たった二文字
完全下校時刻はとうの昔に過ぎ、辺りは夜の闇に包まれている。
蹴られれば飲み物を貢ぐ、ドМ自販機の照明が一部分だけに明かりを落とす。
その光はこんな時間なのに二人の学生を照らしていた。
蹴られれば飲み物を貢ぐ、ドМ自販機の照明が一部分だけに明かりを落とす。
その光はこんな時間なのに二人の学生を照らしていた。
一人は中肉中背、高校生である。特徴的といえるのは、ウニのような頭部だろうか?
そして、
そして、
(なんてことはない。名前を呼んで、たった二文字伝えるだけでいい)
かれこれ数十回同じことを考えている。つまりガチガチに緊張していた。
もう一人は、常盤台中学の制服、肩まで届くシャンパンゴールドの髪に花飾りのヘアピンをつけた少女である。
そして、
そして、
(私は、アイツと、あの話をするために、この公園に来たわけで、アイツは、私と、同じ、気持ちな、わけで、だから、ここに、来たわけで、……)
混乱していた。それはもう混乱していた。顔は驚きの赤さだった。
その混乱に背を押されてか、少女が口を開く。
その混乱に背を押されてか、少女が口を開く。
「じ、実は、わ、わわ、私、まま、ま前から「待ってくれ!!」ふにゃ!!?」
「待ってくれ、男のオレから言わせてくれ!!」
「ふぁっ、ふにゃい!」
再び沈黙。少年の心臓は今にも爆発しそうである。
ちなみに分かっているとは思うが、
少女の名は御坂美琴。常盤台の超電磁砲(レールガン)とは彼女の事である。しかし、今の彼女にはAIМバースト戦などでの強気な態度はない。
少年の名は上条当麻。だんだん顔色が悪くなってきているが、これでもとある第一位から英雄視されている人物である。第一位が現状を見たら、失望して襲いかかりそうではあるが。
少女の名は御坂美琴。常盤台の超電磁砲(レールガン)とは彼女の事である。しかし、今の彼女にはAIМバースト戦などでの強気な態度はない。
少年の名は上条当麻。だんだん顔色が悪くなってきているが、これでもとある第一位から英雄視されている人物である。第一位が現状を見たら、失望して襲いかかりそうではあるが。
上条は深呼吸を繰り返す。別に天使と戦うわけではないというのに。いや、本人にとってはそうなのか?
「御坂!! 実は「美琴!!!」以z……はい?」
「こ、こんなときくらい、名前で呼びなしゃいよ」
「わ、わかったよ。そっちも『アンタ』じゃなくて『当麻』って、呼べよにゃ」
「も、もちりょんよ」
二人とも、すごく言えてない。
それからしばらくの間、両者ともにブツブツ言っていた。
無駄なイメトレであろう。そしてついに上条が動く。
無駄なイメトレであろう。そしてついに上条が動く。
「み、美琴サン!!」
「!!!フぁい!!」
しかし、
「じ、実は……」
皆さん忘れてはいないだろうか。
「……以前から!!」
上条当麻は、
「あなたの「prrrrr」ことが!!!」
不幸である。
「……」「……」
「あな「prrrrr」たの「prrrrr」ことが!!!」
「……出ていいわよ」
「……す、すまん。「ピッ」誰だよ一体!!!」
『やあ!!カミやん!!今週発売の「こんな魔法の目次欄」についてやけど!!』
「ピッ」「……コホン!」
「美「prrrrr」琴さん、あな「prrrrr」たの「prrrrr」こと……」
「……ハァ」
「ちっきしょー「ピッ」うるさいな!!また今度にしろよ!!」
『なるほどー、上条ちゃんは先生を怒らせるのが上手ですねー。明日は補修に課題と説教を追加しときますねコノヤロウ』
「げっ、先生、今のは必要悪の手違いでし「ガチャ」……不幸だ」
「なんか力抜けたわ」
「すみません。電源切っときます」
「よーし、もう一回!!」
「いや、私が言うわ、アンタだと別の理由でまたダメだろうし」
「『当麻』な。そして否定できぬ」
一息入れた後、美琴は正面を見据える。
腹をくくったようだ。
腹をくくったようだ。
「上条当麻さん!!」
しかし、皆さんもご存じだろう。
「私は、以前から、あな「あ、御坂さんなの」たの……はい?」
彼女も結構不幸である。
「えーと、ここでなにしてるの春上さん?」
「絆理ちゃんと遊んだ帰りなの。思ったより遅くなったの」
上条と美琴には見えた。春上の頭上に「襲ってください」の文字が。
「「……家まで送るよ」」
「ありがとうなの!!」
「あれだ!!長いのがいけない!!」
「そうね!!」
公園に戻った二人は叫ぶ。さっきまでの雰囲気は無い。
「速攻で終わらせるぞ!!」
「バッチ、来いやー!!」
それでいいのか?
