End of lover relation
「ア、アンタ…それ、本気で…言ってるの?」
大雨の振る中、美琴は震えたような声で上条に尋ねた。
ここは美琴がいつも上条を探したり、自販機を蹴ったりしていた美琴にとって思い出深い公園。
今この公園には美琴と上条だけしかおらず雨音しか聞こえない。
そして上条は美琴の問いかけに対し
「ああ、本気だよ。今日で俺とお前の恋人関係は……終わりだ。」
静かにそう告げた。美琴にはその声がいつもより低く、冷たい声のように感じた。
上条は傘をさしているため顔は隠れておりどんな表情をしているのかはわからない。
この日の夜空に星が見えることはなく、土砂降りの雨は止みそうにもなかった―――
◇ ◇ ◇
『美琴、今日遊園地に行かないか?』
「はい?」
この日の朝、学校に行く準備をしている最中の美琴に一本の電話がかかってきた。
電話の相手は大好きな彼氏、上条当麻。朝から上条と会話ができるとなると嬉しくて仕方がない。それに最近は中々会えていないので嬉しさは倍増する。
現在美琴は高校3年生、上条と想いが結ばれてすでに3年が経っていた。
「えっと……電話してくれるのはすっごい嬉しいんだけどさ、もう1回言ってくれない?」
『だから遊園地行こうぜ!遊園地!』
電話といってもお互いに少しでも顔が見たいということでいつもテレビ電話で会話をしている。12インチの小さなテレビには嬉しそうな表情の上条が映っていた。
そして上条は持っていた財布から遊園地のペアチケットを取り出して嬉しそうに見せてきた。
『ほら、ちゃんとチケットもあるんだぞ?これは行くしかないだろ!』
「あのね……アンタわかってんの!?今日は平日よ!?学校があるから無理に決まってんでしょ!」
今でも少し動揺したりすると美琴は上条のことを『当麻』ではなく『アンタ』と言ってしまう。
美琴はわざわざ携帯のカレンダー機能を使って上条に今日の曜日を見せつけた。
だが上条はそんなことを気にも留めない。
『でもこのチケット今日までなんだぜ?1日くらい休んでも大丈夫だって!それに俺は今日仕事休みだしな。』
上条はそう言って画面の向こうでぴらぴらとチケットをなびかせている。
ちなみに上条の仕事はというと高校卒業と同時にとある企業に就職、だがその企業は学園都市の裏に関わる仕事を多く行っており高校時代と同じように平和のため戦う日々が続いている。
正直なことを言うと行きたい、上条と遊園地に行きたくて仕方がない。
だがそう簡単に学校を休んでいいわけがない。
遊園地をとるか、学校をとるか、美琴は悩んだ。
そして―――――
『で、どうするんだ?行くのか?行かないのか?』
「…………行く…」
結局欲望に負けた美琴は2文字で返事をした。
そし朝食を早々と平らげ遊園地へ行く支度を始める。
(遊園地かぁ……久しぶりだな……)
学校を休むのはいけないこととわかるが内心嬉しくて仕方がない。
美琴は鼻歌まじりで支度を進めていった。
この時はまだ、上条があんなことを言い出すなんて思ってもみなかった―――――
◇ ◇ ◇
「お~!やっぱ平日は空いてるな!」
遊園地に着いた上条の第一声はそれだった。
確かに空いている。これならどんなアトラクションもほとんど待たないで楽しめそうだ。
「ほんとね。……そういやさ、この遊園地で初デートしのよね。」
「おお、そうだぞ!後で覚えてるか聞こうと思ってたのに速攻でわかるとは……本当に上条さんのことを愛してくれてるんですねー。」
上条はにやにやとこちらを見てきた。美琴にはそれがなんだか悔しかった。
「よし!じゃあ早速何か乗ろうぜ!何か乗りたいものあるか?」
「えーと……じゃあね…あれ!あのジェットコースター!!」
「……い、いきなりですか…」
上条は正直ジェットコースターが苦手だ。
当然美琴はそれを知っているのだがちょっとした仕返しだ。
