上条兄妹シリーズ 1 例えばこんな上条美琴
上条当麻は不幸な人間だ。
例え彼が最新のテクノロジーが結集し230万人の超能力者を生み出す学園都市の人間であっても、そのことは変わらない。
だから今日7月19日だって様々な不幸に見舞われた。
明日から夏休みだというのに担任の月詠小萌先生から明日から毎日補習でーすと言われて、
町をとぼとぼ歩いているとバイクや車に轢かれそうになること4回、不良から少女を助けるために追われること2回、
階段からこけること3回、財布を落としかけること5回とあげればきりがなくなってくる。
いらいらしながらも明日からの補習のためファミレスでおもいっきり食べようと思い、席についてメニューを見始めた。
すると奥の方の席から不良と女子校生の会話が聞こえてきた。
「―――――ねーいいでしょーおねがいよー」
「だからガキはとっととお家に帰ってねんねしてろって」
「まぁいいじゃねぇか。おれこういう娘でもいけるから――っと!?」
不良の一人がその娘に手を伸ばそうとするとするりとその娘はよけた
「えー、でもまだ中学生だしそういうのはちょっと…」
「いいじゃねえかよぉ。おれの言うこと聞けば譲ってやる…っておいなんで泣いてんだよ!?」
「…ヒグッ、グス、わ、私、親に期待されてここに来たのに全然レベル上がらなくて、グスッ、だからもう他に頼るものがないの。
だから、ヒッグ、いくらでも払うから、…ダメかな?」
うる目上目遣いで不良を見つめると不良は硬直して動かなくなってしまった。
すると他の仲間とひそひそ喋っていた不良の一人が女子校生に近づいた。
「わかった、ただしアンチスキルやジャッジメントなんかにチクルなよ」
「(ニヤリ)…わーい、お兄さんありがとう!!」
とその娘は財布を取り出した。
それを見た上条は
(どういう事情かわからんがあの娘は確実にゆすられる!!しかたないここは…)
と思うと席を立ち不良たちのところに向かった。
「これこれ童子ども、こんな少女の財布からたかってるんじゃない!情けないと思わないのか!!」
「はぁ?おまえ何様のつもりだよ?邪魔すんじゃねぇ!!」
と不良は語気を荒げる。
(…3人か、このくらいなら相手にできる…)
上条は勝算ができると威勢よく挑発した。
「はっ、人数が多くないと女の子1人にもちょっかい出せないんですか?そんなんじゃ俺に勝てるわけ――」
「はーすっきりした」「おれの料理きたかな」
「あれ、こいつ誰?」「この娘、かわいいじゃねぇか」
上条が汗をたらしながら振り向くと、トイレから大勢の不良が出てきた。
「……………」
「あっ、おまえらこいつがうぜえからぶっ飛ばしてこようぜ!!」
「オッケー」「いいぜ」「能力試してみたかったんだ~」「いっそ砂にしちまおうぜ」
上条は女子高生じゃないんだからまとまってトイレなんかいくなーと思いながら、店を飛び出し逃げ出した。
「あっこら待てや!!」「死ねやゴラァァァァァ!!」「喰らえ、パイロキネシス!!」
上条は振り向いて不良から出された能力を右手でかき消すと全速力で駆けだした。
上条は15分ほど逃げていると鉄橋の所までくると後ろを振り向いて追手を確認した。
「はぁはぁ、いないようだな、あー助かっ…!!」
すると暗闇で一瞬フラッシュのように光るとオレンジ色の一閃が音速を超えて上条の所にきた。
とっさに右手を前に出し一閃を受け止めると、暗闇から女子校生の声がした。
「ったく、なにやってんのよアンタ。不良を守って善人気取りか、馬鹿兄貴」
「まさか連中を追い払うのにレールガンなんか打ったのか、美琴?」
「バカ兄、そんなことしなくてもレベル0の不良共ぐらい、軽くあしらえるわよ」
はぁ~と上条はため息をついた。
「…お前が学園都市のレベル5で第3位なのはよくわかるけどさ、人を見下すような態度止めといた方がいいって言ってんだろうが!
