とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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三日間の幻影の少女



「それで、私はどんな罰ゲームを受ければいいのかしら?」
「って言われてもな……特にはないんだが」
 ここはショッピングモール内にある小さなゲームセンター。ここで上条と美琴は罰ゲームをかけて勝負をした。もっとも補習の帰り途中で美琴が上条を捕まえて一方的に引っ張ってきて、一方的にゲームで勝負することになって、一方的に罰ゲームを設定されたのだが、結果オーライであったので上条はもう気にはしていなかった。
 それよりも不幸な上条が負けて罰ゲームを受ける不幸な結末をたどらず、勝ってしまったことの方が気になっていた。ちなみにこの後、上条は居候からありがたくない不幸を頂くことになるのだが、それはあと数時間後の話だ。
「そんなこと許されないわよ。罰ゲームはちゃんと受けるのがルールだから、ちゃんと決めなさいよ。なんなら、代わりに私がアンタに」
「わかったわかったよ。ちょっと待ってろよ」
 急かしてくる美琴に上条は何度もわかったと言って、腕を組んで考え始めた。
 しかし上条は美琴にして欲しい罰ゲームなど特には持ち合わせてはいない。何かを手伝わせようと思ったが、上条が頼めば快くではないが手伝ってくれるのでそれでは罰ゲームではない。
 ならば考え方を変えて毎回ビリビリしてくるのをやめて欲しいと頼もうかと思ったが、多分一日足らずで撃沈するような気がした。
 ならばならばと上条はうーんと唸り声を上げながら考えるが、罰ゲームのばの字も出て来ないほどに何も思いつかなかった。
「ここで、決めなきゃダメ…だよな」
「当然よ。先延ばしにするなんて承知しないわよ」
「大覇星祭のときは先延ばしだったじゃ、はいすいませんでした! 考えます、考えますからビリビリはやめてください!!」
 青い光を手に集中させて、今から雷撃の槍を放ちますとでもいいたげなアピールに上条は土下座をして対抗した。もちろん、謝るという意味での対抗である。
「でもまったく思いつかないな。今まで罰ゲームを受けた記憶しかないから、逆の立場となると上条さんはまったくです」
「それは遠まわしで『罰ゲームは俺が受けます』って言ってるのかしら?」
「何故そうなるんだ!? 上条さんはそんなM発言はしませんよ、姫」
 このままでは自分が罰ゲームを受ける側になりそうであった上条は自分の危機を感じながら考え続けた。だがやはりいい案はまったく出てこない。
(御坂に罰ゲームをやらせるって言ってもな………あ、そうだ『姫』)
「よし、決まった」
 美琴はやっとかとため息をついて、どんと構えた。それを見た上条は大げさだなと思ったが、口は災いの元であったので黙っておいた。
「んじゃ、罰ゲームをお教えしますよ」
「ドンと来なさい! 美琴さんはどんな罰ゲームも最後までやりとげてみせるわよ!」
「まあそんな難しい罰ゲームじゃないと思うんだけどな」
 といって上条は探偵が犯人はお前だと言う時のように、ビシッと美琴を指差して。

