突然だが俺は今、とある海水浴場に来ている。
今日は真夏日でとても暑い。もうまさに“夏”って感じだ。
晴れ渡った青空に、澄み渡った海。
心地よい波音に、気持ちのいい風。
そして、俺の隣には――
「どうしたの? 京介」
「い、いや、何でもないぞ黒猫」
――隣には、愛しの彼女も一緒だ。
今日の黒猫はいつもと違うピンクのビキニ姿で――俺が彼氏バカなのかもしれないが――その…………と
ても可愛い。
今、このビーチで泳いでる女の子の中で一番可愛い。
自分の彼女なのに、思わずナンパしてしまいそうなくらい可愛い。
「本当に?さっきから やけに あなたからの視線を感じるのだけれど……」
「え!? そ、そんなの――お、お前が可愛いからに決まってんだろ!」
「……こ、声が大きいわよ莫迦…………///」
このように、顔を真っ赤にして目を逸らす黒猫も(いや、しつこいだろうが何度でも言うぞ?)かなり可
愛い。
……と、このように、俺は今まさに青春を満喫していると言っても過言ではないかもしれない。
リア充爆発しろ?そうだな、確かに今の俺はリア充だ。
しかしだな……それはそうとしてだな………………。
「いや~、それにしても今日はいい天気だなぁ!」
「ええそうね。でも……どうして急にそんなことを?」
「えーっとさ、あの青い空見てるとなんかこう……夢と希望が“膨らんで”こないか?」
「? 急にどうしたのよ? 暑さで頭がおかしくなったの?」
「い、いや別に! ……そ、それにしても混んでるよな! ここ、人“詰め込みすぎ”じゃねえか?」
「今日は日曜日だし……混んでいて当然でしょう? だから、それがどうしたというの?」
「い、いや、何でもないんだ! ハハハ……」
「へ、変な人ね」
うーむ、俺の渾身のメタメッセージにも無反応か……。
なんかこう、もうちょっとギョッとしたりとかするかと思ったんだが…………。
……実は今、俺にはヒジョーに気になっていることがあるのだ。
それは何かと言うと…………………………えーい! 気になる!! もうこの際だからはっきり言っちまう
か!!!
「……黒猫。“それ”、きつかったりしないのか?」
「?何のことかしら?」
「だから、“それ”だって! 俺なら大丈夫だ。もうわかってるからさ。
苦しかったりしないのか? もしアレだったら一回更衣室で外してきても――」
「何のことか、と訊いているのだけれど……。なんだか、今日のあなたは本当に少し変よ?」
「ぐっ……」
こ、ここまで言ってもまだしらばっくれるなんて…………も、もうホントに言っちまうぞ!
俺は優しさから言ってやってるのに、認めようとしないお前が悪いんだからな!
「何のことって――そ、その…………お、お前の水着に付いてる“胸パッド”のことだよ!!!」
「!? な、な、な………………」
溜めて溜めてようやく口に出した俺のガチレスによって、黒猫はその場に固まってしまった。
なにやら目を見開き、驚いたように口をパクパクさせている。
ふっ。図星か。まあ所謂『神猫事件』レベルほどあからさまな偽装ではないが、彼氏である俺の目はごま
かせないぜ?
いや~、すっきりした。なんせ朝からずっと気になってたからな。
それにしても胸にパッド入れてまでよくやるもんだな……。
まあ、『少しでも大きく見せよう』っていう黒猫の健気な頑張りが感じられるから俺は評価するけどね。
とにかくこれで疑念も晴れたし、やっと気兼ねなく遊べ――って……なんか黒猫の様子がおかしくね
えか?