父さんや母さんだってお前をレベル0の連中をあしらわせるために学園都市に送ったんじゃねーだろ!」
「なによ!!バカ兄なんてレベル0でなんの能力も出ない癖にあんな無茶して、人に説教できる立場なのかしら!?
私がいなきゃスキルアウトにボコボコにされているんだから!!」
「はん!俺に全く勝てたことのないお前が俺の心配するだなんて大したもんだぜ!この当麻さんならあんな連中を撒くぐらいなんてこともねーよ」
「だ~か~ら~いつまでも自分が不幸の避雷針になるようなことはやめなさいって言ってるでしょ!!
パパだってアンタの不幸体質を気にして色んなオカルトグッズ買い漁っているんだし、みんなアンタのことを気にして―――」
「だぁ~~もうこんな話をこんなところでするな!!よし!今日はお前が家に来て飯を作れ!そのあとたっぷり説教してやる!!」
「な、何でよ!だいたい私だっていろいろと忙しいんだから!」
「夏休みになって不良を相手にしなきゃならないような用事についても聴かせてもらうからとにかく家に来なさい!以上!!」
一方的に話を打ち切ってしまう当麻に美琴は頬を膨らませムスーとしていたが、あることを思いついた。
「…ふっふーん、ホントはあんた夏休みになって友達に会えないから寂しいんじゃないの~?彼女もいないし誰かに慰めてもらうために妹である私を家に連れ込むと?
土御門のお兄さんもそうだけど、アンタもシスコンなんじゃな~い?」
「なっ!べべ別に俺は土御門とは違って紳士ですから実の妹に手を出すだなんてそんなアブナイことはしません!!」
「別に私は手を出すだなんて言ってないし~。そんなこと考えてるだなんてやっぱり変態さんなんじゃ―――」
「だああああ!そんなに言うんだったらもう家に来んな!!兄をバカにしていると家に置いてあるファンシーグッズやゲコ太のぬいぐるみ全部捨てちまうぞ!!」
以前は常盤台の女子寮に持ち込んだのだが同室の白井黒子がいつも白い目で見てくるので耐えきれず当麻の部屋に移したのだ。
大切なグッズを盾に取られた美琴は今までの余裕の表情から一変してあわててうる目で当麻を見つめてきた。
「やめて!!私の大切なゲコ太やグッズを捨てないで!!お兄ちゃんお願いよ、うっくひぐっ…」
「……はあ~、相変わらず泣き虫だな美琴は。冗談に決まってんだろ。少しは反省しろよ」
当麻は泣いている美琴の頭を右手で撫でまわすと自然と涙が引いていった。そしてだんだんと安心した気持ちになってくるのだった。
「…ぐす、ごめんねお兄ちゃん…」
「よし、じゃあスーパーに行って食材買いますか。こんなに遅いとさすがにセールはやってないけど、今日は奮発するか」
「…うん、わかった」
そうして仲直りした2人は手をつないでスーパーへと歩いて行った。ときどき美琴は右手に抱きついてきて甘えてきたが当麻は頭の中で理性と本能がバトルしていて必死だった。
「いただきま~す♪」
「…いただきます」
午後9時
上条兄妹は遅い夕食を食べ始めた。
当麻は主に一人暮らしなので自炊に慣れているし、美琴は名門常盤台中学で一流の料理を学んでいた。
よって学生同士の食卓だが盛り付けも半端なく綺麗で味も満点だった。
「ん~おいし~♪やっぱりお兄ちゃんの野菜炒めは癖になるわ~」
「そうか?美琴のこのソテーもおいしいじゃないか。これならいい嫁になれそうだな」
「ま、今のとこ彼氏なんていないから私の料理を食べれるのはお兄ちゃんだけだね♪もしこのまま結婚しなかったら…お兄ちゃんがその…夫になるんじゃ―――」
「うぐっ!!ん~ん~!!」
「ちょ、ちょっと!喉詰まらせないでよ!ほら、水!!」
美琴からコップを受け取ると勢いよく水を飲み干した。
「ごくごく…ぷはっ!ぜぇぜぇ…み美琴、お前なら自然と男が付いてくるよ。俺なんかよりいい男を自分で見つけることだ」
