とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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ふいうち



「そんなに難しいもんなのか?」
「そうだなー、良いものを撮るにはトコトンこだわることが大切なんだぞ―」
上条は、舞夏の言葉に耳を傾けつつ、手元のデジカメを色々といじる。
パソコンすらもっていない上条がなぜデジカメを持っているかというと、商店街のガラガラくじで当たったのだった。
お米10キロやらお肉1キロやらの食品を狙っていた上条にとって、特賞のデジカメを射止めてしまったのは何とも言えないところである。
とりあえず、なにか撮ってみるかといじっていると、寮の前で土御門舞夏に遭遇したのだった。
「なんか色々と設定があるんだが、触んなくていいのか?」
「初心者は基本的にノータッチでオッケーだぞー。変にいじるよりも構図とシチュエーションで勝負した方がいいなー」
上条はすっとデジカメを構えると、舞夏をフレームに収めシャッターをきる。
カシャッ!!という電子音と共に、デジタル画面に笑顔でピースをする舞夏が表示される。
「なんだよ、不意打ちで撮ってやろうと思ったのに。しっかりポーズ決めてやがる」
「うふふー、甘いぞ―、上条当麻。メイドさんとはいついかなる時も油断していないものだー」
上条は再びデジカメを構えると、寮の廊下からの写真を撮る。無機質な建物群が写っていた。
「慣れてきたらあれだなー。ピントを変えてみるとかも面白いぞ?」
舞夏は上条からデジカメを奪い取ると、オートフォーカスを解除すると実践した写真を撮ってみせる。
「こんな風になー。学園都市のデジカメだと色々と機能も豊富だから自分のレベルに合わせて撮り方も増えるんだ」
「ふむふむ、なるほど。これは相当奥が深いと見た!」
上条はむむむと唸り、手に収められた先端技術の結晶を睨む。
「パソコンがねぇのが困りどころだな」
「フォトパネルを買えば良いと思うぞー。メモリーを差し込むだけで勝手に変わってくれたりするしなー」
便利な世の中ですなー、と上条はまるでお爺さんのような事を言うと、デジカメをポケットに収めた。
「ちょっと色々撮ってくるぜ」
「おー、良いのが取れたら見せてくれ―」
上条は舞夏に手を振ると寮のを飛び出した。

ブラブラと街を歩く。
キョロキョロと辺りを見回して、何でもない物を見つけては写真を撮ってみる。
清掃ロボットは動きが機敏すぎて上手く撮れなかったり、小さな花を撮るのにピントが上手く合わせられなかったり。
「なかなか難しいもんだな」
上条は今まで撮った写真を順番に表示する。あまり面白いものは撮れていない。
「そろそろ人物写真でも撮りてぇな」
上条はポケットから携帯を取り出し、アドレス帳を呼びだす。誰に連絡するかな、と迷いながら画面をスクロールしていく。
「土御門……いや、男に被写体になってくれ!って頼むのも難だな……」
上条は顎に手をやり、とりあえず周りを見てみる。
―――そんな都合良く知り合いなんているはずは―――
「こんなところでキョロキョロと何を探しているのですか、とミサカはあなたの不審な行動に疑問を抱きます」
「いましたよー、知り合い」
あまりの都合のよさに、上条はははー、と笑う。今朝から妙に運がいいのは何かの前触れだろうか。
「質問に答えて下さると幸いなのですが、とミサカは少し苛立ちながらあなたを睨みます」
「あぁ、わりぃわりぃ。ちょっと写真撮っててな、被写体になってくれそうな人がいないか探してたんだ」
御坂妹は上条の手元を覗き込み、表示されている風景写真達を見る。
「あなたの感性だとこのようなものが撮れるのですね、とミサカは内心の笑いを誤魔化します」
「いや、誤魔化せてねぇよ。めちゃくちゃニヤニヤしてんじゃねぇか」
上条は恥ずかしげにデジカメを隠し、横目で御坂妹を見やる。まだニヤついていた。
「どうせ上条さんにはセンスがないですよー」
「失礼しました。では、お詫びに私が被写体になりましょう、とミサカはあなたに提案します」
いぬもいっしょですが、と付け足し、御坂妹は足元に居る黒猫を抱えあげる。
「お、やってくれんのか?よし、ちょっとそこに立ってくれ」
上条は御坂妹から距離をとると、デジカメを構える。
フレームに収まった御坂妹は自分の身体を見つめながら小首を傾げていた。
「おーい、カメラ目線頼む」
「このままで良いのでしょうか?」
「このままって、衣装があるわけじゃねぇし……」
上条は構えたデジカメを下げる。御坂妹はイマイチ納得できないような顔をしていた。
「あなたが撮りたいのは女性の一糸まとわ――」
「ふざけんじゃねぇぇぇ!」
上条はあらぬことを言いだす御坂妹に駆け寄ると、その口を右手で塞ぐ。
モゴモゴとしている御坂妹を押さえつけ、ハァハァと肩で息をする上条の姿は、一歩間違えれば風紀委員に連行されそうだ。
「な、なにをするのですか、とミサカは強引なあなたに驚きつつ尋ねます」
「テメェ!自分で何言ったか分かってねぇのかよっ」
御坂妹としては、上条が顔を赤くしていることもよくわからないらしく、怪訝な顔をしている。
「あなたがこのままで良いというのなら、ミサカはそれに従いますが?」
「それでいいっていうか、それがいい!」
上条は再び御坂妹から離れるとデジカメを構え、フレームに彼女を収める。
「はい、笑って笑って」
「笑う………ですか」
御坂妹は一瞬、逡巡したかと思うと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「だぁぁぁぁぁっ!!そうじゃねぇ!もっと可愛らしく笑えんのかっ」
「注文が多いですね」
御坂妹はムスッとすると、ほんの少しだけ、口元を緩める。
カシャッ!!上条がシャッターをきると、デジカメのディスプレイに淡く微笑む御坂妹が表示される。
「うん、なかなかいいんじゃねぇの」
「自画自賛ですか、とミサカは暗に被写体のお陰だと主張してみます」
なんだか温い目で見てくる御坂妹にうるせぇと一喝すると、御坂妹は逃げるかのように去って行った。

