時空監理局は各世界のバランスを守る為、旅行に行く世界の安全度の判断、
オブリビオンの討伐、メイドウィンとの帳尻合わせやキャラクターの精神異常など危険な状況のチェックなど意外と見えないところで多大な苦労をしている。
それを助けてくれる、まさに神に等しいアイテムが『
はじまりの書』メイドウィンが世界の管理の為に与えられるこれには物語の全てが載っており書いてあることに従うだけで100%正確に書いたままの結末へと迎える。
時空監理局局長である
シャドー・メイドウィン・黒影は、メイドウィンの始祖並びに時空の全てを救う者として総勢数え切れないほど、恐らく億を超える数のはじまりの書を全て保管している。
本の中に時空の全てがある、しかしただ本に従えばより良い先の未来になるとは限らない。
局長室の裏にある秘密の部屋、そこに巨大な書庫がある。
基本誰にも見せない、黒影も本来は存在を明かさない秘密の場所……。
実は、
たくっちスノーもこの部屋で生まれている。
ポチこと黒影の影武者として駆り出された『
黒影もどき』は、黒影に招かれる形で初めてご主人以外にこの部屋に訪れた存在になる。
「凄いな……図書館の1枠にしか見えないけど、これ全部はじまりの書?ここそれぞれに世界の全部が……」
「たま〜に掃除するのが面倒だけどね、大事な部屋だよ」
「しかしなんで俺をここに?メイドウィンやたくっちスノー君にすら見せないって言うくらい相当なものなのに……あれちょっと待って!?この本とこの本集合性ない!ああもうバラバラに置いたでしょ!俺そういうの気になっちゃうからちょっと掃除させていただきます!」
5分後、書庫はあんなに山程本があったのに作品や世界観、細かい要素などでしっかりジャンル分けされてどこにどういう世界の本があるのか分かりやすい形となっていた。
黒影はゲームのカセットとかややこしくセットしちゃうタイプらしいし、基本はじまりの書を取り出すことはないので並びがバラバラでも気にしてなかったが多分たくっちスノーも同じ事をやってたかもしれない。
気が付けばポチも既にへとへとだった。
「あのねーポチ、一応ありがたいっちゃありがたいけとさ用件が違うんだよね」
「そりゃそうだよね個人でやっただけだから……それでえっと、わざわざ副局長のたくっちスノー君でもなくただ顔が似てるだけの俺をこの秘密の部屋に誘ってくれたの?」
「それはもちろん俺の仕事を手伝ってほしいからだよ、俺は基本的にこの局長室の裏にあるこの部屋ではじまりの書の研究したり管理するのが俺の本当の役目さ」
「うわ、結構本格的に局長っぽいことしてる!表向きは俺達に変な事業押し付けたり5分で資料片付けたりしてサボってるやつって思われてるのがもったいないくらいに!」
「……俺、時空監理局で部下にそんな風に思われてるの?」
こんな大事な仕事をどうして周りに明かさないのか気になるくらいだが、ポチは奥深くにある研究資料に目を通して秒で理解する。
はじまりの書を読むことは出来ないし知識もない、しかし研究所で話を聞くだけ聞いていたポチは黒影のやっていることがとてつもなく危険であることは分かる。
研究テーマは『物語のルート変化』について。
「る……ルート?」
「そう、はじまりの書は基本的に書いてある通りに進められるけどね、やり方を変えると全く別のルートに進む、何百通りでも何千通りでも色んな物語や結末があってそれを模索してるんだ!」
「え!?いやそれってとんでもないこと言ってるんじゃ」
「俺もメイドウィンがはじまりの書に従わないのは許容してるからね、研究に関しては単なる好奇心」
ここで物語であんなことが起きれば、彼がこうなればルートはどこまで変化するのだろう?