「残りの平日、つまり三日間の間は上条さんに敬語を使いなさい」

 意外となんでもなさそうだが、美琴には恥ずかしい意味での苦痛な罰ゲームを言い渡された。

 翌日の帰り道。
 いつものように自販機の近くを通りかかったところで、上条はそこにいた常盤台のお嬢様こと美琴を見つけ、声をかけた。すると美琴はビクッと身体を一瞬震わせた後、来ちゃったかとでも言いたげな表情で上条に答えた。
「おっす。それじゃあ今から、罰ゲーム開始と言うことで、御坂はもう上条さんに敬語でしか話してはいけませんよ」
「うっ。わ、わかり……ました」
「そうそう。あとは名前もちゃんと呼ぶこと。いいな?」
「は、はい………か、かみ……じ…ょ…さん」
「………」
 上条は美琴に苗字で呼んでもらうことに、異常なまでの違和感を感じた。今までずっとアンタで通ってきたため、いきなりの変化に戸惑いを隠せなかった。が罰ゲームは罰ゲーム、今更ルールを変えることはフェアじゃないよな、と仕方なく納得することにした。
「それで御坂。今日は、どうするんだ?」
「あ……うぅ……か、かみ…じょ…さんは…何か、あるんですか?」
「あ…えっと……今日はスーパーで買い物をするぐらいしか」
 すでにこの会話だけで異常なほどの違和感を感じ始めた上条。それほどまでに敬語で話す美琴は、別人と話しているような違和感を感じていた。
 いつもは年上に話すとは思えない荒っぽい口調で、お嬢様なのかよと心の中でツッコミを入れるほどらしくない話し方をしていた。だというのに今日に限っては、お嬢様らしいと言うか女の子らしい話し方をしていた。
(いかんいかん。ついついドキッとしてしまった)
 美琴への意識が変わったため、上条は緊張をしてしまっていた。この罰ゲームなら美琴はお姫様らしく丁寧なイメージを持たせる印象があったが、それ以上に無意識に異性であることを意識させられていた。しかし鈍感な上条は異性だと意識していることには一切に気づいていなかった。
 上条は無意識に異性だと意識してしまっている美琴から視線を逸らし、首を振って余計な意識を吹き飛ばそうとした。だが改めて向き直ると、それは無意味であった。仕方ないので上条は自分の動揺を言動に出さないようにして、高鳴ってしまっている心臓の音を聞きながら一呼吸ついた。
「んで御坂はどうする? 俺といても買い物しか出来ないけど、それでいいなら」
「つ、付き合います! スーパーですよね? 付きあわせて下さい!」
「あ…な、なら…付き合ってもらおうかな~」
 敬語を使っておきながらも言い寄ってくる迫力は健在であった。しかし敬語のためか、迫力があるのだが別の迫力に入れ替わっているようで、やはりここでも違和感を感じてしまった。
(な、なんだか別人と話しているみたいだ。というか、こいつは本当に御坂なのか?!)
「ど、どうしたんですか? 顔に何かついてるんですか?」
「あ、いや…えっと、あなた様は御坂美琴さんでよろしんでせうか?」
「と、当然です! わ、私の名前は御坂美琴です」
「………」
「それでしたら電撃でも」
「結構です! それよりも早く行くぞ!」
 ビリビリと身体の周りに青い光を見せられた瞬間、上条の脳は目の前の少女は美琴であると瞬時に理解した。さらに敬語になっていても電撃を浴びせてこないと言う根拠はゼロであったため、上条はあえて右手で美琴の腕を掴んだ。
 そしてそのまま違和感と電撃の危険を感じながら、上条は半ば無理やりに美琴の腕を引きながらスーパーの方向へと向かっていった。ちなみにその日、上条は美琴と別れるまでの間、違和感を抱え続けたまま美琴と別れることとなったのだった。

 罰ゲーム二日目となった今日は、生憎の補習であった。
 いつもよりも二時間近く遅い下校をした上条は、今日も自販機を通って男子寮へ帰ろうとしていた。その時、不意に自販機に寄りかかっている常盤台のお嬢様がこちらを見ていたことに気づいた。
「あれ? 帰っていいって連絡したのになんでいるんだ?」
「ば、罰ゲーム…だからです。それに…寮に帰っても暇なだけですし……だから、その」
「ということは暇だからここにいたと言う意味でよろしいのでせうか?」
 美琴はこくんと頷くと、床に視線を向けて俯いた。気のせいだろうか、その頬は少しばかり赤みを帯びているように見えた。
 風邪でも引いたのかと思った上条は、特に何も考えずに美琴に近づいていく。そして、美琴の肩に右手を置いて電撃の可能性を回避しておいてから、上条は美琴の額に手を置いて熱を測った。
「え? ああああああのあのあの!!!?」
「熱はないみたいだな。でも顔が赤いみたいだけど、何かあったのか?」
「な、なんにもありません!! それに私は健康です!」
「そうか。でもお前も無茶するからきつかったら無理するなよ」
 美琴から手を離して、上条は言っても無駄だよなと思いながらため息をついた。きっとこういったところで美琴は無茶をしなくなるわけはないのは、上条にはわかっていた。それでも言うべきことはしっかりと言っておいた。
 しかしそれが不服なのか、美琴は手を離した上条を睨みつけてきた。一応、罰ゲームは敬語なので睨みつけたりビリビリしてくるのはオーケー。なので上条は何かが来ると冷や汗をかいて、どうしたんですかとぎこちなく笑った。
「それは私よりも無茶をする上条さんが言えたことですか?」
「……………すいません。い、言い返せません」
 無理をするのは互いに一緒であるが、無理をしすぎて入院ばかりを繰り返す上条の方が無茶をしているのは、上条自身にもはわかっていた。その点、上条が心配するべきことは自分の身なのだが、他人ばかりを気にする上条の性格からしてそんなことは無理であった。
 それよりも上条は昨日とは違い、今日はあまり違和感を感じる会話になっていないことに気づいた。言動には一切出さなかったが、少しばかり驚きはあった。しかし違和感がないのはなかなかに良いことであったので、昨日とは違って普通に会話できそうなことに安堵した。
「それよりも今日もスーパーに行くんですか?」
「いや、今日はスーパーに行かなくても大丈夫だ。おかげさまでな」
 本来ならスーパーには毎日行くのだったが今日の朝、インデックスがイギリスに向かわなければならない用事が出来てしまったため、三日間ぐらいは安心できる食生活をすごすことが出来る。なので昨日たくさん買い込んでおいた食材だけで、今日の夜と朝はギリギリなんとかなるぐらいの食材が家に余っていた。
 さらに今日は学校の宿題もなく、久々に平和かつ暇な放課後を過ごせる予定であった。だがここに来て、何もない予定に上条はどうしようか迷った。
 せっかく待っていてくれたのだし、このまま別れるのもあんまりだ。だったらどこかで遊ぼうかとも考えたが、食費の関係もあったのであまりそれも進まなかった。

