プロローグ(channel)

「おいおいまずいってここまでの規模……これ局長にも内緒なんだろ?」

「おだまり、言い出しっぺはミリィだろ?」

「そりゃまあそうなんだけどさ……たくっちスノーはそれでいいわけ?」

 時空監理局副局長たくっちスノーと時空監理局局長補佐のミリィは炭に連絡してボロボロのテナントビルだけがある世界を用意してもらいお金を入れることでメイドウィン抜きでもギリギリ維持できる世界を用意してもらう。
 雰囲気作りにこだわる彼はこういうところから初めて組織を作る……そう、新しい組織を作るというのだ。

「そうだな、名前は……Channelで!」


 事の始まりは数分前、ミリィが事業の確認をしているたくっちスノーに話しかけた時のことだ。

「たくっちスノーってさ、ネットの都市伝説とか知ってる?」

「ああ知ってる知ってる、なんならEXEや田所もリアルワールドじゃそう思われてるらしくてな、探すといっぱいあるよ?」

 都市伝説……近代または現代に広がったとされる口承の一種で、噂話や怪談、怪異などを含む、現代社会で語り継がれる話の総称。
 有名なもので言えばオカルトな物も多く、安易に足を踏み込めばただでは済まないともされている危険な存在……たくっちスノーやミリィが言っているのはそれに加えてサブカル的な要素が含まれているアニメやゲームの都市伝説のことだろう。
 おそらく有名なもので言えばポケモンのサトシやしんのすけの世界は空想であり現実には実在しないというものだろうか、無論時空新時代では本人が直接生きていることにより嘘に終わったが……。

「実はまだ解明されてない都市伝説って時空にも色々あるんだよね」

「そうなの!?」

「ああ、やっぱオカルト的なのはみんな大好きだからな、そうでなきゃSCP財団とかあれだけ情報統制してるのに有名にならないっての」

 都市伝説とは存在そのものが人々を魅惑させる魔法の響きかもしれない、事実話してみるとミリィもたくっちスノーもそんな未知の存在に虜になっていた。
 実を言うと時空監理局にはオカルトはあっても都市伝説の部門はない、身内ネタだし自己満足にしかならないので監理局でマウント取れないので当然ではあるが。

「あーあ!俺、都市伝説調べたいなー!」

「じゃあやっちゃう?」

「え?」


 そして現在に至るわけである、たくっちスノーは自費で世界を買い叩いてビルまで用意。
 それっぽいインテリアを一式買って胡散臭さを出して、Channelというチーム名まで作り専用のエンブレムとバッジまで作る手の込み具合。
 たくっちスノーとミリィはゲームしたら設定含めたキャラメイクだけで2時間くらいかけて作るタイプであった。

「ところでChannelってどういう意味?」

「Cryptic Histories And Narratives Network for Exploration and Legends、略してChannelね?ほら自分たちの頭部って揃ってたくっちチャンネルじゃん?」

「ああなるほど……ちゃんと考えてはいたんだね」

(じ……実は開発途中の凄いAIに考えてもらったなんて言えないな)

 何はともかく、ごっこ遊び感覚でドッペルゲンガーのようにそっくりな2人による時空に残された数々の都市伝説を調査するチーム『Channel』が始まったのだった。
 始まったのは良いがなんの都市伝説を調査するかとかは決めてなかった、未知の生物や存在を収容するのはロボトミーコーポレーションとかSCP財団がやってるしたくっちスノーも私用で行ったりはしているがいきなりこの規模から始めるとスケールが大きすぎる。

「そうなると最近話題の都市伝説解体センターみたいな?」

「それもいいけど自分達は時空規模だし設定の集合体だ……もっとそれなりに規模を広げたい、あっそうだ!」

 都市伝説を知るためにまずは時空新時代によって否定された都市伝説から絞り出して考えることにしたたくっちスノー達。
 早速その辺の本屋で買ってきたオカルト本を広げながらそれっぽい話を行う。

「時空という存在が認知されたことで有名になった都市伝説は……まあ、ざっと思い向くものだと『神隠し』だよね」

 神隠しとは人が突然行方不明になり消息を絶つことを言う、当時は神や天狗などの神霊に隠されたと捉えることも多いが……今では時空の渦というものが存在している。
 時空新時代になったことで大々的に明らかになったが時空を超えられる人間はたくっちスノー達を含め昔からわずかに存在していた他、自然現象から偶然生まれて他世界に迷い込んだり外部の召喚によって有無を問わず連れて行かれたりもした、これがたくっちスノーにとっては縁が深い『ハグレ』問題になったりもした。
 今となっては簡単に他世界を超えられるようになったので神隠しという概念は消えたも同然である。

