黒影突発の大作戦

「ポチ、正座しろ」

「はい」

 例のエッチなことが起きるシステム(仮称)がフィルトナを通してたくっちスノーにバレたのでポチは正座させられている。
 少なくともたくっちスノーとミリィは明確な被害者なので今回はポチも何も言えなくなってしまう。

「君を殴る、分身が帰ってきたら卑猥なことが起こっていた数だけ君を殴る、オールフォーワン並に殴る」

「殴られてもしょうがないと思ってるよ……無くしたのは過失だし……」

「こちとら僕は姉さんに酷い目に遭わされたんだぞ、5000文字の短編にしてねっとり描写してやろうか?お?」

「それはそれで気になるけどフィルトナちゃんが泣きそうだから今は勘弁しておこうかな」

 たくっちスノーに全力のパンチを浴びせられながらポチは状況を確認する。
 自分のことよりも黒影がネオジャンプであっという間にアマチュアでも大物になれる方法が思いついたと言ってきたが絶対にろくでもないことは確かだ、だって黒影のアイデアだし。

「……それで思いつくのは良いんだけどそれを引き受けてくれる人いるの?」

「だから今から自分がハンティングしてくるから、後は自分らで確認して例の看板漫画は任せるって」

「うわぁ嫌な予感がどんどん広がっていくよぉ……」


「おっすたくっちスノーのボディーガードお二人!おつかれー!」

「ん……メイか」

 そして現在黒影はというと、最近は編集者よりもオブリビオン狩りや時空犯罪者のハンティングばかり勤しんでいるEXEや野獣先輩と合流。
 ピクニック感覚でひったくり犯を片手でしばいてまかない飯としてカレーを差し出してくる、とりあえず野獣先輩はいただきながら黒影の話を聞くことにする。

「アンタ、定期的にメシ出すノルマでもあるんスか」

「なんかご飯食べてると生活してる感があるじゃん、知らないの?」

「知らねーよ」

「それでね、俺の話なんだけど……ネオジャンプはこれから新しく新人さんをあっという間に化けさせる雑誌に進化します!」

「……言うだけなら見事な物だが、その方法は思いついたのか?」

「うん、その為に俺は世界を回ってるからね……まあそれ以外にも役目はあるけど」

「役目……?」

「あっそうだお前達に追加の仕事頼もう、お金もちゃんと出すから」

「は?(威圧)ただでさえ時空犯罪者狩りしてるのにまだなんかやれって言うんすか」

 野獣先輩はグチグチ言うが黒影からチラシを受け取ると、そこにはネオジャンプの連載作品である世界の情報が細かく記されていた、既にオブリビオン討伐などは行っているのに何をするつもりなのかと勘繰っているが黒影は何も言わず時空の渦に乗って消えてしまった。

「何かしたいんだあいつ……」

「メイはティー以上に逆らえない、改めてこの世界に入ってこの情報を頼りに探索すればいいわけだな……分身達にも情報を……何!?」

 たくっちスノーら5人の分身はある程度のぼやけた情報ならくっつかなくてもテレパシーで共有出来る事が出来るのでそろそろ各世界で何が起きているのか脳に集めていると……EXEの雰囲気が変化してマガフォンを起動してたくっちスノーに連絡を入れる、音速で打ち込んだメールにはこう記されている。

「ただちにテレパシーを済ませろ!!」


「えっ!?マリオカートにフィッシュボーン参戦!?サンボ!?あのてんとう虫みたいなやつまで!?」

「それどころじゃない!あの牧場のコースに居た牛まで出るらしいよ!?やっぱりリアルワールドのニンテンドーダイレクトはどうかしてるよ!」

 一方で別の話に夢中になっていたたくっちスノーとポチ、お説教はどうしたと言われそうだが新しいゲームの情報が来るとなると夢中になるしかない。
 リアルワールドでは数日くらいかけているがたくっちスノー達はぶっ通しで二作連続で眺めていたので興奮が抑えきれず成分からアドレナリンがドバドバと生成されていく。
 そんな最中だからEXEのメールに気付かなくてもしょうがない、しかし読まれていたようでEXEの腕がマガフォンから飛び出してアッパーカット、たくっちスノー達をおしばきする。
 EXEが暴力使われると見逃せないのでマガフォンのメールを確認して情報をしっかり見る。

