とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part06

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とある超電磁砲の入学式


 上条の高校の入学式は常盤台とは違い普通の高校で行われる普通の入学式………ではなかった。
 といってもそれは今年限定であり常盤台ほどではない。それでも普通の高校よりも一部が豪華仕様になっていた。それはテレビ放送をされている点と参列している人たちが国のお偉いさんばかりであったこと。
 そしてもう一つ、常盤台にはなかったことがこの高校での入学式で行われていた。
「はぁー入場制限なんて入学式、あるもんなのね」
「ははは。私も驚いてます。でも御坂さんの友人だったから楽勝でしたね」
「同感。御坂さんの友人じゃなかったらあたしは今頃御坂さんの入学式のテレビ放送を今か今かと待ってたかも」
 この高校に入学することとなった二人の友人であり先輩である御坂美琴の身内として招待された初春と佐天は、高校の正門で入学式のチケットを見せ無事に入学式の会場がある体育館前にたどり着いた。
 朝から長い列を並び長かった苦労を終えてやっと一息つけるような気がした。佐天は持ってきていたスポーツドリンクで喉を潤すと人の群れが出来ている方向、体育館の方向へと歩いていった。
「そういえば白井さんは?」
「白井さんはとっくの昔に入ってます。なんでも徹夜で並んでたらしく一番に入って席を確保したみたいですよ」
「さすが白井さんとしか言えないね。これも全部御坂さんのためだと思うとあたしは何と言って白井さんに挨拶をすべきか」
「変態の一言でいいと思いますよ。それかストーカー」
「はっはっは、相変わらず白井さんのいないところだと容赦ないね」
「事実じゃないですか。それにいないからこそ言いたかったことも言えるんです」
 初春は胸を張って答えるが、それは違うだろうと佐天は呆れた笑みを浮かべた。
 しかし初春の言うことも一理あるかもしれないと、佐天は白井が体育館で待っている光景を想像してみた。
 きっと待っている白井は今か今かと最新型のデジカメ、またはテレビカメラは首にぶら下げながら入学式が始まるのを待っているのだろう。席はきっと自分のカメラのピントが綺麗に合う場所を確保している。さらにその席で何度も何度もイメージトレーニングなどをしてニヤニヤとしている白井の姿が鮮明に想像できてしまうと時点で、きっと想像通りのことが体育館内で起こっているのではないだろうかと思うと佐天は呆れるを通り越して変態の意味で尊敬したくなった。
「初春、席はどうするの?」
 このまま考えていたら白井の全てが美琴を愛する変態へと変わってしまうような気がしたので、佐天は白井をそんなイメージに変えないためにも初春に話題を振って自分の頭も一緒に別の話題に変えた。すると初春は何かを思い出したように驚き、いきなり佐天の手を握った。
「え…? う、初春??」
「そうです! すっかり席のことを忘れてました。急ぎますよ佐天さん!」
 そういうと初春は駆け足で体育館の方へと向かっていく。手を握られていた佐天はというと、なんでそんなに元気なのと思いながら初春に手を引かれてともに体育館に急ぐ途中で、佐天は初春の片手に握られていたものを見た。
(ビデオカメラ……初春)
 白井とは別の意味で初春も美琴の入学式にとても興味があったみたいだ。そして単純に美琴の晴れ姿を見るだけが目的だった佐天は、二人の友人のせいで式が始まる前まで散々な目にあってしまったのだった。

 入学式のプログラムは常盤台の時とさほどかわらないように見えた。
 開式の辞、
 国歌斉唱、
 入学許可、
 学校長式辞、
 教育委員会の挨拶、
 来賓祝辞、
 紹介、
 教職員の紹介、
 新入生代表の言葉、、
 校歌の紹介、
 閉式の辞。
 担任の小萌先生にもらったプログラムを一つ一つ思い出してみると、常盤台の卒業式と大差がないように思えた。というよりも同じような内容があったことを思うと入学式も卒業式も役者と中身が違うだけのものだと思えてきた。
 考えてみても入学式は学校の生徒として入るもので卒業式は学校の生徒として出て行くものだ。並べてみるとまさに出入口だったので、似ていると納得できなくもないことだ。というよりも出入口の表現で納得できてしまうので上条はそれで入学式のプログラムの疑問を納得することにして、目の前の現実を少しずつ受け入れていくことにした。
(なんで…こんな目に)
 上条の見ている光景は、ほかとは一味違ったものであった。何故ならが今いる場所は体育館の壇上、校長の横の席だったのだ。
(なんだなんでなんですか!!?? 何故わたくしめはこんな場所で入学式に参加しなければならないのでせうか???)