「……。」
「な、なあ……黒猫?」
「…………。」
「べ、別に俺は怒ってるわけじゃないんだぞ? ただちょっと苦しくないのかなって思っただけで……」
「………………。」
「いや、その……ほ、ほんの少しだけ、気になってたって言うのもあるけどさ」
「…………て……いわ」
「そ、それにな!俺は胸の有る無しで人を見てるわけじゃないし――ん?今なんか言った?」
「………………してないわ」
「……え?」
「わ、私は、そんなことしてないわ!」
「!? な、なんだと!? 嘘だろ!?」
もはや涙目になってしまっている黒猫のカミングアウトに、俺はただただ愕然とするしかなかった。
いくら俺が鈍感と言えども、自分が今、女の子に対してかなり失礼なことを言っちまったってことくらい
容易に理解出来る。
やらかしちまった! しかも相手は俺の彼女だってのに!!
「ってことは…………そ、それは、ほ、本も――」
「ず、ずっと私のことを見ていると思ったら、そ、そんなことを考えていたのね……」
「ち、違うんだ! これは、その……」
「も、もういいわ!あなたも――あなたも、あの無礼なスレの黒猫貧乳派と変わらないわ!」
「? なんだそりゃ?」
「なんでもないわよ莫迦!! あ、あなたなんて………………来世まで呪ってやる!!!」
「あっ、ちょっと待っ…………おい! どこいくんだ!?」
黒猫は半泣き状態で俺の制止を振り切り、全速力でビーチの人ごみの中へとかけていく。
無論、俺はすぐに追いかけたのだが……何しろ、先程も言ったが日曜日で真夏日の海水浴場は大混雑だ。
寝ているおじさんやパラソルやらを避けるのに気を配っている間に、すっかり黒猫の姿を見失ってしまっ
た。
ど、どうしよう……。
あいつ探そうにももう完全に居場所わかんねーし、同じようなピンクのビキニ結構多いし………俺はマジ
でどうすりゃいいんだよ!?
黒猫の突然の失踪にどうしていいかわからず、俺が騒がしい砂浜に茫然と立ち尽くしていたその時――。
「ねえ、黒いのすごいスピードだったケド……どこ行ったの? トイレ?」
「あっ! 桐乃!!」
いつのまにか俺の背後に不思議そうな顔で桐乃が立っていた。両手にソフトクリームを持っている。
そういえばこいつ、ちょっと前から向こうの海の家に行ってたんだったな。
悪いけどすっかり忘れてた…………………………って、今はそれどころじゃねえ!
「た、大変なんだ! 実はかくかくしかじかで…………」
「……ハアッ!? あんた、何であいつにそんなこと言ったのよ!?」
桐乃の『信じらんない!死ねば?』と言わんばかりの視線が俺に突き刺さる。
まあ、悲しいことに今回ばかりはまったく反論出来ないが。
「だ、だって、本物かどうか気になったから……」
「呆れた……。あんたってどっかにデリカシー捨ててきたの?」
「すまん…………」
「あんたが巨乳巨乳ってうるさいから、あいつ陰で相当努力してたみたいだよ?
なのに偽乳扱いするとか……あんたってマジサイテーな彼氏じゃん」
「? 努力って……どんな?」
「そんなの……胸大きくする方法に決まってんでしょ!」
え……?
「黒猫が……お、俺に隠れて胸を大きくしようとしてた!?」
「そっ。豊胸マッサージしてみたりとか、ネットでも色々調べてたみたい。なんかちょっと前にあたしも
質問されたし……」
「そう……だったのか…………」
黒猫は俺のためにそんなことしてまで胸を……。
きっと今日慣れないビキニを着てきたのも、本人の中でそれなりに成長の手応えを感じたからに違いない。
それなのに――俺は、なんてひどいことを言っちまったんだ!
「と、とにかく黒いの探さないと! あたしはあっち探すから、あんたはそっち探して!
……ったく、世話焼けるんだからあのバカ猫…………」
「わ、わかった!」
黒猫にどうしても謝りたい。いや、謝らなくちゃいけない。
俺はその一心で、桐乃とは逆方向に向かって全力で走り出した。
☆☆☆
黒猫を探すこと数十分。
人でごった返した海水浴場をくまなく捜索したものの、なかなかあいつの姿は見当たらない。
もしかして……帰っちゃったとか?
