とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

02章

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2.初めて


「……朝?」

突如閉じた瞼から光が入ってきた事を感じて目を覚ます。
視界は数秒ぼやけていたが、自分のいる場所が常盤台の寮であると分かる。

「黒子……?」

ルームメイトの名前を呼んでみるが返事はない。
どうやら出かけてしまったようで、ハンガーにも制服がかけられていない。
美琴は風紀委員(ジャッジメント)の仕事でもあるのだろうと判断してベッドから体を起こす。

「……昨日……は?」

ふと、自分が昨日の自分を振り返る。
だが、それと同時に頬が一気に熱くなり、またベッドに倒れこんでしまった。

(アイツに……だ、抱きしめられた!!?)

昨日の夜、美琴は未来からやってきたと言う三人の子供たち出会った。
そして、その帰り道、美琴が常盤台の辺りまで来たときに上条に抱きしめられたのだ。
もっとも、美琴は告白まがいの言葉まで言っているがそれを凌ぐ(正確には忘れさせる)破壊力があった。

「うぁ、ああああああああああああああああああ!!」

ルームメイトがいないのをいい事に叫んでしまい
ベッドの端から端までを落ちない程度に寝返りを打つ。

(ど、どうしよう、抱きしめらた……!きょ、今日はどんな顔で会えばいいのよ!!)

いままで鈍感で好意を持っていたのに気づかないような男性にいきなり抱きしめられた。
初恋の相手であって、しかもその男性が自分の理性を壊すほどの人ならば
レベル5と言っても純情な乙女である美琴には今日顔を合わせるのすら超えられないくらいの壁だった。
と、悶々しているところで突然「ゲコゲコゲコ」とカエルの鳴き声が耳に響いた。

「ひゃっ!」

いつも聞いているはずの音なのに普段出ないような声が出てしまう。
恐る恐るカエルの鳴き声の着信音がするゲコ太の携帯を手に取り誰からの連絡か確認する。

「ア、ア、ア、アイツからメール……?」

それは彼女が悶々としている原因の少年、上条当麻からだった。
のろのろとメールの受信画面から振り分けボックスの『馬鹿』の項目を選んで新着のメールを開いた。

「さて、とただいまからお食事を作ろうと思うのですがいかがいたしましょう、姫?」

上条当麻はメールを送り終えると、真っ白な修道服に身を包んだ少女に問いかけた。
時刻は十一時をさしていて、昼食にはまだ少しはやい位なのだが、今日は昼から予定があるので早めに作ったのだ。
だが、肝心の修道服の少女は、部屋の中央で荷造りを始めていた。

「あの~インデックスさん?何故荷造りを始めてるんでせう?」

その様子が非常に恐ろしくて、声をかけてみる。
インデックスと呼ばれた少女はゆっくりと振り返ると

「とーま、昨日言ったよね?」

なんだか、異常に目が輝いていた。

「昨日?なんか言ってたっけ?」

上条には覚えがなかった、そもそも人生でベスト10に入るくらいの大事件が起きた次の日なので
少女が荷造りを始める理由は上書き保存されてしまっている。

「今日からこもえとあいさの三人で食べ放題!飲み放題!一週間春の幸祭りにいくんだよ!」

今にも飛んでいきそうな勢いの元気なのは食い放題が理由だったようだ。

「あ……そー、いえばー」

そういえば、一週間くらい前から毎日その事を言われていた気がした。
上条の担任である月詠小萌が彼女の専攻である発火能力(パイロキネシス)の研究が最近評価され
証をとったらしく、その副賞に一週間『外』への旅行券をもらったと言う話だったはずだ。

「まー、警備員(アンチスキル)とかに捕まらないようにな」

「とーま!私のどこが怪しいって言うの!?」

「だああああああああ!わかった、わかった!早く行かないと置いてかれるぞ!?」

服装からですが!?とツッコミを入れてしまいそうだったが
なんとか我慢して、荷造りを終えたインデックスを送り出す。
インデックスは最後まで怒っていた様子で上条を睨んでいたが
寮から出て小萌先生の住むアパートへ向かう頃には上条のほうを向いて笑顔で手まで振っていた。

(……タイミングいいっつーか、問題はこれで消えたな)

ふぅ、と息を吐き、閉めた玄関のドアにもたれる。
問題、と言うのはあの三人とメールを送った人物の美琴の事だった。

(インデックスには悪いけど、仕方ないよなぁ)

正直、インデックスにはかなり不快な思いをさせるかもしれないし
少しの間だけでも離れさせる方法は一夜では思いつかなかったので上条はかなり安心していた。
メールの内容は必ずインデックスが怒るものだったからだ。





