とある乙女の恋事情 2 看病編
しかし、美琴の口は堅く自分の意思でも開こうとしてくれない。
その状況に美琴は地団駄を踏みたくなる。
(どうして・・?今まで想っていた気持ちを言うだけなのに、自分の心に素直になるだけなのに・・・)
美琴は自然と俯きかけていた。
それを見た上条は
「・・何か悩んでいるみたいだけど、どうかしたか?俺なんかで良かったら相談に乗るぞ」
美琴は驚いた。今まで上条は人の気持ちに対してわざとじゃないだろうか?と疑いたくなるくらいに気付かない。
美琴が上条に対する想いも含めて鈍感と言われるほどに
「その顔を見ると図星みたいだな」
美琴は考えるよりも前に言葉が出た。
「どうして?・・どうして私が悩んでいるって解るの?」
上条は美琴の言葉を聞いて少し遠い所を見るように目を細めて小さく微笑んだ。
「なんていうかさ、お前がそういう顔をしているのを見るのって辛いんだよ・・・。」
上条は以前にもこういう顔を見たことがある。
美琴が妹達の事件で助けを求めたいはずなのに一人鉄橋の上で苦しんでいた時の顔。
美琴も上条が直接言わないでも言いたいことが不思議と伝わった。
上条は美琴に伝わったことを確認したかのようにまた言葉を紡ぐ。
「俺は・・お前には笑っていて欲しい。俺が言った言葉覚えているか?」
美琴は一方通行との戦いの後入院した上条のところに見舞いに行ったとき上条にかけられた言葉を思い出す。
「・・・私は笑っていて良いんだってこと?」
「そういうこと。お前は苦しいことや嫌なことを全部一人で背負い込もうとするだろ?
もしさ苦しいこと、嫌なことで悩んでいるなら俺でもいい他の友達でもいいから頼ってみろよ。
解決するかは別の話だけどさ、肩の荷が下りるというか楽になると思う」
まぁ俺も人のこと言えないんだけどな、と言いながら上条は頭を掻いている。
「・・あさ」
「んー?」
「じゃあさ、アンタも悩んでいることがあったら私に話すって約束してくれる?」
「・・えっ!?で、でも俺の場合は巻き込まないよう__」
ここで美琴に遮られた
「約束してっ!」
美琴は小指だけを立てた拳を上条の顔の前に突き出してきた。
「えーっと、それはまあ何といいますかー、それとこれとではですねー」
マニュアルを忘れた新人店員のような口ぶりの上条に美琴は
「じゃあ私がずぅっと悩んでいる顔してても良いっての?
さっき私のそういう顔見るの辛いって言ったの誰だっけ!?」
上条はうぅっと唸りながら渋々了解したのか美琴の小指を取り指きりげんまんをする。
「仕方ないか約束だもんな」
どっちが困っていたか分からなくなるくらいに立場は逆転していた。
はぁーっと溜め息を吐く上条を見て少し笑顔になる美琴は
(コイツも何かあったら話してくれるってことよね?これは中々に良い取引だわ)
と一人で背負い込むところも、相手の為に何かしたいと思うところも似たもの同士の二人である。
約束を終えたので上条は本題に戻るべく言葉をかける。
「で、お前は何に悩んでいるんだ?」
約束したから言うんだぞ、という目をしている美琴は少し戸惑いながら応える。
「もし、もしもの話だけど。私がこの学園都市から、アンタの目の前から消えたらどう思う?」
上条はとても驚いた顔をして
「お前っ!そんなに重い話だったのか!?」
少し興奮気味の上条に対して美琴は冷静に
「もしもの話よ。私が悩んでいることとは特に関係は無いから」
「何だよ、驚かせんな・・」
「それで、どうなのよ?ちゃんと質問に答えて」
上条は少し悩んだみたいだが、すぐに答えは返ってきた。
「正直それは考えられない・・・。俺の日常にはお前がいて当たり前なんだよ。
お前の日常はどうかは分からないけど、少なくとも俺の日常にはお前がいて喧嘩したり、
話したりするのが当然のことなんだよ!」
それを聞いた美琴は胸が熱くなるのを感じた。とても強く、とても熱く、とても心地の良い・・・
本当に美琴は嬉しかった。上条の中に美琴がいるということを上条の口から聞けた事に。
もう口から言葉を出すことなんてできなかった。
勝手に体が上条の胸に向かって動いている。
不思議だと思うことなのに、思うはずなのに。
今は不思議だとは思わなかった、可笑しいと思わなかった。