いや、でも服はまだ残ってるはずだし、いくらなんでもあの格好で電車に乗れるわけが――あれ? なんだ、
あの黒い点は?
俺の視線の先にあったのは、ビーチから少し離れたところにある岩場だ。
そこに、ポツンと一人分の小さな人影が見えている。
「まさかとは思うが……」
若干ヘトヘトになりながら俺がその人影の方へ向かうと………………。
――いた。
人気のない岩場に、黒猫が体育座りで海を見ながら一人で黄昏ていた。
やっと姿を見つけられて安心したような緊張するような。
とりあえず俺は残り少ない体力を振り絞り、急いで黒猫のいる方へと近付いた。
「黒猫!」
「京……介……?」
「その……“偽物”だなんて疑って悪かった!!本当にごめん!!!」
「!?」
ゴツゴツした岩の上だったが、俺はもうすっかり板についてきた土下座攻勢に出た。
今俺の顔は地面と向き合っているのでハッキリとはわからないが、黒猫は突然土下座した俺に少し驚いて
いたんじゃないだろうか。
なかなか返事が返ってこなかったからな。
俺と黒猫の間に、しばらく沈黙が続く。
そして――。
「……顔を上げて頂戴。誰かに見られては恥ずかしいでしょう」
「許して……くれるのか?」
「あなたが謝る必要はないわ。私の方こそ取り乱してしまって……」
俺は言われるままに顔を上げておそるおそる黒猫の方を見た。
もう泣いてはいなかったが…………その表情はまだどこか寂しげだ。
「桐乃から聞いたよ。お前の“努力”のこと。なのに俺はお前の気も知らないで……」
「いいのよ。だって……わ、私には前科もあるし。疑われても仕方ないでしょう?
確かに……少しショックは受けたけど…………もう気にしていないわ」
そう言いながらも絶対に『気にしている』のはこいつの様子からありありと伝わってくる。
そんな黒猫の様子を見ているのが辛くて。何とかしてやりたくて。
俺がこいつにかけてやれる最適の慰め文句を探していると…………………………って、そうだ! こう言え
ば全部解決するんじゃねえか!?
頭の中に突如として名案が浮かんだ俺は―いや、この時は『名案だと思っていた』と言った方が正しいの
かもしれないが――とんでもないことを叫んでしまった。
「黒猫!俺に……………………お、お前の胸を触らせてくれ!!!」
「!?な、ななな何を言っているのよ!?」
さっきまでの落ち込みムードはどこへやら、黒猫は驚きを通り越して完全に混乱してしまっている。
そりゃそうか。海岸で落ち込んでたら、いきなり彼氏から『胸触らせてくれ』って言われたんだからな。
もしかして俺………………間違えた?どさくさに紛れて最低なこと言っちまったんじゃね?
でも……もう言っちまったもんはしょうがねえ!こうなりゃ無理にでも続けて…………。
「だって……お、俺を満足させるために頑張って大きくしようとしてくれたんだろ?だったら――」
「そ、それとこれとは別よ! だからと言って、何故あなたに触られなくてはいけないの!?」
「本物……なんだよな?」
「そ、そうよ。何よ…………ま、まだ疑っているというの?」
「じゃあ……あ、改めて確認する意味も込めてさ! ……ダメか?」
そうだ。
黒猫は俺のために胸を大きくしてくれたんだから、その俺自身に“成果”を触られることでその努力が報
われる………………はずだ!
そして今後こんな悲劇を繰り返さないためにも、俺には『黒猫の胸が本物だ』というハッキリとした確証
を得る必要がある。
だからと言ってこいつにここで脱いで見せてもらうわけにはいかないし、えーっと…………そ、そう! 無
難な選択だ! そうに違いない!!