(御坂を家に入れるなんていったら多分頭を噛み砕かれるだろうからなぁ)




あの三人も来る予定なので、いつもの三倍噛まれるのは必至だ。
もう一度、ふぅ、と息を吐くとこれから家に招く四人を思い
同時にインデックスに心の中で謝りながら昼食も作らず
四人を迎えにいく準備を始めた。

時刻は昼の一時をさす頃、上条は待ち合わせの場所、昨日美琴が能力を暴走させた公園まで来ていた。
ただ、彼の足取りは重い、待ち合わせに自販機の前を指定したのはいいが
公園に向かう途中に昨日自分が何をしたかを思い出してしまったのだ。

(会うのはいいけど会って何話せばいいんだ!?御坂だけが来てたらかなり気まずいぞ!?)

会う約束をしてしまったのはもう仕方ない事だが、
上条は先にあの三人組がいることを祈りつつ公園内に入った。

「げっ!?」

嫌な予感は的中した。
御坂美琴が自販機の前でキョロキョロと忙しなく辺りを見回していた。
待ち合わせの時間まで後三十分近く時間があるにもかかわらず、だ。
(上条も気持ちが逸ってしまい、かなり早く来てしまったのだが)

(まだ、気づいてないよな?)

美琴の視界に入らないように後ずさりをして公園の出口へ向かう。
やっぱり三十分後にしよう、そうしようと自分を言い聞かせながら
公園出口直前まで来たところで

(……猫?)

公園に入った直後には気づかなかったのだが
美琴が辺りを見回しているのは待ち人を探しているのではなく
人が近くにいないかを確認していたようだ。
上条は悲しい気持ちがしないでもないが、美琴に見つからないように木の陰に隠れた。

(なんか変態さんみたいだな……)

周りに人がいたら上条は確実に風紀委員か警備員を呼ばれお縄についていただろうが
幸い人のくる様子はなかった。

美琴は猫に手を伸ばすが、猫のほうが怯えてしまっていて美琴と距離をとる
その開いた距離を美琴が詰めるが猫はやはりその分だけ距離をとってしまう。

(な、なんなんだ、あの可愛い生物は!?ほ、ホントに御坂か!?)

必死に猫を手で招いているが、猫は逡巡しながらも近寄ろうとはしない。
その構図がなんともいえないもどかしさと可愛らしさを演出していて
上条の本能を刺激していた。

(ち、近寄りたいが、近寄れな……って、あれ?)

さっきまで寄りかかっていた木がなくなっていた。
上条の寄りかかっていた木は細い木だったのだが、かなり老木だったのか
見るも無残な形で見事に近くにあった気にもたれて折れていた。

「うっそ、だろ?ぎゃあああああああああああああ!」

バランスを保とうとしたところで、柵に足を引っ掛け
盛大に上条はこけてしまった。

「何してんのよ……アンタは!」

どうやら、お嬢様に見つかってしまったようだ。

目の前には、ツンツン頭の少年、上条当麻が地面に倒れている。
待ち合わせには後10分くらい余裕があるだろうか、美琴は上条が時間より早く来ていたことに驚いていた。

「ちょっと、へ、返事しなさいよ!」

上条は数秒何かに悩んでいたのか倒れこんだままだったが
やれやれ、と呟きながらゆっくりと立ち上がった。

「えーっと、猫とコミュニケーションをとろうとして逃げられる健気な美琴タンを観察していました」

「――――な!?あ、あんた!始めっから!?」

人が近づいて来たら、彼女の電磁センサーが知らせるはずだが
猫に集中しすぎてしまったようだ。

(しかも、コイツいま私のこと名前で――――!?)

上条がいつからいたのか、名前で呼ばれたこと、恥ずかしい姿を見られたこと、と
様々な事柄が美琴の頭をぐるぐると回っていて、考えがまとまらない。

「おーい、御坂……?」

「ひゃっ!ひゃい!?」

ビクッ!と体を硬直させて返事をしてしまった。
上条は先ほどから様子のおかしい美琴を心配してか彼女に近づいていく。

「ん……!?」

「顔赤いけど、熱はないみたいだな」

額に手を当てられた。
右手で美琴の額を押さえて、あいた左手で自分の額も押さえて熱を測っている。
それだけならよかったのだが。

(ち、近い!?何でそんな近くでやんのよ!?)

