(アニメ設定世界線では)29歳の誕生日、おめでとうございます、黒にゃん!!
黒猫ifコミカライズも完結したものの、ゲームでは未使用になってしまった
ダークナイトメアのイラストがかんざき先生の画集で公開、グッズ化されたり
満を持してP俺妹が稼働したり、新たなプライズフィギュアが予定されていたりと、
まだまだ我らの黒猫の展開は留まるところを知りません。
ダークナイトメアのイラストがかんざき先生の画集で公開、グッズ化されたり
満を持してP俺妹が稼働したり、新たなプライズフィギュアが予定されていたりと、
まだまだ我らの黒猫の展開は留まるところを知りません。
また桐乃のASMRが発売されて、これはもう当然のように次は黒猫版が期待されますし、
今年の生誕祭の盛り上がりを見ても、黒猫ifアニメ化だってそう遠くない手応えも実感しております。
今年の生誕祭の盛り上がりを見ても、黒猫ifアニメ化だってそう遠くない手応えも実感しております。
その日を迎えるまでは、まだまだ眷属活動を続けていきたい所存ですね。
さて、そんなわけで。
その一環として、今年の黒にゃんの誕生日にちなんだSS
『棚機姫の願い』
を投稿して、今年の黒にゃんの生誕を祝福させて頂きました!。
その一環として、今年の黒にゃんの誕生日にちなんだSS
『棚機姫の願い』
を投稿して、今年の黒にゃんの生誕を祝福させて頂きました!。
この話は舞台設定としては、原作4巻から5巻の冒頭にかけて
あったのかも知れないオリジナルストーリーとなっています。
あったのかも知れないオリジナルストーリーとなっています。
基本的には原作に則った設定ですので、原作(と黒猫if)の内容を把握されていれば
どなたでも楽しんで頂ける内容になっていると思います。
どなたでも楽しんで頂ける内容になっていると思います。
なお、この話に出てくる黒にゃんバースディケーキを
今年も行きつけのケーキ屋さんで作って頂きました。
今年も行きつけのケーキ屋さんで作って頂きました。
こちらも本文に合わせて楽しんで頂けますと幸いです。
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「汝、昏き魂にて我を清めたもう。至高なる者の強き集いの内に、我は闇の装束
を身に纏いたり。今新たなる契りによる漆黒の力を束ねん……」
「汝、昏き魂にて我を清めたもう。至高なる者の強き集いの内に、我は闇の装束
を身に纏いたり。今新たなる契りによる漆黒の力を束ねん……」
……囁き……祈り……詠唱……念じろ!!
我は古からの術式に則り、虚空に印を刻みながら詠唱を紡ぎ出す。
『神魔言』【タントラ】の『祈念』【アビスカース】を織り成すために。
これから執り行う『闇縫の儀』には、『深淵の王』【ネルガル】の力をこの身
へと『顕現』【インカーネーション】させる必要があるのだから。
『神魔言』【タントラ】の『祈念』【アビスカース】を織り成すために。
これから執り行う『闇縫の儀』には、『深淵の王』【ネルガル】の力をこの身
へと『顕現』【インカーネーション】させる必要があるのだから。
己が身を中心に据えた魔法陣と六芒星の頂点には、『魔香』【インセンス】が
おぼろげな煙を十分に燻らせ、『深淵の門』【ネザーゲート】を同調する手筈は
既に整えている。
おぼろげな煙を十分に燻らせ、『深淵の門』【ネザーゲート】を同調する手筈は
既に整えている。
「おお、深淵の王よ!いと遠き潭より出る御力を此方に顕し給え!!」
我は最後の詠唱を完成させると、両の手を力一杯に開き、足元へ解き放った。
その瞬間、魔法陣は眩いばかりに光を放ち、地より強大な力の奔流が溢れ出す。
竜巻の如く荒れ狂うその理力を諸手に受け止めて、『深淵の門』のほんの一端
のみを『此方の世界』へと開放させていく。
万が一にもその制御に失敗すれば、再び『闇の渦』【ダーク・ボルテクス】を
この世界に引き起こすことになってしまうだろう。
竜巻の如く荒れ狂うその理力を諸手に受け止めて、『深淵の門』のほんの一端
のみを『此方の世界』へと開放させていく。
万が一にもその制御に失敗すれば、再び『闇の渦』【ダーク・ボルテクス】を
この世界に引き起こすことになってしまうだろう。
--フッ、或いはその方が、我が望む世界となるのでしょうけれど。
でも今は『此方の世界』の『秩序』【コスモ】を乱すわけにはいかないのよ。
昨年までの我ならば、そんな配慮をする理由など微塵もなかったはずだけど。
昨年までの我ならば、そんな配慮をする理由など微塵もなかったはずだけど。
そもそも元をただせば、その理由のためにこの儀式を行っているのだし、ね。
こんな『邪念』を抱いて『闇』に臨むのは、危険どころか愚昧と言えるけど。
こんな『邪念』を抱いて『闇』に臨むのは、危険どころか愚昧と言えるけど。
でも今は文字通りに『藁にも縋る』気持ちでもあるわ。
なれば自ら打てる手があるなら、全力で打つべき時よ。
なれば自ら打てる手があるなら、全力で打つべき時よ。
そうでもなければ、この身の『闇の宿命』をも捻じ曲げて。
『我が理想』を成就させるなど、適わぬことでしょうから。
そのために『闇の力』に縋るのも、虫が良い話と思うけど。
『我が理想』を成就させるなど、適わぬことでしょうから。
そのために『闇の力』に縋るのも、虫が良い話と思うけど。
っと、いけない。雑念に囚われる余裕などないわ。儀式に集中しなければ。
極度の瞑想から細心の制御を以って、術式に必要な理力を引き出していく。
極度の瞑想から細心の制御を以って、術式に必要な理力を引き出していく。
我は決意を新にすると、左右の掌に迸り続ける力場を篤と握り合わせた。
逆巻く力を一点に練り上げ、最後の詠唱と共に双手で胸へと押し当てる。
逆巻く力を一点に練り上げ、最後の詠唱と共に双手で胸へと押し当てる。
これで今宵の我は、あらゆる物を望むがままに創り上げることが出来る。
それが例え『光の側』へと至るための『装束』【きざはし】だとしても。
それが例え『光の側』へと至るための『装束』【きざはし】だとしても。
しかも最終的には『想い人』と添い遂げることが、その理由なのだから。
ふふっ、或いは天帝の怒りを買った『棚機姫』みたいなものかしら、ね。
* * *
「……で、そろそろいいですかねぇ、ルリ姉?」
「ひゃ、ひゃい!?」
「ひゃ、ひゃい!?」
突然背後から掛けられた声に、私は文字通りに飛び上がらんばかりに驚いた。
振り返れば妹の日向が、知らぬ間に部屋の片隅で複雑な表情で立っていたわ。
振り返れば妹の日向が、知らぬ間に部屋の片隅で複雑な表情で立っていたわ。
「い、何時からそこにいたのよ、日向!?」
「えー、何度も声をかけたってば。ルリ姉は、えーと『闇の儀式』だったっけ?
ともかく『これ』に夢中になってて、全然気付かなかったみたいだけど」
「そ、そうだったの……フッ、少しばかり高度な術式を執り行っていたものだか
ら、相当深く『瞑想』【メディテーション】に入っていたようね」
「えー、何度も声をかけたってば。ルリ姉は、えーと『闇の儀式』だったっけ?