「テレパシー使っとけって、分身の情報共有かな?」

「そういえば最近やってなかったよね」

 ポチとたくっちスノーは言われるがままテレパシーを実行すると事の重大さを理解していく。
 おぼろけな情報の中でも恐ろしさを理解していく、G-rokシステムのパラレルワールドが……知らない間に元の世界にも影響を及ぼしている、それが別の自分達にも関係してとんでもないことになっている事がわかった。
 それも1つや2つではなく時空新事業をやっているその他分身達の様々なところで、掃討戦として扱われるオブリビオン狩り含めてあちこちで大パニックになっている。
 しかも……この結果は全部たくっちスノーには心当たりがないものだ。

「どういうことだ!?なんでG-rokシステムのパラレルワールドがこんなに沢山……というか、自分が居ないと視認すら出来ないはず……」

「システム止めたりとか出来ないの!?」

「やってるよ!やってるけど何の反応もない!マスターキーのアクセス権が自分じゃなくなってる!まさか……黒影が……!?」

「どうするのネオジャンプどころじゃないよ!何してるの彼!」

「ネオジャンプの漫画が一瞬でプロ級になる画期的な方法を思いついたとかで実践中なんだけど……まさかG-rokシステムを利用して……!?」

 ……と考えたがしかしありえないと冷静になる、G-rokシステムはあくまで『もしも』を見せて設定が少し異なる未来や過去を呼び出すに過ぎない。
 もしもあの漫画が人気だったらと出力しても、その設定は連載している漫画とは微妙に異なるので辻褄が合わない、そこら辺の物よりは比較的賢いと言えどAIとしての限界はあるのだ。
 ではなんのためにパラレルワールドを作り分身達も巻き込むほど時空を操作したのか……!?

「ポチはG-rokシステムの履歴を調べて!自分はEXEに連絡入れる!」

「オッケー!」

 ポチは久しぶりにエロいこと関係なしにかっこよく活躍出来そうということで張り切り、たくっちスノーは急いでEXEに連絡を入れる。

「メール見たが何してるところだEXE!」

「ついさっきメイに会った、ネオジャンプのマンガを上手くする方法として連載されている作品の世界のデータを徹底的に取るように頼まれた」

「何!?まさかG-rokシステムに使う気じゃ……そのデータ後で自分にも見せてくれ!」

「人使いが荒いな……まあオレ達はマガイモノだが、どうにも事情が異なるみたいだぞ」

「どういうこと?何かわかったの……え?田所が察した?代わって」

「ヌッ!」

 マガフォンは合意さえ貰えれば自動的に電話する相手を変えられる機能もついている、相変わらず多機能にしすぎてたくっちスノーくらいしか使いこなせていないがマガイモノしか使わないのであまり気にしていない。
 改めて野獣先輩から情報を聞き出そうと電話を続ける。

「……で、あくまで俺の推測なんスけど、順序が逆だったかもしれねェんすよあのバカ」

「どういうこと?」

「ネオジャンプで連載されたマンガも世界が生まれて実際に生きているってことは把握してる……してない?キャラクターが元世界で不祥事起こしたせいでマンガが続けられなくなったとかあった」

「ああ……あの時は本当に焦った……おい、逆ってまさか」

「そうだよ(肯定)、黒影は世界に乗り込んで自分が活躍を誘導することで漫画の展開を名作レベルのストーリーを反映させようとしてるんだゾ」

「怒らないでくださいねバカ」

 漫画家が上手くならないなら作ってるマンガをこちらで弄ればいいじゃないとマリー・アントワネットもビックリの理論を思いついたと頭を抱える。
 黒影の方から世界操作してマンガを書き換えるなんて作者が描いてることにならないしそもそもメイドウィンから苦情が来るのではないのか……?

「というかそれって作者なんの成長もしてないじゃん、ネオジャンプから出たらボロ出ちゃうよそれ!」

「……いつから作者がネオジャンプから出ていくと錯覚していた?」

「おお……うん……そんな気はしてたけど、ネオジャンプだからこそっていうかネオジャンプに残しておかないと破綻する作戦じゃん……」

 これはあくまで野獣先輩の推測に過ぎない、本当にそうなのかもわからないが黒影ならやりかねないを通り越して絶対こういうことをするという確信の領域になりつつある。
 かといって公表したらまた一から考え直しになるので頭を抱える。

「あのさぁ……もう諦めたほうがいいゾ、実際一瞬でめちゃくちゃ面白いレベルまで覚醒するとかもう脳みそ手術とかしないと無理ゾ」

「うーんでも黒影はネオジャンプ一番売れて欲しいって願ってるからな……もう手段が目的というか、残されたものはこれくらいなんだし果たしてあげないとなんか可哀想になってくる……」