少し体を伸ばせば、キスが出来てしまうくらい近い距離だった。
ただ、上条はそんなことには全く気づかない。

「大丈夫か?」

呑気に聞いてくる。

「ぅ……うん、だい、じょうぶ」

内心全く持って大丈夫ではなかったが、何とか理性を保って答える。

「あ……」

答えると同時に額から手が離れた。
上条の手の体温も離れていってしまい、妙に切なさが残った。

「……もう少しであいつらも来るかな?」

上条が公園にある時計を一瞥してそんなことを言った。
美琴も時計を見る。時刻は1時半を指していた。

「そういえば、今日は何処に行くの?」

待ち合わせの時間になったはいいが、美琴は肝心なことを聞いていなかった。
メールにも『一時半に公園に来てくれ』としか書かれておらず
美琴も期待や想像(妄想?)をするだけで聞こうとはしなかったのだ。

「ん?言ってなかったっけ」

「言ってないわよ」

上条は何故か照れたようにポリポリと頬を掻く。
顔も少しだけ赤かったが、美琴は気づかなかった。

「……俺んち」

……その時、美琴の中で時間が止まった。
彼女の後ろから「あー、いたいた」とか「遅れてわりぃ」とか「パパーママー」と言う
声が聞こえた気がしたが、耳に全く入って来なかった。

「おぉ!ここが親父の住んでいた学生寮か!」

一人はしゃいだ声を出しているのは上条当麻の一人息子(の予定)の当瑠だ。
その声があまりにも大きかったので、部屋から住人が顔を出すのではないかと
上条は内心ひやひやしたが、どうやら寮内には隣人の土御門を含め留守にしているようだ。
こんな偶然があるのだろうか?と疑問に思ってしまったが考えていても仕方ない、と判断し
いつ大きな声を出すか分からない少年を押しながら自分の部屋に入った。

「お邪魔しまーす」

鍵を開けて一番初めに入ってきたのは美詠だ。
その次に当瑠がはいったのだが、美琴と美春が中々入ってこなかった。

「どうした?」

美琴は美春と手を繋いだまま俯いていた。
美春は美琴と上条を何度も見ながら「はやくはいろー」と言っているが
美琴が入ってくる気配はない。

「……ほら、入れよ」

美琴の腕を持って引っ張る。

「あ、ちょっと!!?」

彼女は驚いた様子だが、気にせずに玄関を上がらせて
五人では少々狭い居間に押し込む。

「一応、鍵は閉めて、と」

隣人の土御門はまるで自分の部屋かのようにドアを開けてくるので
用心してドアの鍵を閉める。
そして、居間に行き、美春を抱いて座っている美琴の隣に腰を下ろした。

「で?お前ら聞かせたいことがあるっていってたよな?」

「あぁ、やっぱそのことか」

当瑠は予想していたのか、別段表情を変えなかった。
上条は昨日の夜大まかに説明を受けたのは美春の能力くらいだったので
当瑠や美詠の未来の話には興味があった。

「聞きたい?」

「……聞きたい」

答えたのは上条ではなく美琴だった。
今まで黙っていたので上条は少し驚いた。

「じゃぁさ、まずこの写真見てよ」

写真を取り出したのは美詠だ。
上条と美琴は机の上に出されたそれを食い入るように見た。

写っているのは、髪の毛をツンツンさせた三十代くらいの男性と
茶色の髪で男性と同じくらいの年の女性が、笑っている写真だ。
……どこをどうみても上条と美琴だが、今のような幼さはなく
成熟した大人の印象はしっかりとあった。

上条は写真を見ている時、隣にいる美琴をチラリと見て
写真の女性の顔を確認したり、美琴の体のほうに目線がいってしまい
ドキリ、としてしまったが、美琴の方はいつになく真剣な目で写真を見ていた。

「まずは、これで二人が結ばれるって事は信じてくれたかな?」

美詠がそんなことを言ってきた。
上条と美琴は目が合ってしまい顔を赤くしてそらし、頷いた。

「ま、そのことを踏まえたうえで、これから話すことを聞いてくれよ」

当瑠がニヤニヤしながら言ってきた。
上条はその表情に得体の知れない不安を感じた。

「お、おい……なんか嫌な予感がするんだが!」

「じゃっ、二人がどれだけいちゃいちゃしてるか言っちゃいますかねー」

「いぇーい!美春もききたーい!」

やけにテンションをあげてる息子と娘。
上条の不安はどうやらまた的中してしまったようだ。
美琴のほうを見ると彼女もまた上条と同じ気持ちで不安そうな表情をしていた。

「じゃー、まず朝起きた時に……」

「「や、やめろおおおおおおおおおおおおおお!!」」

その後、たっぷり三~四時間くらいかけて拷問のような地獄が続いたのは言うまでもないだろう。

戦いは終ったと御坂美琴は確信した。
悪魔の口から悪夢のような言葉の数々が途絶えたからだ。

(私は、長く苦しい戦いに勝った!)