 明らかに公開処刑と言う名の極悪な拷問であった。
 周りを見れば学校長と副校長、さらには来賓として招かれた教育委員会のトップや有名な政治家などが座っている。さらにはテレビ局のカメラが壇上の袖幕の裏からこちらを映しているのが見える。
 今頃お茶の間では上条が映されているのだろう。しかしテレビに映っていると考えても思ったよりは緊張はしなかった。自分でも意外であったがよくよく考えてみればテレビに映るのは今回で二度目であったことを思い出し、初めてじゃないからなと思った以上に緊張しない自分に納得がいった。
 それよりも上条が気になったのは、周りにいる大人たちではなく校長とは逆の方向に座っている自分の婚約者である御坂美琴の存在であった。
(美琴…大丈夫か?)
 プログラムの記憶が正しければそろそろ教職員の紹介が始まりその後に美琴が代表を務める代表の言葉が待っている。そこで美琴は卒業式と同じように壇上で代表の言葉を述べる。
 一度は行った大役ではあるが大勢の人前で話すのは何度やっても緊張しないわけがない。しかも常盤台の卒業式で話題になったことによる期待やテレビカメラが見ていることでさらに緊張感が増しているのだろう。
 上条は美琴を気にして顔をずらそうとする。だが動かす場所によっては小さな動きでも目立ってしまう壇上の上であったので、目立たないように動くことは難しかった。手ならば動かすことが出来るかもしれないが、椅子の並び方が斜めに登っていく並び方であったため、美琴を見るためには少しばかり顔を動かさなければならなかった。
 本来の上条の性格ならば、別に目立ってもいいじゃないかと思う適当な場面であるが、入学式が始まる前に教師一同に在校生の代表として恥をさらさないようにと念を押されたので動くのも命だけであった。単位や学校内での不幸(じけん)でお世話になりっぱなし教師一同には、上条も頭が上がらなかったので上条はそれに素直に従うしかなかった。
(でもなー…やっぱり気になる)
 それでも上条は美琴のことが心配でならなかった。なので少しずつ顔を動かしながら横目で美琴の顔を見ようと必死に動いた。
 そして視界の端っこに美琴の顔を捉えると、もう少しと悟られないように慎重に動かしていった。
『新入生代表の言葉。新入生代表、御坂美琴』
 だがあと少しというところで美琴の出番であるアナウンスが流れる。名前を呼ばれた美琴は勢いよく、はいっ! と立ち上がると真っ直ぐに伸びた背筋が上条の横を通り過ぎて行った。
(……不幸だ)
 結局、上条は美琴の顔を見ることも出来ずに無駄な労力を使ったのだった。それは式中にトラブルを起こしてしまうよりも不幸な不幸であった。


『―――以上を持ちまして、入学式を終了いたします。一同、礼!』
 入学式が終了した放送が流れた。体育館にいた生徒や保護者、来賓一同はアナウンスとともに頭を下げて礼をし終えると、席に座って入学式が終わったことの安心感を味わっていた。
「でも入学式は終わらない。というか終了するって言ったのにまだ出番があるって面倒だよな」
「そうよねー。しかもこれが終わっても、私たち新入生は教室で説明があるし終わったとはまだ思えないわね。それに教科書とか重い荷物もたくさんあるんでしょ?」
「ああ。ここは普通の学校だからお嬢様の通う常盤台のように自分の部屋まで宅急便じゃないぜ」
「まったく、いつまで常盤台のお嬢様を引っ張ってるのよ。それぐらい、私にもわかってるわよ」
 入学式のアナウンスを聞きながら仲良く話す上条と美琴は体育館にある女子更衣室にいた。
 といっても上条と美琴は扉越しに話している為、二人は互いの姿を見ていない。更衣室の扉の中側には美琴が、外側には上条がそれぞれ立っていたので二人の常識ではなく世の中の常識で二人は話していた。
 そして何故上条と美琴がここにいるのかにもちゃんとした理由があった。
「それにしてもこのドレスで演奏するなんて、あの頃みたいね」
「ああ。名前の知らない頃に会ったときは、えっと……なんて名前だったか忘れたけど、確かその時にお前はバイオリンを弾いてたよな」
「そうね。アンタの中ではその時、盛夏祭が私を初めて見た瞬間だったのよね?」
 盛夏祭は記憶を失った上条が初めて美琴の姿を見た日である。あの日は土御門舞夏に誘われてインデックスと共に来ていただけだったので、まだ美琴とは一切の交流もなかった。さらに会ったのはいいが、美琴の一方的な勘違いであの時は交流らしい交流もなかった。
 それから数週間後にあった自販機でのにせんえん事件の一件で上条は初めて美琴だと知ることとなったのだった。
「御坂だと知らないお前にインデックスの行方を訊こうとしたらいきなり椅子で叩かれそうになって。あの時は本当に驚いたぞ」
「でも見知らぬ女の子に、綺麗って普通に言ったのは許せないわよ。アンタ、他の女にもあんなことを言ったんじゃないわよね」