―――こうやってカメラ通すと分かることもあるんかね―――
上条は表示されている御坂妹を見つめつつ思う。
―――普段は分かりにくいけど、ちゃんと表情あるんじゃねぇか―――
そのことをまるで自分の事のように嬉しく思い、上条は妙に心が弾んだ。
「難しいけど、なかなか楽しいですねー。趣味に出来そうだ」
今度、海外に行く時はちゃんと持っていこう。上条は心に誓うとデジカメをポケットにしまおうとした。
ガシッ!と音が鳴るかのような勢いで腕が掴まれる。
「なになにー?なに撮ったのよ?」
そこにはさっき別れた少女と良く似た女の子・御坂美琴が立っており、上条からデジカメを奪うと確認することもなく中身を見だす。
「お、おいっ!?」
上条が慌てふためいてデジカメの奪還を試みるも、美琴はその手をヒョイヒョイと避けると次々と画像の表示を変えていく。
「なによ、減るもんじゃないじゃん。って……あんた、センスないわね」
「どいつもこいつも………不幸だ」
ずーん、という重い空気が項垂れた上条に圧し掛かる。
「どいつもこいつも、って、アンタ他にも誰かに言われたの?」
美琴はそう言った瞬間、笑っていたはずの顔がビキリと言う音と共に消え去る。
「どうしたんでせうか?」
「これ、どういうこと?」
美琴はデジカメをズイッと突き出す。そこに表示されているのは先程の微笑んだ御坂妹。
「あぁ、ついさっき被写体になってくれたんだ。なかなか上手く撮れてるだろ?」
上条はどうだ、と言わんばかりに胸を張るが、美琴は聞く耳持たずだ。
ディスプレイと睨めっこしながら、あの子こんな顔もすんのね、とか、負けてらんないとか、油断してちゃヤバイかもなー、とか呟いている。
「そうだ、御坂。ついでだし、お前も一枚撮らせてくれよ」
「えっ、わわ、私?」
「なんだ、ダメか?常盤台は写真NGとかあんの?」
それは残念、と上条は美琴の手元からデジカメを奪いポケットにしまう。
「申請でもしたら許可出んのかね?」
「いや、別にそう言う事じゃないけど…………私で、いいの?」
美琴は少しだけ頬を染めて上条に問いかける。いいというか、大歓迎だ、と上条は言う。
「でも、あの子と私は一緒みたいなもんよ?」
「はぁ?何言ってんだよ、お前はお前、妹は妹だろ?良いからそこに立てよ」
上条はポケットにしまったデジカメを取り出し、美琴をフレームに収める。
「はーい、美琴さーん。笑ってください」
「え、あ、あはははは」
「……………おい。真面目にやってくれ」
上条はデジカメを構えたまま、美琴を軽く睨む。
「真面目にって、いきなり笑えって言われてもむつかしいわよっ!」
美琴は作り笑いにさえなっていなかったそれを消し去ると、ふんっと膨れてみせる。
カシャッ!!
「え?」
「んっ、やっぱり自然な顔が一番だな」
満足げな上条の前で、美琴は口を開けたまま固まっている。
「ほら見ろ、御坂。自然な表情で撮れっうぐっ!?」
「こんな顔の写真で喜んでんじゃないわよっ」
美琴は自慢げな上条の顔に右手を突き刺すと、いってぇ、と顎をさする上条を睨みつける。
「別に怒ってる顔が良いんじゃなくて、自然な顔の写真が良いって言ってんだろ?」
「だからって、今のはないでしょ、今のは!」
ぷんぷん、と膨れっ面の美琴に、上条はもう一枚撮ってやろうかとも考えたが止めておいた。

「こう言う顔でも、御坂は御坂だろうが」
「………そうかもしれないけど」
上条は美琴の近くによると、その頭にぽんっと手を置く。
「まぁ、不意打ちで撮ったのは謝っとく。悪かった」
「そうじゃなくて」
美琴は上条をキッと睨んでみる。色々と言いたいことはあったが、肝心の上条はにっ笑って聞く気すらなさそうだ。
「はぁ……もういいわよ」
美琴はガックリと肩を落とす。そんな美琴に、上条は元気出せよとでも言うように頭を撫でる。
さっきまで怒っていたはずなのに、自然と口元が緩んでしまう。
―――なによ………ばか―――
美琴はふわりと微笑む。特に意識もしていない、自然に出てしまった笑顔。
カシャッ!!
「え?」
「よしっ、美琴たんの笑顔撮ったりっ!」
目の前でデジカメを構えた上条がニヤリとしていた。
「いやぁ、いつ来てもいいように張ってた甲斐があったぜ!」
「あ、あんたねぇ……」
「やっぱ自然に笑ってると可愛いですよ―」
「いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ビリビリビリッ!!と青白い電撃が辺りに散る。
「うわっ、止めろ御坂!デジカメがぁぁぁぁっ」
「うるさいっ!!そんなものぶっ壊してやるっ!!」
例によってエンドレス追い駆けっこが始まり、上条の空しい叫び声が学園都市に響くのだった。



ちなみに、その翌日から某電気姫の極上の笑顔の写真がツンツン頭の定期入れに挟まれたのは内緒の話である。


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