ともかく『これ』に夢中になってて、全然気付かなかったみたいだけど」
「そ、そうだったの……フッ、少しばかり高度な術式を執り行っていたものだか
ら、相当深く『瞑想』【メディテーション】に入っていたようね」
虚を突かれた当初の驚きも徐々に薄れて、落ち着いてきたこともあって。
普段通りに不敵な笑みを浮かべながら、日向にはそう語って見せたけど。
普段通りに不敵な笑みを浮かべながら、日向にはそう語って見せたけど。
その実、内心では舌打ちをしたいくらいの憤りも覚えていたわ。
勿論、周囲への警戒を完全に怠っていた自分自身に対する、ね。
勿論、周囲への警戒を完全に怠っていた自分自身に対する、ね。
自らの『間合』【ドメイン】に侵入した存在を、感知出来ないだなんて。
『闇側の者』【ダークサイダー】としての矜持が、打ち砕かれた気分よ。
『闇側の者』【ダークサイダー】としての矜持が、打ち砕かれた気分よ。
クッ、こんなことでは『光の執行者』【クラリック】の魔手から、逃れること
など出来ないでしょうね。もっと修練を積まないと。
など出来ないでしょうね。もっと修練を積まないと。
「そ、それは兎も角として。一体何の用件かしら、日向?私が『儀式』をしてい
る時は、この部屋には立ち入らぬよう厳命しているはずよね?」
「ああ、そうそう。なんかさー、ルリ姉にこーんなに大きな荷物が届いてるんだ
よねー。すんごい豪華な包装もされてるし、差出人がなんだかおかしな名前でさ。
一応、間違ってないか確認してってお母さんが」
る時は、この部屋には立ち入らぬよう厳命しているはずよね?」
「ああ、そうそう。なんかさー、ルリ姉にこーんなに大きな荷物が届いてるんだ
よねー。すんごい豪華な包装もされてるし、差出人がなんだかおかしな名前でさ。
一応、間違ってないか確認してってお母さんが」
大きな荷物と聞いて、私は自分の記憶を遡ってみたけれど。
日向が言うような大層な代物なんて、最近購入した覚えなどなかったわ。
もっとも何事にも大袈裟な日向だから、その分は差し引く必要もあるけどね。
日向が言うような大層な代物なんて、最近購入した覚えなどなかったわ。
もっとも何事にも大袈裟な日向だから、その分は差し引く必要もあるけどね。
「……いえ、私には思い当たるものはないわ」
「だよねぇ。見ただけでも、なんか高級そうな物が入ってる感じだったし。いく
らルリ姉がバイトしててもさぁ」
「とはいえ、我が目で確かめなければ、なんとも言えないわね。いいわ、こちら
は一区切りついたところだから、早速、検めてみましょうか」
「そうしてそうして。あ、でもルリ姉の集中力はすごいって解ってるけどさぁ。
こっちとしてはもう少し早く気付いてくれると、助かるんだけど」
「ぐっ……わ、解っているわ。次からはそれも気をつけるわよ」
「うんうん、素直でよろしー。反省は人類の持つ美徳だもんねー」
「ええ、そうね。あなたもあまり人として反省がない時は、食事に『魔王の呪い』
が降り注ぐでしょうから気をつけなさいよ」
「す、すぐにご飯を人質にとるのは、それこそ人の心がないんじゃないかなぁ?」
「フッ、当然よ。私は『闇の眷属』なのだから。人の良心など持ち合わせている
わけはないでしょう。精々、普段の言動には気をつけることね?」
「ホントに人でなしだよっ!?」
「だよねぇ。見ただけでも、なんか高級そうな物が入ってる感じだったし。いく
らルリ姉がバイトしててもさぁ」
「とはいえ、我が目で確かめなければ、なんとも言えないわね。いいわ、こちら
は一区切りついたところだから、早速、検めてみましょうか」
「そうしてそうして。あ、でもルリ姉の集中力はすごいって解ってるけどさぁ。
こっちとしてはもう少し早く気付いてくれると、助かるんだけど」
「ぐっ……わ、解っているわ。次からはそれも気をつけるわよ」
「うんうん、素直でよろしー。反省は人類の持つ美徳だもんねー」
「ええ、そうね。あなたもあまり人として反省がない時は、食事に『魔王の呪い』
が降り注ぐでしょうから気をつけなさいよ」
「す、すぐにご飯を人質にとるのは、それこそ人の心がないんじゃないかなぁ?」
「フッ、当然よ。私は『闇の眷属』なのだから。人の良心など持ち合わせている
わけはないでしょう。精々、普段の言動には気をつけることね?」
「ホントに人でなしだよっ!?」
文句を言いつつ先導してくれる日向に続いて、私も自室を後にした。
まあ、こんなやり取りは私たちにとって、今更な日常茶飯事だしね。
まあ、こんなやり取りは私たちにとって、今更な日常茶飯事だしね。
実際のところ、『闇の宿命』を背負う私にとって。
それがどれだけこの身を『此方の世界』の日常へ繋ぎとめてくれるのか。
時にその事実を慮って、家族に感謝したい気持ちになることもあるのよ。
それがどれだけこの身を『此方の世界』の日常へ繋ぎとめてくれるのか。
時にその事実を慮って、家族に感謝したい気持ちになることもあるのよ。
だからそれを成し得るまでは。
無為に思えたこの『人生』とて、無駄に過ごすわけにはいかないのよ。
だからこそ暖かな家族の一員なことも、恵まれているのでしょうしね。
無為に思えたこの『人生』とて、無駄に過ごすわけにはいかないのよ。
だからこそ暖かな家族の一員なことも、恵まれているのでしょうしね。
まあ……それに。そもそも今の私には。
『闇の宿命』をも凌駕する人としての目的』、確かに見えた気もしているしね。
昨年までの自分にそのことを伝えても、決して認めはしなかったでしょうけど。
昨年までの自分にそのことを伝えても、決して認めはしなかったでしょうけど。
本当、『人生』と言うものは。
運命られた『闇の宿命』よりも摩訶不思議なものよ、ね。
運命られた『闇の宿命』よりも摩訶不思議なものよ、ね。
* * *
日向に連れられて居間に戻った私は、件の荷物とやらを確かめてみた。
長さは一メートル弱、幅はその半分、厚みはさらに半分といった、直方体に梱
包されたていたのだけど。
日向の言った通り、その表面は全て綺麗な包装紙で包まれていたし。
中の梱包材も普通のダンボールではなくて、厚みのある強度の高いものが使わ
れているようだった。
包されたていたのだけど。
日向の言った通り、その表面は全て綺麗な包装紙で包まれていたし。
中の梱包材も普通のダンボールではなくて、厚みのある強度の高いものが使わ
れているようだった。
確かにこんなものが何の断りもなく私宛に届いたら、お母さんでなくともその
是非を問いたくはなるでしょうね。
どう考えてもこの中に収められているものは、この堅牢かつ壮麗な外装に相応
しく、五桁は下らない高価な代物だと容易に想像が出来るもの。
是非を問いたくはなるでしょうね。
どう考えてもこの中に収められているものは、この堅牢かつ壮麗な外装に相応
しく、五桁は下らない高価な代物だと容易に想像が出来るもの。
何かの贈呈品か、或いは記念品とか、そういう類いの品物なのでしょうけど。
とはいえ日向にも答えた通り、私にそんな物が送られてくる覚えがないのよ。
雑誌の懸賞や何かの会員でランダム当選したとか、そういうことなのかしら。
とはいえ日向にも答えた通り、私にそんな物が送られてくる覚えがないのよ。
雑誌の懸賞や何かの会員でランダム当選したとか、そういうことなのかしら。
「で、どうなの、ルリ姉?」
「我が『邪眼』【ウアジェト】で見ても、確かに場違いなことこの上ない荷物ね。
でも宛名は私で間違いないのでしょう?」
「あー、そういえば宛名はルリ姉の本名じゃなくてさ。んーと、ハンドルだっけ?
そっちで書いてあったんだよ。それでも届くモンなんだねぇ」
「我が『邪眼』【ウアジェト】で見ても、確かに場違いなことこの上ない荷物ね。
でも宛名は私で間違いないのでしょう?」
「あー、そういえば宛名はルリ姉の本名じゃなくてさ。んーと、ハンドルだっけ?
