とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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いたずら好きな神様 3



「んっ…」
上条は目を覚ます。
初め、視界はぼやけていたが、時間が経つにつれだんだんとはっきりしてくる。目の前に美琴の顔が見えた。
「あ、起きた?」
「あれ? ここは?」
上条はぼやけた頭を抱えながら、起き上がる。周りを見渡しみると、そこは馴染みの病院の受付のところだった。
受付には誰もいなくて、全体的に薄暗い。遠いところにある非常口の光が強く見えるほどだ。
と周りを確認していたら、どこからともなくカエル顔の医者が現れる。
「起きたかい?」
「せ、先生?」
医者は美琴の方を一瞥すると、上条に話しかける。
「起きたのならまず、その彼女にお礼をいうことだね」
「へ?」
そう医者に言われ、上条は隣に居る美琴の方を見た。美琴はこっちを向いてはくれなかったが、そういえば自分の顔のが少し濡れていた。
もしかしたら泣いていたのかもしれない。もしかしたら、自分のために。
医者は話を続ける。
「知らないと思うけど、彼女は重たい君を救急車まで背負って、ここまで運んできてくれたんだよ? まったくうちの救急隊員はなにをやってたのかね」
「そう、なんですか……」
上条は美琴を見つめるが、美琴は黙ったまま何も喋らない。
「まあ、君はぜんぜん大事には至らなかったよ。軽い打撲だね」
上条は思い出す。確か、自分は背中に大きな衝撃を受け気絶した。
頭を摩ってみたら痛い。どうやら気絶した直接的原因は頭の打撲らしい。
しかし、背中も頭も軽い打撲で済んだのに、上条は大きな罪悪感に襲われる。
上条は美琴の方に体を向けると、頭を下げた。
「御坂、すまなかった」
「なんで謝んのよ……」
「まず、第一に楽しみにしてた夏休みを俺のせいで台無しにしてしまったこと」
「アンタのせいじゃないじゃない」
「いや、俺のせいだ」
「…………」
「第二に、俺が………御坂を泣かせてしまったことだ」
「…………」
「本当にすまない」
自分のせいで、こんなことになってしまった。きっと、もっとしっかりしていればこんなことにならずに済んだかもしれない。
と下げていた頭が突然掴まれる。そして、無理やり顔を上げさせられる。
美琴は渋い顔でこちらを見ていた。
「アンタがこんな顔してちゃ、今日の楽しかった部分も辛くなんの!」
「あ、いや…」
「ほら、シャキッとしなさい!」
美琴はそう言って、おでことおでこをガツンとぶつける。すごく痛かった。
「―っ!」
呆れたように医者がそれを見ていた。
「まったく。僕はお礼を言えといったのに、何故君は謝るのかね?」
「……はあ」
「ほら、これ持って帰りなさい。僕は黒焦げになった人の治療で忙しいからね、じゃあこれで私は失礼するよ」
そして、医者は上条に一枚の紙を渡し、病院の奥へと行ってしまった。
当然、残ったのは上条と美琴の二人きり。さっきのこともあって上条は話しづらい。
色々と失敗してしまった。上条は美琴になんて話しかければいいのかわからない。
けれど、頑張って声を出してみる。
「あ、あの男はどうなったんだ?」
「ああ、それなら……」
「それなら?」
「知らないほうがいいかも」
「じゃあ、いいです」
上条はあの男のことを想像しかけて、想像するのを止める。なぜなら美琴の顔が恐ろしいことになっていたからだ。
もう、色々忘れようと上条は思った。
そして手元の紙を見た。紙には何故かどこかの場所が書いてあった。
「って何だこれ?」
美琴も上条の前にめり込んで、それを覗く。
「どこかの場所を示してない?」
「そうだと思うんだが……」
「とりあえず行ってみない?」
「まあ、いいけど」
上条と美琴はとりあえずその場所に行くこを決める。
上条はそこに何があるのかは知らなかった。