……半分以上、俺の欲望がむき出しだったのも残念ながら否定出来ないが。
「………………。」
「ご、ごめん。やっぱりそんなのムチャクチャ……だよな?」
「い、いいわ」
「!? ま、マジで!?」
「あなたが言い出したのに、どうしてそんなに驚いているのよ……。
私だってこれからずっと濡れ衣を着せられては迷惑だし…………そ、それで納得出来るなら、か、確認で
も何でもすればいいわ」
う、嘘だろ……本人から許可も出ちまった……。
これってもしかして――念願の胸タッチチャンス到来ってこと!?
でも……ホントにいいのか!? こんな形でいいのか!?
「く、黒猫……。でも……やっぱりこんなとこで…………」
「ふ、ふん。自分で言い出したくせにいざとなると躊躇するなんて……。あなたは、ほ、本当にヘタレな
のね」
「んだとぉ!? ……じゃ、じゃあ、ホントに触るからな」
「さ、さささ触ればいいじゃない」
「ゴクッ……」
照れ隠しのつもりなのか、黒猫は強がりを言いながらもギュッと目を瞑っている。
クソッ……可愛い! こんな顔して『おっぱい触っていいわよ』なんて絶対に反則だ!
こ、こうなったら、もうホントに――。
「黒猫……いくぞ」
「きょ、京介……」
そ、そしてついに、俺の右手が黒猫の胸に、ふ、触れ――
「――あ、あ、あんたち…………ななな何やってんのよ!?」
「き、桐乃!?ど、どうしてここに!?」
俺たちがビクッとして声のする方を見ると……………………そこには顔を赤らめた桐乃が立っていた。
す、すまん桐乃。俺はシスコンのはずなのに、今日に限って2度もお前の存在を忘れちまうなんて……。
……つか、これってちょっとヤバくね?
いや、桐乃さん、あの、俺は、か、確認作業しようとしてただけでしてねハイ…………。
「どうしてって…………そこにいるエロ猫探しに来たに決まってんじゃん!
そ、それなのに、あんたらはあたしに隠れて、こ、こんな場所で、あ、あんなことしようとして――」
「ち、違うぞ!俺たちは別にそんなやましいことしようとしてたわけじゃ……」
「そ、そうよ!こ、これは誤解よ!」
「……もういいわよ!死ね!このッ……変態カップル!!!」
「「あっ、桐乃!!!」」
……俺たちの必死の言い訳も虚しく、今度は桐乃がすごい勢いで視界から消えていっちまった。
いや~早い早い、さすが一度リアに勝っただけのことはあるなぁ…………………………って、今度も感心
してる場合じゃねえ!
「く、黒猫! ぶっちゃけあいつに追いつくのは無理かもしれんが……と、とにかく追いかけよう!」
「そ、そうね。急ぎましょう。京介」
果たしてインドア派の俺たちに世界の壁は越えられるのか。
とりあえず俺と黒猫は急いで桐乃目がけて走り出して………………って、なんだと!? き、気のせい…
…かな?
な、なんか今、黒猫のむ、胸がその…………ゆ、ゆ、揺れ…………………………あ、ごめん。やっぱ気の
せいだったわ。
まあ……アレだ。まだそんな焦る必要もねえさ。
なんでって…………お、俺がこれからじっくり育ててやるからだよ!!
……なーんて、かっこよく言えるのはいつの日かわかんねえけどな。
そんな口には出せないような恥ずかしい決意を固めつつ、俺はひたすら水色水着の高速物体を追跡するのだった。
(終わり)
……ってなわけで、黒猫は無実だ。あれは紛れもなく“本物”なんだよ。
まあまだ小ぶりなのに変わりはないかもしれんが…………え?ソース?
いや、一瞬触れるか触れないかだったけど、あのふにゅっとした感じは確かに――と、とにかく!ソース
は……“俺”だ!
な、なんだよ……も、文句あっか?