「甘すぎィ!今それどころじゃないんでしょ、つーか俺等もまたオブリビオン狩りで忙しいんでアンタでなんとかしておいてくださいよ、そんじゃ!」

「あっ切られた……仕方ない、フィルトナ姉さんと話してくるか、EXEのことだし真面目に切り上げてくれるだろう」


「……あれ?どちらさま」

 たくっちスノーが副局長室に居るフィルトナとルーシアを呼ぼうとした時、部屋に見慣れないカラスが居た。
 監理局はペット禁止というわけではないが基本的にカラスがいる時なんて気分でジビエが食べたくなったときくらいである、とするとルーシアが海賊だし昼ご飯にでもするのかとモリを作って投げてみるととんでもない勢いでモリを跳ね返す。

「うわこのカラス強い」

「たくっちスノー!お兄さんに粗相がないようにして!」

「……え?は?兄さん?どの兄さんでどれがそうなの?」

「今貴方がおかずにしようとしていたカラス、それが……ブンゴ・ノート兄さん!」

「……え?は?ええええ!!?このカラスが時空出版局のトップうううう!?」

……しばらく話をして、番号もあったのでコレが本当にブンゴ・ノートであり自分の兄であることを理解する。
 ここまで情報が出てこないのも当然だ、改めて理解してもただのカラスにしか見えないのだから。
 出版局ではワンダーオブUよろしくマガイモノの能力で赤の他人を複製してその姿を出版局としてなりすましているらしくいつも通りでも野生のカラスとして気ままに過ごしているとか。

「……それでブンゴ兄さんでいいんだよね?なんでフィルトナ姉さんと一緒に……まぁ、出版局のトップと漫画家が一緒にいることは変ではないんだけどね?」

「兄さんが嫌な予感がするからってたくっちスノーに会いたいそうで……うん、なるほど」

「貴方……ずっと黙ってみてたけどなんでカラスの言葉を普通に理解しているの……マガイモノだからってなんでもありすぎるわ……」

 規格外なマガイモノの生態にはルーシアもツッコミ側にならざるを得ない。
 とにかくブンゴの話を聞いてみるとどうやら出版局としてもネオジャンプの振る舞いが見過ごせなくなってきた事態らしい、たくっちスノーからすれば意外と動くの遅かったな……という感想になってくるが。

「しかし良く分かりましたね、情報通なのは知ってたしカラスとはいえ」

「たくっちスノー、貴方最近妙なことしてない?」

「最近というかここのところ毎日妙なことばかりだけど……あ、直近ならテレパシー使ったな」

「テレパシー?」

 たくっちスノーは各地に分身達に何が起きているのかテレパシーのような物で定期的に情報を収束させることが出来ることを説明してタイミングまで話したところ衝撃の事実が発覚した。
 なんと、たくっちスノーがテレパシーで情報を集めると兄弟達にも同じ情報が行き渡るらしい、それでブンゴも事の重大さを理解して全兄弟を探し回っているとのことだ。

「貴方……だいぶエッチな目に遭ってるわね」

「ついこの間フィルトナ姉さんも僕襲ったくせに何言ってんだ!!」

「まあそれは……あの変態犬野郎のせいではあるけど……」

「元凶その2は黙ってろ!!」

 まあなにはともかく今まで自分達に縁がなかった兄弟達に会えるチャンスが出来た、ミリィも独自の情報網で調査していることは分かったので一気に何十人も会えるかもしれない……というところでたくっちスノーは思いついたようにブンゴに聞く。

「そういえば、なんでミリィ達に会おうとしなかったんだ?ときめきジャンプのことは知ってたし会いたがっていたのに」

「ブンゴ兄さんってあまり人を信用してないのよ、今回だって私たち兄妹に会いに来ただけみたいだし」

「疑り深いんだなぁ……じゃあブンゴ兄さん、兄弟達の情報を集めたい……黒影の動きが不安なんだけど」

「……その前にやることが……あるんじゃないの……?せっかくのいい機会だから……聞いてみればいいじゃない……」

「あっそうか!ブンゴ兄さん実は出版局に相談したいことが……」

 たくっちスノーはブンゴにネオジャンプの現在の状況と黒影がやろうとしていることを話し、手っ取り早くランキング1位を取る方法を聞いてみる。
 もうたくっちスノーにとってはそれどころではないのでさっさと目的を果たして満足してもらいたいところではある。

