた
コイツ絶対面白がっているっ!とかこのまま勘違いされたらされたでアイツと・・・、とか
大体用件何だったんだよ、とか色々と頭がパンクしそうになりそのままベッドへ倒れた。
ここで意識が途切れた
「・・sか?、みさ・か?、御坂?」
夢の中で「あの馬鹿」という名の王子様が私を呼んでいる。
美琴は夢の中でもある意味幸せだった。
「大丈夫か?御坂っ!」
ここではっきりと上条の声が聞こえた。
「う、うん、何とか・・」
「お前風邪なんだから無理すんなよ?」
上条は優しく微笑んでくれる、それだけで美琴は嬉しくなれる。
「あり・・がと」
「気にすんなって、さっ食おうぜ」
まだできて間もないように見える、それを見て美琴は気絶してからそう経っていないらしいことがわかる。
上条がレンゲにお粥を掬い美琴の口の前まで運んでくる。
最初美琴には上条のしていることが理解できなかった。
「・・え??」
「??えって、お前は病人なんだからコレぐらいは当たり前だろ?
それとも嫌か?」
美琴はそれを嫌だと思っていない、むしろ相当嬉しい部類である。
そしてその行為を嫌がっていると上条に思われたくなかった。
「い、やじゃない・・」
「じゃあ、あーん」
これは美琴が夢にまで見た(既に美琴の夢には出てきている)シーン。
ドキドキしながら小さく口を開ける。
程よい温かさと食感が空腹だった胃にすとんと落ちるのを感じ、心地よくなる。
「なら俺も食うか」
えっ?と美琴が言う前に既に上条は美琴が口にしたレンゲを口にしている。
その時美琴は思った、私が笑うとコイツも笑ってくれる。
(もしかして・・・この雰囲気なら私の想い伝えられるかも)