「悪い御坂。今日は特に何もない」
「え? そう、なんですか?」
「どこかに遊びに行きたいのもやまやまなんだが、今は月末ですし上条さんには遊ぶお金はゲーセンで使ったのでほとんどないんだ。だから何かするのであれば、お金を使わないことを頼みたいんだけど、何かあるか?」
「あ、あの…! だったら…!! その」
「ん? なにかあるんでせうか?」
「その……夕食を……作ろうかと、思ったん…」
 夕食の言葉が出て、上条は一瞬だけ外食を共にしたいとでも言う気かと自分の懐の危機感を感じた。だが作ろうと言われたので、なんとなくであったが夕食を作ってくれるのかと思った。
「でも夕食と言っても上条さんには今日の分の材料しか家にはございませんが?」
「それは…買っていきましょう。お金は私が払いますから」
「え…? で、でも……悪い気が」
「お金がないんですよね? だったら私の好意に甘えてもいいんじゃないんですか」
 お金のことを言われては上条は何も言い返せない。ましてや払ってくれる相手は常盤台のお嬢様だ。今日の食費ぐらい、蚊に刺された程度にもならないのだろう。
 しかしそれでもお金を払わせるのは忍びなかった。なので上条は条件を取り出した。
「わかった。その代わり、飯は俺が作る。材料費を払ってもらうんだ。それぐらいはやらないと示しがつかねえ」
「でも、それじゃあ私が上条さんに作らせている気が」
「いいからいいから。それでいいかダメか、二つに一つだ。ほら選べ御坂」
 上条は無理やり美琴に条件を押し付けることで、喧嘩になることを回避した。
 こうなってしまったら美琴は二つの選択肢を選ぶしかなくなる。さらに選択肢の返答も、上条にはわかりきってしまう結果しか選べない。咄嗟ながらもいい方法を押し付けたことに、心の奥で自画自賛した。
 そして美琴は決まりきった答えをしぶしぶながら、答えると上条と共にスーパーへ向かうのであった。