そっちで書いてあったんだよ。それでも届くモンなんだねぇ」
どうしてそれを早く言わないのよ、と日向を窘めながらも。
私は包装紙の側面-そこに専用の枠があったわ-に貼り付けられていた送り状を、
自分でも確認してみた。
私は包装紙の側面-そこに専用の枠があったわ-に貼り付けられていた送り状を、
自分でも確認してみた。
随分と達筆に書かれていた住所は、紛れもなく我が家のものだったし。
その横の宛名には、確かに我が真名である『黒猫』と書かれていたわ。
その横の宛名には、確かに我が真名である『黒猫』と書かれていたわ。
「……なるほど、ね。確かに最初からその線を考えて然るべきだったかしら」
流石に断りもなく荷物を送りつける、不躾な真似をするとは思わなかったから。
最初から候補の一つとして考えていなかったのよね。我ながら迂闊なことだわ。
最初から候補の一つとして考えていなかったのよね。我ながら迂闊なことだわ。
ああ、でも落ち着いて考えてみれば。
最初から私へのサプライズが目的なら、確かにこんな手法も取る人だったわ。
それに私の予想が正しければ。この高級感溢れる包装も合点がいくものだし。
最初から私へのサプライズが目的なら、確かにこんな手法も取る人だったわ。
それに私の予想が正しければ。この高級感溢れる包装も合点がいくものだし。
まあ、送り主の名前を見れば一目瞭然なのだけどね。
『槇島沙織』
予想通りでもあり、ある意味で意外な名前がそこには書かれていたわ。
てっきり私の『真名』と合わせて、『沙織・バジーナ』として記載していると
ばかり思ったのだけど。
これが沙織の『本名』なのか、それとも別の『別名』【ハンドル】なのか。
でも整った字体で住所も一言一句丁寧に記載されている辺り、沙織の性格から
しても前者の可能性が高いのかしら。
てっきり私の『真名』と合わせて、『沙織・バジーナ』として記載していると
ばかり思ったのだけど。
これが沙織の『本名』なのか、それとも別の『別名』【ハンドル】なのか。
でも整った字体で住所も一言一句丁寧に記載されている辺り、沙織の性格から
しても前者の可能性が高いのかしら。
それにしても、まさか『槇島』とは、ね。
加えてこの住所は、某作品の舞台になった女子高で有名になった、高級住宅街
の辺りだと記憶しているわ。
加えてこの住所は、某作品の舞台になった女子高で有名になった、高級住宅街
の辺りだと記憶しているわ。
あのネット上の物腰にしても、趣味へと注ぎ込める無尽蔵の財力にしても。
人気絵師や作家の知人どころか、出版社へとコネのある人脈も持っていて。
何より私と同い年なのに『お見合い』を何度もしているという家柄なのも。
人気絵師や作家の知人どころか、出版社へとコネのある人脈も持っていて。
何より私と同い年なのに『お見合い』を何度もしているという家柄なのも。
以前から何度か感じていた、沙織が本当のお嬢様ではないかという推測に。
かの有名な企業グループ『槇島』の、或いは血縁者という裏付けまで、これで
加わったことになるのかしら。
かの有名な企業グループ『槇島』の、或いは血縁者という裏付けまで、これで
加わったことになるのかしら。
--いいえ、例えそうだとしても。私たちの間には何の関係もないことよ。
以前、『兄さん』にも言った通りよ。沙織には沙織の事情があるのだから。
趣味の集まりに過ぎない私たちが、余計な詮索をするなどお門違いだもの。
趣味の集まりに過ぎない私たちが、余計な詮索をするなどお門違いだもの。
ましてや本当にお嬢様なら、軽々しく明かすリスクは避けるものだと思うしね。
いずれ沙織から話してくれる機会でもあれば、それはまた話は別でしょうけど。
いずれ沙織から話してくれる機会でもあれば、それはまた話は別でしょうけど。
フッ、それに……まあ?
私が直感した『巨神』【アトラス】こそが、沙織の『真の姿』に違いないわ。
『此方の世界』の『仮初の姿』などに固執しても、それこそ詮無きことよね。
私が直感した『巨神』【アトラス】こそが、沙織の『真の姿』に違いないわ。
『此方の世界』の『仮初の姿』などに固執しても、それこそ詮無きことよね。
例え互いの関係が、今とは変わっていったとしても……ね。
「……で、で?ルリ姉の荷物だったら、結局何が入ってんの?」
しびれを切らしたと言わんばかりに、横の日向が急かしてきた。
いけない、また自分の思考に埋没してしまったわ。悪い癖よね。
いけない、また自分の思考に埋没してしまったわ。悪い癖よね。
「……ああいえ、ごめんなさい。送り主は確かに私の『盟友』だったけど、中身
の方は解らないわね」
の方は解らないわね」
とはいえ沙織から送ってきたのなら、所謂『オタクグッズ』だとは察しがつく。
それなら中身を確かめるのは、自分の部屋へ持ち帰ってからと思ったのだけど。
それなら中身を確かめるのは、自分の部屋へ持ち帰ってからと思ったのだけど。
日向の方を改めて見れば、何とも興味深々な眼でこちらを見ているものだから。
まあ、こんな仰々しい包装では、日向でなくても気になって仕方がないわよね。
まあ、こんな仰々しい包装では、日向でなくても気になって仕方がないわよね。
「ともかく開けてみましょうか。確かに知り合いからだけど、何かの手違いで私
宛に送ってしまった可能性も捨てきれないでしょうから」
「ああ、それもそうだよねぇ。じゃあ、カッターとか用意するね」
宛に送ってしまった可能性も捨てきれないでしょうから」
「ああ、それもそうだよねぇ。じゃあ、カッターとか用意するね」
解りやすく顔を輝かせると、気が変わらぬうちにと手早く棚を探っている日向。
内心、吹き出しそうになったのを堪えて、まずは包装紙を丁寧に剥がしていく。
そして戻って来た日向からカッターを受け取ると、梱包材を張り合わせている
テープを慎重に開封していった。
内心、吹き出しそうになったのを堪えて、まずは包装紙を丁寧に剥がしていく。
そして戻って来た日向からカッターを受け取ると、梱包材を張り合わせている
テープを慎重に開封していった。
「え、これって……お洋服?」
梱包材の中に収まっていた『それ』を見て、日向が不思議そうに訊いてくる。
「そう、ね。この服なら確かに思い当たる節があるから、私宛で合っていたのね」
まるで新品のように綺麗にたたまれてはいたものの、濃茶に白ラインで縁どら
れたこの『服』には、確かに見覚えがあったから。
れたこの『服』には、確かに見覚えがあったから。
「え、え、どんな服なの?どうしてルリ姉に送ってきたの?」
益々勢い込んで、日向が尋ねてくる。
まったく猫のように好奇心旺盛な性質なのだから。。
とはいえ、あの時の顛末を正直に話すのも、正直恥かしいものもあるわね……
まったく猫のように好奇心旺盛な性質なのだから。。
とはいえ、あの時の顛末を正直に話すのも、正直恥かしいものもあるわね……
「クククッ、そう、そうなのね。私の新たなる装束に興味があるのなら、あなた
も遂に『闇の衣』を纏う時がきたのかしら?」
「ええ?ああ~、そういうのなワケ?じゃ、じゃあ、荷物は間違いなくルリ姉の
だったって、お母さんには伝えておくねー」
も遂に『闇の衣』を纏う時がきたのかしら?」
「ええ?ああ~、そういうのなワケ?じゃ、じゃあ、荷物は間違いなくルリ姉の
だったって、お母さんには伝えておくねー」
文字通りに逃げるように、居間から飛び出していった日向。
こちらの狙い通りの効果に、ひとまず安堵はしたものの、どこか釈然としない
ものも感じるわよね……
こちらの狙い通りの効果に、ひとまず安堵はしたものの、どこか釈然としない
ものも感じるわよね……
それにしても、と、もう一度私は荷物の方へと振り返った。
これがあの時の『メイド服』なのは、疑いようもないでしょうけれど。
確かあの時沙織は、このメイド服は『レンタルルームの衣裳貸し出しサービス』
を利用したのだと、私と桐乃に説明していたはず。
これがあの時の『メイド服』なのは、疑いようもないでしょうけれど。
確かあの時沙織は、このメイド服は『レンタルルームの衣裳貸し出しサービス』
を利用したのだと、私と桐乃に説明していたはず。
それがどうして今になって、私の元へと送られてきたのかしら。
まさか使用状態に不備があって、実費で引き取れとか言い出さないわよね?
メイド服なんてフルセットで幾らぐらいになるのか、見当も付かないわ……
まさか使用状態に不備があって、実費で引き取れとか言い出さないわよね?