悪魔は今までにないほどに強大で凶悪だった。
しかし、美琴は負けるわけにはいかなかった、負ければ自分が自分でいられなくなるのだ。
そして彼女は勝利した、勝利をかみ締めると共に隣で同じように戦った戦友を見た。

「う、うだー」

戦友は机に突っ伏した状態でうな垂れていた。
疲労は彼女以上にあるのかもしれない。
思えば美琴自身よりも隣の戦友、上条当麻のほうが悪魔からの攻撃を多く受けていたような気がする。

「ちょっと・・・・・・アンタ大丈夫?」

突っ伏したままぶつぶつと色々呟いているので流石に心配になったが
彼の体を触るのにはためらいを感じた。
悪魔の攻撃は予想以上に自分を奥手にさせてしまったらしい。

「御坂さん、上条さんはもうダメかもわからんです」

今ならアニメやマンガで使われる『チーン』と言う擬音も当てはまるのではないかと美琴は思った。

「いやー、予想以上のダメージですなー」

悪魔の一人目、当瑠は達成感に満ちた顔だ。
戦友の上条に似ているせいなのかイラッときたが笑っている顔も似ているので直視は出来ない。

「お母さんも顔真っ赤にしちゃって、可愛いな~」

悪魔二人目、美詠も当瑠ぐらいに笑顔になっている
上条と美琴の反応に満足した様子だ。

「ママ、かわいいー」

……小悪魔も混じっているようだ。

「あ、あんた達覚えてなさいよ」

馬鹿にされたのが悔しくて、負け犬かそこらのかませ的台詞を吐いて
もう、今ここで焼っちまうか、と思い直すが。





ぐぅ~。




腹減りアピールをしてきた人物がいた。

「・・・・・・アンタ、お腹空いたの?」

その人物は上条だった。

「か、上条さんは昼食をとっていないのですよ」

攻撃されていた時とは別の疲れを見せる上条。

「どうして、食べなかったのよ?時間ならあったでしょ?」

「うぅ、そ、それはですね・・・・・・」

食べなかった原因は美琴自身にもあるのだが
美琴はそれには気づかないし、彼女は何も悪くないが。

「・・・・・・じゃぁ、ご飯にする?」

ぱぁっと上条の表情が明るくなっていき、突然立ち上がった。

「おぉ!おい、お前ら準備しろ!飯食いに行くぞ!」

上条は外食に行く気満々らしい。大笑いしている三人組に声をかけ
意気揚々と言う言葉がぴったりの調子でサイフを手に取ると玄関へ一目散へ駆け出した。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

上条に続いていく当瑠と美春を引き止め、玄関で靴を履こうとしている上条を
掴んで元いた居間に引き摺り戻す。

「な、なんでせうか?早く行きたいのですが」

「誰が外食って言ったのよ!!馬鹿!」

美琴は自分の体温が上がっていくのを感じた。
きっと頬は真っ赤になっていて、目も泳いでいるのだろうと考える。

「他に何があるんだよ?」

「このクソ鈍感野郎が気づけよ馬鹿が」

罵ったのは美琴ではない、美詠だった。
美琴は驚いて美詠をみる。
美詠に罵られた上条は更にわからない、と言う顔をした。

「ほら、お母さん!言ってやって下さい!」

「え?あ・・・・・・う、ん」

逆に話を振られて美琴はどもってしまった。
正直思い返してみると外食のほうがいいのではないかと思ってしまった。
美琴が思い描いた光景はまさしく家族や夫婦のそれだからだ。





「わ、私が作るわよ、夕飯!」




対する上条の返事は





「へ?」




間抜けなものだった。

「はー、腹減った・・・・・・」

上条当麻はスーパーの袋を片手にもう何度目になるか分からない呟きを洩らした。
夕食を作ると言った美琴だが、上条の家の冷蔵庫に何もないのを確認して買い物を頼んだ。
お腹空いてるんでむりですといったら問答無用で電撃が飛んできたので音速にも勝るような速度で土下座をして家を転がり出たのだ。

「・・・・・・あと少しなんだから我慢したら?」

家を出てきたときについてきて隣を歩いているのは美詠だ。
先ほどから同じ事ばかりつぶやいている上条にそろそろ呆れている表情で
ダラダラと歩く上条と歩調を合わせている。