「たくっちスノーは好きな都市伝説とかある?」

「否定されちったけど……やっぱりビデオゲームの墓場かな?」

「ビデオゲームの墓場!?何それ興味深い!」

 こういう要素が大好きなミリィはすぐに食い向いてくるのでたくっちスノーは所長特有の回転する椅子に乗りながら説明する。
 時は1980年代、NES(ファミコンの海外名称)の爆発的ヒットによってゲーム業界はカセットソフトブームへと突入し次々と新ハード新ゲームの参入という魔境……に突入する前の話のこと。

「そんな中にアタリという会社がゲームで成功してゲーム機を作り出した、経緯は省くがあのインベーダーゲームを移植したらそれは売れるわ売れるわでウッハウハ、在庫もあっという間にすっからかんよ」

「そんなに凄い会社なの?」

「いや、元々規模は中の下だったんだが急激に発展させすぎて会社はパンク寸前だったと聞く」

 予想以上のヒットによって一気に人員を増やしたが人のスキルを選んでる余裕はなかったので本当にゲームを作れるか怪しい人間も集まってきたという、そんな状態で本当に大丈夫かというと大丈夫ではないが、そこで予想斜めの方向へと向かう。
 どうせ売れるのだからとゲームをあまりにも大量に並べさせておいたという、だがそこで作られたゲームというのがとんでもないクオリティであり、かなりの会社を巻き込んだ大赤字に終わりゲーム業界は大打撃を受けた、これは別の所では『アタリショック』とも呼ばれ、粗悪なゲームばかりが並ぶ魔鏡になったとか、

「そして溜まりに溜まった不良在庫は多すぎてどうなったのかも分からないが、アメリカのとある砂漠に埋め立てられたとされている……大体そんな内容だったかな」

「だからビデオゲームの墓場なのか……でもなんで否定されたんだ?」

「それがさ、少し前に実際にその砂漠に行って掘り出しちまった奴が居たんだね、本当に見つけちまったのそのソフト!」

 2014年に発掘調査隊が出向いて上記の都市伝説が事実であったと証明されてしまった、見つかった時点で『かもしれない』の範囲だった都市伝説としては否定される形となる。
 人間の熱意と努力による面白い形で都市伝説の存在が否定されたのだ、確かにたくっちスノーが好きそうだなとミリィは思った。

「ちなみにそれがその内の一つ、有名な映画を元にした作品だ」

「でもそれつまらないんでしょ?」

「クソゲーだったから埋められたんだしね」

「呪いとかもないんでしょ?」

「リアルワールドの都市伝説だからね」

 縁起が良さそうだしChannelにはちょうどいいのかもしれないと例のソフトをガラスケースに入れて戸棚に飾る。

「でもネットの都市伝説って言うだけ言ってみたみたいな内容だけど……」

「それはリアルワールドの常識で考えられる範疇だからだ、実際はそうもいかん」

 改めて否定されている都市伝説のリストを確認する、やはり有名な物で言うとキャラクターの死に関するものだろうか、安易にキャラクターを死なせることでドラマ性を作り出すというのは2人にとっても覚えがあるので一通り見ていく。
 ちなみにざわざわ森のがんこちゃんが人類が滅んだあとの世界が舞台というのはガチの話であることが一番驚いたという。

「野原しんのすけは実際は亡くなってて物語はみさえがクレヨンで描いた空想」

「あのタイトルからよくそんなの思いつくよなー、変化球って感じがする……けどしん坊普通に生きてるよね」

「トムとジェリーは実際はトムが手加減していてジェリーはあっさり負けて死ぬ」

「いや……アレも本編見てみる限りだと実際に手加減してるのジェリーっぽいんだよなぁ、素はめちゃくちゃ強いぞ?……トムとジェリーといえばもう1個都市伝説を聞いたことがあるがこれは割愛しよう」