そして美琴は上条の手をひっぱり半ば強引にジェットコースター乗り場へと向かった。
数分後、遊園地に一際大きい絶叫が遊園地に響き渡った。
そして美琴は上条と思う存分遊園地を楽しんだ。
2人でコーヒーカップに乗ったり、いろんな絶叫マシンに乗ったり、お化け屋敷や、ゴーカートなど次々にアトラクションを回って行く
普段ならこんなにたくさんのアトラクションを楽しむことはできないだろう。
だが遊び始めてすぐに美琴はあることに気づいた。
(……な~んか隠してるわね、やたらそわそわしてるし明らかにおかしいじゃないの。)
おかしい、というのはもちろん体調がではなく態度だ。
明らかに何か隠し事をしているのだがもちろん美琴にはそれが何かはわからない。
そこで美琴がとった行動は
「ね、次はあれ乗ろ!ほら早くっ。」
「おう!」
上条の隠し事について全く気にしないということだった。
隠れて調べることもしなかったし上条に直接聞いたりもしなかった。
ではなぜそれをしなかったのか。
理由は簡単、美琴は上条を心の底から信用しているからだ。
たとえ隠し事をしていようがそれが自分を悲しませることでは絶対にない。今ではそれはわかりきったことだ。
だから上条は何か別のことで隠し事をしているのだろう、そう美琴は考えていた。
そのため美琴は上条に対し何も追求もしなかった。
(それにそんなことを気にするより楽しまないとね♪)
そして美琴は上条と腕を組んで別のアトラクションへと足を進めていく―――――
◇ ◇ ◇
現在の時刻は3時ジャスト、お昼ご飯を食べてから2時間半ほどが経過したということもあり2人はおやつにソフトクリームを食べていた。
上条の怪しい振舞いは少し治まったし美琴としてももう気にならなくなっていた。
「ね、ね、これ食べ終わったらここに言ってみない?」
「お!いいなそれ……ん……?少し曇ってきたか?」
上条の言葉を聞き空を見上げると西のほうから雲が広がってきていた。
といってもまだまだ雨が降り出すような様子ではない。
「ほんとね、帰るまで降らないといいけど……」
「ああ。降るといろいろめんどうだしな。」
だが2人の思いとは裏腹に午後6時を少し回ったところで雨が降り始めた。
降り始めはたいしたこともなかったが1時間も経つと本降りの雨になってしまった。
「うわっ……結構降ってきたわね……」
「不幸だ……」
室内型のアトラクションの建物から出て来た2人はあまりの大雨に驚いた。
幸い折り畳み傘なら持ってきているが最低限濡れないようにしかできないだろう。
「どうする?こんな雨だしもう帰る?」
美琴としては今日はもう思う存分楽しんだのでここで帰っても悔いはない。雷も鳴っているしこれ以上雨がひどくなれば傘の意味がなくなりそうだ。
「いや……その、最後に観覧車……乗らない?」
なぜかわからないが上条はとぎれとぎれ尋ねてきた。
観覧車、そういえば今日はまだ乗っていない。
現在の時刻は7時半、雨は降っているがこの時間ならきれいな夜景が見れそうだ。
「そうね、せっかく来たんだし乗ろっか。」
「よ、よし!じゃあ行くか!」
上条は何やら落ち着かない様子で美琴の手を引っ張る。
そして観覧車の前に到着したのだが……
「え、営業停止中!?」
「ええすいません……先ほどの雷で機械がおかしくなってしまって……」
従業員は申し訳なさそうに謝ってきた。
どうやら中にいた人はすでに全員助けられたようだが今日はもう動かないらしい。
「そうですか……残念だったわね当麻。」
「あ、ああ……」
上条もとても残念そうにつぶやいた。
◇ ◇ ◇
美琴と上条は遊園地のある学区から第7学区へ戻ってきていた。遊園地のある学区とは違うがもちろんのごとくここも強い雨が降っている。
さらに不幸なことが起きた。なぜか駅から家の近くまで走るバスがこないのだ。そのため2人は歩くことになった。
行き先は美琴の寮、上条は送ってくれた後に自分のアパートに帰るらしい。
