ダブルクロス The 3rd Edition ~Ragnarok in the acid rain~ 第二話トレーラー
「ちょっと、いつまで長考してるの。」
「長考って、君の手からまだ30秒しか経っていないだろう?」
「長考って、君の手からまだ30秒しか経っていないだろう?」
右手の先で白のルークを摘みあげる。
相手のフィールドを見ながら三歩先…いや、ここから先は罠だろう。
手前にそっと置くと、彼女はあからさまに不機嫌な形相を見せた。
相手のフィールドを見ながら三歩先…いや、ここから先は罠だろう。
手前にそっと置くと、彼女はあからさまに不機嫌な形相を見せた。
「やるじゃない、最適解よ。それじゃあ、次は…。」
「君は打つのが早いな。そのペースに合わせていたら、五手先まで読むのがやっとだ。」
「あら?戦争なんてこんなものよ。指揮する人間が何手先を読もうが…。」
「君は打つのが早いな。そのペースに合わせていたら、五手先まで読むのがやっとだ。」
「あら?戦争なんてこんなものよ。指揮する人間が何手先を読もうが…。」
白のポーンを大げさに倒しながら、その上に黒のナイトを置く。
右手で銃のジェスチャー。小声でバン、と呟き、人差し指を挑発的に向けてくる。
右手で銃のジェスチャー。小声でバン、と呟き、人差し指を挑発的に向けてくる。
「結局ね、現場の人間はその一瞬がリアルなのよ。私達は戦場を俯瞰で見ているけれども、彼らが見ているのはもっと別のこと。私達よりも狭い視点で、ずっと壮大な景色を眺めているの。訓練では出来なかった動きがぶっつけ本番で出来ちゃうことだって、そう珍しくないんじゃないの。そういった限界を超える力を引き出すものが、あの中には確かにあるのよ。」
「ほう、なるほど。確かに今、君のナイトは有り得ない動きをしたが、それはルールの限界を超えたということかな?」
「ほう、なるほど。確かに今、君のナイトは有り得ない動きをしたが、それはルールの限界を超えたということかな?」
イカサマを指摘されても動じない彼女に、ため息が溢れるばかりだった。
やれやれと駒を一手前に戻す。
やれやれと駒を一手前に戻す。
「ほんと、大斗君って、賢すぎて嫌だわ。嘘だとわかった上でそれに付き合うことができなきゃ、まだまだお子様よね。」
「あのなあ、これはチェスという名称の、公然と規則の定まった競技であって…。」
「ああはいはい。わかった、わかった。真面目にやります。やりますからはい。えーと、チェック。」
「あのなあ、これはチェスという名称の、公然と規則の定まった競技であって…。」
「ああはいはい。わかった、わかった。真面目にやります。やりますからはい。えーと、チェック。」
何より嫌なのが、この一手だ。
彼女はイカサマがばれることなど承知の上なのだろう。
指摘をさせて気が緩んだ隙を、寸分の狂いもなく突いて来るのだ。
恐らく何十手も前から、いや…ゲームの開始した時からずっと張り巡らせてきた伏線を、この一手にぶつけてくる。
その上、先程までのやりとりで作られた、異常な程にハイペースなリズム。
うっかりと甘い手を打たせて、一気に攻め込もうという魂胆だ。
なるほど、さすがに重い手だが、こちらも伏線に気付かないフリをしながら、幾重にも予防線を張っている。
それを利用すれば、凌げないほどではない。
先ほど止めた白のルークを、敵陣の手前まで前進させる。
彼女はイカサマがばれることなど承知の上なのだろう。
指摘をさせて気が緩んだ隙を、寸分の狂いもなく突いて来るのだ。
恐らく何十手も前から、いや…ゲームの開始した時からずっと張り巡らせてきた伏線を、この一手にぶつけてくる。
その上、先程までのやりとりで作られた、異常な程にハイペースなリズム。
うっかりと甘い手を打たせて、一気に攻め込もうという魂胆だ。
なるほど、さすがに重い手だが、こちらも伏線に気付かないフリをしながら、幾重にも予防線を張っている。
それを利用すれば、凌げないほどではない。
先ほど止めた白のルークを、敵陣の手前まで前進させる。
「…くっ、罠にかけたつもりが…返り討ちってこと?」
「君の負けだ。また一週間前の対局のように、この卓に突発的かつ局地的な直下型地震でも起こすかい?」
「まったく、そんなことするワケないでしょ。現場の人間にとってはその一瞬がリアルなの。地震で戦場が崩壊したところで、直前まで感じた敗北感は拭えやしないんだから。それに…。」
「君の負けだ。また一週間前の対局のように、この卓に突発的かつ局地的な直下型地震でも起こすかい?」