「そんなことを言われましても家についても一時間ぐらいかかるだろ?
上条さんはもう限界が近いのでそんなに待てないのですよ」


育ち盛りの男子高校生なめんな!と胸を張る上条。

「・・・・・・はぁ、ホンッとにアイツそっくりね」

上条の態度に溜息をつく美詠。
だが、上条は気になる事があったのかキョトンとした顔になると

「ん?アイツって、誰だ?」

自分と似ている人物となると当瑠ぐらいしかいなのだが
上条にはそっくりの人物像がうまく浮かんでこなかった。

「な、なんでもない!さ、早く行きましょ」

美詠は何故か顔を真っ赤にして腕を振り回し始める
その行動に「?」となる上条だったが

「まぁいいや・・・・・・」

そう言ってそれ以上追求をしようとはしなかった。
少しだけ沈黙する二人。
先ほどよりも少し速くなった歩調だがまた上条が口を開いた。

「・・・・・・そういやさ、疑問に思ってんだけど」

「・・・・・・何?」

「いや、美春の能力は説明されたけど、当瑠や美詠の能力は聞いてなかったなって思って」

出会ったときから聞きたかった事を聞く上条。

「・・・・・・知りたいの?」

「一応は」

ふぅん、と美詠は呟いたが、その後何もしゃべらずに周りを見回すだけで
話の続きをしようとしない。

「話してくんないの?」

「まぁ、いいんだけどね・・・・・・とと、信号赤か」

二人が通る目の前で信号が切り替わり、横断歩道前でピタリと止まる二人。
美詠の素振りは説明をしたくないと言うより、獲物を探すような顔つきだった。

「実際に見せたほうが分かりやすい能力なのか?」

「まぁね、演算の説明とかしても分かんないでしょ?」

「うっ――――!」

痛いところ突かれる上条。
常盤台と言っても年下の女の子に説明されるのは物凄く恥ずかしい上に
美詠の言うとおり物理演算とかベクトルの理論とかを大まかにで説明されても
理解できる気がしなかった。

「はぁ、じゃぁ、見せてくれよ」

「んー、でもなぁ・・・・・・」

「待ちなさい!!」

誰かの慌てたような声が迷っている美詠と上条の後ろでする。
何だと思って振り返ると美春と同じくらいの年の男の子が上条の隣を走りぬける瞬間だった。

「な!?」

信号は赤のままだ、そして一台の大型のトラックが少年に向かって走ってきている。
トラックは無人のAI操作のトラックなのか止まる気配はない。
距離がどの程度かは分からないがトラックはかなりの速度で少年との距離は詰めている。

「くそ!」

駆け出したのは上条だ。
走ってきた勢いのまま少年を突き飛ばす。
飛んだ距離は大した事ないがトラックの幅を考えれば十分に少年は無事になる。
あくまで少年だけだが。
トラックとの距離は人間の反応速度ではとても避けれないものとなっている。

(・・・・・・俺が死んだら当瑠たちはどうなるんだろうな)




ふと、そんな事を思ったがトラックは上条を轢かず




突然不自然に傾き吹き飛んだ。

「・・・・・・!!」

何トンあるか分からないトラックは誰もいない歩道に吹き飛び
ひしゃげた形でそこに鎮座した。

「私の能力ってさ、ちょろっと特殊なのよね」

息を呑み、トラックが吹き飛んだ方向とは逆のほうに顔を向ける。

「空力使い≪エアロハンド≫じゃないわよ」

上条の近くまで来て手を握り、立ちあがらす。

「能力名は『吸収構築』≪ドレイン≫、吸収したものを私のイメージした物質として作り直す能力
今のは空気中の風を吸収して固形の『砲弾』に再構築してぶっ放したのよ」

騒ぎを聞きつけて人が集まり始める。
警備員を呼ぶためか、吹っ飛んだトラックの状態を撮影するためか携帯を取り出している人もいるが
それを気にすることなく美詠は話を続ける。

「私は未来の学園都市に四人しかいないレベル5≪超能力者≫その第三位」

そこで一度息を吸う。

「創造者≪クリエイター≫、そう呼ぶ人もいるわね」


どこかの誰かと同じ場所に君臨するその少女はニヤリと笑った。


「それで?警備員にアンタは捕まって、こんなに遅くなったと・・・・・・」

空はすっかり黒く染まった午後八時。
上条当麻は玄関口で仁王立ちしている御坂美琴にお説教を受けていた。
お説教とは言っても上条自身は何も悪くないし、むしろ人助けをして感謝される立場だ。
だが、現実は厳しい。
上条は警備員に犯罪者扱いされ、美詠にはいつの間にか逃げられていた。
そのせいで、説明をされ、一時間たってやっと解放されたのだった。

