とある河川敷での一コマ
「はぁ…つかれた…」
御坂美琴は自分の部屋に戻ってくるなり、制服のままベッドに倒れこんだ。
「(あ~ムカツク!なんでアイツには私の電撃が一発も当たらないのよ。
今度会ったら必ず私の電撃をお見舞いしてやるんだから…!)」
先ほどまで御坂はアイツこと上条当麻と追いかけっこをしていた。しかしいつも電撃を当てるまえに逃げられてしまう。
ほんとはただ一緒にいたいだけなのに、上条に会うとすぐ電撃を使ってしまうのだ。そしていつも追いかけっこに発展してしまう。
「(アイツ逃げ足だけは速いんだから…でも早すぎるのよね。私だってそこそこ体力には自信あるのに。
まあ私は女でアイツは男だし肉体的に不利なのはわかってるんだけど。しょっちゅう不良に追いかけられてるからかしら?)」
御坂は頭の中でどうすればいいかいろいろ考えた結果、ひとつの結論に辿りついた。
「(そうだ!ランニングをして体力つけてアイツにギャフンと言わせてやればいいんだわ!)」
午前4時半。少し外が明るくなってきたころ、御坂は起床し、同じ部屋で暮らす後輩の白井黒子を起こさないように
そーっとジャージに着替えて部屋を出て寮を後にした。
御坂はアイツとよく追いかけっこをする河川敷に向かった。
河川敷に着くと御坂は軽く準備運動をし、ゆっくり走り始めた。
「(今日は初日だし、流すくらいでいっか)」
しばらく走っていると向こうからこちらに走ってくる人の影が見えた。
ここはランニングコースとなっているので別に自分以外の人間が走っていてもおかしいことではない。
さっきも犬を散歩してるおじさんに会ったし、早朝でも結構人はいるのだ。
「(あら?向こうから走ってくる人どこかでみたことあるよーな………あ!)」
向こうから走ってくる人の髪型に御坂は注目した。
黒髪でウニのようにツンツンしているその髪型は上条当麻と限りなく似ていた。というか本人である。
「(な、なんでアイツがこんなところにいるのよ!?)」
上条も御坂の存在に気づいたらしく走るのを止めた。その顔は若干引きつってみえる。
「げっ…ビリビリ!?なんでおまえがこんなとこにいるんだよ?」
「それはこっちのセリフよ!アンタこそなんでこんなところにいるのよ!あとビリビリって言うな!」ビリビリ
御坂から青白い電撃が上条めがけて放たれた。上条はそれを右手で防ぐ。彼
の右手には幻想殺しという力が宿っていて、魔術でも超能力でもあらゆる異能の力を打ち消す効果があるのだ。
「ちょ、朝っぱらからビリビリすんなよ!あぶねえじゃねえか!」
「アンタが名前で呼ばないのが悪いんでしょうがああああああ!」
「おまえだって俺の事アンタって呼んでるじゃないかよ!それはどうなんだよ!?」
「わ、わたしはいいのよ!じゃあこれからはボンクラって呼んであげるわよ。喜びなさいよボンクラ!」
「おまえ…一応これでも俺の方が年上なんだぞ…まったく年上に少しは敬意を払えっての」
「このレベル5の美琴センセーがなんでレベル0のアンタなんかに敬意を払わなくちゃいけないのよ!」
「そのレベル0の上条さんに勝てないレベル5の口の悪~い常盤台のお嬢様はどこのどいつかな~?」
「ほ~アンタも言うようになったわね…いいわ。今日こそアンタに電撃をくらわせてやるから覚悟しなさい!」
ここで御坂ははっとした。これだとまた逃げられるのがオチだと。
それになんでこんな早朝にに上条がここにいるのか気になった。とりあえず理由を聞いてからにしようという結論に達した。
「そのまえに!アンタがどうしてこんなところにいるのか聞いてあげるわよ。…見たところアンタもジャージだしただのランニングかしら?」
上条はキョトンとしていた。普段なら電撃が飛んでくるパターンなのに、
これは絶対裏があるなとさらに警戒心を強めた。そしてとりあえず質問に答えることにした。
「ああそーだよただのランニングさ。不幸な上条さんはいついかなるときもあぶない連中から身を守れるようにようにこうして体力をつけているんですよ。
俺が不良とかに追っかけられてるのみたことあるだろ?魔術師とかと戦うときも結構体力いるんだよなー」
「ふーん。どおりで逃げるのが早いわけだ…。ちょっと待ってよ!あぶない連中って…もしかして私も含まれてるわけ…?」ピキピキ
「あー考えてみればお前って不良とかよりも危険だよな…っておい、さっきからバチバチいってるんですけどー?
