キャラ替えしよう
「待てぇぇ、逃げんなゴラァァァ!!!」
「そんなビリビリしてる人なんかに待つ人なんていません!!てか俺が何をしたっていうんだァァァ!!!」
「女の子の前で『ぺったんこ』なんて言ってれば怒るに決まってんでしょうが!!」
「餅つきのことを話そうと思って言ったのにぃぃ!!もう、不幸だあぁぁぁ!!!」
上条当麻と御坂美琴はいつもの通り追いかけっこをしていた。師走の学園都市だということを気にせず、二人の男女は全速力で駆け抜けていった。
既に一時間ほど走り回った所で上条は公園に着き、ベンチに腰掛けた。
「はあはあ、ったく、やっと撒いたか。いやー疲れた疲れた」
上条は壊れかけの自販機に軽く拳を叩き込む。すると、バネがゆるんでいるせいでジュースが出てきた。
黒豆サイダー。この自販機にしてはまともな商品だった。
「ビリビリキックなんかよりこうするだけで出てくるんだから、あいつも覚えればいいのに」
美琴のチェイサーキックに倣って自販機の側面を叩いてみたら、同じように上手く行き警報も鳴らなかった。
夏には二千円を飲み込まれたわけだし、このくらいの融通利いてくれなければ割に合わない。
だから今では無料ジュース提供機として上条に無料でジュースを恵んでいるのだ。
「にしても御坂の奴、どうして俺にばっかりあんなに怒ってんだろう?
今日だって年あけたら知り合いみんな誘って餅つきパーティーしようって言おうと思ったのに…
あいつも女の子なんだから素直でお淑やかにしていれば十分可愛いんだけどなー」
上条はそう言いながらジュースを飲み干し、空き缶を近くのゴミ箱に捨てた。そして特売の時間を確認すると公園から出ていった。
「ふふふ、聞いてしまったぞ上条当麻」
草陰から突然現れたメイド服の少女はICレコーダーのスイッチを切り、急いで常盤台の女子寮へと向かった。
そのときの目は兄譲りの企みを考えているときの目だった。
その夜
上条はバスタブの中で眠りこけていた。夏よりずっと白い居候にベッドを占拠され続けたため、バスタブで寝ることに十分馴れた。
よってこの日も夢の世界に落ちるのはそう遅くはなかった
『こんにちは、上条当麻』
『うおっ!!誰だお前!!てかなんですかその堕天使エロメイドは!!?』
『私は堕天使エロメイドでもなければ神裂火織でもありません。ただの夢の使いです』
『あれ、本名言ってない?それはそうと夢の使いって?』
『はい。夢の使いとは魔術の一種であなたの願望とともに現れる精霊です』
『俺のガンボウ?なんか願ったっけ?』
『あなたは御坂美琴がツンツンしていることがあまり好きではありませんね?むしろもっと素直になって自分と接してほしいと思ってますね?』
『まあ、確かにあいつとは友達として喋ってきたけど、友達ならもっと素直になって欲しいよな』
『…彼女の気持ちを察して欲しいところですが、とにかくそんな彼女を素直にしてあなたともっと気楽に話し合えるようにしてみせましょう』
『本当か堕天使エロメイド!?あいつの性格変えるなんてできるのか?』
『だから堕天使エロメイドではありません。話を戻しますがあなたの同意さえあれば性格を変えることができます』
『そうか、ならそうしてくれ。そろそろ電撃が当たりそうで怖いんだ。素直になればそうじゃなくなるんだろ?』
『はい。では始めます。洗濯洗濯、センタッキー!!御坂美琴の心を洗い給え~~!!』
『おお、なんか呪文っぽくないけど効果ありそう!!ありがとな!!』
『呪文はかけましたがあなたにもこの呪文の効果を永久のものとするためにしなければならないことがあります。
それは彼女の想いに正直に応えなければなりません。でないと彼女を失意のどん底に堕としてしまうでしょう』
『え!?そんなこと聞いてないぞ!!どうすればいいんだ堕天使エロメイド!!!』
『だからちげえっつてんだろ!!このド素人が!!』
「はっ、夢か……」
時刻は午前八時半
上条当麻はバスタブの中で起きあがった。冬休みに入ったので学校の授業はないがインデックスにご飯を作るには遅い時間だ。
急いで服を整えリビングへ向かったが、白い居候はいなかった。
「あれ?この書き置きはインデックスのか?
『とうまへ
朝ごはんが来ないから出ていくよ!!
今日はこもえの所で泊まっていくかも!!