「外の警備員、内のビリビリ、不幸だ・・・・・・」

「ちょっと!何、溜息ついてんのよ!」

美琴の頭から青白い光が発生する。
上条はいつも通りの美琴の反応に本日二度目の音速土下座を発動させた。

「ちょ、ちょっと待て!電撃は勘弁してくれ!多分今の上条さんには貴方様の電撃に反応できません!」

「・・・・・・じゃぁ、今日は私がアンタに初めて勝つ記念日になるわね」

青白い光が更に強くなり、美琴の髪の毛が逆立ち上条の視界を照らす。

「あー!上条さんは早く御坂さんのご飯が食べたいです!」

空腹状態であることと、美琴が食事を作ってくれると言う話を思い出して
咄嗟に話題を変えようとわざと大声で言う。

「・・・・・・え?」

今にも爆発しそうだった美琴の青白い光が休息に止まっていき
逆立った髪の毛はパタリと倒れた。

「・・・・・・あ、アンタ、そんなに楽しみだったの?」

なんだか急に大人しくなってもじもじと指をからませる美琴。
端から見れば可愛らしい動きだ、しかし上条には命がかかっている
これはチャンスだと思って一気に畳み掛けた。

「あ、あぁ!上条さんは御坂さんの作ってくれる食事が楽しみで楽しみで仕方ないんですよ
いやー、一体どんな料理を作るのかな~、早く食べたいなぁ~」

「そ、そう・・・・・・そっか・・・・・・じゃ、じゃぁ作るから、あの子達と待ってて」

フラフラとしながら狭い学生寮のキッチンに美琴は入っていった。

(た、助かった・・・・・・?)

安心と疲れでしばらくはそこから動けなかった。

「~~~♪」

キッチンから美琴の鼻歌が聞こえてくる。
常盤台は中学卒業後には社会に適応できる人材を作るのを目標としている
その為、能力開発だけでなく学習のレベルも大学生クラスの内容となっているので
社会人になって一人暮らしをする生徒たちは料理を学ぶ調理実習をするだろう。
(その実習内容が庶民的な料理であるかは謎だが)
食事が寮の食堂で取れるお嬢様学校とはいっても、それ以前に女子校である常盤台で料理が出来そうないのは
天然の箱入り娘くらいではないか?そう考えた上条だが。

(・・・・・・普段から作らないから怖いんだよなぁ)

要は経験値が貯まっているかどうかだった。
授業で習ったことを一人で実践に移すにはそれなりの積み重ねが必要だし
今はそれなりに料理が出来る上条自身も料理を作り始めたときは失敗の連続で
食材を無駄にしてゲテモノを作ってしまったこともあった。
つまり上条が言いたいのは。

(レベル一のまま装備も整えずダンジョンに入るのと同じなんだよな)

ゲームに置き換えればそういうことである。
ちょっぴり自分が無事に生き残れるか心配になった上条だった。

「パパーどうしたの?げんきがないよ?」

「ん?」

考え事をしているといつの間に上条の懐に入り込んだのか美春が顔色を伺っていた。

「ちょっと考え事してただけだ」

そう言って、頭を撫でてやると美春は嬉しそうに笑って満足げにしている。

「美春は機嫌がいいな、いい事でもあったのか?」

「ママのつくったごはんたべるのひさしぶりだもん!」

わーい、と美春が両手を挙げて喜びを表現する
しかし、そこでふと疑問が浮かんだ。

「久しぶりって・・・・・・御坂の奴何してんだ?育児放棄かよ」

多少不穏な未来を浮かべてしまう上条。

「違う違う、親父の仕事手伝ってんだよ」

美詠とテレビを見ていた当瑠が振り返って言う。

「手伝いって・・・・・・未来の俺一体どんな仕事してんだ?
つか御坂と同じ仕事してんのかよ?」

卒業してエリート街道を突っ走る常盤台のお嬢様と
赤点量産で落ちこぼれの不良学生が同じ職場とはどういう事だ思うが
そういうこともあるだろうとあまり深く考えない事にした。