本を広げていくだけでまるで蜘蛛の巣のように矢印が広がっていき、全く違う物語へと作り変わっていく。
なんて面白い、なんて愉快なのだろう。
黒影が紐を引っ張るとホワイトボードが降りてきて、書き殴られた痕跡のルート表記が記されている、どうやら『魔人探偵脳噛ネウロ』の痕跡らしい。
「ブックマークって知ってる?」
「俺は未だに『お気に入り』って呼んじゃうんだよね……名前で大方察しはつくけど、保存しているわけ?思い付いたルートを」
「そうそう、全く異なる展開になって面白そうと思ったらブックマークを付けている、そして触れればそのルートまで一気に上書きできる!という寸法さ、表向きは
リセットということになってるけどね」
「り……リセットて、普通メイドウィンの権限無視してそれをやるのもまずいんじゃないの?」
「まあ生半可にはいかないよ、だから密かに実験してるわけだし」
ポチは精密に作られたネウロ世界のはじまりの書のルートを確認する。
普通に読んだら情報量で
マガイモノでもただではすまない、ここに残っているものも歴史の断片に過ぎないが黒影の軽い選択を眺めていると苦労の念が伺える。
数えていくとおよそ15ルートぐらいは分岐しているのが見える、本来の『新しい血族』『6番目の進化生物』の悪意を突破したネウロ達のルートを除くと色んな転換点がある。
怪盗Xと弥子に血縁関係があったり、魔界に送り込まれたり……とても口に出せないような残虐な展開になったりもした。
「黒影一体どうしたの?15ルートも作れるなんて……」
「単純に選択肢を思い付いて実行しただけだよ、でもなあ……俺はちょっとそれに失敗したのかな、40ルート考えていたんだけどネウロに勘付かれて警戒されてルート変更も上手くいかなかった」
「えっ」
√が止まった理由は主人公に怪しまれたから、それだけ聞いただけでポチは嫌な予感がしたので逃げ出そうとするが腕が伸びて捕まる。
どうやら完全に罠だったらしいがもう逃れることはできない、これたくっちスノーだったら詰んでたやつだ。
「ねえ君ってイベントを自由に作れる道具を持ってるんだろ?実験に付き合ってくれよ」
「いやいやいや俺のやつはまだ試作段階でろくに使えないし!というかネウロに怪しまれるって十中八九ヤバイ手を使ったとしか考えられないんだけど!?」
改めてルートや分岐点を元にどんな話へ移ったのか創作者として考察してみると、とても危ない手段を使用してネウロや弥子の未来をとんでもない方向に進ませたとしか思えない。
もしかして黒影、ルート研究の為になかなか危険な事に足を突っ込んだりしていないか?仕事に付き合う前にミリィに伝えるためにも正確な情報を確保するべく質問を増やしていく。
「ねえ……えっとその、それっていつからやってるの?」
「余裕でたくっちスノーが副局長になる前からだね、といっても殆どルート研究は思いつく量に達してないんだけど」
「まあそんな気はしてる……それで本題、俺どうしてほしいの?エロい男連れても悪化するだけだよ?」
「それ含めても実験なんだけどさ、ほらこんなにいっぱいあるからどれから手を付けようか分かんなくなっちゃって、ポチに次に研究する世界を決めて欲しいな♡」
「なるほどそういうことか……というか俺が呼ばれた理由って十中八九それだね……うーん」
見渡す限り本、本、本。
一つ一つがタイトルであり物語を選ぶようにポチが駆り出されたわけであり頭を掻きながら本棚を見ていく。
あまりにも数が多いので特に決まらずこっちに押し付けた形だろう、黒影は晩御飯何にする?と聞かれたらなんでもいいと答えるタイプなのでしょうがない。
まあ飲まず食わずでも死なないので本当に晩御飯に水一杯出されただけでも満足して済ませてしまうのが黒影だ、多分家に招かれても食事風景とかクソつまんなさそうとド偏見を重ねながら考えるが実際本が多すぎて見当がつかない。
「これ同人誌作るのとは訳が違うもんな責任が違いすぎる……いや同人誌も一応責任とかあるけどね?世界そのもの作り変えちゃったらどこに謝ればいいわけ?……あっ、これだ!」
ポチが見つけたのは近頃大人気の漫画『鬼滅の刃』のはじまりの書だった、しかし黒影の反応はどうにも不思議そうな反応だった。
「ずいぶん珍しい作品を選んだね、君のことだからもうちょっと女の子の多い作品とか選ぶと思ってた」
「いや仕事とプライベートくらいは両立するし、鬼滅ってそんな珍しくないよ!
