とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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雪に想いを馳せて



新年も近い、ある雪の降る休日。常盤台寮の一室。
この部屋の住人の一人、御坂美琴は最近学園都市で流行している曲を聴きながら、少し憂鬱そうな顔で物思いに耽っていた。
しかし、美琴の心のベクトルはその曲を一度聞いてからというもの、ネガティブな方向に一直線である。
元々、美琴は友達付き合いが多い方ではない。周囲には「御坂様」と呼び慕う人間は多く居るが、対等な立場で、となると話は異なってくる。
その数少ない友達の一人、ルームメイトの白井黒子は風紀委員の仕事が忙しいようで、ここ最近は一緒に出歩くこともままならないような状態が続いている。
それは同じ風紀委員の初春飾利にも言えることで、彼女もまた風紀委員の仕事でてんやわんやなのだと聞いている。
また、佐天涙子は体験学習の一環として学園都市内で職場体験に参加しており、ゆっくりと話をする時間も最近はあまり無い。
そんなわけで、自分の心の中に眠るネガティブな感情を吐き出せる人間が周囲に居ないという状態が続いているのだ。
それでも、いつもの美琴ならば街中をブラブラしていると考えるのが妥当なのだが。

「…今、外をぶらぶらしても、絶対にアイツには会えないのよね…」

結論から言うと、この日この時、アイツこと上条当麻は学園都市に居ない。
終結した第三次世界大戦の事後処理という形で国際連合の理事会へと招集されているのだ。
もちろん、学園都市から離れる手段も合法的で、学校の出席簿にも「公欠」の二文字が書かれることになっている。

「…うーん、このまま何もしないでちょっと寝てようかしら」

そんなわけで、未だに上条の前では素直になれない常盤台のお嬢様は、制服からラフな格好に着替えるとベッドに横になり、この半年ほどのことを思い出していた。
出会いは些細な出来事だった。
しかし、毎晩のように仕掛けた勝負や妹達の件、偽デート、大覇星祭、罰ゲームなどを経て、上条に対する思いが日に日に強くなっていった。
決定的だったのは10月のある日のこと。全身ボロボロになりながら、何かと戦おうとしていた上条。
その姿に美琴は、自分だけの現実を上回る、自分の奥底に眠っていたとある感情に気付いてしまった。

その後勃発した第三次世界大戦。
美琴は上条の置かれている立場を知り、学園都市の誇る精鋭部隊を壊滅させてまで単身ロシアへ渡り、自分が知らない所で上条が戦っていた相手について知った。
その相手―フィアンマとの戦いは、学園都市第三位の実力を持ってしても足手まといでしかなく、その圧倒的な力の差に指を咥えて事を見守るしかなかった。

大戦が終わり、上条と美琴が学園都市へ帰還すると、まず待っていたのはフラッシュの放列だった。
後から白井黒子に聞いた話をまとめると、
・ “超電磁砲”の美琴が大戦終結の大きな鍵となっている事が既成事実として語られている
・ その美琴の活躍が画面に映るたびに上条らしき男性が傍に映っており、ワイドショーなどの話題の種になっている
の二点がベースとなり、そこに追い討ちをかけるかのように、どこからともなく二人の帰国情報が漏れていたのだという。
すぐに報道管制が敷かれ、二人が記者に追われるということは無かったのだが、代わりに待っていたものもあった。

まず美琴。
無断での学園都市からの脱出、小隊潰しとハイジャック、学園都市外での能力の使用などで常盤台中学から一週間の自宅謹慎処分が、更に寮から一週間の外出禁止令(登下校を除く)が言い渡された。

次に上条。
学園都市に戻ってから一息つくまでもなく、「第三次世界大戦の鍵」として国際連合からマークされ、参考人という名目で翌日の夜にはニューヨーク行きの便に乗せられていた。
到着後は、授業の遅れを取り戻すという名目で専属教師が派遣され、朝は家事、昼は理事会の参考人招致、夜は勉強と日々ハードにしごかれている。
もちろん、家事や勉強で求められる水準は高校生のそれではなく、参考人招致は全世界に同時ネットされているのだからたまったものでは無いが。

そんなわけで、上条と美琴は学園都市に帰ってきた日以来、一度も顔を合わせてはいない。


~もう会えないこと 誰より理解ってるけど 痛みと 愛しさは この雪にも隠せはしない~

私とアイツが二度と会えないと分かったら、私はその痛みに耐えられる?アイツへの想いだけで生きていける?
そう考えて、美琴は「無理ね、アイツのいない日常が永久に続くなんて」とつぶやく。

ロシアで、二人の関係には確かな進展があった。
上条は、美琴が本当は自分を嫌っておらず、むしろ好きなのだという事を知った。
美琴は、上条が自分の知らない所で戦っていたモノの大きさを、戦う覚悟と意志の強さを知った。
その上で、二人はよりお互いを理解し、共に突き進んでいこうと約束した。

しかし、その二人の約束は、いつしか遠い過去の遺物のようになってしまっていた。
会えなくなって一ヶ月近く。美琴が上条の顔を見る機会は多いのだが、それはあくまでも画面越し。
いつものような他愛も無いやり取りは、電話やメールでしか出来ない。
その電話やメールにしても、上条の多忙さも相まって四、五日に一回出来ればいいというレベルである。

