ダブルクロス The 3rd Edition ~Ragnarok in the acid rain~ 第四話トレーラー
「変装!」
テレビの中でイケメン俳優がポーズをキメると、その身体は派手なエフェクトと共に装甲に包まれていく。
ゼロは最近、日曜朝のヒーロー番組に夢中だ。…残念ながら、その保護者も。
ゼロは最近、日曜朝のヒーロー番組に夢中だ。…残念ながら、その保護者も。
「大斗君にはわからないかなあ、戦う理由なんか無いのに、ただただ運命という名の狂飆に翻弄されていく悲しみ、そして虚しさが…。」
「わからなくはないが、始業時間はとっくに過ぎている。姫宮君、君には社会人としての自覚があるのか。」
「あら、仕事をしながらでも無駄話をできるのが、私達"持つ者"の特権じゃなくて?」
「わからなくはないが、始業時間はとっくに過ぎている。姫宮君、君には社会人としての自覚があるのか。」
「あら、仕事をしながらでも無駄話をできるのが、私達"持つ者"の特権じゃなくて?」
彼女の手元の携帯端末をチラ見すると、一般的な研究員が一週間をかけて漸く構築できるようなデータが、既に出来上がっている。
…努力と根性で成り上がってきた昔の世代の人たちには、とても気の毒で見せられない光景だ。
…努力と根性で成り上がってきた昔の世代の人たちには、とても気の毒で見せられない光景だ。
「…まあいい、それよりも例のデータはできているのか?担当は君だったはずだろう。」
「ああはいはい、できてますよー…。ヨッコラしょういちっと。」
「ああはいはい、できてますよー…。ヨッコラしょういちっと。」
叩かれたエンターキー、呼び出された膨大なデータが、デスクトップを埋め尽くしていく。
「ま、大斗君は説明しなくてもだいたい理解ると思うけど…。」
「…ああ、そうだな。何もわからない。」
「ええ、そういうこと。私が研究の末に出した結論、それは"わからない"ということ。」
「わからないということがわかった、か…。妥当な結論なのだろうが、上が納得するのか?」
「納得させるのも、仕事のうちよ。」
「…ああ、そうだな。何もわからない。」
「ええ、そういうこと。私が研究の末に出した結論、それは"わからない"ということ。」
「わからないということがわかった、か…。妥当な結論なのだろうが、上が納得するのか?」
「納得させるのも、仕事のうちよ。」
ため息まじりに彼女が言う。
無理もない、真実を探求した結果が、解でもない、解なしでもない。
"証明不可能"という事実をただ截然と突き付けられたのだ。
プライドの高い彼女にとっては、複雑な心地だろうが…しかしそれほどまでに難解だったということであろう。
かのレネゲイドビーイング、"シュバルツ=クラフト"の本質を見極めるというのは。
無理もない、真実を探求した結果が、解でもない、解なしでもない。
"証明不可能"という事実をただ截然と突き付けられたのだ。
プライドの高い彼女にとっては、複雑な心地だろうが…しかしそれほどまでに難解だったということであろう。
かのレネゲイドビーイング、"シュバルツ=クラフト"の本質を見極めるというのは。
…今月に入ってから、これで何度目の検査だろうか。
血を採り、細胞を採り、身体の外側から内側まで、あらゆるデータを提供した。
肛門から管を入れて内臓の写真を撮ったのは、思い返すと姫宮女史の悪ふざけであったような気もするが…。
ともかく、これだけ身体の中をかき回しても、自身のことは一向に詳らかにされる気配が無い。
血を採り、細胞を採り、身体の外側から内側まで、あらゆるデータを提供した。
肛門から管を入れて内臓の写真を撮ったのは、思い返すと姫宮女史の悪ふざけであったような気もするが…。
ともかく、これだけ身体の中をかき回しても、自身のことは一向に詳らかにされる気配が無い。
「…シュバルツさん、どしたの?」
新宿支部のラウンジ。
物思いに耽っていると、ゼロが心配そうに顔を覗きこんでくる。
物思いに耽っていると、ゼロが心配そうに顔を覗きこんでくる。
「なあ、ゼロよ。…人は、どこから来て、どこへ行くのだろうな。」
「うーんとね、女の人の股ぐらから這い出て、日暮里の墓地に消えていくんだって!」
「お前の家の教育事情には些か不安を覚えるが、それはさておきとして。人間は明確な生死、始まりと終わりがある。それに比べて私は…。」
「うーんとね、女の人の股ぐらから這い出て、日暮里の墓地に消えていくんだって!」
「お前の家の教育事情には些か不安を覚えるが、それはさておきとして。人間は明確な生死、始まりと終わりがある。それに比べて私は…。」
始まりの瞬間は確かに自覚している。
しかし、終わりはあるのだろうか。
しかし、終わりはあるのだろうか。
「私は、一体、何なのだろうな。」
カップからたち昇る湯気が、ゼロの鼻先を弄ぶ。
熱い紅茶をゆっくりと啜りながら、彼は不思議そうに澄んだ瞳を丸くする。
熱い紅茶をゆっくりと啜りながら、彼は不思議そうに澄んだ瞳を丸くする。
「シュバルツさんは、シュバルツさんだよ。」
そのトートロジーに満ちた結論が、彼の感じた真実なのだろう。
難しいことを考えるのがバカバカしくなるような、純粋無垢な一撃。
遠くから聞こえる姫宮女史の呼ぶ声、ゼロは丁寧な会釈を残し、ぱたぱたと駆けていった。
難しいことを考えるのがバカバカしくなるような、純粋無垢な一撃。
遠くから聞こえる姫宮女史の呼ぶ声、ゼロは丁寧な会釈を残し、ぱたぱたと駆けていった。
「…私は、私か。」
カップに残るコーヒーを一気に飲み込む。
身体に取り込まれたそれは、熱を帯びた渦を成し、思考を焼きながら緩やかに溶けていった。
身体に取り込まれたそれは、熱を帯びた渦を成し、思考を焼きながら緩やかに溶けていった。