メイド服なんてフルセットで幾らぐらいになるのか、見当も付かないわ……
と、兎も角、このまま居間にいては、家族の目もあることだし。
私は梱包材ごと両手で抱え上げて、速やかに自室へと退散した。
私は梱包材ごと両手で抱え上げて、速やかに自室へと退散した。
左目の『邪眼』で、今し方垣間見えた『幻視』【ビジョン】のお陰で。
背中に冷たいものが流れ落ちるのを感じながら、ね。
* * *
『実はあのレンタルルームでは、貸し出した衣裳を格安で書い取れるサービスも
ございました。わたくし、皆さんと初めて一緒にコスプレをした記念にと、実は
三人分を購入していたのです。つきましては黒猫さんの分をお送りいたしました
ので、ご査収下さいませ。いずれまた皆さんと揃って、衣裳合わせができる機会
も楽しみにしております』
ございました。わたくし、皆さんと初めて一緒にコスプレをした記念にと、実は
三人分を購入していたのです。つきましては黒猫さんの分をお送りいたしました
ので、ご査収下さいませ。いずれまた皆さんと揃って、衣裳合わせができる機会
も楽しみにしております』
メイド服に添えられていた便箋には、ことの経緯が書かれていたのだけど。
パーティの招待状のような洒落たレターセットに、丁寧な沙織の直筆でね。
パーティの招待状のような洒落たレターセットに、丁寧な沙織の直筆でね。
そんなサービスまであったかしらと、まずは疑問に思ったものだし。
記念というだけで全員の分を購入した上に、あまつさえ送りつけてきたのかと、
それ以上に呆れたものだけど。
記念というだけで全員の分を購入した上に、あまつさえ送りつけてきたのかと、
それ以上に呆れたものだけど。
--いえ、そうね。あの思い出は、確かに私にとっても掛け替えがないものよ。
つい先週のことなのに、なんだか随分と懐かしく感じるくらいに。
でも勿論、今も鮮明に思い出せるくらいに、脳裏に焼き付いてもいるわ。
でも勿論、今も鮮明に思い出せるくらいに、脳裏に焼き付いてもいるわ。
とある事件で落ち込んでいた兄さんを、桐乃と沙織、私の三人で元気づけて。
桐乃からその件の謝罪と、今までの感謝を伝える良い機会になったのだから。
桐乃からその件の謝罪と、今までの感謝を伝える良い機会になったのだから。
私たち四人が昨年の六月に、オタクっ娘のオフ会で出会ってからというもの。
ネットでも実生活でも交流を重ねて、かつて無い新鮮な日々を送れたものよ。
でも新たな関係を築けた分だけ、より多くの問題に直面することにもなった。
ネットでも実生活でも交流を重ねて、かつて無い新鮮な日々を送れたものよ。
でも新たな関係を築けた分だけ、より多くの問題に直面することにもなった。
今までの私ならそんなリスクがあれば、すぐに身を引いていたでしょうけど。
けれど私にとってもこの縁は、もはや無くてはならない物になっていたから。
けれど私にとってもこの縁は、もはや無くてはならない物になっていたから。
……いえ、違うわね。きっと初めから。沙織に桐乃と共に二次会に誘われて。
二人と何も飾る必要もなく、本音で言い合える心地よさを知ったその時から。
そんな私たちを文句を言いつつ護ってくれる、兄さんの暖かさに触れた時に。
二人と何も飾る必要もなく、本音で言い合える心地よさを知ったその時から。
そんな私たちを文句を言いつつ護ってくれる、兄さんの暖かさに触れた時に。
だからこの前のパーティは、名目上、桐乃と兄さんのためのものだったけど。
私たちが今までに築いてきた関係に対する、集大成とも言える代物だったわ。
奇跡のような出会いから始まった大切な『仲間』に、感謝を伝えるためにね。
私たちが今までに築いてきた関係に対する、集大成とも言える代物だったわ。
奇跡のような出会いから始まった大切な『仲間』に、感謝を伝えるためにね。
そして何より、私自身にしても。
自分の奥底に芽生えた気持ちを、改めて再認識した場でもあったわ。
『お、おお。……似合ってるんじゃないか?』
『……短期間のうちに、えらい絵がうまくなってるな』
『黒猫おまえ。世界大会で入賞してたのかよ!すげえじゃんか!』
『……短期間のうちに、えらい絵がうまくなってるな』
『黒猫おまえ。世界大会で入賞してたのかよ!すげえじゃんか!』
あの人からそんな言葉を掛けられる度、胸の奥から熱い衝動が溢れてしまう。
端的に言えばそれは恥じらいだけど、その実、得も言われぬ心地よさもある。
そして同時に、その充足感を永遠たらしめようとする情念にも駆られるのよ。
端的に言えばそれは恥じらいだけど、その実、得も言われぬ心地よさもある。
そして同時に、その充足感を永遠たらしめようとする情念にも駆られるのよ。
これも今までの私であれば。
『闇の宿命』とか、或いは『前世の記憶』などと言い出して。
自分の気持ちにすら『仮面』【マスケラ】を被せて、正面から向き合うことを
避けていたのでしょうね。
本当の私は、内気で臆病な心を必死に護る、ただの少女に過ぎないのだから。
『闇の宿命』とか、或いは『前世の記憶』などと言い出して。
自分の気持ちにすら『仮面』【マスケラ】を被せて、正面から向き合うことを
避けていたのでしょうね。
本当の私は、内気で臆病な心を必死に護る、ただの少女に過ぎないのだから。
でも、私はもう決めたのよ。
このことに関しては、これから自分の気持ちを決して偽ることはしないと。
私は私の想いを成就する為に、私の持てる限りの全力を尽くすのだと、ね。
このことに関しては、これから自分の気持ちを決して偽ることはしないと。
私は私の想いを成就する為に、私の持てる限りの全力を尽くすのだと、ね。
その一環として新たに自分を鎧う『装束』を作るべく、先に行っていた『儀式』
に臨んでいたのだけどね。
に臨んでいたのだけどね。
私は改めてメイド服を箱から取り出すと、両手で眼前に掲げて見た。
所謂、クラシックな正統派のメイド服とは違って、コスプレ衣裳としての可憐
さを強調するように、スカートやネックのアレンジがなされている。
所謂、クラシックな正統派のメイド服とは違って、コスプレ衣裳としての可憐
さを強調するように、スカートやネックのアレンジがなされている。
この姿を兄さんに見られるのは、顔から火が出るほど恥かしかったのだけど。
私としてもこの服のデザイン自体は、とても気に入っているのも事実なのよ。
私としてもこの服のデザイン自体は、とても気に入っているのも事実なのよ。
それに実際、兄さんにだって、いいんじゃないか、と言われたのだし。
猫耳と尻尾も込みとはいえ、あの桐乃が素直に褒めてくれたくらいよ。
猫耳と尻尾も込みとはいえ、あの桐乃が素直に褒めてくれたくらいよ。
……そう、ね。今から着手しようとした縫製の『理念』【コンセプト】も、少
しばかり修正が必要なのかしら。
しばかり修正が必要なのかしら。
私が来月から迎えることになる、新たな生活への手ずからの餞として。
何より私の『理想』を叶えるためには、今までの創見だけに拠らずに。
より『目的』に沿えるように、対象の見解こそ取り入れるべきだもの。
何より私の『理想』を叶えるためには、今までの創見だけに拠らずに。
より『目的』に沿えるように、対象の見解こそ取り入れるべきだもの。
まずは形から。
本質的に己に自信が持てない私は、何事にもその手法が一番向いているもの。
色々な意味で新たな自分になるためには、相応の『衣裳』がいるでしょうし。
本質的に己に自信が持てない私は、何事にもその手法が一番向いているもの。
色々な意味で新たな自分になるためには、相応の『衣裳』がいるでしょうし。
だから私は、想定した『原型』【パターン】を、一旦練り直すことにしたわ。
これからの私により相応しい、『想定図』【ビジョン】が確かに見えたから。
これからの私により相応しい、『想定図』【ビジョン】が確かに見えたから。
そのための確かな切っ掛けとなってくれた、沙織の贈り物に感謝しながら、ね。
* * *
「いやぁ、それにしてもなんと麗らかな春日和でありましょう。やはり拙者たち
の日頃の行いが、お天道様にも認められている証左でござるな!」
「フッ、我ら『闇側の人間』にとっては、晴天の下などこの身を焦がす地獄の業
火に等しい、本来忌むべきものよ。……でも、まあ」
の日頃の行いが、お天道様にも認められている証左でござるな!」
「フッ、我ら『闇側の人間』にとっては、晴天の下などこの身を焦がす地獄の業
火に等しい、本来忌むべきものよ。……でも、まあ」
私は眩い陽光に眼を細めつつも、雲一つなく澄み切った空を仰ぎ見た。
「たまにはそんな『光側の祭典』に身を置くのも一興かしら。いずれは『此方の
世界』とて、闇が制することになるのだから。それまでの間に、この徒桜を精々
楽しんでおくべきよね」
世界』とて、闇が制することになるのだから。それまでの間に、この徒桜を精々
楽しんでおくべきよね」
まさに群青のキャンバスの端々には、薄桃色の花が咲き誇り。
惜しげもなく花弁を空に地にへと、静心なく舞わせていたわ。
惜しげもなく花弁を空に地にへと、静心なく舞わせていたわ。
「はいはい、あんたの言い方はいちいち回りくどいんだっての。素直に桜が綺麗
に咲いてるねーって、感激してればいいんだってば」
に咲いてるねーって、感激してればいいんだってば」
青いビニールシートの上で、だらしなく脚を投げだしている桐乃。
そんな態度の方が、この見事に咲き誇る桜に対して失礼ではないのかしら?
そんな態度の方が、この見事に咲き誇る桜に対して失礼ではないのかしら?