「とりあえずなんかいい方法教えてよ、もう黒影としてはネオジャンプが全ての雑誌でトップであり色んな人が読んでいるって思ってくれるだけで満足してウチらの仕事は終わりそうだからさ」

「なんで身も蓋もない話を……まあ、私たちとしても最初から期待されてない以上は好きに出来るけど……」

「でもブンゴ兄さんが出版局のトップだからって、さすがにジャンプやサンデー以上にこんな雑誌を売ることなんて……えっ出来るの!?」

 ブンゴ・ノートは時空出版局のトップである、本を作る技術はないが売ることに関してはプロ中のプロ、要はネオジャンプが結果的に1位を取ってしまえばすぐ解決するなら楽な方である。
 ブンゴはたくっちスノーの相談を受けると成分によって羽からメモを差し出す。

「えーとなになに……ラオシャンロン級抱き合わせ作戦?よくわからないけど規模がめちゃくちゃデカいことは伝わってきた、それで具体的には……?」

 メモを恐る恐る確認するたくっちスノー、その内容は身も蓋もないが確かにネオジャンプを人気・売上ランキング1位にすることは理論上は可能である、問題はそんなことやって問題にならないとかということだがブンゴはカラスの鋭い目でこっちを見る。

「1位という実績を得たいだけなのに甘い考えしてんじゃねーぞって顔してるわね」

「そういうところシビアだな兄さん……わかったよ、田所とポチならこういうの得意そうだし黒影のやり方よりは苦情が出なさそうだ、でもこれ……マンガの内容関係なくない?」

「実際兄さんは漫画の内容には興味ないらしいのよ、今の時代話を見るなら配信とかもあるし金がある人は直接その世界に行って生で事件を眺めに行くこともあるるひいわ」

「ふーん……時空新時代じゃマンガって大発展するのかと思いきや案外普通なのか、これ伝えたらマンガ雑誌で頂点取っても時空になんの影響も無さそうだからいいやとか黒影言わないかな」

「あなた……24話もあってそんな投げやりなオチ許されないわよ……」

「それはそう」


「えっ!?ブンゴ・ノートに会えたの!?例の出版局のトップと!?」

「出版局に居るのは成分で作った身代わりで本体は野生のカラスやってるみたいだから、多分ミリィやお前でも見つけられないよ」

「ああー……どおりで……じゃあ俺がこれまで集めてきたデータも全部無駄ってことか、なかなかやるね君の兄弟」

「ただ、出版局で真面目に働いてくれたり成果も出してくれたミリィ達には悪いと思ってたらしい、こんなものくれたよ」

 たくっちスノーはポチに事情を話しながら写真を見せる、ポチの女好きは理解していたので主に自分の姉や妹を中心に何人か紹介してくれた。
 あの人に紹介しても良かったのかとも聞いたが中々のじゃじゃ馬で変態行為なんて出来ないから心配ないという、もちろんこの情報はポチには言っていない。

「それでそのシェンガオレン級ってどんなの?」

「ラオシャンロンな!今どきの子知らないからねただデカいだけの蟹なんて!」

 メモをポチに渡してたくっちスノーは準備を整える、こういった細かい作業は専門家に任せてフィルトナと兄弟達に会いに行こうとしているのだ。
 ポチは情報を確認してどういう作戦かじっくり眺めていると確かにあまりにも身も蓋もない内容で笑ってしまったが確かにこれで終わって目的達成できるなら……と考えると悪くないのかもしれない。

「あれ、そういえばミリィはどうしたの?」

「ミリィなら一旦博士の所に帰ったよ、ほら……ホワイトの権利ってうちにあるから定期的にそっちの確認しておきたいんだってさ」

「ああ、例の少女漫画のやつ?あれもなんだかんだで結構続いてるよね……でもあれどうやって持ち直したの?」

「それは俺にもわかんないや……まあ楽しくやれてるのは確かだよ」

「ふーん……ポチって今マンガ描いてて楽しい?」

「趣味の時よりは勝手が違うけど、これはこれで悪くないよ……そうだ、久しぶりに例の作者さん達に会ってみる?」

「え?自分があの人たちに?……そりゃ自分はまだネオジャンプの編集者だけどさ」

「それを言ったら皆だって、ネオジャンプの作者だったことは忘れてないよ」
最終更新:2025年04月22日 21:17