「……(今のとこお兄ちゃん以外にいい男なんて見つからないのに…鈍感だなぁ)」
「ん、どうした?」
「別になんでもない」
美琴はため息をついて美琴特製の卵スープを飲んだ。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
午後9時半ごろ
2人は夕食を食べ終わり皿を片付け始めた。美琴は皿を洗い、当麻はテーブルを拭いていた。
「美琴、そういえば寮には遅くなるって電話入れたのか?」
「うん。泊まっていくって伝えといた」
「えっ!泊まるのか!?」
「だってどうせ説教で遅くなるんでしょ?だったら明日から夏休みだし別にいいじゃない」
「いや、だってお前の布団邪魔だったから片付けちゃったぞ」
「え!ちょっと何でよ!!泊まりに来れないじゃない!」
「だってお前あの白井っていうルームメイトになってから家に来なくなったじゃん」
美琴は6月の中旬ごろ白井黒子という同居人を迎えた。
それまで美琴は別の同居人と過ごしてきたのだが常盤台のエースの宿命なのかどうも孤立感があった。
だから寂しさを紛らわせるために当麻の部屋に度々泊まりに来ていたのだ。
それが白井が来てからは寂しくなくなったのか一度も来なくなったのだ。
「そりゃ…あの子がかまってほしいようだし忙しかったんだから」
「…まいいけど、今日はどうすんだ?なんなら俺が床で寝るから―――」
「ベッドで……一緒に寝よ…」
「………はい?」
「だ~か~ら~添い寝してって言ってんのよ!!恥ずかしいんだから何度も言わせないでよ!!」
顔を真っ赤にして美琴は叫んだ。当麻は呆然とした。
確かに昔は一緒に寝ていたこともあるが、もう年頃のお嬢様になったしそんなことはもうないだろうと思っていた。
だがこのお嬢様は恥じらいながらも添い寝してと叫んできやがった。
おもわず変なことを想像し当麻も真っ赤になった。
午後10時過ぎ
2人とも風呂に入って上がった。テーブルに向かい合って座った。
当麻がジュース持ってきて座ると得意の説教を30分間続けた。
それが終わると2人ともクタクタになって床に寝ころんだ。
「あーもう!なんでアンタはそんなに言葉が出てくんのよ!!カンニングペーパーかなんか持ってんじゃないの!?」
「お前に言いたいことはたくさんあるからな、次から次へと言葉が出てくるよ。そういえばさ」
ふと当麻はファミレスでの美琴の行動を思い出した。
「お前ファミレスで何やってたんだよ?なんかねだってたように見えたけど」
「あーあれ?実は都市伝説の一つのレベルアッパーっていうものを追ってたのよ」
「レベルアッパー?なんだそれ?」
「なんか能力のレベルを上げて威力とか効果とかを強力にするんだって。
どういうものかわからないんだけど、それがいろいろと悪用されているからジャッジメントが追いかけてんのよ」
「お前…またジャッジメントじゃないのに変に首突っ込んで…いい加減やめろって」
「いいじゃない。黒子の手伝いできるんだし」
「そうじゃなくて……あ、そういえばさ噂で聞いたんだけどさ」
当麻は飲んでいたジュースをテーブルに置くと少し真剣な顔つきに変わった。
「都市伝説でレベル5のクローンが軍事目的に作られてるんだって?お前心当たりとかあるか?」
「……実はさレベルが上がってきたころに研究者が来て私のDNAマップ持っていったことがあるの。
その時の研究者は筋ジストロフィーの治療のためって言ったけどそれ以来音沙汰ないのよね」
「ちょ、お前そんなこと俺聞いてないぞ!母さんたちには話したのか?」
「…人のためにいいことするから内緒にしてもいいかなって思っちゃって話してないの…
どうしようお兄ちゃん…もしそんなことがホントにあったら私…」
美琴はうつむいてグスッグスッとすすり泣き始めた。