「でも黒猫の言う通り、たまにはこういうのも良いもんだな。俺も高校に入って
からは、花見なんて一度もやったことがなかったしよ。小さい頃は家族や麻奈実
ん家と一緒に、毎年楽しみにしてたのに、って、いてぇな、おい!?」
からは、花見なんて一度もやったことがなかったしよ。小さい頃は家族や麻奈実
ん家と一緒に、毎年楽しみにしてたのに、って、いてぇな、おい!?」
「フフフ、確かに我らオタクは、アウトドアな趣味とは元来無縁なものでござる。
しかしこうして皆で集まれば、普段とは趣向の違う物として、新たな楽しみとて
必ずや見出せましょう。それでは皆様方、飲み物の用意は良いでござるか!?」
しかしこうして皆で集まれば、普段とは趣向の違う物として、新たな楽しみとて
必ずや見出せましょう。それでは皆様方、飲み物の用意は良いでござるか!?」
その場に立ち上がった沙織が、手に持った紙コップを高々と掲げ上げていた。
勿論、その中身は単なるソフトドリンク-確かオレンジジュースね-だけど。
もう数年も経てば、こういう席でお酒を嗜む時もくるのかしらね、私たちは。
勿論、その中身は単なるソフトドリンク-確かオレンジジュースね-だけど。
もう数年も経てば、こういう席でお酒を嗜む時もくるのかしらね、私たちは。
「ではこの一年の間に『オタクっ娘』で皆様と育んだ縁を祝し。これからも我ら
一同の、変わらぬ友情とさらなる発展を願いまして、乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
一同の、変わらぬ友情とさらなる発展を願いまして、乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
皆で異口同音に宣言すると、私たちは各々のコップをその通りに飲み干した。
勿論、私は無理がないように、予め半分くらいしか注がなかったのだけどね。
勿論、私は無理がないように、予め半分くらいしか注がなかったのだけどね。
乾杯の儀が終わると、皆で持ち寄った軽食やお菓子を次々と開封していった。
それに思い思いに手を伸ばしては、私たちは他愛もないお喋りに興じていく。
それに思い思いに手を伸ばしては、私たちは他愛もないお喋りに興じていく。
麗らかな木漏れ日の下で。春の日和に相応しい、のどかな時を過ごすなんて。
そも『闇の宿命』を背負う私が、こんなにも穏やかに花見をしていることも。
そも『闇の宿命』を背負う私が、こんなにも穏やかに花見をしていることも。
本当、一年前の自分に伝えたところで、一笑に付されるか。
いいえ、莫迦にするなと怒るでしょうね、あの頃の私なら。
いいえ、莫迦にするなと怒るでしょうね、あの頃の私なら。
ましてや今日は、普段とはまた違った意味で。
『仮面』【マスケラ】を被って、平静を装わなければならないだなんて。
私自身、胸奥から湧き上がるこの想いが、いまだに信じられないくらいだもの。
『仮面』【マスケラ】を被って、平静を装わなければならないだなんて。
私自身、胸奥から湧き上がるこの想いが、いまだに信じられないくらいだもの。
「それにしてもさー、アンタのその服。今日は随分と『邪気眼』度がおとなしい
ケド。それもやっぱマスケラキャラのコスプレなワケ?」
「自分が解らないものを、雑にマスケラで括るのはやめて頂戴。この服はれっき
とした普段着よ」
「ほほう、ひょっとしてこちらの服も、黒猫氏のお手製でござるか?」
「ええ。私も『仮初の身』とはいえ、来月には『新たな位階』へと進むのだから。
『此方の世界』の理に則った装束とて、用意しなければと考えてね」
「ホント、そういうことを言い出さなきゃねー。でもま、ロリィタ的なあんたの
趣味は出てるケド、確かに私服としても悪くないじゃん?春っぽいし、なにより
可愛いしねー」
「なぁ!?あ、あなたがいつも『TPOは守りなさい』とか、五月蠅く言うから
でしょうに。フッ、それも世を忍ばねばならない、闇の者の宿命だけどね」
ケド。それもやっぱマスケラキャラのコスプレなワケ?」
「自分が解らないものを、雑にマスケラで括るのはやめて頂戴。この服はれっき
とした普段着よ」
「ほほう、ひょっとしてこちらの服も、黒猫氏のお手製でござるか?」
「ええ。私も『仮初の身』とはいえ、来月には『新たな位階』へと進むのだから。
『此方の世界』の理に則った装束とて、用意しなければと考えてね」
「ホント、そういうことを言い出さなきゃねー。でもま、ロリィタ的なあんたの
趣味は出てるケド、確かに私服としても悪くないじゃん?春っぽいし、なにより
可愛いしねー」
「なぁ!?あ、あなたがいつも『TPOは守りなさい』とか、五月蠅く言うから
でしょうに。フッ、それも世を忍ばねばならない、闇の者の宿命だけどね」
そう嘯いてみたものの、顔中に血が昇ってくるのは抑えようがなかった。
くっ、まったくこう言うところは、素直に感想を言ってくれるのだから。
普段とのギャップを受け止める、こちらの身にもなって欲しいものだわ。
普段とのギャップを受け止める、こちらの身にもなって欲しいものだわ。
「いやはや、黒猫氏の縫製技術には、ほとほと頭が下がりますなぁ。シックな色
合い中でも花のような可憐さが、今日の席にもよくお似合いでござるよ。京介氏
もそう思いますでしょう?」
合い中でも花のような可憐さが、今日の席にもよくお似合いでござるよ。京介氏
もそう思いますでしょう?」
さっきからやけに口数が少ないとは思っていたのだけど。
こちらとしても、あまり兄さんの方に顔は向けられなかったので、実際のとこ
ろはよく解らなかったのよね……
こちらとしても、あまり兄さんの方に顔は向けられなかったので、実際のとこ
ろはよく解らなかったのよね……
「……お、おう……そう、だな。なんつうか、こう……いいんじゃないか?よく
漫画とかに出てくる深層の令嬢って感じだよな。いや、詳しく知ってるわけじゃ
ないんだが」
漫画とかに出てくる深層の令嬢って感じだよな。いや、詳しく知ってるわけじゃ
ないんだが」
思いもかけない言い様に、思わず兄さんの顔をまじまじと見返してしまったわ。
それまで感じていた気恥ずかしさも、どこかに吹き飛んでしまったくらいにね。
それまで感じていた気恥ずかしさも、どこかに吹き飛んでしまったくらいにね。
「なっ……何を言い出すのよ、あなたは……」
しかも兄さんと目が合った瞬間に、あちらから視線を外されてしまった。
お陰でこちらとしては、ますます困惑の度を深める一方だったのだけど。
お陰でこちらとしては、ますます困惑の度を深める一方だったのだけど。
「どこのお嬢様が、猫耳しっぽとか着けてるんだっての!ま、それが似合ってる
のも確かだけどさぁ」
のも確かだけどさぁ」
桐乃は兄さんに鋭いツッコミ-物理も伴ってね-を入れていた。
お陰で私たちの間の微妙な雰囲気も霧散して、助かりもしたのだけど。
お陰で私たちの間の微妙な雰囲気も霧散して、助かりもしたのだけど。
その代わりに今度は桐乃が私の猫耳と尻尾を見て、爛々と目を輝かせていたわ。
しかもそこに怪しい光まで感じた気がして、思わず背筋が寒くなったくらいよ。
しかもそこに怪しい光まで感じた気がして、思わず背筋が寒くなったくらいよ。
まったく、完全にお気に入りの妹ゲーを見ている時の、それだったものね。
誰が現実と空想の区別がついていないというのよ、本当に。
誰が現実と空想の区別がついていないというのよ、本当に。
「今日は流石に間に合わなかったのだけど。あなたの分も作成を進めているから、
もう少し待っていて頂戴」
「え、マジ!?ホントに作ってくれてるワケ?」
「ええ、沙織の分も合わせてね。……ああ、そうよね。兄さんも仲間外れにする
わけにはいかないから、もう一つ作っておくべきかしら?」
「い、いやいや、ちょっと待て!?男の俺が猫耳付けてどうするんだっての!」
「むふふー、存外お似合いかもしれませぬぞ?今、オタク女子の間ではケモミミ
イケメンが流行ってますからな。京介氏なら割とイイ線いきそうでござるよ」
「ほ、ほう。そう言うモン……なのか?」
「キモっ!どんだけ自分の顔面偏差値を勘違いしちゃってんの、アンタ!」
もう少し待っていて頂戴」
「え、マジ!?ホントに作ってくれてるワケ?」
「ええ、沙織の分も合わせてね。……ああ、そうよね。兄さんも仲間外れにする