「ファッションに関しては御坂から訊かれた記憶しかないからよく覚えてない。でも俺は御坂一筋って決めたし、どんなスタイルのいいやつと比べてもお前には敵わねえよ」
 上条は全て素直に答えているので言葉には嘘偽りは一切ない。それが美琴にはわかっていたので、上条が褒めてくれることに素直に喜ぶことが出来た。
 過去の上条は鈍いこともあって、褒めてくれても美琴が解釈したのとは別の意味であったり余計な一言付け加えたりと喜べても言われた一瞬だけで、期待を裏切られることもあったので素直に喜ぶことがほとんど出来なかった。しかし今日の上条は過去の上条とは打って変わって、言ってくれる言葉のほとんどが美琴を中心にした言葉であり余計なことも言ってこない。あの頃とは真逆であったのだ。
 だから美琴は上条が自分だけを見て話している事がたまらなく嬉しくて、顔の緩みが治せなかったがここには一人だけで上条も入っては来ない。なので緩みを治す必要がなかったのは美琴には大きな幸いであった。
「えへへ。私も当麻一筋だからそういってくれると嬉しいな」
「そ、それは……嬉しゅうお言葉」
「あれ~? もしかして照れてる?」
「ッ!! う、うるせえ! 早く着替えろよ」
 扉越しで顔を真っ赤にして照れている上条の表情は、今の美琴には容易に想像できた。
 その顔は少し可愛く思えて美琴はクスクスと小さく笑った。
 そして会話を少しやめ、噂の白いドレスを持ってみた。
 実はあの時のドレスは今は家にあった。今日持ってきたのはまた新たに作ってもらった新しいドレスで、美琴はこれに着替えるために女子更衣室にいたのだ。しかし新しいドレスのデザインはあの時とほとんど同じの特注品を作ってもらったので、サイズが大きくなったぐらいでそれ以外は盛夏祭のときとあまり変わらない。
 これは上条の強い要望で実現したものであった。何故なら上条は盛夏祭の時はインデックスと一緒にいたので、美琴の演奏は見ていなかったの。だから入学式の場を使って上条はドレス姿の美琴の演奏を見たいと頼み込み、今回の企画が成立した。
「でもよく私の演奏の企画なんて通ったわよね。最初は私たちの会見じみたことを計画してたのに、なんで」
「ああ。あの"上条当麻・上条美琴、夫妻版"のままだったら確かに会見だった。でも今日は入学式で主役は俺よりもお前のほうだろう? だから俺ばかりが質問攻めを喰らいそうな会見じゃなくて、御坂がメインで出来る演奏にしてくれって何日も何日も小萌先生たちにお願いしたんだ。それで最後は何日も頼み込んできた俺に折れて先生たちは御坂の演奏に首を振ったってわけだ」
「折れて、ねえ。一体アンタは何をしたわけよ」
「カミジョウサンハナニモシテオリマセンヨ」
 頼み込んだだけで首を縦に振るなど思えない。きっと上条は何かをして、それの交換条件でこの企画を成立させたのだろう。
 美琴は言いたかったことがあったが、それは演奏が終わったあとにとっておこうと胸の中にしまいこんだ。その代わりに、上条のためにも成功させようと思いながら、制服を脱ぎ始めた。
 まだ着て数時間しか立っていない制服はすでに汚れがついてしまっている。美琴はパンパンと汚れや埃のついた部分を叩き、脱いでいった制服を一枚一枚丁寧に畳む。全て脱ぎ終わり下着姿になったところで持って着ていた大き目の巾着袋に脱いだ制服を全て入れていると、美琴は白いドレスに着替え始めた。
「あの時とは……違うわね」
 妙な期待をされていた盛夏祭の時は美琴はあまり気乗りではなかった。大役を任され公の場でバイオリンを演奏するのは、とても緊張することであったし自分には柄ではないと思っていた。だからあの時は逃げ出そうかなとも考えていたが、演奏の直前に緊張を吹き飛ばしてくれた上条がいたから美琴が無事に演奏が出来た。
 そして今回、盛夏祭の時以上の大役を任されテレビや政治家などの偉い方々がいる中での演奏はあの時以上に緊張している。周りの期待や見られる規模は信じられないほど大きく、逃げ出したいと思う気持ちは美琴の中に微かにあった。でも緊張しっぱなしだが盛夏祭の時とは違い今回も出来ると思う自信が少しだがあった。
「ねえ当麻。そこの周りには誰もいない?」
「ああ。あと時間まであと二分ぐらいしかないぞ」
「二分………二分だけ、か」
 着替え終えると美琴は制服の入った巾着袋と近くにあったバイオリンケースを持って、更衣室のドアを一回ノックした。ノックから一呼吸置いてドアノブを回して更衣室の外へと出ると上条が壁に寄りかかりながらこちらを見ていた。
「すげえ綺麗だと思いますけど」
「それはあの時の再現? でも綺麗って言ってくれたことは嬉しいな」
「それじゃあ言い直す。すげえ綺麗だよ美琴」
 上条は笑って美琴の頭を優しく撫でると、えへへと嬉しそうに笑いながら美琴は抱きついてきた。周りに誰もいないことを確認していた上条は、今はいっかと呟いて優しく美琴を抱きしめ返した。