少しは反省してほしいんだよ!!
ps,れいぞーこの中のものは全部食べたからちゃんと詰めておくんだよ!!』
……なんて横暴な書き置きなんだ」
上条はイギリスの白い悪魔を呪いながら外に出て食事することにした。
ジュースだけでは腹は満たないので、近くのファミレスに行くことにした。行く途中こけること5回、車に跳ねられそうになること3回、
ストリートファイターに会うこと2回と禄な目に遭わなかったが、なんとかファミレスの近くに着いた。
だが、入り口に入ろうとすると後ろから声をかけられた。
「お、おはよう!!当麻!」
思わず後ろを振り向くと、そこには御坂美琴が立っていた。『当麻』などと呼ぶ人物はインデックス以外にいないはずだ。しかし彼女は今小萌先生の家にいるはずだ。
ということは…
「み、御坂さん!?今なんとおっしゃいました?」
「だ、だから、おはようって言ったんだよ、当麻!」
確かに聞こえた。今、御坂美琴の口から『当麻』という声が聞こえたのだ。
しかしこれには訳があった。
昨日の夕方、美琴の部屋に土御門舞夏がきたのだ。白井黒子はまだ風紀委員から戻っていなかった。
「みさかーみさかー、ちょっといいかー?」
「土御門、いい加減呼び捨てで名前呼ぶのやめなさい。メイドだったらせめて御坂様でしょ」
「まあまあ、そんなことよりこれを聞いて欲しいんだぞー」
「ICレコーダー?何か録音でもしたの?」
「ふふふ、みさかにとって重要人物の願望だぞー」
舞夏は再生ボタンを押して美琴に聞かせた。内容は美琴が追いかけ回した後の当麻の公園での独り言であった。美琴は耳をスピーカーにくっつけ聞いていた。
五分ほどで終わり、舞夏はICレコーダーをしまおうとしたが美琴に取られ当麻の声を一瞬でコピーした。
「みさか…それを夜のオカズにでもするのか?」
「へ!?おおおおお、オカズって何よ?だだだ、大体これはあのバカに聞かせて馬鹿にするためであって――」
「ちょっとまったー!!みさか、お前は今の上条当麻の声を聞いていたのか?」
「え、あいつは確か、私に素直にお淑やかにしてれば可愛いって言ってたんだよね?」
「そうだみさか。だから私が上条当麻に好かれるためにお前に指南しようと思ったのだよ」
「な、何をすんのよ一体?」
舞夏の突然の提案にびっくりしたが、聞く気マンマンだった。
「みさかにとって素直でお淑やかとはズバリ、メイドのように相手に気遣いして相手の言うことを真摯に受け入れることなのだー!!」
「ええー!!あいつに対してメイドのようにって……」
美琴は盛夏祭のときのメイド服を着て上条に奉仕する姿を思い浮かべた。
「無理無理無理無理!!ああああいつのメイドだなんて……」
「違うぞみさか、いいか?これから言うことを心がけて行動すればゼッタイに上条の心も動くはずだ!まずはだな――」
このあと黒子の帰ってくる一時間ほど美琴は舞夏からメイド特別レッスンを受けた。
そして消灯の後も頭の中でシュミレーションを繰り返し、現在の状況となったのだ。
そんなことがあったことなど知る由もない上条は美琴の変化に戸惑った。だが、おなかの虫がグゥ~と鳴ると、自分の状況を思い出した。
「あー、御坂さん?実は上条さんはまだ朝食前でして、お腹が減っているのですよ。だからお話があるならファミレスの中で話しませんか?」
「え!!じゃあおごってあげるから一緒に食べよう?」
「ああ、ありがとう御坂」
というわけで上条と美琴は二人でファミレスに入り、席に着いた。
上条は朝食セットを頼み、美琴はドリンクだけを頼んだ。メニューを片づけられて食事が来るまで二人は黙ってしまった。
上条は美琴の様子をじっと見た。いつもと変わらない制服姿であったが何故か体をモジモジとさせていた。
顔を赤らめているみたいだしいつもと様子が違うのは明らかだった。
「なあ御坂?」
「どど、どうしたの、当麻?」
「今日どうしたんだ?いつも『アンタ』とかしか言わないのに急に『当麻』って呼んで?」
「え……やっぱり嫌だったかな?素直になってみて当麻のこと『当麻』って呼びたくなったからそうしたんだけど…」
「……いや、別にいいけどよ。いつもツンツンにしてくるからちょっと驚いたんだよ」
「そう…私ね、いつも当麻に逃げられちゃうから接し方変えてみたんだ。そうすれば当麻とお喋りできるかなって思ってさ」
「……そうか」
上条は未だに困惑していたが、何か引っかかっていた。
(素直になる……ツンツンしている……どこかで聞いたような…!!