(ホントに終わり)
今日は真夏日でとても暑い。もうまさに“夏”って感じだ。
晴れ渡った青空に、澄み渡った海。
心地よい波音に、気持ちのいい風。
そして、俺の隣には――
「どうしたの? 京介」
「い、いや、何でもないぞ黒猫」
――隣には、愛しの彼女も一緒だ。
今日の黒猫はいつもと違うピンクのビキニ姿で――俺が彼氏バカなのかもしれないが――その…………と
ても可愛い。
今、このビーチで泳いでる女の子の中で一番可愛い。
自分の彼女なのに、思わずナンパしてしまいそうなくらい可愛い。
「本当に?さっきから やけに あなたからの視線を感じるのだけれど……」
「え!? そ、そんなの――お、お前が可愛いからに決まってんだろ!」
「……こ、声が大きいわよ莫迦…………///」
このように、顔を真っ赤にして目を逸らす黒猫も(いや、しつこいだろうが何度でも言うぞ?)かなり可
愛い。
……と、このように、俺は今まさに青春を満喫していると言っても過言ではないかもしれない。
リア充爆発しろ?そうだな、確かに今の俺はリア充だ。
しかしだな……それはそうとしてだな………………。
「いや~、それにしても今日はいい天気だなぁ!」
「ええそうね。でも……どうして急にそんなことを?」
「えーっとさ、あの青い空見てるとなんかこう……夢と希望が“膨らんで”こないか?」
「? 急にどうしたのよ? 暑さで頭がおかしくなったの?」
「い、いや別に! ……そ、それにしても混んでるよな! ここ、人“詰め込みすぎ”じゃねえか?」
「今日は日曜日だし……混んでいて当然でしょう? だから、それがどうしたというの?」
「い、いや、何でもないんだ! ハハハ……」
「へ、変な人ね」
うーむ、俺の渾身のメタメッセージにも無反応か……。
なんかこう、もうちょっとギョッとしたりとかするかと思ったんだが…………。
……実は今、俺にはヒジョーに気になっていることがあるのだ。
それは何かと言うと…………………………えーい! 気になる!! もうこの際だからはっきり言っちまう
か!!!
「……黒猫。“それ”、きつかったりしないのか?」
「?何のことかしら?」
「だから、“それ”だって! 俺なら大丈夫だ。もうわかってるからさ。
苦しかったりしないのか? もしアレだったら一回更衣室で外してきても――」
「何のことか、と訊いているのだけれど……。なんだか、今日のあなたは本当に少し変よ?」
「ぐっ……」
こ、ここまで言ってもまだしらばっくれるなんて…………も、もうホントに言っちまうぞ!
俺は優しさから言ってやってるのに、認めようとしないお前が悪いんだからな!
「何のことって――そ、その…………お、お前の水着に付いてる“胸パッド”のことだよ!!!」
「!? な、な、な………………」
溜めて溜めてようやく口に出した俺のガチレスによって、黒猫はその場に固まってしまった。
なにやら目を見開き、驚いたように口をパクパクさせている。
ふっ。図星か。まあ所謂『神猫事件』レベルほどあからさまな偽装ではないが、彼氏である俺の目はごま
かせないぜ?
いや~、すっきりした。なんせ朝からずっと気になってたからな。
それにしても胸にパッド入れてまでよくやるもんだな……。
まあ、『少しでも大きく見せよう』っていう黒猫の健気な頑張りが感じられるから俺は評価するけどね。
とにかくこれで疑念も晴れたし、やっと気兼ねなく遊べ――って……なんか黒猫の様子がおかしくね
えか?
