とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part2

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だれでも歓迎! 編集


 一端覧祭当日。
 上条は土御門と青髪ピアスを伴って、常盤台中学を訪れた。これにあたっては、美琴から事前に彼女のシフト時間と招待券、そして『絶対来なさいよ!』というありがたいお言葉をもらっていた。

「にゃー、常盤台常盤台。おにゃのこの秘密の花園だにゃー」
「僕ら今日ほど今日ほどカミやんと友達で良かったと思ったことはないでぇホンマ。招待券くれた女の子にはお礼言わんとなぁ」

 ああそうかい、お前らの目当ては常盤台の女の子だよな、と上条は毒づく。
 招待券がなかったら、上条だってここまで足を運ぼうとは思わなかった。それくらい常盤台中学という所は近寄りがたい、否、凡人高校生としては一端覧祭でも近づきにくい場所だった。

 美琴のクラスはすぐにわかった。他と比べて、圧倒的に行列が長い。喫茶室で行列できてるっていったいどんなだよ、と上条はうんざりする。ともかく、もらったチケットを無駄にしないためにも、さくっと入ってさくっと出てしまおう。

「結構並んでるにゃー」
「でも、それと同じくらいのペースで客がさばかれてないか? ほら、また出てきた」

 ありがとうございましたー、という女の子の声が聞こえてくる。

「しっかしまぁ、見事に男ばっかり並んでるな」
「いかに僕らと同じ発想の奴が多いか、わかるってもんやね」

 青髪ピアスが肩をすくめる。

「で? カミやん、ここで何人の女の子にフラグ立てたん?」
「立ててねぇよ! お前ら俺を何だと思ってんだ!!」

 まぁ奥様、上条さんたらこんな事おっしゃってますわよ、ああら奥様、だって上条さんですもの、と団地妻の昼だべりをジェスチャーで繰り広げる二人を無視して、上条は列の先頭を見る。中に入るまで後何分くらいだろう、美琴のシフトに間に合えばいいがと、携帯の液晶画面を見ながらじりじりする。ついでに、茶を飲んだらさっさと出ようと固く誓う。こいつら二人が何の騒ぎを起こすかわかったもんじゃない。

「お待たせしました、三名様ですね。こちらへどうぞ」

 ポニーテールの女の子が、上条達を空席へ案内する。あ、どもという感じで室内に入り、示された席へ三人は腰を下ろした。

「可愛い制服やねぇ」
「舞夏のメイド服には負けるが、眼福眼福」
「お前ら何しに来たんだよ……」
「ああん? ナンパに決まっておろうが」

 三人のバカ騒ぎに気づいたのか、離れた席で接客していた美琴が振り向いた。

(うげ!)

 美琴の姿を見つけた上条は、グリンと首をあらぬ方へ回す。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

 上条達の来店に気づいた美琴は、にこやかにマニュアル通りの接客を行う。

「うわー、かわええなぁ。お嬢さんお名前は?」
「にゃー、その制服ベリーキュート!」
「おいお前ら、彼女困ってんだろ。さっさと注文しろよ注文!」
「アンタ、何カリカリしてんの?」

 土御門と青髪のちょっかいを無視して、美琴が上条に声をかける。

「い、いや別に何も。俺コーヒー」

 上条はメニューで顔を隠してオーダーする。

「にゃー、この子がカミやんのお知り合いの子かにゃー? カミやん、紹介して欲しいにゃー」
「ダメダメつちみー、この子はもうカミやんのお手つきやて」
「うっせぇ! お前ら喫茶室来たんだからさっさと注文しろよ!」
「つれないなぁカミやん。なぁなぁお嬢さん、どこでカミやんと知り合ったんか僕らにおせーてーな」
「カミやんが紹介してくれないなら、勝手に話すすめちゃうにゃー。お嬢さん、お名前は?」
「…………やかましいんだよお前ら! 店の迷惑だろ!!」

 上条がテーブルを叩いて立ち上がる。その音に驚いた他の客が一斉に振り返る。美琴はびっくりした表情で上条を見つめる。

「……騒いで悪い。御坂、コーヒー三つ」
「あ、うん。コーヒー三つね」

 その声にはじかれるように、美琴が慌ててオーダーを取り、カーテンの奥に消える。

「……カーミやーん、ご機嫌斜めやねぇ」
「にゃー、カミやんあの子『御坂』とか言ってたけど、御坂何て言うのかにゃあ?」
「……知らねぇよ。コーヒー飲んだらさっさと出るぞ。混んでるし、長居してたら店の邪魔だ」

 上条は、最初と同じようにメニューに視線を落とし、微動だにしない。その後美琴がコーヒーを届けても、上条は視線を落としたまま、顔を上げることはなかった。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