「あと特定の要素を戦争とか核爆弾にこじつけるのも多くない?」

「とりあえずそれっぽいことを言えばスケールがデカくなるからね、皆バカにしつつも憧れたりするんだよノストラダムスの大予言みたいなやつ」

 ネットに存在するゲームやアニメの都市伝説はたまにそういった戦争の要素が込められた物が多い、死人説と同じ数だけ存在している。
 だがたくっちスノーに言わせてみればそういったものは野獣先輩の新説くらいにはガバガバなアナグラムで構成されたでっちあげというよりはそういう風に解釈してしまうくらいにはヤバい、アフィ広告でエッチな物が多いと言われてもお前がそういうサイトばっか見てるからだろみたいな感じである。
 こういったものは基本的にあまり気にしないのだが……。

「この際だから言えるけど都市伝説の中には昔の自分が関わってるやつもある」

「ああ、それってさっき言ったドッペルゲンガーとかも?」

「それもあるけど……ちょっと目立ちすぎた奴だとヘロブラインだな」

『Herobrine(ヘロブライン)』とは大人気クラフトゲーム【Minecraft】で確認された都市伝説。
 見た目は既存のプレイヤーデザインであるスティーブに類似しているが別の存在でこの手の都市伝説にしては特別害を与えるというのは確認されていない、プレイヤーと同じように穴を掘ったり木を削ったりモンスターを倒したりしているだけ。
 だがその正体はある人物の兄弟が霊となり、死後もこの世界で遊び続けている……。
 どうやらその正体はマイクラ世界に居たら気付かれたたくっちスノーらしい、これをバラしているのもリアルワールドではジョークであると既に広まっているからだ。
 ゲーム側もヘロブラインを認知しており軽く逆輸入したこともあるとか。

「なんかそれって拍子抜けだな……変身能力便利すぎない?」

「いやあの時は自分もここまで取り上げられるとは思わなかったな……」

 ちなみにMinecraftにはこれ以外にも様々な都市伝説が存在する、ワールドを作成する際に特定のシード値を撃ち込むことで……というものだが今は割愛する。

「ミリィに質問するが、都市伝説の題材にされてそうな作品といえば何が思いつく?」

「ポケモン?」

「ああ……確かにポケモンか、ポケモンは実際多いよなぁ……さっき言った戦争とこじつけられてるやつも大体コレだし」


 数分後さすがにそろそろ本格的に乗り出さないと都市伝説について駄弁ってるだけの変なサークルになることに気付いたのでそろそろ都市伝説について調べていくことにしたのだが……。

「実際どれにする?いきなりサブカルな奴はちょっとアレでしょ……?」

「うーんそろそろ尺も押してるしなるべく簡潔に済むやつにしようか……あっ、これなんかどうだ?」

 たくっちスノーはひたすら用意したファイルから一つの都市伝説データを発見する、名前は『さとるくん』
 〇〇くんとか〇〇さんとかやはり人間の発想なだけはあり人のような都市伝説が多いのだ、実際は化け物のようにおぞましいというのに……。
 それはともかくさとるくんとは2000年代に流行った物であり、さとるというのは人の心を読める『さとり妖怪』が由来となっている。
 公衆電話を通して自分の携帯にかけて呪文を唱えるとさとるくん電話に出てきて、かける度にどんどん近付いていき真後ろまで迫るとどんな質問でも答えてくれるのだという。

 まるで『メリーさん』と『こっくりさん』を合体させたようなマガイモノのようなネタであり、ミリィやたくっちスノーには確かに相応しいのかもしれない。
 ただしこれでも都市伝説であり怪異、簡単に済むはずもないし楽に終わることもない。
『さとるくん』の儀式を行う上で気をつけなくてはならないことが当然存在する。
 まず第一に電話をしてきた際に振り返ってさとるくんが何者か確認してはならない、おそらく二人一組で協力して他の人物に見てもらってもアウトだろう、質問をしないのもダメらしい。
 もし確認してしまうと失踪してしまう、有名な物だと地獄とか異世界に連れて行かれるとか言われている。
 更に質問出来る段階になったとしても聞いていいのは本当に答えが分からないような質問のみ、もし答えを既に知っている質問をしてしまったり教える前に知ってしまうと怒って殺されてしまうとか、なんとも短気な怪異である。