「やっぱり当麻の胸が一番落ち着く。このまま一日ここで過ごしたいかも」
「おいおい、それはまずいだろう。って言いたいけど上条さんはその意見に同意したくなるな。美琴を抱きしめてると離したくなくなっちまう」
「えへへへへ。私は当麻のものだからそれでも構わないよ。だけど当麻は私のものでもあるから私の言うことにも従うんだよ」
「俺がいいって言う限りはな。全部は答えられないからな」
「わかってるって。私のダーリン」
 その言葉にはさすがの上条もぶっと噴出して真っ赤になった。そして、ああとそっぽ向きながら強く美琴を抱きしめた。
「なんだか美鈴さんみたいなもんが入ってないか? キャラがちょっと変わってきたぞ」
「さっき尋問で私のことを『美琴は俺のものだ! こいつを愛していいのは俺だけだ!』ってテレビやみんなの前で言ったのは誰だっけ?」
「………嘘ではないし認めるが、それを今言うか」
 上条は入学式が始まる前に吹寄を代表とする在校生全員と記者の方々に尋問と言う名のインタビューをされたことを思い出した。
 三階にあった視聴覚室を借りて行われた小さな尋問であったが、質問がヘビーすぎたので途中から上条はやけくそになって答えきった。もちろん、上条が耐え切れない質問を美琴が耐え切れるわけもなく美琴も途中からやけくそになって答えきった
 そしてその質問の返答が入学式が終了した後にまた新たな話題として世間に出されるがそれはまだ先の話だ。
 ちなみにその中の一部を紹介すると、
『上条さんにとって御坂さんはなんですかって』という記者の質問に『俺の命よりも大切な妻』と真顔で答えたり。
『御坂さんは上条さんのために毎日やっていることは何ですか』という在校生の女子の質問に『そんなこと、多すぎて言えません。でもあげるとしたら当麻を愛することです』と美琴は思い出し笑いしながら答えたり。
『上条は御坂さんと結婚するつもりか』という上条のクラスメイトの質問に『わかりきったことを聞くな。それと結婚なんてもうしちまってる』と言ってその場にいた一同を凍らせたり。
『御坂さんは上条当麻と結婚するつもりは』という男子生徒の質問に『もちろんです。それに現実で結婚するだけじゃなくて死んでも一緒にいられるように死後でも結婚するつもりです。たとえ天国でも地獄でも』とツッコミ満載の夢物語な結婚話をし始めたり。
『カミやんはヤったのか』という上条の悪友であるグラサンの質問に『毎日のように何時間もヤってるが何か文句あるか、シスコン軍曹!』と自分が不謹慎なことをしたことを認めたり。
『家ではどんなことをしてるんですか』という記者の質問には『愛してあってます。心も身体も全てを愛し合って愛しつくしてます』と上条に抱きつきながら答えたり。
『私たちの目の前でキスできますか?』という吸血さんの質問には『それじゃあ』と答えて一分間、キスしっぱなしになり視聴覚室で自分たちを見ていた全ての人間に自分たちのキスを見せつけたり。
 と、こんなこともあって二人はすでに家の外でも中でも特には関係ない状態になりつつあった。甘えられる場面なら甘えて甘えさせて欲しいなら目いっぱい甘える。それらが身につき始めた上条と美琴は今がその時だと言わんばかりに美琴がめいっぱい甘えてきたので上条は甘えさせてあげていたのだった。
「ねえとーま。ちゅーしてー」
「美琴さんや、そんな色っぽい声を出されたら上条さんはここで間違いを起こしそうです」
「クスクス、それはさすがにダメじゃない。ダーリン」
 美琴は楽しそうに笑うと上条の頬にキスをした。キスされた上条はと言うと、お返しと言わんばかりに美琴の頬にキスをすると美琴と同じように小さく笑った。
「美鈴さんかよ、お前は」
「………そう言われるのは不本意だけど、もしかしたら親子だからかもね」
 だなと苦笑いしたあと上条の手は美琴の後頭部に優しく回された。
 サラサラとした指先から逃げていく綺麗な髪の毛がとても心地よく、かすかに香水の甘い香りがしたような気がした。おしゃれとは少し違うが、綺麗なドレス姿の彼女はとても美しくとても魅力的であった。
 上条はキスをする前にそのことを再度実感して目を瞑った。それからほどよい力で彼女の頭を自分に引き寄せると、音を立てずに自分と一つになった。
「ちゅ…ん………好きだ」
「うん」
 そして唇を離した二人は入学式後に待っていた御坂美琴の特別公演へと向かって同時に足を踏み出した。

 入学式を終えた体育館にいた一同は、これから始まる特別公演の準備をしている舞台を見ながら胸を躍らされていた。
 当初の予定では、入学式中に上条当麻と御坂美琴の会見のような質問コーナーを設置する予定であったらしい。しかし何かの都合でそれは中止となり、盛夏祭の時と同じ美琴によるバイオリンの演奏へと変更になった。ちなみに変更になった理由は関係者の一部にしかわからない謎である。