リアルワールドでも大人気!」
「俺はこういう感性がおじいちゃんだから流行りに乗っかれないんだよね〜でも面白そうだ、ルート研究に乗り出すか」
黒影はポチから鬼滅の刃の本を貰うとトロッコで一気に最奥部まで飛び出していき終点にある大きな装置に本を差し込むと物々しい音と共に異質な色の
時空の渦が作り出される。
どう考えても普通の世界に繋がるとは思えないが黒影は普通に入ろうとするのでポチは全力で引き止めて説明を要求すると、どうやらこの装置は大昔に黒影が作った……という設定の移動装置で、この中にはじまりの書を入れると仮想空間に入る、つまりいくらでも実験し放題というわけだ。
更にブックマークしたルートは元の世界でも引き継がれるという。
それでも何故『魔人探偵脳噛ネウロ』の世界では勘付かれて途中でルート捜索を切り上げたのか?に関しては何も言ってくれなかった。
「ここでなら何でもやりたい放題、実験仕放題だ、俺はこの空間の事を無空と呼んている、結局のところ全部無に還るからね」
「無空か……それにこの設備相当手が込まれてるよな、確かに頻繁に使ってそうな痕跡だらけだ」
ポチは黒影がすぐ近くにも関わらず写真を撮って資料にする。
エロの規制や没収の魔の手から逃れてきたポチは一周回って違法物を堂々と隠したり回収したり出来るように強かに成長している、多分凄くないし誇らしくもない。
しかし現在は『無空』という黒影しか知り得なかった現象を前にポチの行動は研究所に多大な貢献となる。
「……あっそういえばなんだけどさポチ、俺肝心なこと言うの忘れてた」
「えっもしかして無空にデメリットとか!?俺たちの生死に関わること!?」
「俺、『鬼滅の刃』のストーリー何も知らんかった!」
「そっちか〜い!!」
いかんせんいっぱい本があるだけにストーリーとか全く分かっていない。
謎のゴッドイベントという現象に対抗する上で本編内容を知っていくことになる必要があるのに黒影はそれらを全然覚えてない、そりゃネウロの方もだいぶ変なことになるはずである。
ポチはこの仕事が終わったら黒影に読み聞かせでもしてあげようと強く決心した、本に触れるうえで物語にある程度は触れておきたい。
黒影を時空に入れる前に一通り情報を頭に入れさせることにして黒板を用意する、鬼滅の刃くらいなら情報はどこからでも飛んでくる。
「まず聞いておきたいけど無空における俺たちの立場は?」
「さあね?その場で決めてるから」
「門矢士だって2秒で把握してるんやぞ……!まあいいよ俺も後で考えるから!んで、まずこの子が鬼滅の刃の『主人公』である竈門炭治郎くんね」
「あっコイツ知ってるぞ(確か3週目だと狼に食われて終わったやつだな)」
炭治郎及び竈門家は山奥で平穏に過ごしていたが、ある時鬼に家族を皆殺しにされて残った妹の禰豆子も鬼になってしまう。
炭治郎は鬼の長であり始祖の『鬼舞辻無惨』を討ち、禰豆子を人間に戻す為に長い旅と戦いに足を踏み入れることになる。
ポチから見ればこの世界のコンプリート条件は『鬼舞辻無惨の討伐並びに禰豆子の復活』であるが、結末の訪れない世界では一体どのような展開になっていくのか分からない。
それにここに来るまでに数々の苦難や仲間や敵もある。
黒影ははじまりの書を読みながらポチに原作の話を聞くと『あーここゴッドイベントだ阻止したいわ』って何回も言うので凄く鬱陶しい。
「ルート的には炭治郎が【ピー(リアルワールドへのネタバレ規制)】はヤバいけどなんとか終わったと、さて各方面に回って新規ルートを開拓していこうか」
「気軽に言ってくれるね……」
「まあ実験よ実験!こんな装置無かったら俺も易易と出来なかったからね!」
話すだけ話した黒影は改めて無空に繋がる渦に入っていき、ポチは追いかけるように入っていった。
入っていくのを確認すると装置は起動して機械音が響き、渦がゆっくりと閉じていく。
……部屋の後ろ辺りに何か物陰があったことに気付くことはない。
◇
「あ……俺、肝心なこと聞きそびれてたけどさ、無空から帰るときってどうすればいいの?」
「帰る……?あー、そういえば俺一人の時は自分から帰ることは想定してなかったからな……でも大丈夫!ルートを開拓したら一旦帰れるようにボタンが作られるから!」
「ぼ、ぼたん?」
真っ黒な渦を抜けてたどり着いた先は本当に鬼滅の刃の世界そのものにしか見えないほどそっくりな空間、ここが無空……一見すると時空そのものにしか見えず混乱しそうだが、本当に違う、時空と大きく違う。
だって顔が無い、歩く人々全員の顔が見えてこない。
メイドウィンが存在しない仮想世界はこんな感じなのか?なんとも恐ろしい。