わけにはいかないから、もう一つ作っておくべきかしら?」
「い、いやいや、ちょっと待て!?男の俺が猫耳付けてどうするんだっての!」
「むふふー、存外お似合いかもしれませぬぞ?今、オタク女子の間ではケモミミ
イケメンが流行ってますからな。京介氏なら割とイイ線いきそうでござるよ」
「ほ、ほう。そう言うモン……なのか?」
「キモっ!どんだけ自分の顔面偏差値を勘違いしちゃってんの、アンタ!」
沙織の褒め言葉に、満更でもなさそうな表情を浮かべた兄さんだけど。
再び真横からの痛烈な蹴りをお見舞いされては、今度ばかりは桐乃へと怒鳴り
返していた。
勿論、それに桐乃も言い返してヒートアップしていくものだから、公園中にこ
の騒ぎが響いているのではと危惧したくらよ。
再び真横からの痛烈な蹴りをお見舞いされては、今度ばかりは桐乃へと怒鳴り
返していた。
勿論、それに桐乃も言い返してヒートアップしていくものだから、公園中にこ
の騒ぎが響いているのではと危惧したくらよ。
まったくこの間のパーティでは、ようやく兄さんに感謝出来たというのに。
日が改まれば、相変わらずこんな風に、蛇蝎の如く嫌って見せるのだから。
日が改まれば、相変わらずこんな風に、蛇蝎の如く嫌って見せるのだから。
とはいえ物理攻撃が多い分、今日のは少し度を越している気もするわね。
これも本音を少しは兄さんに明かした分の、反動なのかもしれないけど。
これも本音を少しは兄さんに明かした分の、反動なのかもしれないけど。
まあ、今のは私が揶揄ったのが発端だし、そろそろ収拾をつけましょう。
「クッ、ククク、『黒き獣』【ノワールビースト】としての覚醒を果たせば、迷
う必要など何もなくなるのよ。ネコ耳がそのための『因子』【トリガー】となる
のなら、我が『闇力』を結集して創造してみせましょう」
「はぁー、アンタも自分だけなら痛いヤツで済むんだケド、厨二を人に押し付け
るのはやめなさいよね!大体、あたしが欲しいって言ったんだから、あたしの分
だけ作ればいいんだっての!」
「折角の機会ですから、わ、いえ、拙者の分も忘れないで欲しいでござるよ……
まあ、それはともかくですな。そろそろ飲み物も減って来ましたので、買い出し
に付き合って貰えませぬか、きりりん氏」
う必要など何もなくなるのよ。ネコ耳がそのための『因子』【トリガー】となる
のなら、我が『闇力』を結集して創造してみせましょう」
「はぁー、アンタも自分だけなら痛いヤツで済むんだケド、厨二を人に押し付け
るのはやめなさいよね!大体、あたしが欲しいって言ったんだから、あたしの分
だけ作ればいいんだっての!」
「折角の機会ですから、わ、いえ、拙者の分も忘れないで欲しいでござるよ……
まあ、それはともかくですな。そろそろ飲み物も減って来ましたので、買い出し
に付き合って貰えませぬか、きりりん氏」
我が身を代償にして、桐乃の矛先をひとまずこちらへと向けると。
すぐさま沙織が割って入って、桐乃を強引に連れ出してくれたわ。
この辺りは私たちの間では、すっかり阿吽の呼吸になったものね。
すぐさま沙織が割って入って、桐乃を強引に連れ出してくれたわ。
この辺りは私たちの間では、すっかり阿吽の呼吸になったものね。
まだぶつぶつと文句を言っている、桐乃の背中を押しながらも。
沙織は私へと一瞬、顔を向けると、ぐるぐる眼鏡を煌めかせた。
沙織は私へと一瞬、顔を向けると、ぐるぐる眼鏡を煌めかせた。
--解っているわ、沙織。こちらの対処は任せておいて頂戴。
「……まったくこの間の秋葉のパーティで、少しは素直になれたと思っていたの
だけど?あなたたちは」
「んなわきゃないだろ、俺たちの関係が今更あれくらいでよ。むしろ俺への態度
はもっと酷くなった気がするぜ。普段はともかく、いきなり不機嫌になって当た
り散らかされることも増えたからな、今みたいに」
だけど?あなたたちは」
「んなわきゃないだろ、俺たちの関係が今更あれくらいでよ。むしろ俺への態度
はもっと酷くなった気がするぜ。普段はともかく、いきなり不機嫌になって当た
り散らかされることも増えたからな、今みたいに」
口振りからは、実に苦々しく言ってはいたけれど。
兄さんの表情からは、自分自身、困惑しているだろう様子が見て取れた。
兄さんの表情からは、自分自身、困惑しているだろう様子が見て取れた。
「フッ、或いはあの時に素直に感謝を出来てしまった分、桐乃もこれから兄さん
とどう接すればいいのか、距離感が掴めていないのかもしれないわね」
「そうかぁ?むしろ禊を済ませたからこそ、本音が出てんじゃないかね、アレは。
それこそ素直になって、な?」
「成程、その可能性もありうるかしら。そうだとして……あなたはどうするの?」
「どうもこうもないぜ。言ったろ、今更だって。俺の方は別段、何も変わりゃし
ないさ。そういうもんだろ、兄妹ってのはよ」
とどう接すればいいのか、距離感が掴めていないのかもしれないわね」
「そうかぁ?むしろ禊を済ませたからこそ、本音が出てんじゃないかね、アレは。
それこそ素直になって、な?」
「成程、その可能性もありうるかしら。そうだとして……あなたはどうするの?」
「どうもこうもないぜ。言ったろ、今更だって。俺の方は別段、何も変わりゃし
ないさ。そういうもんだろ、兄妹ってのはよ」
それでも私の問いかけに、間髪入れずに答えてくるあたり。
まさに万夫不当の『妹好き』【シスコン】よね、あなたは。
まさに万夫不当の『妹好き』【シスコン】よね、あなたは。
まあ、それに。確かに『姉妹』や『友達』だってそういうものだものね。
手が掛かろうと生意気だろうと。姉として友人として、振舞わねばならないわ。
それもまた、この間の『盗作騒動』の時に、お互いに共感したことでしょうし。
手が掛かろうと生意気だろうと。姉として友人として、振舞わねばならないわ。
それもまた、この間の『盗作騒動』の時に、お互いに共感したことでしょうし。
「そう、ね。もっともあなただって、もう少し素直になった方がいいと思うけど」
「おう、だからきっちりやり返してやったろ?兄の矜持としては、何時までも一方
的にやられるばかりじゃないんだぜ、ってよ」
「どうしてその程度で胸を張れるのよ、あなたは……」
「おう、だからきっちりやり返してやったろ?兄の矜持としては、何時までも一方
的にやられるばかりじゃないんだぜ、ってよ」
「どうしてその程度で胸を張れるのよ、あなたは……」
……まあ、確かに兄さんの言った通りよね。
あなたたちの問題は、そう簡単に解決するわけではないでしょうし。
私の『目標』としても、長期戦にもつれ込むのは、予想通りというものよ。
今は当初の想定通り、兄さんの気分も晴れたようだから、良しとしましょうか。
あなたたちの問題は、そう簡単に解決するわけではないでしょうし。
私の『目標』としても、長期戦にもつれ込むのは、予想通りというものよ。
今は当初の想定通り、兄さんの気分も晴れたようだから、良しとしましょうか。
とはいえ、いざそちらの対処が終わった途端に。
思いがけずに二人きりになってしまったことを、私の方が意識してしまった。
胸の鼓動が益々早まってきて、身体中の熱が顔に集まってくるようだったわ。
思いがけずに二人きりになってしまったことを、私の方が意識してしまった。
胸の鼓動が益々早まってきて、身体中の熱が顔に集まってくるようだったわ。
その気恥ずかしさを誤魔化すためにも。
私は半分も減っていないコップにお茶を継ぎ足したり、スナックをゆっくりと
齧りながら、桜をじっと見上げていた。
私は半分も減っていないコップにお茶を継ぎ足したり、スナックをゆっくりと
齧りながら、桜をじっと見上げていた。
兄さんも心得たように、暫くはお互いに黙って、文字通りの花見に興じていた。
お陰で気持ちも落ち着いてきた私は、兄さんの方をちらりと盗み見たのだけど。
彼の人はこちらの視線になど気付いた様子もなく、桜をぼんやり眺めていたわ。
今し方桐乃とやり合ったダメージを、それで心身共に癒そうというのかしらね。
彼の人はこちらの視線になど気付いた様子もなく、桜をぼんやり眺めていたわ。
今し方桐乃とやり合ったダメージを、それで心身共に癒そうというのかしらね。
まったく普段はこんな風に、まさしく『昼行燈』と呼ぶのが相応しい人なのに。
『大切な人』を守るためになら、どうして『勇者』の如く振舞えるのかしらね?
