とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part3

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一端覧祭終了後


「お待たせー」

 美琴がお盆を手に現れる。
 大騒ぎの一端覧祭も終わり、学園都市は静寂を取り戻す。
 美琴は約束通り、上条の部屋に食事を作りに来ていた。
 ……凶悪な『あの』ミニスカエプロンドレスと共に。

「お、おう」

 上条は美琴をちらりと見ると、再び視線をTVに戻す。

「食事の時間までTV見てるんじゃないの」

 美琴は上条の手からリモコンを取り上げると、TVを消す。

「アンタのリクエスト通りに作ったけど、これでいいの?」

 ローテーブルの上には肉じゃが、ほうれん草のおひたし、大根の味噌汁が並ぶ。

「ああ、うん」
「……アンタ何でこっち見ないのよ?」

 上条はうつむき、テーブルの上を見つめている。

「いや、別に特に理由は」
「ないんだったらこっち見なさいよ」

 美琴は、例のウェイトレス姿で上条の向かいに座っていた。

「…………いただきます」
「いただきます」

 二人は手を合わせて、食事を始める。しばらくは二人とも無言で食を進めていた。

「……うまい」
「ホント? よかった」
「うん、うまい。すごくうまい」

 そこで上条は顔を上げ、美琴をちらりと見るとまたうつむいた。

「えーと、何か不満でも?」
「ない。何にもない」
「にしてはアンタ無口じゃない。ホントは口に合わないんじゃないの?」
「んなことない。俺が作るより断然うまいって!」

 上条は力説し、ハッとなってまた顔を下げてしまう。

「アンタこの間から変じゃない? 何か私のこと避けてるみたいだけど」
「んなことねぇよ……」

 一緒に一端覧祭を回ったとき、あんなにひっついてたんだから避けてるも何もねぇだろと、上条は独りごちる。あれから、あの時の二人を思い出すとこっ恥ずかしくて、美琴を見かけても声をかけられず、美琴に見つからないよう逃げ帰る毎日だった。

「ごちそうさま」
「おそまつさまでした」

 美琴は食器を下げ、流しで洗い始めた。

「ねーえー」
「んー?」
「……やっぱアンタどっかおかしいんじゃない? 具合でも悪いの?」

 洗い物を終えた美琴が、上条の隣にぺたんと座る。

「おっ、俺は別にどこも具合悪くなんかないって」
「ほんとーにー?」

 美琴は上条の額に手を差しかける。美琴のひんやりとした手が触れ、上条がビキッと背筋を伸ばした。

「う、うわ、おい……」
「熱はないみたいね」
「そ、そんなに顔を近づけるな!」

 上条が後ずさりする。

「何よ」
「だ、だから……」
「はっきりしなさいよ」

 美琴が睨むが、上条は目を合わせない。

(その格好で近づくな!)

 上条の思考がぐるぐると回る。相手はあの電撃娘、御坂美琴だとわかっていても

(そ、その衣装でこっち向くんじゃねぇ! 変に意識しちまうだろうが!)

 上条は変な動悸を押さえられなかった。
 コイツ、わかっててやってんじゃねぇだろうな?

 上条はビクビクしながら、おそるおそる美琴を見る。美琴は疲れたのか、ローテーブルに突っ伏していた。座り込んだ足の間で何か見えているような気がするが、そちらに意識を向けないよう頭の中で振り払う。

「あー、それにしても一端覧祭疲れたぁ」
「あ、ああそうだな。お疲れさん。客たくさん入ったんだろ?」
「そうなのよ。喫茶室やるのは初めてだったんだけど、集客数はうちのクラスが過去最高だったみたい」
「へ、へぇ。そりゃすごいな」
「でもねー」

 ここで美琴が顔を上げる。頭にはヘッドドレスを装備したままだ。

「うち、女子校じゃない? 男の客ばかり集まってきても来年の受験者数には関係ないのよねー」
「あ、ああ、そうだよな、うん」

 一端覧祭で各校が門扉を広く開くのは、来年の受験者を確保するためだ。もちろんそれは、名門常盤台中学といえど例外ではない。

「クラスでお客さんをチェックしてた子の話じゃ、ほぼ毎日通ってた奴もいたみたい」
「……そりゃそうだろうな」
「はい?」

 上条の返しの意味がわからず、美琴がツッコむ。

「……その服」

 上条が美琴の服を指さすと、美琴は裾をつまんでみせる。

「これがどうかしたの?」
「……わかってないんだったら、いい」
「何がよ?」
「………………あーくそ!」

 上条は叫んで立ち上がり、頭をかきむしる。

「ちょ、ちょっと急にどうしたのよアンタ!?」
「お前、御坂だよな?」
「何言ってんのよアンタ。頭おかしくなっちゃった?」
「学園都市第三位、超電磁砲の御坂美琴だよな?」
「何わかりきったこと言ってんのよ」
「だから、何でそんなに男の客がわんさか来てるのか」
「うん。それが何?」
「その男共は『学園都市第三位の超電磁砲』が可愛いコスプレしてるから見に来てんだって気づかねーのかよ!」
「………は、い?」

 美琴はきょとんとした。

(かわいい…………可愛い?)