「・・・・・・まぁね、職場の話はしないけど、飯のほうは美詠が時々つくってくれるし」

何の気なしに当瑠が言うが、隣でお茶を飲んでいた美詠がブーッ!とお茶を噴出した。
もちろん、当瑠に向かってだが。

「なにすんだテメェ!」

顔がびちゃびちゃになり怒りを露にする当瑠。

「ア、アンタが変な事言うからでしょうが!」

「何が変なんだよ!アホかお前は!」

ぎゃぁぎゃぁと叫びあいながら喧嘩をする二人。

「美詠は常盤台の学生なんだろ?寮生なのに大変じゃないのか?」

上条に疑問をぶつけられて、取っ組み合いになりかけた二人の手が止まる。

「・・・・・・ま、まぁ、毎日って訳じゃないし、その・・・・・・将来の勉強にもなるかなって」

美詠は顔を赤くしながらもじもじとし始める。
視線は泳いでいて、時々チラチラと当瑠の方を見ているのだが
上条と当瑠はそれに気づかない。

「将来って、お前もう結婚する相手でも決まってんのかよ」

上条は多少呆れた表情で美詠に問いかける。

「け、結婚!!?そんな事あるわけないじゃない!!」

「い、いやそんなに必死に言われましても困ってしまうのでせうが
それに、お前ら兄妹なんだから別に寮生のお前が当瑠と美春に飯作るのなんて不自然じゃないだろ」

美詠がそこで、うぅと呻いて下を向いてしまった。
そしてそのまま何もしゃべらなくなったのだが、その沈黙を

「おーい、あんた等、ご飯できたわよ~」

実際に夕食を作っていた美琴によって破られた。

「どうよ!これが私の実力よ!」

ふふん、と自信満々にどうだ!と言う顔をする美琴。
上条はそれを見て苦笑していたが、盛り付けられた料理を見て驚愕した。
別に料理が特殊と言うわけではない、作られた料理は一般的な家庭でも見られる
大根おろしと和風ベースのソース仕立ての和風ハンバーグなのだが
出来立て感があるジュージューと言う音を立てているし、サイドに盛り付けられている
ポテトサラダやそのほかの野菜、そしてついでに作られているコーンスープが
上条の空腹を更に刺激しているようで美琴の言葉も無視して料理を食べ始めた。

「・・・・・・ちょっと、聞いてるの?」

いただきますも言わずに食べ始めた上条に怒るが

「・・・・・・うまい」

「へ・・・・・・?」

「御坂・・・・・・これすげぇうまいぞ!!
上条さんは少しは料理が出来るつもりだったけど
なんか自分の自信を壊されるくらい感動した・・・・・・!」

いつの間に食いしん坊キャラになったのか上条の皿にはもう夕食はなくなっていた。

「え?そんなに?うそ?」

疑問符しか出てこないが、美琴は素直に喜ぶ上条の姿が嬉しかった。

「あぁ、本当だ!」

「そ、そう・・・・・・ありがと・・・・・・」

美琴は上条が本心で言ってくれて作った甲斐があったと思う一方で
段々と気恥ずかしさがこみ上げてきた。

「その、子供たちも見てるから・・・・・・恥ずかしいんだけど」

「あ、わ、わりい」

上条もそう言われて冷静になり、美琴の方から視線を逸らす。
美琴もその視線を追ってみると、ニヤニヤ笑う三人組がいた。

「いやー、お暑いですなー、手料理一つでここまで褒めちぎるとは」

「い、いや、それは、その・・・・・・あまりの驚きで我を失っていたと言うか」

「でも、美味しかったんでしょ?」

「ま、まぁ・・・・・・」

「もっとたべたいよね、パパ」

「食べたいです!食べたいですから!もう私めをいじめないでー」

上条だけを苛め抜く三人組。

(未来の私たちも、こんな感じなのかなぁ)

クスクスと若干苦笑い気味に笑う美琴、ただ未来の自分と上条を想像して
頭を何度も振って冷静さを取り戻そうとしたが、なかなか想像は頭から離れてくれなかった。
そして、上条がこの口撃の最中、一つの決心をしたことにも気づかなかった。


御坂美琴と上条当麻は常盤台の寮へ続く道を肩を並べて歩いていた。
食事を終えた後、時刻は夜の十時を回っていたが、泊まるわけにもいかず
(上条の部屋にはあの三人組が泊まることになったので狭くなりすぎた)
一人で帰るといったら上条が送っていくと断っても譲らなかったので
好意に甘えさせてもらったのだ。

「な、なぁ、御坂」

「何?」

上条が美琴の方を見ずに話しかけてくる、声から少し緊張しているのは分かった。

「その、明日さ・・・・・・お前暇か?」

顔の方はあさっての方向を向いたままだ。

「え?・・・・・・ま、まぁ特に何も用事はないけど?」

答えている美琴の方も緊張が伝わってきてしまい
なんとも言えない微妙な空気が二人を包んでいる。

「そっか・・・・・・じゃぁ、あのさ・・・」

まだ言うか言わないか迷っているのか上条の途切れ途切れとなっている。

「明日俺と、どっか、い、いかないか?」

「はぃ・・・・・・!?」

落ち着けと美琴は一度深呼吸する。

「そ、そうね!あの子達も過去の学園都市で遊んでみたいだろうし!
五人でどこか出かけるってのもいいわね」

「あ、あいつらは関係ねぇよ!」

「う、うぇ・・・・・・?」

上条が怒ったような声を上げる。
美琴は何故上条がそんな声を出したのか分からずに訳が分からないと表情でだしてしまった。

「あぁ、でかい声だして悪い、つまりだな、俺が言いたいのは・・・・・・その、あいつらと一緒じゃなくてだな」

「??」

・・・・・・二人きりでどこか行こうと上条は誘ってきている。
そこまで考えがまとまったところで上条がえぇい!と意を決した声を上げた。

「御坂!!」

あさっての方向を向いていた上条の顔が急に美琴のほうを向き
美琴の両肩に手を置いて体ごと上条の方に向けさせられた。

「ふぁ!ふぁい!!?」

突然の行動に変な変な返事をしたが上条は気にせずに力強い目で言葉を繋げた。


「俺と二人っきりで明日、デートしてくれ!!」

普段の上条の口から出ないようなとんでもない言葉が出てきた。

(え?デートって言った?この鈍感男が?あっはっはー、ないない聞き間違いよね)