「よし。美琴!! おま「やぁ、カミやん、何してるのかにゃー」え、が……」
しかし、
「当麻!! アン「おや、君は御坂美琴。ツン、ツンデロ? は治ったのかい?」タ、の」
不幸は、
「美琴お前が「見つけたで!! カミやん!! 急に電話切るから心配に……」す、クソッ」
終わらない。
「当麻アンタが「あらあら、御坂さんじゃない!! こんな時間に逢引き? 不良力たっか~い」すっ……ええぃ!!」
二文字が遠い。
「はぁ、はぁ、名前も省きます」
「はぁ、はぁ、了解」
そして、
「お前が「とうま!!」すっ……はっ、この声は!!」
「……晩御飯の時間になっても帰ってこないし、ケイタイデンワーをビクビク使っても出ないし、心配して出てきたら、相変わらず、当麻は当麻だったんだよ!!!」
さらにその二文字が絶望的に遠くなる。
「えっ? もうそんな時間?? ん? 電話?? ……ぬわ!!着信がすごいことに!!」
「覚悟はできたかな?」
「あー、すまん!! もう少し待ってくれないか? ちょっと大事な……」
「――――空腹に伴い、身体中にある生命力(マナ)が消失しつつあります」
「『自動書記』!? っつーか一食抜くだけででるなよ!!」
ステイルやカエル医者から聞いた情報と合致している。本気と書いてマジである。
こんなのに美琴は巻きこめない。
こんなのに美琴は巻きこめない。
「美琴!! 待っててくれ!! ちゃんと戻ってくるから!!」
「え!? ちょっと!!」
「――目標の逃走を確認。その行動を制することが最善の手だと判断します。目標を追尾する手段を発見。豊穣神の剣を再現、即時実行します」
(なんじゃありゃ!?)
美琴が驚いている間に、二人はどこかに消えていた。
一人残される美琴。
肌寒い風が通り過ぎる。
しかし、
一人残される美琴。
肌寒い風が通り過ぎる。
しかし、
「……『待っててくれ』か……」
戻ってくると、彼は言った。
今まで追うことしかできなかった自分に、ようやく振り向いてくれた。
今まで追うことしかできなかった自分に、ようやく振り向いてくれた。
「……/////」
それが、無性にうれしかった。
そこに一つの影が近づく。
「……お姉さま」
とんでもない冷気に包まれた言葉を受け、美琴は恐る恐る顔をそちらへ向ける。
「初春や佐天さんから聞きましたわ。……どういうことですの?」
あ、やばい、ツインテール(触手)がありえない動きをしている。
「く、黒子!! ……何の話かなぁ?? 私全然わかんない」
「お姉さまがそのつもりなら、それで構いませんの。類人猿の体にお尋ねしますので」
あ、目に光が無い。本気と書いてガチである。
(黒子まで追いかけたら、当麻は間違いなく死ぬ!!)
よって、上条とは別の方向に走る。
「お待ちください!! お姉さま!!」
(……考えてみればそうよね)
走りながら、美琴は笑っていた。
(私に『待つ』なんてのは、性に合わないじゃない!!)
『はい、もしもし、こちら上条の携帯です。ただいま生死の境をさまよっていますので、用事はまた今度にしてくださ「私よ」……美琴?』
美琴は走りながら上条に電話を掛けていた。
「当麻の方はどんな感じ?」
『いや、先ほど「チュドーン」生死の境をさまよっていると「ズバーン」言いましたが、比喩で「ドゴーン」はありません……不幸だ』
「いや、こっちも黒子に見つかってさー『不幸ですね』まったくです」
向こうもため息を吐いただろうか?
「どれくらいかかる??」
『あー五分後くら「本音は?」……今日の夜は寝られるか疑問です』
とはいえ、そうはいかないのだ。今日の流れを無視するわけにはいかない。
上条は腕を組んで考える。逃げながら。
上条は腕を組んで考える。逃げながら。
「私も同じようなもんなのよね~」
美琴は、今の黒子がlevel5だと言われても驚かない。
「だからさ!!」
『?』
鉄橋。とある不幸な少年と、とある不幸な少女との物語を語る上で外せない場所である。
月明かりがほのかに照らすこの場所で、物語はまた一歩進む。
月明かりがほのかに照らすこの場所で、物語はまた一歩進む。
「不幸だーっ!!」
一方から走ってくるのは上条当麻。後方の住宅地が平穏なのを見るに、自動書記も周りを配慮しているのかもしれない。
(来た!!)
もう一方に現れたのは御坂美琴。後方には顔も髪もすごいことになっている黒子がいた。
両者は全力で走っているため、距離はどんどん狭くなる。
しかし、二人に止まる気配は無い。さながら何もなく素通りするかのように。
しかし、二人に止まる気配は無い。さながら何もなく素通りするかのように。
ついに、二人の距離はなくなり、立ち止まることなくすれ違って行った。
「――だ」「――よ」
たった一言を残して。
二文字は、全く同じだった。
黒子は上条を、インデックスは美琴を一瞥したが、あの距離の一言を聞くことはできなかったようで、再びもとの標的に視線を戻す。
二人は背中しか見えないために気付かない。
その標的は今までにないくらいニヤニヤしていた。