『大切な人』を守るためになら、どうして『勇者』の如く振舞えるのかしらね?
それが『桐乃』【妹】にだけ、向けられていたのなら。
ただの『妹思いの良いお兄さん』【シスコン】として、納得も出来ていたのに。
ただの『妹思いの良いお兄さん』【シスコン】として、納得も出来ていたのに。
まさかただの妹の友達に過ぎない、この私に対してまで。
ましてや愛想も可愛げもなく振舞っていた筈と、自分でも解っていたのに。
桐乃と同じくらいの『優しさ』を見せるだなんて、思いもしなかったから。
ましてや愛想も可愛げもなく振舞っていた筈と、自分でも解っていたのに。
桐乃と同じくらいの『優しさ』を見せるだなんて、思いもしなかったから。
受け入れ難い現実を突きつけられた私を庇うために、あなたは怒ってくれた。
折れかけた気持ちでも、なおも強がろうとする私を、あなたは慰めてくれた。
それでも挑戦を諦めまいと懸命に足掻く私と一緒に、あたなは悩んでくれた。
折れかけた気持ちでも、なおも強がろうとする私を、あなたは慰めてくれた。
それでも挑戦を諦めまいと懸命に足掻く私と一緒に、あたなは悩んでくれた。
それが私にとって、どれだけ嬉しかったのか。
きっとあなたは、考えたこともないでしょう。
きっとあなたは、考えたこともないでしょう。
『転生してもなお、あなたの魂は毀損してはいなかったのね。我が伴侶となる
べき『黒き獣』よ』
べき『黒き獣』よ』
そんな都合の良い『自己設定』だって、本気で信じたくなったくらいだもの。
それにそれが私の妄想だろうと、本当に宿命だろうと、もはや関係ないことよ。
私は私の意志に則って、この想いを成就させるべく全力を尽くすと決めたから。
私は私の意志に則って、この想いを成就させるべく全力を尽くすと決めたから。
そのための大きな、そして着実な第一歩は、もうとっくに踏み出しているわ。
目標を達成するためには、その第一歩こそがもっとも大切なことでもあるし。
歩みを決して止めないことこそ肝要よ。まあ、お母さんの受け売りだけれど。
お父さんとお付き合い出来たのもそのお陰だと、昔からよく言っていたもの。
目標を達成するためには、その第一歩こそがもっとも大切なことでもあるし。
歩みを決して止めないことこそ肝要よ。まあ、お母さんの受け売りだけれど。
お父さんとお付き合い出来たのもそのお陰だと、昔からよく言っていたもの。
「……どうした、黒猫?なんだか浮かない顔をしてるじゃないか」
声をかけられて、私は何時の間にか沈んでいた思考の淵から戻ってこれた。
その主の方へと目を向ければ、随分と穏やかな表情でこちらを見ていたわ。
その主の方へと目を向ければ、随分と穏やかな表情でこちらを見ていたわ。
まるであの時の編集室で、思わず涙を零した私を励ましてくれた優しさで。
「……別に私は普段通りよ。桜を見ていたら、改めて来月からの新たな生活に想
いを馳せていただけで」
「そういや、黒猫も沙織ももう高校生だもんな。義務教育じゃなくなると、色々
と勝手も変わるからなぁ」
「フッ、人の身の理など、私には詮無きことなのにね。精々、私の『理想』を実
現するための、礎とさせて貰う心算よ」
「ほほう、流石は黒猫。もう将来へのビジョンが固まってるわけか?」
「当然でしょう。私の『本来の能力』を覚醒させて、『夜魔の女王』の地位を取
り戻した暁には、『此方の世界』をあまねく統べるのだから!」
「お、おう。つまりそれは……あれか。作家や漫画家でプロデビューをして、超
売れっ子になるとか、そういう感じのか?」
いを馳せていただけで」
「そういや、黒猫も沙織ももう高校生だもんな。義務教育じゃなくなると、色々
と勝手も変わるからなぁ」
「フッ、人の身の理など、私には詮無きことなのにね。精々、私の『理想』を実
現するための、礎とさせて貰う心算よ」
「ほほう、流石は黒猫。もう将来へのビジョンが固まってるわけか?」
「当然でしょう。私の『本来の能力』を覚醒させて、『夜魔の女王』の地位を取
り戻した暁には、『此方の世界』をあまねく統べるのだから!」
「お、おう。つまりそれは……あれか。作家や漫画家でプロデビューをして、超
売れっ子になるとか、そういう感じのか?」
思ってもみなかった返答に、またもや兄さんの顔を凝視してしまったわ。
正直に言えば、深く考えてもいなかった普段通りの『科白』だったけど。
或いは無自覚に秘めた私の『願望』までも、見破られたというのかしら。
正直に言えば、深く考えてもいなかった普段通りの『科白』だったけど。
或いは無自覚に秘めた私の『願望』までも、見破られたというのかしら。
……いえ、そうよね。
私が真に目指している『夢』を、あなただけは知っているのだもの。
私が真に目指している『夢』を、あなただけは知っているのだもの。
あの時はその場の成り行きだったし、何を今更な話でもあるけれど。
あなたに私の本音を曝け出してしまったことも、今のこの『想い』を形作るた
めの確かな一歩になったのでしょう。
あなたに私の本音を曝け出してしまったことも、今のこの『想い』を形作るた
めの確かな一歩になったのでしょう。
そしてそんな私の『夢』に対して。
あなたも一緒に応援してくれる、ということも。
あなたも一緒に応援してくれる、ということも。
「ククク、我が『闇語』まで解するとは、どうやら順調に覚醒が進んでいるよう
ね。確かに『黒き獣』の『因子』は、私をも上回るのでしょうし。フッ、あなた
専用の『獣耳の箍』の完成を楽しみにしておきなさいな」
「いや、だから俺の分は、謹んで遠慮させて貰うぜ……」
ね。確かに『黒き獣』の『因子』は、私をも上回るのでしょうし。フッ、あなた
専用の『獣耳の箍』の完成を楽しみにしておきなさいな」
「いや、だから俺の分は、謹んで遠慮させて貰うぜ……」
私も今まで意識したことはなかったのだけど。
確かに沙織の言うように、一部界隈では『ケモ耳男子』が流行しているのよね。
兄さんが『その気』になれば、実に雄々しい『獣っ漢』になると思うのだけど。
確かに沙織の言うように、一部界隈では『ケモ耳男子』が流行しているのよね。
兄さんが『その気』になれば、実に雄々しい『獣っ漢』になると思うのだけど。
あ、あくまで知的好奇心からの考察よ?
私的な趣味とは別物だから、勘違いしないで頂戴。
私的な趣味とは別物だから、勘違いしないで頂戴。
「あら、それは残念ね。まあ、そんな戯言はこれくらいにして」
私は改めて先輩の方に、真っ直ぐに向き直った。
他愛もないお喋りだったけど。お陰で今までの気恥ずかしさや緊張感も、良い
具合にほぐれてくれたわ。
他愛もないお喋りだったけど。お陰で今までの気恥ずかしさや緊張感も、良い
具合にほぐれてくれたわ。
「いい機会だから、あなたの意見をしっかり聞かせて貰おうかしら?同年代の男
性の見解というのも、今の私にとっては必要になるでしょうから」
性の見解というのも、今の私にとっては必要になるでしょうから」
私の遠回しな言い草にも、律儀に大きく頷いてくれる兄さん。
「私のこの新たな装束を見て、あなたはどう思ったのかしら?出来れば私を考慮
しないで、純粋に服装としての第一印象を聞かせて欲しいのよ」
「ああ、つまりは物語の中のキャラが、どんな印象を持つかってことか。うーん、
とは言っても俺の語彙とセンスじゃ、大したことは言えないぜ?」
「そんなことは解っているわよ。でもだからこそ、制作者の私には思いもよらな
い率直な意見だって、訊けるかも知れないでしょう?」
「なるほど、そんなもんかね。じゃあ素直に言わせて貰うと、だな」
しないで、純粋に服装としての第一印象を聞かせて欲しいのよ」
「ああ、つまりは物語の中のキャラが、どんな印象を持つかってことか。うーん、
とは言っても俺の語彙とセンスじゃ、大したことは言えないぜ?」
「そんなことは解っているわよ。でもだからこそ、制作者の私には思いもよらな
い率直な意見だって、訊けるかも知れないでしょう?」
「なるほど、そんなもんかね。じゃあ素直に言わせて貰うと、だな」
そこで兄さんは、それこそ頭のてっぺんからつま先まで。
私の身体を改めてじっくり眺めまわすと、僅かに考え込む仕草を見せた。
私の身体を改めてじっくり眺めまわすと、僅かに考え込む仕草を見せた。
折角、羞恥心を抑えようと一計を案じて。
予め考えていた『設定』で、この服の感想を聞きだそうと思っていたのに。
そこまで真剣な眼差しを向けられては、別の意味で恥かしくなるじゃない……
予め考えていた『設定』で、この服の感想を聞きだそうと思っていたのに。
そこまで真剣な眼差しを向けられては、別の意味で恥かしくなるじゃない……
「そりゃあ、間違いなく可愛いと思う。これは揶揄とかお世辞とかじゃないぜ?