(ま、これで当麻と少しでも長く一緒にいられるからいいんだけどさ、問題なのは……傘よね。)
美琴としては相合い傘がしたかったのだが折り畳み傘しかないのと雨が強過ぎるということで2人は別々に傘をさしている。
これが美琴としては残念で仕方がなかった。相合い傘でないと上条の側にいられないし結構話しづらい。現に傘をさして歩き始めてからからまだ一言も話してない。
だから美琴は少し大きめの声で隣にいる上条に向かって
「最後は残念だったけどすっごく楽しかったね!」
「ん?ああ……」
上条は美琴に対して微妙な反応をした。
観覧車に乗れなかったことがそれほど残念なのだろうか。
(まあ観覧車っていったら恋人同士で乗る定番だけど……ここまで落ち込まなくても…)
美琴は苦笑いをした。
その後美琴の寮に着くまではたわいもない会話をしていた。最近の学校のこと、上条の仕事のこと、どれだけ話しても話題が尽きることはなかった。
そして数十分後、『あの』公園を通ることになった。
「あー、この公園久しぶり、最近はここへ来ることもなくなったもんね。そういや私この公園で告白されたんだっけ?」
美琴は軽く上条をからかった。
その美琴の言葉に対して上条は笑いながら言い返してくる。
―――――はずだった。
「……なあ美琴…」
「ん?」
その声は後ろから聞こえてきた。いつの間にか上条が後ろで止まっていたようだ。
そのため美琴は後ろを振り返ったのだがその瞬間不安に襲われた。上条は先ほどとは一転してなぜか真剣な表情をしている。まるで別人のように。
「え……ど、どうしたの…?」
「……あのさ、今から言うことは全部嘘じゃなくて本当のとこだ。だから真剣に聞いてくれ。」
美琴は空気が冷たくなったように感じた。
雨せいではない。上条がこの雰囲気を作ったためだ。
「驚くかもしれないけどさ……」
そこで上条は一旦言葉を切り間を空ける。
何か仕事で悪いことが起きたのか、不安は1秒経つにつれて大きくなる。
この少しの間は美琴にとってなぜか永遠のように永く感じられた。
そして―――
「今日で……俺たちの恋人関係を終わりにしないか?」
「え―――――」
今上条はなんと言った?
この大雨で聞き間違えたのだろうか。いや上条の声を聞き間違えるわけがない。
「ア、アンタ…それ、本気で…言ってるの?」
嘘だと言ってほしい、お願いだから今のは間違いであってほしい。美琴は心の中で祈った。
だが上条はそんな美琴の祈りを打ち砕く。
「ああ、本気だよ。今日で俺とお前の恋人関係は……終わりだ。」
「そ、そんな……」
幸福の絶頂から奈落の底に突き落とされた。
それと同時に雨が強くなった。まるで美琴の感情を表すかのように。
美琴はパニックに陥った。冷や汗が止まらない。全身が震える。
なんで、どうして、何か自分に落ち度があったのか、疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消えということが繰り返えされた。
だがパニックだからといってこのまま黙っているわけにはいかない。このままでは何もわからないまま最悪の方向に話が進んでいってしまう。
「あ、アンタは……アンタは私と恋人なのが嫌……なの?私は一生恋人同士でいようと思ってたのに……アンタはそう思ったことはないの?」
パニック状態に陥りながらもなんとか口を開き美琴は震える声を絞り出すように尋ねた。
それに対し上条は冷静な声で
「……今だから言えるけど俺は今までお前と一生恋人同士でいようと考えたことは1度もない。」
「嘘―――――」
―ズットコイビトデイヨウトオモッタコトハナイ……?
「嘘じゃねぇよ。最近は特に今の関係を一刻も早く終わらせたかった。」
―ソンナ……ワタシハシンジテイタノニ……
「それで、だ。もう俺たちも付き合って3年経つしさ、」
―ドウシテ?ドウシテアナタハワタシヲウラギッタノ?