 美琴の顔がボン! と音を当てて赤く染まった。そろそろ瞬間沸騰機と名付けて良いかもしれない。

「えっと……だって、この服着てたの私一人だけじゃないし、私より可愛い子なんていくらでもいるでしょ?」
「それでも! お前のクラスじゃ知名度が一番高いのお前だろうが! 気づけ馬鹿!」
「馬鹿とは何よ!」

 美琴が立ち上がり、スカートの裾が揺れる。それを見て、上条がうっとうめき、その場に座り込んだ。

「………だいたいアンタが……どうしたの? 顔真っ赤だけど」
「な、なんでもねぇよ!」

 美琴は上条の隣に女の子座りで腰を下ろす。

「私のことを馬鹿呼ばわりしたのはともかく」
「…………」
「言いたくないんだったら……良いけど」

 歯切れが悪い口調のまま、美琴は上条の顔をのぞき込んだ。よく見れば美琴もほんのり顔が赤らんでいる。

「…………あの、さ」
「…………」
「アンタは……その、この服見て……どう思ったの?」
「どう、って」
「聞かせて欲しいな……アンタは、学園都市第三位の超電磁砲が、コスプレしてるのを見てどう思ったの?」
「さっき『言いたくないなら良い』って言ってただろうが」
「………………やっぱり、聞かせて」
「…………やだね。断固拒否する」
「ふーん、そうなんだ」

 美琴は上条をちらりと見ると、一つ頷いて上条の正面に回り込み

「ちょ、おま、何やって」
「…………と・う・ま?」

 上条の前で小首をかしげて見せた。

(ぎゃぁああああぁぁぁぁぁぁ!!)

 声なき絶叫とともに、上条は全力で壁ぎりぎりまで後ずさる。

「や、やめっ、やめろ、みさかっ」
「何が?」
「だっ、だからっ、そっ、それっ」
「それが何?」
「だから! それやめろ!」
「それって何よ?」
「お前わかっててやってるだろ!」
「何を?」

 美琴はにやにや笑っている。

「くーっ…………」

 上条は頭を抱えてうずくまる。

「あははっ」

 美琴は笑って立ち上がった。

「御坂?」
「ほら」

 美琴は上条の目の前でくるりと一回転してみせる。

「ちょ! おま、ばか、やめ」

 上条はジタバタと顔の前で手を振って目の前の光景を消そうとする。

「大丈夫よ、今日は短パン履いてるから。ざーんねんでした」

 スカートの向こうがこの間と違うことにほっとしつつ、上条は

「し、心臓に悪い……」
「同じ失敗は二度しないわよ。美琴さんの学習能力をなめないで欲しいわね」
「そうしてくれ……」

 上条は左胸のあたりが痛んだような気がした。

「えっと、それでアンタは……私がこの服着て接客してるのを見て、どう……思ったの?」
「もうその話は良いだろ……」
「いいじゃない、聞かせてくれたって」

 美琴はしつこく食い下がる。

「…………中学生ということを差し引いても、その服は反則だ」
「どこが? 何が?」
「……全部」
「……他には、ないの?」
「ほかって、なにが」
「だから…………他に感想」
「…………似合ってる」
「…………それから?」
「…………可愛いと、思う」
「…………あとは?」
「…………破壊力高すぎ」
「…………私は爆弾扱い?」
「いや……これはオトコにしかわからん話です」

 まぁお前は爆弾と変わらんだろ、と上条は息を吐く。

「他の男に見せるのが惜しいってのは、あながち外れじゃねぇよ。俺すっげぇびっくりしたし、ましてやお客がそんなに来てたってんならなおさら」
「………………そ、そう」

 美琴がそわそわし出した。

「だから、御坂さん」
「……………なに?」

 上条はがばっと土下座した。

「お願いだからこれ以上いじめないでください! 服を着替えて元の御坂に戻ってください! 上条さんはこれ以上精神が保ちません!!」
「………………えっと、意味不明なんだ、けど」

 美琴がきょとんとする。

(そこは素か、素なのか!)

 上条は一人悶絶する。
 考えてみよう。目の前で整った顔立ちの女の子が、紺色基調のミニスカエプロンドレス&オーバーニーソックスを身につけて、女の子座りをしているところを。それを身につけているのが、例え上条当麻の天敵・御坂美琴でも、

(か、かわいい……萌え死ぬ……)

 純情少年上条当麻は持って生まれた免疫の低さにより、建前と本音の綱引きで敗北しつつあった。これを世間ではギャップ萌えと言ったり言わなかったりする。

「ちょーっと確認させてね」
「あい?」
「アンタはこの服、気に入らないの?」
「そ、そんなことはにゃい!」

 あ、舌噛んだ。

(お父さんお母さんごめんなさい。あなたたちの息子は中学生に手を出したすごい人になる一歩手前です!)