「……。」
「な、なあ……黒猫?」
「…………。」
「べ、別に俺は怒ってるわけじゃないんだぞ? ただちょっと苦しくないのかなって思っただけで……」
「………………。」
「いや、その……ほ、ほんの少しだけ、気になってたって言うのもあるけどさ」
「…………て……いわ」
「そ、それにな!俺は胸の有る無しで人を見てるわけじゃないし――ん?今なんか言った?」
「………………してないわ」
「……え?」
「わ、私は、そんなことしてないわ!」
「!? な、なんだと!? 嘘だろ!?」
もはや涙目になってしまっている黒猫のカミングアウトに、俺はただただ愕然とするしかなかった。
いくら俺が鈍感と言えども、自分が今、女の子に対してかなり失礼なことを言っちまったってことくらい
容易に理解出来る。
やらかしちまった! しかも相手は俺の彼女だってのに!!
「ってことは…………そ、それは、ほ、本も――」
「ず、ずっと私のことを見ていると思ったら、そ、そんなことを考えていたのね……」
「ち、違うんだ! これは、その……」
「も、もういいわ!あなたも――あなたも、あの無礼なスレの黒猫貧乳派と変わらないわ!」
「? なんだそりゃ?」
「なんでもないわよ莫迦!! あ、あなたなんて………………来世まで呪ってやる!!!」
「あっ、ちょっと待っ…………おい! どこいくんだ!?」
黒猫は半泣き状態で俺の制止を振り切り、全速力でビーチの人ごみの中へとかけていく。
無論、俺はすぐに追いかけたのだが……何しろ、先程も言ったが日曜日で真夏日の海水浴場は大混雑だ。
寝ているおじさんやパラソルやらを避けるのに気を配っている間に、すっかり黒猫の姿を見失ってしまっ
た。
ど、どうしよう……。
あいつ探そうにももう完全に居場所わかんねーし、同じようなピンクのビキニ結構多いし………俺はマジ
でどうすりゃいいんだよ!?
黒猫の突然の失踪にどうしていいかわからず、俺が騒がしい砂浜に茫然と立ち尽くしていたその時――。
「ねえ、黒いのすごいスピードだったケド……どこ行ったの? トイレ?」
「あっ! 桐乃!!」
いつのまにか俺の背後に不思議そうな顔で桐乃が立っていた。両手にソフトクリームを持っている。
そういえばこいつ、ちょっと前から向こうの海の家に行ってたんだったな。
悪いけどすっかり忘れてた…………………………って、今はそれどころじゃねえ!
「た、大変なんだ! 実はかくかくしかじかで…………」
「……ハアッ!? あんた、何であいつにそんなこと言ったのよ!?」
桐乃の『信じらんない!死ねば?』と言わんばかりの視線が俺に突き刺さる。
まあ、悲しいことに今回ばかりはまったく反論出来ないが。
「だ、だって、本物かどうか気になったから……」
「呆れた……。あんたってどっかにデリカシー捨ててきたの?」
「すまん…………」
「あんたが巨乳巨乳ってうるさいから、あいつ陰で相当努力してたみたいだよ?
なのに偽乳扱いするとか……あんたってマジサイテーな彼氏じゃん」
「? 努力って……どんな?」
「そんなの……胸大きくする方法に決まってんでしょ!」
え……?
「黒猫が……お、俺に隠れて胸を大きくしようとしてた!?」
「そっ。豊胸マッサージしてみたりとか、ネットでも色々調べてたみたい。なんかちょっと前にあたしも
質問されたし……」
「そう……だったのか…………」
黒猫は俺のためにそんなことしてまで胸を……。
きっと今日慣れないビキニを着てきたのも、本人の中でそれなりに成長の手応えを感じたからに違いない。
それなのに――俺は、なんてひどいことを言っちまったんだ!
「と、とにかく黒いの探さないと! あたしはあっち探すから、あんたはそっち探して!
……ったく、世話焼けるんだからあのバカ猫…………」
「わ、わかった!」
黒猫にどうしても謝りたい。いや、謝らなくちゃいけない。
俺はその一心で、桐乃とは逆方向に向かって全力で走り出した。
☆☆☆
黒猫を探すこと数十分。
人でごった返した海水浴場をくまなく捜索したものの、なかなかあいつの姿は見当たらない。
もしかして……帰っちゃったとか?