 初春個人としては質問の方が面白みがあり楽しそうだったので、変更になったのは少しだけ残念であった。しかしまたあの時の演奏を聴けることには初春は別の意味で楽しみであった。
「佐天さん。私たちが初めて盛夏祭に行った時のこと、覚えてますか?」
「もっちろん。あの時の御坂さん、白いドレスを着ててさすっごい綺麗だったよね」
「それにバイオリンも上手であの時は御坂さんの演奏には引き込まれましたね。それがまたここで再現されるなんて」
「うんうん。やっぱり期待大だよね」
 二人は美琴のバイオリンの腕前と白いドレスを着ていた時の綺麗な姿をまだ覚えている。そしてあの時の感動もまだ二人の記憶の中に残っていた。
 初春と佐天は興奮しながら美琴の演奏の準備をしている舞台を見ながらその時を待っていた。それは彼女たちの周りに座っている保護者たちも同じであった。
 一方、それとは少し離れた席では。
「ふっふっふ。美琴ちゃんの演奏、お母さんも楽しみだなー」
 御坂美鈴は自分の愛娘の演奏を楽しみに待っていた。
 実は美鈴はまだ美琴のバイオリンの演奏を聴いたことがなかった。それは美琴が演奏をしてくれなかったからではなく、美鈴が美琴に演奏して欲しいと頼んでいなかったからである。
 美鈴の中では、自分の娘の演奏には少しばかり興味があった。だがそれよりも娘の気になる相手である上条との話題を優先させたので、自分個人の頼みはそれが終わったとでもゆっくりと出来たので頼まなかったのだ。
 しかし今回、意外なことに今まで聴けなかった娘のバイオリンの演奏を聴けると聞いたので美鈴も初春や佐天たちのように純粋に美琴の演奏を楽しみにしていたのだ。
「それにしても上条くんもいなくなっちゃてるみたいね。相変わらず美琴ちゃんは大胆ね♪」
 もっとも、娘をからかうのも楽しみの一つだがそれはまた後でのお楽しみ。
 さらに一方、美鈴から少し前の席には、
「お姉様、ハァハァハァ」
 息を荒くしている口元からよだれを零している白井黒子の姿があった。
 手には買ったばかりのデジカメがしっかりと握られ、その中身は全て今日の美琴の制服姿で埋め尽くされていた。白井はその中から厳選したものを選ぶことはせず、全て保存してデータとして残す予定である。もちろん、これから行われる美琴の演奏にもそれが含まれている。
「ハァハァハァ、お姉様の高校制服の姿。ハァハァ、黒子は感激のあまりイってしまいそうです。ハァハァハァハァ」
 これ以上の解説は問題があるので略させていただきます。

 準備が整った美琴はあとは舞台の袖幕の裏で出番のアナウンスを待つだけであった。
「……………ッ」
 隣にいた上条は緊張をしている美琴の手を優しく握る。美琴も握られた手をぎゅっと握り返すと不思議なことに少しだけ緊張が緩んだような気がした。
「出番まで握っててやる。それまで出来る限りの緊張を解いとけ」
 この手が離れるのは美琴が舞台へ歩き出す時。それまで上条は出来る限りずっと握っているつもりだ。
 いくら美琴の恋人であり公演の関係者であっても、バイオリンの演奏が始まれば上条も観客だ。観客は演奏者を見守ることしか出来ない。手助けをしたくとも演奏が始まれば手伝えるのは邪魔をしないことだけだ。上条にはそれらが理解できていたからこそ、上条は始まる前まで美琴の手伝いをしたかった。そしてこれが演奏が始まる前の最後の手伝いになることも上条はわかっていた。
 出来るなら変わってやりたいと思いもしたが、それは美琴への裏切りであるのも理解している。それ以外にも様々なことを理解していた上条は今はただ想い人の手を優しく包み込むことしか出来なかった。
「……ねえ頼みがあるんだけど」
「ん? ああ、出来ることならなんでもいいぞ」
「うん。ちょっと待っててもらっていい?」
 美琴は上条の手をゆっくりと離すと、少し離れた場所においてあった制服の入った巾着袋の中に入っている制服のポケットからあるものを取り出した。制服をしまって置いてあった場所に巾着袋を戻すと取り出したものと自分のバイオリンケースを持ってきて上条のもとに戻ってきた。
 戻ってきた美琴に手を出してと言われたので上条は右手を出した。すると美琴はその上に取り出してきた小さなものを置くと上条から一歩離れた。
「これって、俺があげたペンダント?」
「そっ。遅刻したホワイトデーにもらった大事なペンダントよ」
 このペンダントは出来上がった翌日の3月24日に上条はホワイトデーのお返しとして美琴にプレゼントしたものだ。
 あの日以来、美琴はたびたび持ち歩いて幸せそうに中の写真を見ている姿は上条も何度か見ている。だが首につけている姿はまだ一度も見ていなかった。
「これを俺に渡して…どうするんでせうか?」
「つけて」
「はい?」
「私につけてって言ってるのよ。買ったのはアンタなんだからつけ方ぐらい、わかるでしょ?」