「もういい加減いいと思うんだ。」
―ダメ、ソノサキヲワタシガキケバワタシハコワレテシマウ、クルッテシマウ、キエテシマウ
「美琴、だから―――――」
―オネガイ!オネガイダカラソノサキハイワナイデ―――――
その刹那、美琴の感情に共鳴したかのように雷が少し離れたところに落ちた。それとほぼ同時に轟音が響き渡る。
当然上条が言おうとしていた言葉も聞こえない。
雷の轟音が治まると再び公園に静けさが戻った。静寂、雨音以外何も聞こえない。
美琴は今すぐこの場から逃げ出したかった。一刻も早く上条と離れたい、そう思った。
と、上条はさしていた傘を少し動かして空を見上げた。
「……やっぱり俺は不幸だな……ま、わかりきってたことだけどさ。」
静寂な世界を上条の声が切り裂く。そのとき、一瞬だが傘で隠れてしまっていた上条の顔が見え、またすぐに隠れた。
その一瞬の際に見えた上条は微笑んでいた、いつもの優しい上条の表情だったのだ。
そんな上条を見て美琴は少し落ち着いた。冷や汗は止まり、鼓動も落ち着いてきた。
すると上条は空から美琴に視線を移動し目を合わせた。また真剣な表情に戻ってしまっていた。
そして依然として真剣な表情のまま上条は
「なあ美琴、美琴は俺と一緒にいて楽しいか?幸せか?」
「そんなの楽しいし幸せに決まってるじゃない……」
なぜそんな当たり前のことを聞くのだろうか。一緒にいて楽しくないわけがない。幸せでないはずがない。
美琴にとって上条こそがすべてなのだから。
「そうか……じゃあさ、4年前の偽デートのこと覚えてるか?ほら海原の…」
もちろん覚えている。上条との大事な思い出を忘れるわけがない。
美琴は小さくうなずいた。
「美琴は知らないと思うけどそのとき俺は海原のやつと約束したんだ、御坂美琴とその周りの世界を守る、ってな。」
「あ………」
本当は知っている、そう言おうかと思ったが美琴は黙って上条の話の続きを聞く。
「そんで俺は美琴と付き合うことになったときこの約束を絶対守ろうと思った。命にかえても、だ。」
上条の言葉に力が入ったような気がした。表情も真剣なままだ。
「でも俺はある日気づいた。美琴は俺といて幸せになれるのか、俺の不幸体質のせいで守るどころか逆に傷つけちまうんじゃないかって。そう思うようになったんだ。」
「ッッ!!?」
(まさか不幸体質で私が傷つくことを怖がって……別れたがってるの……?今日遊園地に行ったのは最後の思い出作りのためだったとか……?)
「俺のせいで美琴が傷つくくらいなら別れたほうがいい……」
そんなことない!美琴は今すぐそう叫びたかった。
だが怯えからか言葉がでてこない。口は開けても何もしゃべれない。
(お願い!少しでいいから出て!私は別れたくない!!)
必死で言葉を出そうとするがどうしても出てこない。代わりに涙がこぼれそうになる。
すると上条は何とも言えないような難しい表情で
「―――――そう思った……こともあった。」
降っている雨が、少し弱まった。
(え…そう思った……『こともあった』……?……じゃあ今は…?)
今の上条の言葉が気になる、それはどういう意味なのか。一刻も早く続きを聞きたい。
美琴の鼓動は加速を始める。
「……でもそれじゃダメだ、もし美琴に何かあったときすぐに駆けつけてやれなくなる。」
そして上条は公園を見渡す。
「俺はあの実験を止めることができて本当に良かった、だって美琴を守ることができたんだから。守ることができたから今大好きな美琴とこうして一緒にいられるんだからな。」
「大好きな……」
もう美琴には上条が何を言いたいのかさっぱりわからなかった。
上条は別れたがっているのかこれからも付き合っていたいのか、付き合っていたいのなら先ほどの『恋人関係の終わり』という言葉はおかしい。
だが別れたがっているならなぜ今『大好きな』などと言ったのか。
考えがまとまらず混乱している美琴を前に上条は話を続ける。
「美琴、俺は不幸体質だ。だからいつどんな危険にさらされるかわからない。その危険に美琴を巻き込んじまうこともあるかもしれない。でも……それでも俺は美琴と一緒にいたい。今よりもっと美琴を愛したいんだ。」
「え……それって………?」
まさか、と美琴は思った。今の言葉から1つ、上条が言いたいことが連想できた。今自分が連想したことをありえないとも思った。
だがもし美琴が連想したことを本当に上条が言おうとしているのならば―――――
美琴の鼓動はさらに加速する。ドクン、ドクン、と命の音がはっきりと聞こえる。
「美琴……いや、御坂美琴さん。俺、上条当麻は生涯あなたの側で、何が起ころうと必ずあなたとあなたの周りの世界を守り続けます。だから―――――」
上条は美琴に優しく微笑んだ。その笑顔がすべての不安を吹き飛ばす。
美琴の鼓動の速度は限界に達し、胸が熱くなる。まさか、本当に……?