 上条は心で血の涙を流す。
 彼は思う。これはどんな拷問なんだと。

「アンタ、私に何か隠し事してるでしょ?」
「にゃ、にゃんにもしてませんの事よ? 上条当麻は裏表なきにしの事よ?」

 自分が何を喋っているのか、もう訳がわからない。

「本当に?」
「ふぉんとうですぅ」
「とりあえず、アンタが私に服を着替えて欲しいことはなんとなくわかった。着替えるから、その前に私のお願いを一つ聞いて欲しいんだけど」
「にゃ、にゃんでしょうかー」
「わ、私の名前を…………呼んで? 今のうちに」
「ぴゃあああああぁぁぁぁぁぁあぁッっ!?」

 もうダメかもしんないと、上条は思う。このままだと後戻りできない言葉まで口走ってしまいそうだ。

「ダメ…………かな?」
「……………………み、み、みさかっ!」
「ちょ、ちょっと! アンタいきなりどしたのよ!」

 上条は美琴の肩をつかんでいた。引き返すことのできない断崖絶壁に立たされたような思いで

「おれ、おれ、おれは……み、み、み、みこ、みこ…………その幻想をぶち壊す!」

 最後の意地を振り絞り、幻想殺し(右拳)を自分に向かって発射した。
 岩のごとく固めた上条の右が、その額に突き刺さる。

「! ちょっとアンタ、何やってんのよ!」

 自分を殴って気絶した上条を見て、美琴が仰天した。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

「うあ…………いててて」

 上条は目を覚ました。
 直後にふに、という感触が後頭部に触れる。

「アンタ何やってんのよ」

 ジト目でにらみつける美琴が天井にいた。
 違う。
 美琴が上条を見下ろしていた。

「えーと、これどういう構図?」

 この感触どっかで触ったことあるなぁ。ああそうか橋の上で美琴に膝枕を

「………………ええええええええ? 御坂、お前何やって」
「馬鹿、まだ起きちゃダメでしょ」

 起き上がろうとした上条を、美琴が遮った。
 上条の額には美琴が用意してくれたと思しき濡れタオルが乗っている。

「アンタが自分を殴って気絶したくなるくらい、私の名前を呼びたくないってのはよくわかったわよ」
「………………」

 いや、あれはそうじゃないんです一時の気の迷いで危うく犯罪を起こすところだったんですと言いかけて、止めた。
 目の前の美琴が、今にも泣きそうな瞳で上条を見つめていた。

「何か言うことある?」
「…………ゴメン」
「何で謝るのよ」
「…………お前に謝んなくちゃいけないと思ったんだ」
「だから、何で」
「お前を見てくれで判断しようとしたから」
「…………」
「何着てたってお前はお前だよな、美琴」
「!」
「これでいいか?」

 美琴は上条に微笑みかけ、上条の額から濡れタオルを外した。そして

「……今この状態で名前を呼ぶな馬鹿!」

 地球の重力に引かれ加速のついた美琴の左が上条の額を直撃する。

「うぐあっ!?」

 上条は再び意識を失った。

 次に上条が目を覚ましたとき、美琴の姿はなかった。
 頭の下には枕が置かれ、体には上掛け布団がかけられて。
 ローテーブルの上に「帰る」と一言だけ書かれたメモが置かれていた。

 上条は起き上がった。
 美琴がいた気配は、どこにも残っていない。
 自分でぶち壊した幻想は、もうどこにもない。

『アンタ、私に何か隠し事してるでしょ?』

 優しい幻想をぶち壊しても、言葉は上条の胸に残った。隠した言葉はいつか暴かれるかもしれない。それでも

「…………純情少年上条当麻さんは、意地を貫き通しましたよっと」

 テーブルの上のメモを拾い上げ、くしゃくしゃと丸めてゴミ箱に放り投げ。
 上条は制服のポケットにあるプリクラシールを取り出そうとする。
 その直後、背筋を悪寒が走った。

「…………明日が来るのがこんなに怖いとは。…………不幸だ」

 時刻は二二時〇五分。
 美琴はドラムバッグを担ぎ、寮への帰路を急いでいた。

「門限破りどころかこの時間かぁ。黒子助けてくれるかな」

 美琴は携帯電話の電源を入れる。画面を確認すると、美琴の携帯電話は黒子からの悲鳴混じりの留守電メッセージと山のようなメールを受信していた。

「この時間に帰るつもりはなかったからなぁ。あーあ」

 この時間に帰るつもりがなかったのなら、いつ帰るつもりだったのか。それは美琴だけが知っている。

『何着てたってお前はお前だよな、美琴』

 美琴の作戦は、あの瞬間たった一言でぶち壊された。上条は全てを見抜いて、あのタイミングであの言葉を言ったのだろうかと美琴は思う。何にせよ、美琴は上条に『また』負けたのだ。
 美琴の作戦。それは上条の部屋を訪れたときと同様に、ドラムバッグの中に詰め込まれていた。

「とりあえず明日よ明日。あの馬鹿が残り一六枚の招待券を誰に配ったのか吐かせて、それから……殺す!」


 学園都市の夜は明けて、いつもの朝が訪れる。
 そしてとある通学路で少年と少女は出会い、いつもの鬼ごっこが始まる。
 少年が逃げ、少女が追いかける、とてもありふれた、お互いの本音を隠した鬼ごっこが。



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