「まあわかりますけど………」
 ペンダントの結びは金属ではなくそれなりに丈夫な糸で繋がれておりつけ方はとても簡単だ。結び目を解いて、また結ぶだけ。つけ方など幼い子供でも十分にわかる。
 しかし、何故自分がつけるのだろうか…上条にはそれよくわからなかった。
「ほら急いで。時間がないの、わかってるでしょ?」
「わかったわかった。ほれ、じっとしてろよ」
 急かされたので考えることは後にして、上条はペンダントの結び目を解いた。そして解いて出来た二本の糸を美琴の首の裏に回して、ほどよい長さに調節して結んだ。
 少しばかり長めだったかとつけ終えた時に思ったが美琴はペンダントをドレスの中に隠した。
「一応、きつめに結んどいたぞ。途中で解けたりはしないと思うけど、気をつけろよ」
「……うん。ありがとう」
「??? どういたしまして???」
 しおらしくなった美琴の態度に上条はよくわからず首をかしげた。
 ぺンダントをつけただけなのになんでこうも大人しくなったのか、上条の勉強にもそれを解くものはなく何を思っているのかよくわからなかった。それが少しばかり気になって訊こうと思ったとき。
『それでは本日の特別公演を始めたいと思います。御坂美琴さん、お願いします』
 その言葉が開演の合図だった。
 美琴は持っていたバイオリンケースを床に置くと、中から自分のバイオリンと弓を取ってケースを閉じるとそれを上条に渡した。上条はそれを受け取ると、美琴と声をかけた。
「えっと………その、行って来い!」
 何かいい言葉をかけようかと考えたが、結局出たのはいつもの通りの自分の言葉。言った後にもう少しいい言葉を用意しておけばよかったと後悔したが、美琴は声をかけてくれたことが嬉しかったのか、小さな声でありがとうと言った。
 そして優しく微笑むと美琴は上条の下に近づいていくと、上条とキスをした。
「当麻や聴いてくれるみんなを想って演奏する。だから、最後まで見守ってて」
「ああ、俺たちが見守っててやる。だから美琴は美琴の演奏をして俺たちを感動させてくれ」
 そして上条は美琴の背中を優しく押すと、美琴は観客たちが待つ演奏の場へと歩いていった。
 この場にいる全ての人たちが自分を見ている。新入生や在校生、教職員に保護者たち。『外』から来た記者たちも皆自分だけを見ている。
 視界には演奏を楽しみにしている視線や衣装を見て見とれている瞳が映る。今の彼らには自分はどのように映っているのかは美琴には何一つわからなかった。
 しかしわからないことに恐怖はない。何故ならこの中には自分の友人たちも含まれていることを知っていたから。そして裏側では自分の最愛の人が見てくれていることを知っていたから。
(初春さんや佐天さん、黒子もいるみたいね。それとあの馬鹿親も)
 美琴が彼女たちを見たわけではない。だが来ている。見ていなくともそれは断言できた。
「………さて」
 体育館に流れているアナウンスがそろそろ終わる頃を見計らって、美琴は気持ちを切り替えた。
 持っていたバイオリンは中学時代から使ってきたもの。新しいものも買えるには買えたが数々の思い出と長い時間使ってきたため愛着があった。
 だが使い慣れているから上手く演奏できるとは限らない。大切なのはバイオリン自体でも技術でもない。気持ちなのだと、美琴は知っていた。
 楽器とは下手に弾こうと思えば下手に弾ける素直なもの。だが上手に弾こうと思っても上手に弾けない不器用なものでもあった。
 さらに楽器の音は人の気持ちに反応して音を出す。気持ちが沈んでいれば暗い音を響かせ、明るい気持ちであれば明るい音を響かせる。それが音になった時、聴いている人全てに演奏者の気持ちがダイレクトに伝わってしまう。
 だからどんなに上手な人が演奏しようとも気持ちがなければそれはただの音だ。ただの音には人に感動を与えることなどできはしない。それは誰にだってわかることであるが、意外と気づいていない人が多い。
 かつての美琴もそれを知らなかった。しかし度重なる練習を重ね、誰かに聴いてもらいたいと思う素直な気持ちを知ったとき、美琴は楽器はただ上手に弾くものではなく自分の心を描くものだと知った。
 アナウンスが終わり、自分の演奏する曲名が言われる。
 曲の数は三つ。どれも有名なオーケストラの曲でありバイオリンを学ぶ人ならば一回は弾くであろう曲だ。
 最初は上手く弾けずにボロボロであったバイオリンも、時間を重ねるごとに様々な曲に触れて、今はこんな大きな舞台の上で演奏をすることになっている。美琴は音楽家ではないが、今この場で演奏できることは誇りに思っている。
 そして、この演奏を成功させてみんなに感動を与えたいとも…。
 静寂は目の前の演奏者の音を待っている。気持ちはすでに自分の思い描いた世界へと旅立っていた。