いつもの上条なら美琴と一緒に外に出かけていても
デートとは言わず、引っ張られて色んな場所を回らされている、位にしか思わないはずだ。
しかし、確かに上条はデートと言った、美琴を当然のようにスルーしてきた男がいきなり積極的になった事に
美琴の思考はどんどん冷静さを失っていく。

「ア、アア、アアア、アアアア、アンタががが、わた、わたしと、デデ、デートしたいって?」

噛み噛みで言葉を何とか搾り出す。

「あ、あぁ、お前と二人だけで、えぇっと、遊びに行きたいなぁ、なんて・・・・・・」

上条は妙なダンスでも踊るように体全体を動かして
言葉だけで伝わることをかなり手間をとって説明する。

「・・・・・・い、嫌か?」

上条が心配そうな顔をして美琴の表情を覗き込んでくる。

「・・・・・・嫌じゃない」

その言葉を聞くと心配そうだった表情が明るくなる。

「ほ、ホントか?よ、良かった、断られるんじゃないかと思った」

「こ、断るわけないじゃない!」

好きな人から誘われて、とは流石に繋げられなかったが
美琴は少しだけ素直に返事をすることが出来た自分にも喜ぶ。
そうこうしているうちに常盤台の寮が目前となってきていた。
寮の部屋に戻るのは安心できるが、美琴は寂しさも同時に感じていた。

「も、もう、大丈夫だな・・・・・・じゃぁ、俺は行くから」

行って欲しくない、と美琴は思う。
もう少しだけ一緒にいたい、とも。

「お・・・・・・おい・・・・・・どうした?」

美琴は上条の腕を掴んでいた。
離れていって欲しくなかったからだ、もっと一緒にいたいと思ったから
体が勝手に動いて無意識に上条の腕を掴んだ。
そして、そのまま上条の体を引っ張って、上条の胸に飛び込んだ。

「お、おい!!御坂!!?」

あからさまに困惑する上条。
いきなり引っ張られたのもそうだが、中学生とはいえお年頃の女の子に抱きつかれたとなれば
男性ならば少しは焦ってしまうだろう。

「た、楽しみにしてるから」

「は、はぃ!?」

「あ、明日のこと楽しみにしてるから私をがっかりさせんじゃないわよ!馬鹿!」

「え・・・・・・あ、はぁ、その、なんと言うか、あ、あんまり期待されると逆に緊張してしまうのですが」

美琴はそこで、ぎゅぅっと更に力強く上条を抱きしめた。
体が更に密着するので美琴の柔らかい部分の感触が上条の体に伝わっていく。

「!!みさ、御坂さん!!?あの、あた、あたって!!?」

「・・・・・・」

美琴は離れない。
上条がしっかりと約束するまで離す気は無かった。

「ちょっとーー!?聞いてるんでせうか!?上条さん的には嬉しいんですが!
いや、でもちょっとそろそろ離して欲しいと言うか、私めの理性が!崩壊するうううううう!

訳の分からないことを言っているが、上条は無理やり引き剥がそうともしない。
美琴は反応が面白くなって強く抱きしめたまま体を少し動かした。
当然、上条の体には当たっているものが動くのでさらに緊張たように体を固める。

「―――――――――!!!?あああああああああああ!分かった分かりました!
私上条当麻は、あした御坂美琴を必ず楽しませますのでもう離してくださいお願いします!」

「本当?」

「本当です!」

そこで美琴はようやく体を上条から離す。
上条の緊張は一気に解けたのか、呼吸がかなり荒く、腕をだらんとさせていた。

「じゃ、じゃあね、また明日」

「お、おう・・・・・・じゃあな」

上条と別れて常盤台へと向かう足取りは軽かった。

(アイツが誘ってくれた、初めてのアイツとのデート・・・・・・)

嬉しくて嬉しくて寮の部屋に着いて、ルームメイトに怪訝な顔をされても何も気にならなかった、
その夜はお気に入りの寝巻きを着ても、ぬいぐるみを抱きしめても
なかなか寝付くことが出来なかった。


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