いや、でも服はまだ残ってるはずだし、いくらなんでもあの格好で電車に乗れるわけが――あれ? なんだ、
あの黒い点は?
俺の視線の先にあったのは、ビーチから少し離れたところにある岩場だ。
そこに、ポツンと一人分の小さな人影が見えている。
「まさかとは思うが……」
若干ヘトヘトになりながら俺がその人影の方へ向かうと………………。
――いた。
人気のない岩場に、黒猫が体育座りで海を見ながら一人で黄昏ていた。
やっと姿を見つけられて安心したような緊張するような。
とりあえず俺は残り少ない体力を振り絞り、急いで黒猫のいる方へと近付いた。
「黒猫!」
「京……介……?」
「その……“偽物”だなんて疑って悪かった!!本当にごめん!!!」
「!?」
ゴツゴツした岩の上だったが、俺はもうすっかり板についてきた土下座攻勢に出た。
今俺の顔は地面と向き合っているのでハッキリとはわからないが、黒猫は突然土下座した俺に少し驚いて
いたんじゃないだろうか。
なかなか返事が返ってこなかったからな。
俺と黒猫の間に、しばらく沈黙が続く。
そして――。
「……顔を上げて頂戴。誰かに見られては恥ずかしいでしょう」
「許して……くれるのか?」
「あなたが謝る必要はないわ。私の方こそ取り乱してしまって……」
俺は言われるままに顔を上げておそるおそる黒猫の方を見た。
もう泣いてはいなかったが…………その表情はまだどこか寂しげだ。
「桐乃から聞いたよ。お前の“努力”のこと。なのに俺はお前の気も知らないで……」
「いいのよ。だって……わ、私には前科もあるし。疑われても仕方ないでしょう?
確かに……少しショックは受けたけど…………もう気にしていないわ」
そう言いながらも絶対に『気にしている』のはこいつの様子からありありと伝わってくる。
そんな黒猫の様子を見ているのが辛くて。何とかしてやりたくて。
俺がこいつにかけてやれる最適の慰め文句を探していると…………………………って、そうだ! こう言え
ば全部解決するんじゃねえか!?
頭の中に突如として名案が浮かんだ俺は―いや、この時は『名案だと思っていた』と言った方が正しいの
かもしれないが――とんでもないことを叫んでしまった。
「黒猫!俺に……………………お、お前の胸を触らせてくれ!!!」
「!?な、ななな何を言っているのよ!?」
さっきまでの落ち込みムードはどこへやら、黒猫は驚きを通り越して完全に混乱してしまっている。
そりゃそうか。海岸で落ち込んでたら、いきなり彼氏から『胸触らせてくれ』って言われたんだからな。
もしかして俺………………間違えた?どさくさに紛れて最低なこと言っちまったんじゃね?
でも……もう言っちまったもんはしょうがねえ!こうなりゃ無理にでも続けて…………。
「だって……お、俺を満足させるために頑張って大きくしようとしてくれたんだろ?だったら――」
「そ、それとこれとは別よ! だからと言って、何故あなたに触られなくてはいけないの!?」
「本物……なんだよな?」
「そ、そうよ。何よ…………ま、まだ疑っているというの?」
「じゃあ……あ、改めて確認する意味も込めてさ! ……ダメか?」
そうだ。
黒猫は俺のために胸を大きくしてくれたんだから、その俺自身に“成果”を触られることでその努力が報
われる………………はずだ!
そして今後こんな悲劇を繰り返さないためにも、俺には『黒猫の胸が本物だ』というハッキリとした確証
を得る必要がある。
だからと言ってこいつにここで脱いで見せてもらうわけにはいかないし、えーっと…………そ、そう! 無
難な選択だ! そうに違いない!!