「……それで、まさか実際に質問してみましょうってわけじゃないよね?」

「当たり前でしょ、こっちは別世界移動のプロな上に不死身だぞ?常人には出来ないことしてこそ都市伝説調査チームだよ」

 たくっちスノーが普通に調査するわけもなく、今回狙うのはわざと『さとるくん』のタブーを踏んでみた場合どんな目に遭うのかという資料を作成すること、基本的に何があっても死なないマガイモノだからこそ出来ることである。
 ミリィは今になってやらなければ良かったと後悔しそうになったが言い出したのは自分なので仕方ない。
 何より苦労したのは今でも生きている公衆電話を見つけることだった、時空新時代になってから通信端末も発達したので公衆電話なんてインテリアとしての価値しかない、更に最近のお金と言えばジーカなので硬貨其の物が物によってはプレミア品に。
 実験のための十円玉を何枚も用意するだけで何万もかかってしまう本末転倒ぶり。

「それでどっちから調査するの?異世界?それとも殺す際の行動?」

「後者はどうしたら死ぬってのは分かるんだし死因なんか調べても恩恵はそんなにないだろ、この時代的にも異世界の方から調べたほうが得策だ」

「じゃあ二人いるんだしそれぞれが調べ……この場合どっちが死ぬ方になるわけ?」

「こういう時は黙って手を差し出すもんだよミリィ」

「やっぱこうなるんだよなぁ!?最初はグー、じゃんけん……」

「3種類!!」

「汚えぞ!!」

時空犯罪者が汚くて何が悪いんだ!影武者なら大人しく自分の犠牲になりやがれ!!」

「クソぁぁぁ!!」

 たくっちスノーは右腕を3方向に分離させてグーチョキパー全部出すという姑息な手で無理矢理勝ってミリィが知ってる質問を答える側になってしまう。
 更にどちらが先に電話するかに関しても姑息なジャンケンで先手を取られてしまいたくっちスノーが最初に電話することに。
 ところでたくっちスノーが持っているのは携帯電話ではなくマガフォンなのだが通用するのかどうかは分からない。

「頼むから成功してくれよ……今の時代、この小銭1枚手に入れるだけでも相当苦労するんだからな……」

 おそるおそる十円玉を入れて公衆電話でマガフォンの番号を打ち込み、電話をかける。
 たくっちスノーの番号は少々特殊だがフリーダイアルなのでその気になれば誰でもかけられる、番号を押し切るとマガフォンから着信音がするので最初はなんとか成功した。
 ちゃんとマガフォンが対応するタイプで助かった。

「さとるくん、さとるくん、おいでください……」

 呪文を唱えて電話を切る、儀式が成功していれば24時間以内にさとるくんから電話がかかってくるはずだがそれがいつになるかまではさっぱりなのがなんとも言えない。
 というわけなので暇になったミリィは時間を潰すことにしたがバックレられないようにたくっちスノーは右目を引っこ抜いて監視させていた、もうこいつの存在其の物が都市伝説だろとツッコみたくなったが適当に近くの図書館でオカルト本でも読むことにした。


「オカルト本とか陰謀論とか、考察本とかって結構金になるんだな……まあこのジョジョの超常心理分析書とかいうのは論外すぎて逆に面白いけど」

 あれから5時間、ミリィはコンビニとかでよくある人気作品の謎を独自に解明する胡散臭い本を読みあさっていた、信憑性も無いし中身もめちゃくちゃ怪しいが結構こういう物にハマるタイプである。
 ちなみに今ミリィが読んでる本は本当に凄い、半分ジョジョエアプの考察する内容というのが面白い、たくっちスノーが開発途中のAIに聞いたレベルの内容が詰まってる。
 ちなみにたくっちスノーもこういう本が大好きなのでChannel事務所の本棚はこれらが詰まっている。

「……あ、そういえば右目が応答ないけどどうなの?そっちは」

「ああ無事に異界に向かえたわ、資料書いてるところだから後は任せた」

「ええ……?資料って普通はそこを描写するところじゃないの?」

「いつか余裕ある時に説明してやるから!それより次の番だぞ」

「あ……ああ、それなんだけどさ、こういう本ってたまにジーカ対応してなくてさ……使い切っちゃったた、両替とかで」

「は?お前何してくれてんの?どうするんだよ資料にして報告する時!」

「後始末はするから!悪かったって」

(……さとるくんにわざとカーレッジ・フレインの質問したら怒るどころか突然切られたってのは言えないな)
最終更新:2025年05月23日 06:50