そうだ!今朝みた夢のことだ!!確か堕天使エロメイドが出てきて御坂美琴を素直にするって言ってたな!!)
上条は夢の内容を思い出した。そして堕天使エロメイド(夢の使い)が最後に言ったことを思い出した。
(最後に確か、呪文はかけましたが俺にもこの呪文の効果を永久のものとするためにしなければならないことがあります。
それは彼女の想いに正直に応えなければなりません。でないと彼女を失意のどん底に堕としてしまうでしょう、
とか言ってたよな?てことはこれは魔術による呪文じゃないのか!?)
上条は(実際は違うのだが)そう解釈した。そしてその魔術を解くための方法を考え始めた。
(俺のイマジンブレイカーを使えば魔術を打ち消せる。問題はどこに触れれば打ち消せるかだ)
上条は美琴の顔をジロジロと覗き始めた。
「えっ!ちょ、ちょっと、どうしたの?」
「いいからじっとしてろ!」
上条は美琴の魔術を解くために探しているつもりだが、美琴にとっては顔をジロジロ見られ恥ずかしかった。
すると上条は美琴の頬がいつもより赤いことに気がついた。上条は美琴の隣に移り、顔ごと美琴に近づけた。
(頬全体を触れば呪文は解けるかな?)
(顔が近い近い近い~~~!!ま、まさかキスでもする気なの!?)
二人とも考えていることは大きく外れているのだが、気づくことはなかった。
美琴は今にも触れそうな上条の唇を見て決心した。
(よ、よし!舞夏にも言われたけど、自分の気持ちに正直になってみよう!当麻は驚くかもしれないけど……)
美琴は目をつぶり上条に特攻した。
ちゅ
(へっ!?!?い、今俺は、な何をしている!?)
唇同士を重ねてキスをしてます。ただ上条にはいきなりのことで頭が付いてこなかった。
約一分間キスを続けてる二人を店内の人々はチラチラと観察していたが、そこに店員の一人が料理を持ってやってきた。
「お客様?料理をお持ちしましたがお後の方がよろしかったでしょうか?」
その言葉に美琴は我に返り周りを見渡した。そしてみるみるうちに顔全体が真っ赤になるとポンッと音がした。
「わわっわわわわわ私は、その、だから、えっと、ふ、ふにゃあああああぁぁぁぁ!!!!!」
美琴は上条をどかして急いで外へ出て行ってしまった。
「み、御坂!!どこ行くんだ!!あっ、すいません!戻して来ますので置いといてください!!」
「は、はい!!あ、あの、がんばってくださいね!」
店員の応援はよくわかんなかったが上条は美琴の後を追った。
美琴はいつもの公園にいた。そしてベンチを見つけると座り込んで顔を覆った。
「ぐすん……せっかく素直になってみたのに何やっているんだろ私……
…当麻の気も知らないであんなことしちゃ、当麻も嫌だったよね……謝りに行かなくちゃ…」
だが美琴は覆った顔を上げる勇気もなかった。当麻に拒絶されてしまうのではないか。そう思うと足がすくんで動けなくなってしまうのだった。
上条は途中で美琴を見失ったが、勘を頼りに公園に着いた。そしてベンチで泣いている美琴を見つけ考えた。
(美琴の様子が変だったのはおかしいが、あのキスは美琴からしてきたんだよな。てことはアイツは俺のこと……)
そして当麻は堕天使エロメイドが言っていたことを思い出した。
彼女の想いに応えなければ、彼女は失意のどん底に行ってしまうことを。彼女の周りの世界を守ると約束した当麻はゼッタイにそんなことがあってはダメだと決めた。
だから上条は勇気を持って美琴に近づいて行った。
「御坂、いや美琴?」
上条は美琴に声をかけた。美琴はビクッと震えた。顔も上げられなかった。嫌われるかもしれない、そう思うと覆っている手もどかせなかった。
「そのままでいいから聞いて欲しい。言いたいことがあるんだ」
当麻は美琴の隣に座ると話し始めた。
「お前のさっきまでの行動、俺は最初なんかに操られているんじゃないかって思ったんだ。だから俺の幻想殺しをあてて正気に戻そうと思ったんだ」
美琴はまだ顔を覆っている手をどかせなかった。
だが当麻は話を続けた。
「でもキスしてわかったんだ、いつものお前だって、いや本当の御坂美琴だって。