         ◇

「ふう、ここか」
「ここね……」
とりあえずということで、二人はその場所に来てみたが、二人の予想に反してそこには何も無かった。
ただ、そこは夜空だけはよく見える場所であった。あの医者は何を考えているのだろうか。
上条は何も無かったことに落胆して、その場にへ垂れ込む。
「あ゛ー、疲れたー!!」
「地面に座っちゃって、何やってのよアンタ」
そして地べたに座った途端に、ほらと美琴は手を差し伸べてきてくれた。
上条はその手を見て、意地悪したくなる。
なんとかその手を借りて立ち上がろうとしてるように見せかけ、手を美琴ごと引っ張った。
「きゃあ!」
美琴は上条の隣にペタンと座る。
「な、何すんのよ!!」
「いや、最後くらい楽しく行きたいと思ってな」
「……それは、」
「別に変な顔はしねえぞ。ほら!」
上条はそう言ってニカっと美琴に笑ってみせる。
しかし。
「嘘」
「へ?」
「そんな顔見ても嬉しくない」
美琴は直ぐに上条の嘘に気づいてしまう。
嘘は得意なはずなのに。
確かに美琴の言う通り、上条は本当は笑っていなかった。心まで笑えなかった。
だって、神様を信じたって上条は結局不幸だったから。
今回は結構なダメージを受けた。いくら上条がポジティブに努めようとも、今日だけは少し無理だ。
上条は「はあ」とため息をつく。ため息をつけば幸せが逃げるというが、そんなんで幸せが逃げるのなら上条はこんなに苦労はしない。
今日は散々な日だ。
思わずポツリと呟く。
「奇跡でも起こんないかな?」

――そして、その願いに答えるように、夜空に花が咲いた。

バーン、バーンと花火が空に散る。
突然の出来事に上条は口を開けてポカーンとそれを見ていた。美琴もきっと同じように驚いたのだろう、何もしてこない。
暫くしてやっとその状態から回復する。
「ここってもしかして穴場?」
「これ夏祭りの花火だと思うけど……だーれもいないわね」
美琴に言われ、周りを見渡しても本当に誰もいない。
空を見上げると、花火が綺麗に空に咲いていた。
上条は零すように、
「なあ、これって奇跡?」
言葉が出た。
美琴も驚いたような口調で返す。
「奇跡って大袈裟だけど………まあ、そうかもしれないわね」
上条が思うに、どうやら神様はとても曲がった性格をしているらしい。
今日という日を上条に期待させた挙句、どん底に突き落された。しかし、最後にはおもしろいものを上条に見せた。
これでは一概に不幸とは言えないではないか。
美琴の横顔を見ると、花火の光、赤やら黄色やらの光が映し出していた。
上条は花火の音にかき消されないよう話しかける。
「なあ」
「何?」
「また、来ないか?」
「来年の話すると鬼に笑われるわよ?」
「嫌、なのか?」
「そ、そんなわけないじゃない!!」
美琴が怒ったようにそう言う。
「じゃあどうなんだよ?」
「ら、来年の予定は明けといてよね…」
「鬼に笑われるな」
「うっさい!」
そこで上条は本当に笑えた。そして美琴もそれにつられて笑う。
そして、美琴が上条の手を握ってきた。上条は手を裏返してそれを握り返す。
花火がどんどん打ち上げられる。上条と美琴は黙ってそれを見ていた。
そして上条は、
「幸せかもな」
と言った。
上条はなんだか神様に笑われているような気がした。

―――――――――――――――――――――――――――――





バーン、バーンと花火が打ちあがる。
「ねえ、綺麗じゃない?」
隣の美琴は上条に向かってそう喋る。
上条は美琴の顔を見ながら、渋い顔して答える。
「そうは思わないな」
「どしてよ?」
美琴が頭にハテナマークを浮かべているの見て、上条はニヤニヤする。
「だってお前の方が綺麗だからな」
「な!? なんてこと言うのよ!!」
そう、二人は一年を経て去年の約束を果たしにきている。しかし、二人の間は去年とは違う。
上条が花火を見ていると、美琴が突然こんなことを言ってきた。
「ねえ……」
「ん? なんだ」
「き………キスして?」
「随分と恥ずかしいことをいうのですね、美琴さんは」
「ああ、もういいわよ!!」
そして上条に怒って美琴はへそを曲げてしまう。
けれど、上条は曲がったへそを無理やり正すように、美琴の肩を掴み上条の真正面に向ける。
美琴は顔を真っ赤にしながら、慌てる。
「あ、アンタは恥ずかしくないのかしら!?」
「いや? もちろん恥ずかしいぞ」
「……そ、そう?」
「まあでも」
上条はポリポリ頭を掻くの止めると、
「こうしてみたいだろ?」

花火を影に上条と美琴との距離はゼロになった。

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