そして―――――――――
「―――――俺と結婚して、上条美琴になってくれませんか?」
雨が、止んだ。
止みそうになかった、土砂降りの雨が。
「……あ……あぁ……と、ま…」
言葉にならない。呂律がまわらない。思考が追いつかない。
そんな中ただ1つ、膨大な感情がわき上がってくる。
嬉しい―――
今まで生きてきてこんなに嬉しいことはない―――
なのに―――
どうして―――
こんなにも―――
「み、美琴……?泣いてる…のか…?」
涙が止まらないのだろう―――
上条が尋ねた通り美琴の頬を大粒の涙が伝う。その涙は雨と入り交じり地面に落ち、どこかへ流れていった。
もう我慢できない、この感情を抑えきれない、抑えたくない。
「美琴!?」
美琴は傘を放り投げ勢いよく上条に抱きつき大声で泣いた。止んだ雨が美琴から代わりに出てくるというほど泣いた。
嬉しいとこんなにも泣けるものだとは知らなかった。
美琴の美しい鳴き声は静かな公園内に響き渡る。
「う、うぁ、あ、んた!まぎっ、らわし、いの、よ、恋人関、係の終わっ、り、とか、今のっ、関け、いを、終わらっ、せた、い、とか……別れ、話かとっ、思っ、たじゃ、ないの!!!」
「ご、ごめん……俺も、その、かなり緊張してたからところどころ考えてた言葉がとんじゃって……」
美琴は上条の胸の中で泣きながら叫んだ、あれだけ不安にされたのだから無理はない。
嬉しさと別れ話でないことに安心したことで溜まっていたものが全て溢れ出しているのだ。
そんな美琴を上条は優しく抱きしめていた。
それから数分後、美琴は上条から離れた。上条の服は雨と美琴の涙でびしょびしょになっている。
「ごめん、その……つい…」
服を濡らしてしまったことと少し強い口調だったことに対して上条に謝った。
「いや、俺も悪かったよ……『恋人関係の終わり』ってのは『夫婦の関係になろう』ってことだったんだけど……ごめん、さっきも言ったけど緊張のあまり言葉がとんでた…」
上条は申し訳なさそうに誤ってきた。
だが美琴は自分に対して腹立たしかった。
上条は裏切るはずがない、そう上条を絶対的に信用していたはずなのに別れ話だと思ってしまったからだ。
当然美琴に非はない、どちらかといえばあれは言葉をすっとばした上条に非がある。だがそれでも上条を疑った自分が嫌だった。
そして上条は不安そうな表情で
「あの、美琴……それで…返事は……?」
上条の問いかけに美琴は我に返った。上条が待っている、早く返事をしなければ。
もう返事は決まっているのだから―――
「……ねぇ当麻、当麻は覚えてるんだよね?4年前の夏、あの悪夢のような実験から私を救ってくれたことを。」
「そりゃ……まあな…」
「あの日、私は当麻に助けてもらえなかったら今この世にはいなかった。『妹達』を守るために死んでいた。でもそんな私を命がけで助けてくれた……この……右手で……」
美琴は上条の右手を両手で優しく包み込む。数々の事件を解決し自分を守ってくれた右手は、大きく、暖かかった。
「私はあの夏を境に私の頭の中は当麻でいっぱいになった。だから偽デートできた時は嬉しかったし、大覇星祭の罰ゲームで途中で終わっちゃったのは悲しかった。そして私は当麻をどんどん好きに、大好きになった。今では私の心はすっかりあなたのもの……私はもう当麻なしじゃ生きていけない。当麻が私の側からいなくなったら私は死んでしまう…だから……」
美琴はもう1度深呼吸をしてから右手を握る力を強め、視線を上条の顔に戻す。
そして―――――
「だから、私からもお願いします、私を上条美琴にしてください。そして、生涯あなたの側にいさせてください―――――」
同時に視界が歪んでいく。
しかしこれ以上泣いている姿を見せたくないので必死に我慢するが今にも涙はこぼれそうだ。
と、その歪む視界の中で美琴は上条がこちらを見ながらも空いている左手でポケットをゴソゴソと探り1つの小さな箱を取り出しそうとしているのがわかった。
(え……まさかあれは……)
「美琴、順番が少しおかしいかもしれないけど……受け取ってくれ。」
そう言って上条から差し出されたのは小さな箱、美琴は上条の右手を手放し両手でその箱を受け取る。