 罰ゲーム最終日となる三日目は、朝からずっと雨模様であった。
 予報の雨はは綺麗に当たり、朝の登校から学校が終わる放課後まで雨がやむことも、太陽の光を見ることもなかった。こうした日は自然と気持ちが沈んでしまうのが人というものであるが、上条もその中の一人であった。
 朝から雨特有の不幸なイベントにあってしまい、今日一日を濡れた制服で過ごすこととなった。さらに雨だと言うのに体育は外を走らされ、体中は冷え切ってしまい若干だが風邪を引いてしまったような気がしていた。なので、帰ったら身体を温めようとシャワーに入ろうと思ったが、罰ゲームの件があったのでそれはしばらくの間、お預けだ。
「はぁー、不幸だ。気持ちが沈んで仕方ないです」
 上条は一人愚痴りながら、自販機近くまでやってきて周りを見た。すると少し離れた位置に、小学生ぐらいの女の子が持ちそうな柄の傘を持った美琴を姿を発見した。
 相変わらず幼稚な好みなんだなと思うが、あえて口に出すことはせずに上条はよっと背後から声をかけた。すると美琴は来ましたかと昨日と変わらない態度で上条を向かえて、小さく笑った。
「??? 真っ赤になってどうしたんですか?」
「ああ、朝っぱらから車に泥水を浴びせられてな。それで今日は身体を冷やしたまま、午前中を過ごしちまったから少しだけ風邪っぽいんだ」
 体育のことは省略したが大体あっている。
 上条は自分の身体が少しばかり身体が温かいような気がしていたのだ。だが特に眩暈や気分の悪さはなかったので、少し気になる程度であったため、上条は怪我をするときよりも軽く考えていた。
「風邪っぽいだったら、今すぐに帰った方がいいんじゃないんですか? 今日は罰ゲームは無効でいいですから」
「え、あ…でも……」
「ああ、もう! いいから! 上条さんが風邪を引いたら意味ないじゃないですか!」
 しかし美琴は風邪っぽいと聞いて、少しばかり慌てたようだ。こうなると美琴の世話好きのスキルが発揮され始める。
 美琴は上条に近づいて、額に手を添えて熱を測った。今はあまりありませんねと、自分の額と比べて上条に熱がないことを伝えた。それが終わると上条の額に添えていた手を離して、今度は上条の腕を掴んだ。
「お、おい御坂」
「いいから! 今日は部屋まで送っていきますから!」
 美琴は上条の腕を引っ張って、昨日行った男子寮の方向へと歩き始めた。その背中を上条は見ながら、腕を引きづられて後についていく。
「ったく。大げさなやつだな」
 罰ゲームが無効のはずなのに美琴はまだ敬語を使っていた。そのせいか、無駄に心配をしてくる美琴の背中が世話好きのお姉さんのように見えてきた。年齢は二つ下で背丈も差があるはずなのに、お姉さんに見えてしまうあたり、上条は相変わらず頼りっぱなしであることを実感してしまった。
 これでは罰ゲームをしていないときとあまり変わらないじゃないかと上条はため息をつくが、気持ちとしては悪くなかった。

「御坂、もう罰ゲームは終わっていいぞ」
「え…? でもまだ今日は」
「俺がいいって言ったからいいんだ。だからいつも通りに話しても大丈夫…じゃないな。いつも通りに話してくれ」
「何よそれ。結局は同じことじゃない、馬鹿」
 美琴は一旦足を止めるとその場で振り返ると上条に小さく笑った。そして罰ゲームはその笑顔が罰ゲームの終わりを合図であった。
 しかし終わってみたところで未練や後悔などない。むしろ罰ゲームと言う名の魔法が終わりをむかえたことで、違和感を感じていた美琴ではなくいつもの美琴が戻ってきたように思え、上条に元通りになったと安心感を感じさせた。
「おかえり、御坂」
 不意に上条は帰ってきた美琴に笑顔を向けた。それは戻ってきたいつもの美琴へのささやかな挨拶であった。
「ッ!? な、何言ってるのよ。私はどこにも行ってないでしょ」
「それでも、言いたかったから言ったんだよ。いつもの御坂さん」
「……なんだか馬鹿にしているような言い方がムカつく」
「へ…? ちょ、ちょっと待て! お前、雨の日にまでビリビリするなよ!」
 そっぽ向いたと思ったら不機嫌になってビリビリしてこようとしてくる美琴は相変わらずのお嬢様であった。扱いが難しく、ちょっとしたことで自分が痛い目を見てしまう。そんな少女が上条の知る美琴だ。
 しかし今回の罰ゲームを振り返って、敬語を使う美琴も違和感はあったがあれも美琴である。ただ上条が今まで知らなかっただけの存在であってあれも美琴という名の少女であった。
 三日間の幻影の少女は、最初から最後まで違和感の残るふれあいを残して去ってしまったが、悲しいとは一切思わなかった。何故ならそれも御坂美琴、彼女の一つであると上条は思ったから。
「お前は敬語を使っても何も変わらないな。いつもの御坂だ」
「アンタ、さっき言った『いつもの御坂さん』ってそう言うことね。そりゃ演技するぐらいどうってことないわよ」
「演技、か。でも上条さんって呼んだりしてたのは演技だろうけど、呼んだのはお前自身だろ?」
「~~~~~ッ!!!! いいから黙りなさい、この大馬鹿!! ホントにビリビリするわよ」
「って、もうビリビリしてるじゃねえかよ! あ、こら…俺は風邪っぽいんだから…ああもう不幸だー!!!」
 ふと上条は思った。
 またあのような御坂に会えるかな、と。その答えは、まずはこのビリビリ少女から逃げ切ってから考えようと、雨の中の追いかけっこを始める二人であった。
 ちなみにその後、二人はずぶ濡れになって帰宅し、翌日に風邪を引いて寝込んでしまうのはお約束であったのだった。


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