だってずっと求めていた"もの"がそこにあるのだから。
「御坂・・」
上条も不思議と向かってくる美琴を抱きとめていた、抱きしめていた。
そしてまた同様にそのことに対して上条は不思議だとは思わなかった。
護るべき"もの"がそこにあるのだから。
上条はそっと話す。
「お前の日常には俺がいるのか?」
美琴は自分が頭で考えた言葉よりも早く、心で想っていた言葉が出る。
「私の日常にはね、アンタがいて、アンタが傍にいて、アンタと一緒に話して
アンタと・・・」
そこで美琴は上条に抱きついている力を少しだけ強くする。
上条はそれに気付いたのか、そっと美琴の頭を撫でる。
「私の日常にはアンタがいるよ。アンタがいることが当たり前。
ううん、アンタがいなくちゃダメなのっ!」
震えている美琴に気付き上条は優しく微笑み少し美琴を離して顔を見えるようにした。
上条の両手は美琴の肩を掴んでいる。
上条は美琴の目を見て話す。
「そっか、お前が悩んでいたことって俺のことだったんだな」
コクンと美琴の小さい頭が立てに振れる。
「じゃあ、これからは背負うものが半分になりそうだなっ」
上条は嬉しそうに笑う。
美琴は驚いたように
「・・えっ!?どういうこと・・?」
「何だ、俺の勘違いだったか?てっきりお前は俺のことが好きなのかと思って
両想いだから嬉しいなっていう」
「両想い?じゃあアンタは・・・」
「そうだよ。俺はお前のことが好きだっ!」
美琴は開いた口が閉まらない。
美琴は第三位の超能力者といっても中学生であることに変わりは無い。
好きな人から告白されて嬉しさのあまり涙を流すことなど女子中学生にしてみれば至極普通のことである。
涙が溢れ出すのにそう時間はかからなかった。
「嬉しい・・・」
「良かった、お前の喜びは俺の喜びでもあるからな。
よく言うだろ感情を分かち合うことで喜びは二倍、悲しみや苦しみは半分にって。
さっきの約束はそういう意味でも良いかもな」
今度は上条から美琴を抱きしめた。
そしてそっと唇を重ねた。
風邪というのもあってか、泣きつかれたというのもあってか美琴はベッドで小さく寝息を立てている。
上条は水に湿らせたタオルを美琴の額に乗せてベッドの脇に腰を下ろす。
そこで上条は玄関のところに手紙が落ちているのを発見する。
部屋に入ったときは美琴を負ぶっていたせいか気付かなかったらしい。
なんというか白い封筒に三つ折にされた手紙が入っていた。
そこまではいいのだが問題は内容だ。
英語で書かれている、上条は赤点取ること必須な問題児であって読めるはずが無いのだ。
仕方ないので埃を被っている英和辞書らしきものを引っ張ってきて頑張って訳してみた。
思ってみたより文脈は簡単で短かったので訳すのに時間はそうかからなかった。
内容は
『拝啓 親愛なるとは程遠い上条当麻
今回はインデックスにオルソラから暗号を解く手伝いをして欲しいということでイギリスに来てもらうことになった。
君にはあの子の保護者という名目があるけど今回は危ないこともないので君がくる必要も無い。
まあ僕にしてみれば万々歳なんだけど。こっちには護衛もいるから心配は無いよ。』
というふざけた内容だった。ちなみに手紙の最後には見たことの無い文字があり、それを見て間もなくクラッカーのような
爆発を起こして砕け散った。
右手で触っていけば良かったと後悔する上条であった。
差出人には名前が無かったが上条には一人思い当たる人物がいるのだがそれはほぼ確定しているので敢えてここでは伏せておく。
これでインデックスがいない件に関しては解決した。
(あっちには神裂や五和もいるし大丈夫だろう)
と自己暗示して安堵する上条だった。
その後上条は熱も下がり元気になった美琴を門限前に寮へと送った。
あまり近すぎると上条の存在が他の人物にバレてしまうのを恐れ少し離れたところで別れた。
しかし、二人とも数メートル歩くと互いに振り向いて手を振り、また数メートル歩くと振り向いて・・・というのを
繰り返してなんとも初々しいという感じであった。
今日は寝れそうに無いなと美琴は自覚した。
実際、枕が潰れるくらいに抱きしめていたというのは言うまでも無い(目撃者:白井黒子)
上条の日常と美琴の日常が交差した時、桃色空間が始まる!?