「…………」
当麻は無言で美琴に近づくとそのまま当麻の胸に抱き寄せ右手で美琴の頭を撫で始めた。
「大丈夫だよ美琴。俺はいつでもお前の味方だよ。もしそんなことがあっても全部俺が解決してやるよ。
だから一人で抱え込むな。お前はそんな悲しい顔より喜んだ顔の方がいいぞ。ずっと可愛いよ」
「……グスッ…ありがと…ねぇ、もう少しこのままでいて…」
「わかった、好きなようにしろ」
2人は黙って抱き合った。静寂の中で当麻は腕の中の温かみを感じた。
(守ってやんなきゃな…こんなに可愛い妹だもの)
そう思いおもわず美琴を強く抱きしめていると、ベランダからどんどんと叩く音が聞こえた。
「やべ、カーテン閉め忘れてた…」
当麻は首をベランダに向けると土御門兄妹がこちらを見ていた。
「……いやーカミヤン、まさか実の妹に手を出すなんて正真正銘のシスコンだにゃ~。こんなオレでも恐れ入ったぜい」
「…………………」
「悪いなー美琴。ホントは石鹸無くなったから借りにきただけだったんだけどなー、いい雰囲気だったから入りづらくてさー。
でもコンビニで売ってる漫画よりすごくよかったぞー」
「…………………」
抱き合っていた2人はあわてて離れ顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
当麻は洗面台から石鹸を持って土御門に手渡すとボソッと言った。
「…返しに来なくていいからここで見たことを全て忘れてもう二度とベランダから来んじゃねぇ」
「ん~カミヤン次第だぜい。あんまりオレを怒らせたりするとクラスでそれとなく言っちまうぜよ。なんたってオレはウソツキなんだぜい」
じゃあにゃ~というと土御門元春は戻っていった。
「ん~、じゃあ美琴は今度の盛夏祭のときなんか面白いネタ見せてほしいなー。全員一致で決まったんだろ?」
「ちょ、ちょっと舞夏!なんであんたが知ってんのよ!?第一まだ兄貴に伝えてないのに」
「ん?美琴、盛夏祭でなんかすんのか?」
「なんだ、上条当麻はまだ知らないのか。愛しの妹がステージに立つんだぞー。しかも演目はサプライズだって」
「~~~!!舞夏!あんた覚えておきなさいよ!」
「ははは、冗談だぞー美琴。じゃおやすみー」
と言って土御門舞夏も戻っていった。しばらく上条の部屋は静寂に包まれた。
「…………」
「………寝るか美琴」
「……何やるかとか聞かないの?」
「サプライズなんだろ?今聞いちゃ面白くもなんともねーじゃねーか」
「ありがと…電気消すね」
そういうと能力で部屋の明かりを消した。
当麻がカーテンを閉めて、戸締りやガス栓の確認をすると美琴が待つベッドへと向かった。
「入るぞ…もっと奥に行って」
「…よいしょ、ねぇ」
「ん、なんだ?」
当麻が美琴の隣に寝転がると美琴は当麻の胸にしがみついてきた。少し震えているようだった。
「さっきのクローンのことで怖くなっちゃった。このままでいさせて…」
「…わかった、好きにしろ。お前も臆病だな」
「こうやって甘えていられるのはお兄ちゃんの前だけなんだからいいじゃない」
「ははっ、じゃあ俺の前ではその可愛い顔を見せてくれ」
よしよしと右手で美琴の頭を撫でると美琴は安心した気持ちになってきて眠くなってきた。
ふみゅと言って美琴が夢の世界へと入って行くのを確認した当麻は、
(俺が守らなきゃな。美琴の周りの世界を、美琴のいつもの日常を)
と改めて決意し、右手で美琴を抱いて自分も夢の世界に入って行った。
7月20日午前零時
上条当麻の部屋で上条兄妹がすやすやと心地よく寝ている。これ以上ないくらいに幸せに。
だがこの日の朝、2人はベランダに引っ掛かってる白いシスターを見つけて科学と魔術が交差するとんでもない物語に巻き込まれていくのを
幸せそうに寝ている上条兄妹は知る由もない。