「なんかお腹すいたからちょっとめし屋で作戦会議だ」
「まあいいか」
黒影とポチはなんとなくノルマのようにめし屋に入って作戦を立てる。
そばをまるで掃除機のように強い風圧で吸い込んでいく、ポチはこうなることは予測していたので他人のフリしたくて離れたいが逃がしてくれない。
「局長、極力怪しまれるような発言や行動は控えましょう、大正時代ではありますがまだ外来文化には乏しい世界ですよ」
「うーんでもさぁ、一応無空内も
時空新時代を想定として空間を作っているよ?ほら、アソコの屋台も別世界のアンハゥケ料理だし」
「今なんて?……とにかくだ、目立つような事をすればまずい、別の展開を見ていくことになるんだから慎重にね」
「そんなもん承知の上さ、さっきの話だけでもう20ルートくらいは思いついている」
「早くね?」
「ところで鬼舞辻無惨の目的って何?」
「それすら把握してないのにどんなルートを思いついたと言うんだ!!」
ポチは人混みもあるのでなるべくざっくりと説明する。
鬼舞辻無惨の目的は完全なる不死。
鬼の身体として新たな生を得たはいいが鬼の身体は日光に弱いなどの欠点があり基本的に夜しか活動できず栄養補給には食人を必要とする。
無惨はそういったしがらみから解放される為に自分本位かつ過激な手段を取る絶対悪である。
つまり、無惨が太陽を克服すれば終わる。
「炭治郎が倒さなきゃ駄目、無惨が進展してもダメ、ちょっと面倒になってきたな」
「いやいやこんなのまだ序の口だからな?」
とりあえず実験をする上で大事な資料は作ったので本格的にルート研究を始める。
自分達がちょっとした行動を取るだけで炭治郎達の運命は大きく変わる、この立場は非常に重い……軽はずみな行動にならないことは願いたいがどうにも黒影が相手なので不安を感じてしまう。
「……頼む局長さん、選択肢形式にしてくれないか?」
「ん?」
ゲームのように、ノベルのように『3つの選択肢』を示してほしいと願った。
一つの選択が大きく物語を変化させることも多々ある、世界の情勢や炭治郎達の本物そのままの人生をゲーム扱いする気は毛頭ないが、自分たちの中で生きている物を動かした実感を忘れないため……何より、選んだ際に炭治郎と共に責任を背負い、共に無惨を倒す気持ちを共有するために!
「つまり、俺が運命を変えるためにどんな手段を取るか3つの選択肢を出す、ポチはその中で何が一番最適かを判断するってこと?」
「ある程度予測は出来るから……何が最善かなんて選ぶまで分からない、だけど軽はずみに炭治郎くん達が破滅しないように慎重に選びたいんだ」
「そんな大袈裟な事にはならないと思うけど……ま、警戒に越したことはないか」
【第一の選択】
『竈門炭治郎が強くなるまでの力添え』
現在黒影達が居る歴史は炭治郎が山を出て間もない頃、まだ鬼殺隊に入るための試験を乗り越えるために修行を受ける段階にあるだろう。
本来なら炭治郎が最初に出会った鬼殺隊の冨岡義勇を育てた鱗滝左近次の元に向かい、体作りと共に水の呼吸を覚えていくことになる。
そもそも鱗滝は隊員となる者たちを指導していく『育手』と呼ばれる大切な存在の為ここを変えてはいけない、つまり『炭治郎は彼の元で育てられて水の呼吸を覚える』だけは確定しているのだ。
「その上で炭治郎くんとやらに協力出来るように可能性を見出したい、彼は独りでに強くなるとしてだ……うーん、こうかな?」
①俺が思いついた『燕の呼吸』を炭治郎が試験受ける際にその他候補者に広めてみる。
(燕の呼吸……?この世界の事は何も知らないとはいえ局長オリジナルなら強さは問題ないだろう、最終選別で生きる隊員が増えるかもしれないが運命は等価交換、より過酷な内容になることも考えられる……)
②日輪刀を参考に新たな武器を作り出して流通する
(日輪刀を作る素材である猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石を使えば理論上は作れる、一応この世界にもまだ会えないが不死川玄弥という男が持つ銃の弾丸のように別の使い方は模索されているが日輪刀以上の殺傷力はない、多分局長でもかなり時間はかかるはずだ)
③禰豆子にちょっかいをかけて戦闘力をこの段階で向上させる。
(ほらこういうの考えるから局長はっ!!確かに禰豆子ちゃんがこの段階で自己防衛したり援護出来るくらい強くなったら多少楽にはなるけどヒグマに人間の味を覚えさせるみたいなものだ!これで強くなったら禰豆子が斬られるリスクが高すぎる!!一番戦力は上がるが一番炭治郎くんが危険だ!!)
最終更新:2025年08月09日 20:25