「まったく、そんなことするワケないでしょ。現場の人間にとってはその一瞬がリアルなの。地震で戦場が崩壊したところで、直前まで感じた敗北感は拭えやしないんだから。それに…。」
彼女は苦し紛れでこそあるが、落ち着いた様子で黒のナイトを拾うと、今度は正しい動きで、白のルークに接近させた。
「この勝負には…大切なものが賭かっているんだから…。」
横浜の事件から、もう一ヶ月が経とうとしていた。
これから忙しくなる、そんな予感は一体何だったのか。
最近はファルスハーツの動きも大人しく、そこそこ平和な毎日であった。
平日の昼間からボードゲームに興じることに、若干の罪悪感が無いわけでも無かったが、それも已む無しだと言えるほどには暇であった。
現在、彼女との勝負は62戦中27勝5敗。
22戦は引き分けで、残りの8戦は勝敗が有耶無耶になっている。
これから忙しくなる、そんな予感は一体何だったのか。
最近はファルスハーツの動きも大人しく、そこそこ平和な毎日であった。
平日の昼間からボードゲームに興じることに、若干の罪悪感が無いわけでも無かったが、それも已む無しだと言えるほどには暇であった。
現在、彼女との勝負は62戦中27勝5敗。
22戦は引き分けで、残りの8戦は勝敗が有耶無耶になっている。
「あー、だめ。頭バクハツしそう。ねえ、大斗君…お願いがあるんだけど。」
「待ったは無し、そう誓約書にサインをして貰ったはずだが。」
「…あれは、嘘じゃ。」
「そんな真面目な顔で言われても。」
「じゃあ…。」
「…ローカルルールの禁止、それも既に取り決め済みだったな。」
「ぐう…。じゃ、じゃあさ。せめて力を使うくらい、いいかな?」
「力?」
「そう。お互いノイマンなんだからさ、いいでしょ。もちろんあなたも使っていいから。生まれ持った頭の回転だけじゃ、勝てるはずないもの。」
「待ったは無し、そう誓約書にサインをして貰ったはずだが。」
「…あれは、嘘じゃ。」
「そんな真面目な顔で言われても。」
「じゃあ…。」
「…ローカルルールの禁止、それも既に取り決め済みだったな。」
「ぐう…。じゃ、じゃあさ。せめて力を使うくらい、いいかな?」
「力?」
「そう。お互いノイマンなんだからさ、いいでしょ。もちろんあなたも使っていいから。生まれ持った頭の回転だけじゃ、勝てるはずないもの。」
そう言いつつ、許可も待たずに彼女は一瞬で次の手を打つ。
やれやれ、こうなったらもう付き合ってやるしか無い。
やれやれ、こうなったらもう付き合ってやるしか無い。
「うふ、これでようやく互角、かしら。」
「…どうだろうな、確かに効率の良い打ち筋は多くなったように見受けられるが。」
「ふん、罠とか考えずに真っ向から真面目にやれば、私だってこれくらい…。」
「と、言いながら罠を仕掛けるのだろう。強かだな、君は。」
「…ほんと、大斗君って、賢すぎて嫌だわ。でも…はい、チェックメイト。」
「…なにっ!?」
「…どうだろうな、確かに効率の良い打ち筋は多くなったように見受けられるが。」
「ふん、罠とか考えずに真っ向から真面目にやれば、私だってこれくらい…。」
「と、言いながら罠を仕掛けるのだろう。強かだな、君は。」
「…ほんと、大斗君って、賢すぎて嫌だわ。でも…はい、チェックメイト。」
「…なにっ!?」
何が起こったのか、理解したその一瞬。
その罠を見抜けなかった悔しさが、胸の内側からこみ上げてくるのを感じた。
黒のナイトは、確かに一歩前にいたのだ。
そう、彼女が力を解除するまでは…。
その罠を見抜けなかった悔しさが、胸の内側からこみ上げてくるのを感じた。
黒のナイトは、確かに一歩前にいたのだ。
そう、彼女が力を解除するまでは…。
「私がノイマンだけじゃなくて、ソラリスの力も持ってるってこと。大斗君なら気付けたような気もするんだけど?…まあ、実直な大斗君だからこそ、気付けなかった、そういうことにしといてあげようか?」
彼女が意地悪く笑う。
肩を竦めつつ、返す言葉を探したが、見つからなかった。
ボードと駒を片付けると、彼女は大きく伸びをした。
肩を竦めつつ、返す言葉を探したが、見つからなかった。
ボードと駒を片付けると、彼女は大きく伸びをした。
「それじゃ、今度…約束通り、掃除を手伝ってもらうからね。よろしこ~。」
そう言うと、椅子にかけてあった白衣をさっと肩にかけ、彼女は去っていった。
時計の針は、そろそろ三時を指そうとしている。
これから何しようかな、そんなことをぼんやりと考えながら、視界の端で一人遊びに興じるゼロを目で追った。
時計の針は、そろそろ三時を指そうとしている。
これから何しようかな、そんなことをぼんやりと考えながら、視界の端で一人遊びに興じるゼロを目で追った。