御坂美琴とその周りの世界を守る、か…。
こんな時に颯爽と現れて欲しいのだけどと考え、自嘲気味に笑う。
いつしか、美琴は日常に物足りなさを、充足感のない日々に限界を感じはじめていた。
心は荒み、妹達の一件の時とは違うベクトルで、現実を受け入れきれなくなりつつあった。
もし、何かの手違いで不幸にも上条が二度と学園都市に戻れないということになったとしたら…。
その時はどうなるのか、美琴自身見当も付かないほどだ。

美琴は、上条に向けてメールを送った。
ただ一言、「声が聞きたい」と添えて。

すぐに上条から電話が掛かってきた。

「どうしたんだ、御坂?お前にこんなこと言われるとは思ってなかったわけですが」
「う、うるさい!………ゴメンね?迷惑だったでしょ?」
「んなわけねえよ。ちょうど寝ようかとは思っていたが、あんなメール送られたら安心して眠れない」

そう言われて美琴は時計を見る。時計の針は14時30分を指していた。
ということは、上条からするとちょうど日付が変わったくらいの時間になる。

「ゴメンね。アンタの都合なんか全く考えてなくて」
「素直に謝るなんて、美琴センセーにしては珍しい事もあるもんだな。上条さんは後が怖くて不安ですよ?」
「大丈夫。もうアンタに会って一発ビリビリかますなんてことはしないって決めたから」
「それはそれは光栄な事です。…で、なんでまた急に?」
「う、それは…」
「うーん、そこで言いよどまれると上条さんとしても困るわけなのですが…。何も無いなら切っちゃってもいいか?」
「だ、ダメ!もうちょっと、もうちょっとだけ…」

美琴は悩む。目的を果たした以上、上条を引き止める理由がないのだ。
その時、美琴はふと思いついた。今現在、美琴が抱えるネガティブな心。それを現実の物にしないために、上条に訴えかけるというものだ。
状況的に、自分の心の中にあるモノを全て吐き出せる、絶好のチャンスだった。
上条は話を聞いてくれるだろうし、きっと自分にとって悪い方向に向かないように動いてくれると思う。
ただし、その結果として上条を一生縛るつけるようなことにはしたくなかった。

「約束、してくれる?」
「ん、なんでもオッケーですのことよ?」
「私は、今から、アンタにとても大事な話をする」
「うん」

そう、とても、大事な話。
自分と、上条と、お互いの周りの人間全てに影響を与える、そんな大事な話。

「それは、もしかしたらアンタを一生縛り付ける事になるかもしれない」
「…」
「でも、アンタはそれに囚われないで、縛られないで、自分の思った通りに進んで欲しい」
「…」
「そんな大事な話。聞きたくないのなら、聞きたくないといってほしいんだけど…」

「聞くよ。御坂がそこまでいうのに、聞かないなんて出来るわけがない」

上条の答えはシンプルだった。
美琴は、心の中がすっと晴れていくのを感じた。
上条に、自分の思うこと全てをぶつけるのは、今しかない。

「私は、アンタが…上条当麻が、好き」
「いつからか、なんて分からない。けど、気付いたらアンタの事が好きだった」
「ロシアへ行ったのだって、結局はそういうこと。アンタへの気持ちを抑えられなくて、気づいた時には学園都市を飛び出してた」
「今の私は、アンタが傍にいない世界が考えられない。御坂美琴という存在自体が、上条当麻が居ないと、成り立たないの。それくらい、私はアンタに心奪われて、止められなくなってるの」
「もしかしたら、アンタは理事会で私を守ろうとして嘘をつくかもしれない。だけど、例えどんな事を聞かれたとしても、嘘は言わないで。どんな真実よりも、アンタが学園都市に帰ってこないという事実の方が、私には重たい枷になってしまうから…」
「…御坂…」
「以上。じゃあ、遅いしもう切るわね」
「お、おい、ちょ…」
上条からの返答を聞く前に、美琴は強引に通話を切り、携帯を投げ捨てた。
御坂美琴、一世一代の大勝負。その返事を聞くのが、急に怖くなった。ただそれだけの理由で。
携帯は幾度となく震えていたが、その振動もいつしか収まった。
美琴が携帯を開くと、そこには数多くの上条からの着信履歴が残っていた。
そのことに、美琴は徐々に目元が潤んでいくのを感じた。

ふと、携帯が軽く震えた。今度はメールだった。送り主はもちろん、上条である。
『急に電話を切るんでビックリしたよ。
あんな事言った後だから仕方ないのかもしれないけどな。
で、返事の内容だが、今は保留ということでお願いしたい。
別に良い悪いの問題じゃなくて、今は状況が状況だからってだけなんだが。
必ず、学園都市に戻ったら返事をする。だから、それまで待っててくれ。

P.S.返事、期待してても良いぜ?』


美琴はその文面を読み終わると、目元をぬぐい、ベッドから起きて窓の外を眺めた。
そして、遠くアメリカに居る上条に思いを馳せる。

雪は、未だにその勢いを衰えさせることなく、学園都市に振り続けていた。


~終~


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