だいたいの察しはついている。この状況で彼氏から渡される物といったら1つ。
美琴がゆっくりとその箱を開けるとそこには―――――
「わぁ………すっごくキレイな指輪……」
光り輝く1つの指輪、そう結婚指輪だ。
「ほんとはプロポーズした直後に渡そうと思ったんだけどいいタイミングがなかったからな。俺はまだ安月給だから大した指輪じゃないけど……受け取ってくれるんだよな?」
「そんなの当たり前じゃない……ありがとう当麻……」
「じゃあ……」
すると上条は右手で指輪を手に取ったかと思うと左手で美琴の手をとり、指輪をはめた。
「あ……」
「これで……本当に上条美琴だな。」
上条は笑顔で微笑みかけてきた。
また涙がこぼれる、さっきから我慢していたがもう無理だった。真珠のように光る涙は再び美琴の頬を伝う。
「美琴、今日はよく泣くな。」
「だ、だって嬉しすぎるんだもん!これだけ嬉しいのに泣かないほうがおかしいわよ。」
「そんなに俺と結婚できることが嬉しいのか?可愛いなー美琴。」
「ッ!?………う、嬉しいわよ!!ダメなの嬉しかったら!?それともアンタは嬉しくないわけ!?」
「うおっ!恥ずかしいからって電気出すな!俺も嬉しいに決まってんだろ?この時をどれだけ待ったと思ってんだよ。」
上条は電撃を右手で打ち消すとそのまま美琴を抱き寄せた。
「わっ、ちょっと急に……」
大好きな彼からの抱擁、美琴は今まで何度も抱きしめてもらっていたが今が一番心地よく感じた。
この心地よさは上条といる時にしか絶対味わえない。
(今度こそ……もう二度と疑ったりしないんだから……)
美琴は心の中で密かに誓い、上条の背に腕を回し抱きつく力を強めた。
すると上条も美琴を抱きしめる力を強め、
「美琴、プロポーズを受けてくれてありがとう。俺は……この世で1番の幸せ者だ。俺が美琴を絶対に幸せにしてやる。だからずっと俺の側にいてくれ。」
「……うん…私は当麻に一生ついていく、何があっても、絶対に。それに当麻に幸せにしてもらうだけじゃなくて私も当麻を幸せにしてやるんだから。」
「ははっ。美琴らしい答えだな。………本当にありがとう美琴…愛してる。これからも一生な。」
「私もよ、当麻……大好き……」
そして2人は顔をゆっくりと近づけ、満天の星空の元、誓いのキスを交わした。
この日いつもと同じ1日を送るはずだった1人の少女は、大好きな彼によって世界で1番の幸せを手に入れることができた。
御坂美琴は、いや、上条美琴はこの日を一生忘れない。未来永劫この日の出来事を胸に刻んで生きていく―――――
◇ ◇ ◇
「もしもし?上やんか?」
『お、ようやくでたか、さっきはありがとな土御門。助かったよ。』
「あれくらいどうってことないぜよ。急にメールで『バスを止めてあの公園を閉鎖してくれ』って言ってきたのはびっくりしたけどな。それで……うまくいったのか?」
『おう!もちろんさ!美琴のやつすっげー喜んでくれたよ。ほんとは観覧車でプロポーズしたかったんだけど、まあ成功したんだし文句は言えねーな。』
「そりゃよかったにゃー……にしてもよく公園でプロポーズしようなんてとっさに思いついたな。」
『俺をなめんなよ?不幸だってことは自覚してんだから10通りのプロポーズ場所と10通りのプロポーズの言葉は考えてあったんだよ。正直雨の中美琴を歩かせたくなかったけど絶対に今日プロポーズしたかったしな。』
「……さすがだ上やん、でもなんで今日プロポーズしたんだ?今も“今日絶対プロポーズしたかった”って言ったし。わざわざ超電磁砲を学校休ませてまで……何か意味はあったのかにゃー?」
『そりゃあるに決まってんだろ?なんたって今日は……』
「今日は?」
『3年前に俺が美琴と最初にデートした日なんだ!だから同じ日に同じ場所でプロポーズしようと思ったんだよ。お、もう美琴が来るみたいだからまた明日な、それじゃ。』
「切れた……よく3年も前のこと覚えてるにゃー。まあそれだけ超電磁砲のこと好きなんだろうけどさ……さて、今日のこともあるし明日は上やんにめんどくさい仕事でもしてもらうぜよ。」
―THE END―