 小さく大きく…静かにうるさく…丁寧に雑に…綺麗に汚く…真っ白い紙に様々なことを描いていく。自分の描く世界を知ってもらうために、美琴は流れるように構えると自分の描いた音を楽器の音に乗せて描き始めた。

 上条当麻は美琴のバイオリンを聴かされたことは何度かあった。
 クラシックに興味がない上条には何を演奏して、誰の曲かを言われてもまったくわからない。
 しかし目の前で演奏している彼女の姿はそれらを全て忘れさせるほどに様々な世界を描いていた。
「――――――――――♪」
「……………」
「以上です。ありがとうございました!!!」
 演奏しきると美琴は笑顔でお辞儀をした。
 聴いていた上条は美琴が頭を下げたのと同時に大きな拍手を送った。それでも足りなかったが、戻ってくるまで観客役であった彼には今は拍手をすることしか出来なかった。
「やっぱりすげえよ。ホントにすげえ」
「えへへ、ありがとう当麻」
 とても嬉しそうに笑いながら美琴は端っこに置いてあったテーブルにバイオリンと弓を置くと、上条の座っていたソファーの横にスペースに座ると上条の腕を掴んでえへへと笑った。
「やっぱり当麻の横が一番落ち着く。終わったらすぐにここに来るって決めてたんだ」
「俺は終わったらすぐにここに来て欲しいって思ってたぜ。でも終わったらきっとお前がここに来るってわかってたから何も言わなかったけどな」
「むっ、わかってても言ってよね! 好きな人に来て欲しいって言われるのもね、私は幸せなんだよ!」
「そうなのか? だったら勉強するついでに今のことも覚えておきます」
「うんうん。わかってるわね、ダーリン♪」
 上条の腕に頬擦りをしながら美琴は幸せに笑った。
 時間はすっかり夜となり、入学式での特別公演を終えた美琴であったが、上条の要望により上条のためだけの上条美琴の演奏会がささやかに開かれていた。
 演奏する曲は今日演奏したのと同じ曲であった。しかし同じ曲であってもそのクオリティは下がるよりもむしろ上がっているような気がした。
「なあ美琴。お前さ、入学式の公演の時に手を抜いた?」
「はっ?? そんなわけないじゃない。自分でも驚くぐらいの絶好調だったわよ」
「そうだよな。あの時は感動のあまり上条さんも泣いちまったもんな」
 美琴の特別公演は大成功であった。間違えがなくパーフェクトの演奏であり、人々の魅了した新入生として明日の新聞には載るはずだ。そのあまりの演奏ぶりに、上条はついつい涙を流してしまい美琴やテレビカメラの前で恥を晒した不幸なオチがあったほど美琴の演奏は素晴らしかった。
 余談であるが、あまりにもパーフェクトな演奏に白井黒子は救急車で搬送されて現在も意識不明になっていたりもするが、二人はおろか友人の初春や佐天も知らなかったりもした。それが後日判明した時に、白井の変態レベルがさらに上がってしまうのだがそれはもう少し先の話である。
「でも今の演奏を聴いてて思ったんだが、あの時よりもクオリティ上がってないか?」
「クオリティ? 私は譜面通りに演奏したし公演以上の演奏は出来なかったから、むしろ下がっていると思うんだけど……」
「気のせいか? 美琴の気持ちがダイレクトに伝わってきた気がしたんだが……」
「……ああ、そういうことね」
 気持ちと言われて美琴は何故上条がそう感じたのか、わかったような気がした。それがまだわからない上条はわかったのかと興味深そうな目で教えて欲しいと訴えてくる。
 でもただ教えるだけじゃ面白くないので、美琴は久々に卑怯な手を使った。
「交換条件。それに応じてくれたら、教えてあげる」
「…………………何のかは教えて、くれないよな」
「ふっふっふ。さ~て、どうします?」
 実はとても単純で上条にもわかる答えだ。
 しかしまだ鈍感な部分は多いため気づくまで時間がかかるかわからない可能性もある。美琴としてはそれはあまりにも悲しすぎるので、ここでは上条に頷いて欲しかった。
 のだが予想に反して上条はここで首を横に振った。
「悪いけど、交換条件はなしだ。その代わりに……ならいいけどな、何か訊くか?」
「訊く。嫌だったら教えない」
「長期で休みになったら、どこかへ旅行をしたいんだがどうかでせうか?」
「行く! お泊りでしょ? 絶対に行く!!」
 喉から手が出るほど素晴らしい提案だったので美琴は興奮しながらその案に賛成した。
 実はこれは美琴も少しだけ考えたことがあることだった。しかし上条の度重なる『外』への用事で言っても難しい気がしたので言わなかった。だというのに上条がそれを言ってくれた。美琴には嬉しさのあまり気絶してしまいそうなほどに素晴らしい提案であった。
「了解。俺も色々とあるけどゴールデンウィークか夏休みにでも行けるようにするな」
「うんうんうん!!! 楽しみにしてるわよ、当麻!」