お前の素直になった気持ちが伝わってきたんだ。だからお前が本当に俺が好きだっていうのがわかったんだ」
美琴は覆っていた手を外し当麻を見た。いつになく真剣な眼差しで美琴を見つめていた。
「だから俺も美琴の気持ちに応えなきゃいけないよな……お前とはいつもケンカ友達のように接してきたけど今日で終わりだ。
美琴、こんな俺でよければ付き合ってくれないか?お前の素直な笑顔をもっと見たいんだ」
当麻は告白した。美琴が望んでいたシチュエーションではなかったが、美琴の心は歓喜の嵐で舞い上がった。
そして嬉し涙を流しながら、うん、と頷くと素直な気持ちで当麻に抱きついた。
「うわーん、当麻当麻当麻!!!その言葉待ってたよぉー。私も好き!当麻のことだーい好き!!」
「今まで気づかなくてごめんな。お前が素直になって初めてわかったんだ」
「私も自分に正直になれなかったからごめんね!!ホントは好きだったのにツンツン当たっちゃって!」
「心配すんな。そんなことで嫌いになるほど上条さんは冷たくありませんよ」
公園のベンチで素直になった二人は約五分間抱き合ったままでいた。そして今度は当麻から、
「なあ、キスしてもいいか?」
「うん、いいよ」
ちゅ
美琴からの許可を得て当麻は右手で美琴の頭を掴んでそのまま自分の方に寄せた。
先ほどとは違ったキス。同じように見えるかもしれないが二人の感じ方は全く違った。
お互いの唇の形を確かめあうように、お互いの味を調べあうように、二人はたっぷりとベンチの上で愛し合った。
「さて、じゃあファミレスに戻って朝食としますか?」
「うん!さっきはごめんね。ご飯も食べてないのに飛び出したりしたから……」
「いいって!お前を追いかけないで食べてたらのどが通らないって」
「ふふふ、ありがとね当麻!」
美琴は当麻に抱き寄せるように歩いた。美琴の慎ましい胸が時折当麻の腕に当たったが以前よりも気にならなくなった。
二人仲良くファミレスに戻ると店員さん一同揃って拍手をした。当麻も美琴も照れくさかったが悪い気はしなかった。
当麻が出ていくときにエールを送った店員が暖め直した料理とともに、大きめのグラスに入ったジュースと二つに分岐したストローを差し出した。
「朝の一時をごゆっくりと……うふふ」
店員は満足しながら別のテーブルへと向かった。
他にストローが見当たらないので当麻と美琴は一緒に飲むことにした。
「こういうのって相手の顔とか見ながらやるもんだけど、俺が向こうに座ろうか?」
「いい。当麻にくっついてのむの」
当麻の右腕にしがみつくように抱きしめ、頭を当麻の肩に預けた。
相当箍が外れたようで、すっかりツンデレキャラからデレデレキャラに生まれ変わった。なんかもう可愛くて抱きしめたい、当麻は素でそんなことを思った。
そこで、そうだ、と当麻は閃いた。
「美琴、これ食べ終わったら家に来ないか?昨日話そうと思ってた餅つきパーティーのこと二人で計画しよう」
「えっ!?そ、そうね!パーティーのこと考えるんだし当麻の家で話し合わないとね!」
要は『お持ち帰り』というわけだが美琴は全然OKだった。
「よし、じゃあ二人で最高のパーティーを考えなくちゃな!」
「うん!!私、今日はずっーと付き合ってあげる!二人でがんばろ、当麻!!」
当麻は朝食を食べ終え、美琴と一緒にファミレスを出た。そしてこのいちゃいちゃカップルは当麻の部屋へと向かった。
餅つきパーティーと二人のこれからのことを話し合うために。
その後、年が明けて三日目、イギリスから天草式特性の臼と杵を持って神裂や天草式のメンバー、ステイルや清教のシスター達が来て、
さらに上条の高校のクラスメイトや常盤台のお嬢様方、初春、佐天、固法、打ち止めを連れた一方通行とグループの皆さん、
妹達を代表して10032号と19090号、番外個体を招待して大餅つき大会が開かれた。
そこで甘酒で酔っぱらった美琴が計画してたときに当麻と二人でしたことをカミングアウトしてしまい、
さらに土御門舞夏がファミレスで起こったことから告白するところまでを納めたDVDが上映され、当麻が招待客からド派手な制裁を喰らったのはまた別の話。