み、みさかさんとりあえずおちつこうか、うん。あ!そうだ!御坂はなんでランニングをしてるんだ?」アセアセ
「ふぇ?わ、わたし!?わたしはその………ダ、ダイエットの一環よ!」
「え?おまえダイエットする必要なんかないだろ?細いしスタイルいいし文句ねーんじゃねえの?」
「ちょ、ちょっと何アンタよくそんなこと平気で言えるわね!さてはアンタ!今まで私の事そういう目で見てきたのね!?」
「おいおい何言ってるんだよ…別に俺はただ正直に言っただけでだな。それにダイエットなんて中学生がするもんじゃないぞ。
運動するのはいいことだけどな。ほら、お前ただでさえ胸平べったいのに余計平べったくなっちゃうぞ。あっ、しま」
すでに手遅れだった。御坂の怒りは頂点に達していた。
「…ア・ン・タ・は~、人の気にしてることを平気でペラペラと…」ゴゴゴゴ
「ちょ、ちょっと待て御坂!この話には続きがあってだな!つ、つまりは今の状態が一番良いというか可愛いというかだな」アセアセ
「え、可愛い!?そ、そう?わたし可愛く思われてるのかぁ…えへへ」
「おーい御坂さーん。戻っておいでー」
上条は御坂の肩をポンポンと叩いて御坂を幻想の世界から現実の世界へ連れ戻した。
「はっ!あ、あれ…?」
「ふう、ようやく帰ってきたか…まあなんにせよダイエットなんてやめたほうだいいぞ。ホントに」
「だ、大丈夫よ!別に食事制限してるわけじゃないし、運動した分多く食べればいいんでしょ!」
「…それダイエットじゃなくないか?」
「うっさいわね!運動不足で走ってるのよ!これならいいでしょ!」
「初めっからそう言えよ。紛らわしい…」
「そんなことより!ほら走るわよ!」
「え?おまえついてくんの?俺結構早いけど」
「大丈夫よ!ほら走る走る!」
20分後
「ハァハァ…」
「おい御坂大丈夫か?」
「こ、これぐらい平気よ…」
「だから言ったのに…あ、ちょっとここで待ってろ」
「う…うん」
「ほれ、水」
「あ、ありがとう…」
上条は御坂が座っているベンチに腰かけた。御坂は上条からもらったドリンクを飲んで少し呼吸を整えてから話し始めた。
「ア、アンタっていつもどれぐらい走ってるのよ…?」
「俺?うーんそうだな。今走った距離の五倍くらい?」
「(どうりでいつも逃げられるわけか…)」
「あ、俺にも水くれよ」
「え?」
上条は御坂が持っているペットボトルに手を伸ばした。突然の出来事に驚いた御坂はペットボトルから手を離してしまった。
「ぷはー!生き返った~」
「な、ななな!」
上条は御坂が口をつけた飲みかけのペットボトルを、何のためらいもなく口に運んだ。
「(こ、これって間接キスっていうんじゃないの!?コイツなんで一切ためらいもなく平然とできるわけ!?)」
「ん?なに顔赤くしてんだよ?まだ飲みたいのか?ほれ」
「ええっ!ア、アンタちょっとは気にしなさいよ!」
「別にいーじゃねえか減るもんでもねーし。…ホットドッグの時もそうだけど何気にしてんだよ」
「そ、それは…だから…(普通気にするでしょうがあああああ!か、間接といってもキスなのよ!?)」
「…まあいいや。ほらそろそろ帰るぞ」
そう言うと上条は近くにある時計を指差した。時刻は五時半をまわっていた常盤台の朝は普通の学校よりも早いのでそろそろ帰らないといけない時間だ。
上条はそのことを知っていた。
「あ、ほんとだ…」
「じゃあ俺はこっちだから」
「あっ!ちょっと待って!」
「なんだよ?」
「アンタ…毎日走ってるの?」
「うーん平日だけかな?休日はゆっくり寝たいし」
「そう…ねえ、これからは私も一緒に走ってもいい?」
「ああ俺はかまわないけど?一人で走るのって結構つまんないんだよな」
「ほんとに!?じゃあまた明日ねー!」タタタ
「あ、おーい御坂ー。…あいつ回復はやいな~」
御坂は走って寮まで戻り部屋のドアを開けると、すでに白井黒子は目を覚ましていた。
「お姉さま!?一体全体どこへお出かけになっていたんですの!?目を覚ますとお姉さまの姿がなくてとても心配したんですのよ」
「おおげさね~ただの早朝トレーニングよ」
「トレーニング?…ということは今そのジャージはお姉さまの汗でムレムレでヌレヌレですねの?クフフフウヒヒヒ…」
「…朝っぱらから気色悪いのよアンタは!」ビリビリ
「ああっ!…もっと、もっとやってくださいましおねえさま~ん♪」
「(それにしても、これからアイツと毎日ランニングか♪えへへ)」
「…お姉さま?さては今あの殿方のことをお考えになっているのでは?」
「なっ!ば、バカなこと言わないでよっ。なんでアイツのことなんか…だいたいアイツはかっこつけで鈍感で…ブツブツ」
「あ・や・し・いですわ!…はっ!まさかトレーニングというのはあの殿方とあんなことやこんなことをしてそれでそんなに汗を…あの類人猿ガアアアアアアアアアア!」
「アンタの想像力にはついていけないわ…」
おしまい