……半分以上、俺の欲望がむき出しだったのも残念ながら否定出来ないが。
「………………。」
「ご、ごめん。やっぱりそんなのムチャクチャ……だよな?」
「い、いいわ」
「!? ま、マジで!?」
「あなたが言い出したのに、どうしてそんなに驚いているのよ……。
私だってこれからずっと濡れ衣を着せられては迷惑だし…………そ、それで納得出来るなら、か、確認で
も何でもすればいいわ」
う、嘘だろ……本人から許可も出ちまった……。
これってもしかして――念願の胸タッチチャンス到来ってこと!?
でも……ホントにいいのか!? こんな形でいいのか!?
「く、黒猫……。でも……やっぱりこんなとこで…………」
「ふ、ふん。自分で言い出したくせにいざとなると躊躇するなんて……。あなたは、ほ、本当にヘタレな
のね」
「んだとぉ!? ……じゃ、じゃあ、ホントに触るからな」
「さ、さささ触ればいいじゃない」
「ゴクッ……」
照れ隠しのつもりなのか、黒猫は強がりを言いながらもギュッと目を瞑っている。
クソッ……可愛い! こんな顔して『おっぱい触っていいわよ』なんて絶対に反則だ!
こ、こうなったら、もうホントに――。
「黒猫……いくぞ」
「きょ、京介……」
そ、そしてついに、俺の右手が黒猫の胸に、ふ、触れ――
「――あ、あ、あんたち…………ななな何やってんのよ!?」
「き、桐乃!?ど、どうしてここに!?」
俺たちがビクッとして声のする方を見ると……………………そこには顔を赤らめた桐乃が立っていた。
す、すまん桐乃。俺はシスコンのはずなのに、今日に限って2度もお前の存在を忘れちまうなんて……。
……つか、これってちょっとヤバくね?
いや、桐乃さん、あの、俺は、か、確認作業しようとしてただけでしてねハイ…………。
「どうしてって…………そこにいるエロ猫探しに来たに決まってんじゃん!
そ、それなのに、あんたらはあたしに隠れて、こ、こんな場所で、あ、あんなことしようとして――」
「ち、違うぞ!俺たちは別にそんなやましいことしようとしてたわけじゃ……」
「そ、そうよ!こ、これは誤解よ!」
「……もういいわよ!死ね!このッ……変態カップル!!!」
「「あっ、桐乃!!!」」
……俺たちの必死の言い訳も虚しく、今度は桐乃がすごい勢いで視界から消えていっちまった。
いや~早い早い、さすが一度リアに勝っただけのことはあるなぁ…………………………って、今度も感心
してる場合じゃねえ!
「く、黒猫! ぶっちゃけあいつに追いつくのは無理かもしれんが……と、とにかく追いかけよう!」
「そ、そうね。急ぎましょう。京介」
果たしてインドア派の俺たちに世界の壁は越えられるのか。
とりあえず俺と黒猫は急いで桐乃目がけて走り出して………………って、なんだと!? き、気のせい…
…かな?
な、なんか今、黒猫のむ、胸がその…………ゆ、ゆ、揺れ…………………………あ、ごめん。やっぱ気の
せいだったわ。
まあ……アレだ。まだそんな焦る必要もねえさ。
なんでって…………お、俺がこれからじっくり育ててやるからだよ!!
……なーんて、かっこよく言えるのはいつの日かわかんねえけどな。
そんな口には出せないような恥ずかしい決意を固めつつ、俺はひたすら水色水着の高速物体を追跡するのだった。
(終わり)
……ってなわけで、黒猫は無実だ。あれは紛れもなく“本物”なんだよ。
まあまだ小ぶりなのに変わりはないかもしれんが…………え?ソース?
いや、一瞬触れるか触れないかだったけど、あのふにゅっとした感じは確かに――と、とにかく!ソース
は……“俺”だ!
な、なんだよ……も、文句あっか?
(ホントに終わり)