「アンタ、もしかして機嫌悪い?」

 喫茶室を出た後、上条は土御門達と別れた。今はシフトが終わった美琴と、待ち合わせてあちらこちらの展示を見て回っている。美琴は常盤台の制服に着替えた後だ。

「……ん? 何でそう思う?」
「だって、うちのクラスに寄ったときアンタ怒ってたし、全然こっち見ようとしないし」
「ああいや別に。さっきは騒ぎを起こして悪かったな」
「別に、あれくらいだったら大したことないじゃない」

 美琴は笑ってみせるが、上条の視線は下を向いたままだ。

「……ホントにどうしたのアンタ? どっか変じゃない?」
「別に変じゃねぇよ」
「そう? 私のこと不自然なまでに避けてたじゃない」
「あー、あれか……」

 そこで上条がようやく顔を上げ、頬を掻く。

「……何かお前が別人みたく見えてさ。ちゃんと見られなかったというか」
「何それ?」

 美琴が『?』という顔をする。

「あー、何? 何てぇの? 目を合わせらんなかった」
「…………ふーん」

 美琴が上条を見て、いたずらっぽく笑う。

「アンタ、もしかして照れたの?」
「ちっ、ちっ、違ぇよ! んなわけあるか!」
「でも、こっち向けなかったんでしょ?」

 んふふー、と美琴が笑うのを見て、上条は一つ舌打ちする。

「まじまじと見れっかよ、あんなの」
「ん? アンタの部屋に行ったときはずいぶん詳しく見てたと思うけど?」
「るせぇ。あんなのお前のローキック一つで全部すっ飛んだわ!」

 美琴のウェイトレス姿にどぎまぎしたとは今更言いづらい。ついでに言えば、翻るスカートのことも。

「んー、じゃあアンタは美琴さんが一生懸命働いてる姿を見てないんだ。頭の中からきれいに消えちゃったと」
「……それがどうした」
「んとさ……もう一回あの格好してあげよっか? アンタの部屋で」
「!」

 美琴がちょっと上目遣いで上条を見る。
 まずい、これはまずいと上条の中で警報が鳴る。

「私のお願い聞いてくれたら、もう一回着てあげる。どう?」
「…………………お願いって」

 何だよ、と続く上条の声を美琴が遮る。

「美琴、って呼んで。一回で良いから」
「な!?」

 上条がズバン! という音が聞こえそうな勢いで後ずさりする。

「大したことじゃないでしょ? 名前呼ぶくらい」
「…………………………………………………………美琴」

 上条の声は細い。来客でごった返す廊下では聞き取れないほどだ。

「…………アンタねぇ。私はこっちにいるのに、何でそっち向いて言うのよ」
「何でって言われても」
「ちゃんとこっち向いて呼んでよ」

 上条と美琴の視線が重なる。根負けしたように、上条は美琴の名前を呼んだ。

「み、み、み、み、み、……美琴」
「アンタ……たかが名前一つに何でそんなにどもるワケ?」
「……るせぇ」

 調子が狂う。
 いつもだったら上条が怒鳴って、美琴が叫び返して、そしておっかけっこが二人の日常だったのに。
 上条の頭の中で、ウェイトレス姿の美琴といつもの美琴がごっちゃになる。

「ん、まぁいっか。ご褒美に、美琴さんがあの服着てアンタの部屋でご飯作ってあげる」
「な、な、な、ちょ、おい、そ、そ、それ、おい」
「…………日本語になってないわよ」

 ――何だちょっと待ておいそれはどういう風の吹き回しだ。
 と上条は口をぱくぱくさせるが、実際は途切れ途切れの音しか発声できない。
 何で? 何で? 何でコイツが俺の部屋来て飯作んの?
 しかもあのウェイトレス姿で!?

「私も修行中の身だから、めちゃめちゃすごいものは出せないわよ? あんまり期待しないでよね?」
「………………」
「ねぇちょっと、聞いてるのアンタ?」

 上条は、美琴が『あの』ウェイトレス姿で上条の部屋のキッチンに立つ姿を想像する。

「………………破壊力抜群だろそれは」
「わ・た・し・の作る料理は爆発物かーっ!」

 上条の言葉を勘違いした美琴が、ぎゃあああっ! と叫んで上条の首根っこをつかみガンガン揺らすが、上条はもはやそんな言葉は聞いていなかった。

(も、も、萌え死ぬ……やべぇ、御坂相手で萌え死ぬ……)

 上条は口から半分魂が抜けかけた状態で、美琴にがっくんがっくんと揺さぶられていた。


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