 喜びのあまり美琴は上条に抱きついて、何度も何度もキスを交わす。一度や二度ではなく、十回二十回と普通のカップルならば一、二か月分ぐらいのキスをして上条に自分の喜びを伝えた。それを受け取っていた上条は決して嫌だとは言わず、むしろ快く受け止めていた。
「んんっ…好き…大好き…ちゅっん…好き好き好き……当麻、大好き……んんっちゅ…ん……んんっ…好き」
(やべえ、美琴が壊れた。でも可愛いからいいか)
 上条は心の底でそんなことを思った。
 そしてしばらくして、落ち着いたのか美琴は上条から離れてまた上条の腕に抱きついた。
「えへへ…当麻と旅行とお泊りだ。えへへへへ」
 しかしどうやら元には戻っていないらしい、でも上条は可愛いからいいかと結論づけてそれ以上考えることをやめた。
「それで? なんで上条さんは美琴の公演がああも違うと感じたのでせうか?」
「それはね…あ・い。私の当麻に対する愛よ愛。当麻にはそれが伝わった?」 
 美琴は満面の笑みで答える。それを見せ付けられた上条はあまりにも美琴が可愛かったので無意識に美琴の肩を抱くと頬にキスをした。
「お前、可愛すぎ。上条さんを美琴依存症で殺すつもりですか?」
「だったら私は当麻依存症で殺すつもりなのって訊きかえすけど?」
「うるせえ。それに俺もお前も依存症なんてずっと前になってるだろう」
「そうね。でもこんな依存症だったら私は死んだあとも持っていたいな」
「死んじまったら依存も何もないだろう。というか死後に結婚するとか言ったの、本気かよ?」
「本気よ。天国でも地獄でも当麻を追いかけてもう一回結婚するわ。それであの世でも私たちは夫婦になるの。どう? 幸せだと思わない?」
「………………………」
 死後に幸せなどあるのだろうかと思ったのが最初に思ったことだ。だが美琴は楽しそうに話すので上条はどんなものになるか想像してみた。
 死後の世界なんてわからない。何もない真っ暗な場所で一人取り残されるのか、マンガみたいに天国や地獄があるのだろうか、上条にはこれだといえる想像が遣いない。
 でも美琴はどこだろうとついてくると言った。天国でも地獄でも、と。
 そして一緒にいられればそれだけできっと幸せなのではないか?
「悪くはないかもな。夢がありすぎだけどな」
「夢があるからいいじゃない。それに当麻だって私と一緒にいられて嬉しいでしょ?」
「そうだな。お前となら天国だろうが地獄の底だろうが一緒にいられる気がする」
 幻想を殺す力を持つ上条は美琴の幻想を殺さず、それを受け入れた。
 本来の上条なら無意識に美琴の描くものを殺してしまうのだが、幸せになりたいと思う一人の高校三年生は美琴の夢物語に幸を感じた。なので上条もその夢物語に賛成したいと思い幻想を殺さなかった。
 上条は美琴の頭を撫でて、もう一度頬にキスをした。すると美琴も上条にキスを仕返してきてニッコリと微笑んだ。
「今日は唇に二十四回、右頬に四十六回、左頬に四十回、おでこに三十五回キスしてもらっちゃった♪」
「お前、まさか毎回毎回数えてるのか?」
「癖になっちゃったのよ。最初のうちは私は初心だったからキスをされただけで気絶してしまうぐらい幸せだった。だから幸せな回数ってことで数えてたんだけど、当麻とこの家に住む時期前後にそれが習慣みたいになっちゃって、今では毎回毎回数えてるのよ」
「ふーん。数えるね……」
 キスをしてもらった回数など上条は数えたことがなかった。今では一日に二百回は軽く越して三百回前後のキスをしている二人のうちの何割を上条が占めているのか考えたことなどなかった。
 上条はキスをしたいからキスをするのだし、美琴もキスをしたいからキスをしてくる。それを毎回毎回数えることなんて、上条は考えたこともなかった。
 しかし目の前にいる妻こと美琴はそれを数えていると言った。考えたこともない上条からすればそれは驚きであったが、実はもう一つだけ感じていることがあった。
「なあ美琴。キスしないか?」
「??? さっきからずっとしてるじゃない? それに断りなんていれてどうしたの?」
「美琴が俺のキスの数を数えているのが可愛くてな。ご褒美に上条さんの熱いキスをあげたいと思いまして」
「クスクス、なによそのセリフ。素直にキスをしたいって言えばいいじゃない?」
「……今日もお前可愛すぎだよ。上条さんはもう色々と限界に達しそうですよ。だから今の発言は撤回。ささ、キスしますよ」
 幸せそうに微笑む美琴の頬を撫でて上条は美琴と口付けを交わした。
 そして、唇を離すと上条は美琴の目を見ながら幸せそうに笑った。
「これからもよろしくね、ダーリン」
「ああ………えっと……ハニー…でいいのか?」
「よく出来ました。大好きよ、当麻」
「馬鹿にされた言い方だな。でも俺も大好きだよ、美琴」
 上条当麻と御坂美琴が口付けを交わした時、新たな物語が始まった。


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