やっぱ白は清楚なイメージだし、それでいて凛としている感じだろ。本当に物語
に出てくるお嬢様だって思ったからなぁ」
「……そう。単刀直入な感想、とても助かるわね。では『主人公』の外観設定と
周囲の印象として、参考にさせて貰うわ」
「お、いいんじゃないか。でも黒猫の書く話のキャラにしちゃ、なんつうかその、
随分と普通な恰好じゃないか?」
「フッ、次の話は典型的なジュブナイル設定だもの。『主人公』は普段は一般的
な高校生だけど、学校に潜在する謎や事件を友人と一緒に対峙するうちに、真の
力に覚醒して、この世界を闇から統べる存在と戦っていく、というね」
「おお、なんか少年漫画のお約束って感じだな。そりゃ俺みたいな野郎どもには
燃える展開だろうけどなぁ」
やっぱ白は清楚なイメージだし、それでいて凛としている感じだろ。本当に物語
に出てくるお嬢様だって思ったからなぁ」
「……そう。単刀直入な感想、とても助かるわね。では『主人公』の外観設定と
周囲の印象として、参考にさせて貰うわ」
「お、いいんじゃないか。でも黒猫の書く話のキャラにしちゃ、なんつうかその、
随分と普通な恰好じゃないか?」
「フッ、次の話は典型的なジュブナイル設定だもの。『主人公』は普段は一般的
な高校生だけど、学校に潜在する謎や事件を友人と一緒に対峙するうちに、真の
力に覚醒して、この世界を闇から統べる存在と戦っていく、というね」
「おお、なんか少年漫画のお約束って感じだな。そりゃ俺みたいな野郎どもには
燃える展開だろうけどなぁ」
兄さんが訝し気にしていることを、喜ぶべきか、それとも悲しむべきなのか。
いえ、ここは私に対する理解が深まっていることを、良しとするべきかしら。
いえ、ここは私に対する理解が深まっていることを、良しとするべきかしら。
「ええ、それが狙いだもの。プロを目指すならば、自分の拘りだけの物語を紡ぐ
べきでないことくらい、重々承知しているわ。だからこれも、新たな手法の模索
でもあるのよ」
「なるほど、熊谷さんの指摘もしっかりと取り入れるってことだな」
「どんなに口惜しくても、今の私にとっては得難すぎるプロの助言だもの、当然
よ。あの人を必ず見返せるようになるために、私自身の成長が必要だし、他の人
からの視点や協力も、これからはできる限り仰いでいく心算よ」
べきでないことくらい、重々承知しているわ。だからこれも、新たな手法の模索
でもあるのよ」
「なるほど、熊谷さんの指摘もしっかりと取り入れるってことだな」
「どんなに口惜しくても、今の私にとっては得難すぎるプロの助言だもの、当然
よ。あの人を必ず見返せるようになるために、私自身の成長が必要だし、他の人
からの視点や協力も、これからはできる限り仰いでいく心算よ」
兄さんに話した理由も、目的の一つなのは間違いないのだけど。
私がその『物語』を書こうと思っている本当の狙いは、また別にあるのよね。
私がその『物語』を書こうと思っている本当の狙いは、また別にあるのよね。
「その意思を籠めたのが、今までのイメージとは違うその服ってことだな。本当、
そういうところがすごいと思うぜ。俺にはとてもマネできんからなぁ。ま、そん
な俺でも、できるところは協力させて貰うさ。それに桐乃や沙織だって、喜んで
手を貸してくれるだろうしな」
そういうところがすごいと思うぜ。俺にはとてもマネできんからなぁ。ま、そん
な俺でも、できるところは協力させて貰うさ。それに桐乃や沙織だって、喜んで
手を貸してくれるだろうしな」
ここは素直に頷かせて貰ったわ。
私の『運命』を大きく変えてくれたこの三人の協力なくしては、どのみちこれ
からの私の『理想』など適わないでしょうから。
私の『運命』を大きく変えてくれたこの三人の協力なくしては、どのみちこれ
からの私の『理想』など適わないでしょうから。
「なになに?名前が聞こえた気がしたけど、あたしらがいない間に、ヒドイこと
とか言ってたんじゃないでしょうね?」
「お帰りなさい。何もあなたの悪口を言っていたわけではないわ。丁度あなたた
ちが戻ってきてから、改めて相談しようと話していたところよ」
「ほうほう、つまりはここにいる全員の力が必要、というわけでござるな?我ら
三人『秋葉の誓い』を交わした仲。そういうことならこの沙織・バジーナ、全力
を持って助力させて頂きますぞ!」
「へぇ、あんたが素直に相談とかって、珍しいこともあるもんじゃん?どういう
心境の変化?」
とか言ってたんじゃないでしょうね?」
「お帰りなさい。何もあなたの悪口を言っていたわけではないわ。丁度あなたた
ちが戻ってきてから、改めて相談しようと話していたところよ」
「ほうほう、つまりはここにいる全員の力が必要、というわけでござるな?我ら
三人『秋葉の誓い』を交わした仲。そういうことならこの沙織・バジーナ、全力
を持って助力させて頂きますぞ!」
「へぇ、あんたが素直に相談とかって、珍しいこともあるもんじゃん?どういう
心境の変化?」
桐乃はいつも通りに、こちらを揶揄うような口調だったけれど。
その表情は実に解りやすく、興味津々だと言外に告げていたわ。
その表情は実に解りやすく、興味津々だと言外に告げていたわ。
「どうもこうもないわ。私の創作に足りないのは、自分には乏しい実体験と客観
的な視点だと、最近思い知らされたのよ。それなら」
「ははーん、ようやく自分の実力を正しく把握できたってコトね。そういうこと
ならこの天下の理乃さまが、あんたの厨二設定の矯正をしてあげるから、ありが
たく思いなさいよねー」
「そこまでは求めていないわよ。ネタ出しのアイディアや意見を訊いたり、その
ネタの私の解釈や表現が問題ないのか確認して欲しい、という話だもの」
「ほうほう、そういうレベルであれば、お気軽にご相談頂ければと思いますぞ」
「あー、あたしはその、春からは部活とかもっと忙しくなると思うし。だからす
ぐに返事とかできなくても……その、そこは勘弁ね?」
「それを言ったら俺も受験生だけどな。でも、別にすぐに答えなければいけない
わけでもないんだろ?」
「それに電話とかでは、リアルタイムに応対できない時もありましょう。メール
や『オタクっ娘』のスレッドで纏めて貰うのが良さそうでござるな」
「ん、了解。答えらえる時に、ね」
的な視点だと、最近思い知らされたのよ。それなら」
「ははーん、ようやく自分の実力を正しく把握できたってコトね。そういうこと
ならこの天下の理乃さまが、あんたの厨二設定の矯正をしてあげるから、ありが
たく思いなさいよねー」
「そこまでは求めていないわよ。ネタ出しのアイディアや意見を訊いたり、その
ネタの私の解釈や表現が問題ないのか確認して欲しい、という話だもの」
「ほうほう、そういうレベルであれば、お気軽にご相談頂ければと思いますぞ」
「あー、あたしはその、春からは部活とかもっと忙しくなると思うし。だからす
ぐに返事とかできなくても……その、そこは勘弁ね?」
「それを言ったら俺も受験生だけどな。でも、別にすぐに答えなければいけない
わけでもないんだろ?」
「それに電話とかでは、リアルタイムに応対できない時もありましょう。メール
や『オタクっ娘』のスレッドで纏めて貰うのが良さそうでござるな」
「ん、了解。答えらえる時に、ね」
今日のところは、まずは自分の考えを皆に示せればと思っていたのだけど。
沙織はすぐに皆の意見を調整して、その具体的な方法まで纏めてくれたわ。
沙織はすぐに皆の意見を調整して、その具体的な方法まで纏めてくれたわ。
流石は私たちの頼れる『管理人』さんよね。
……それにしても。いつになく桐乃が殊勝な態度なのは、気のせいかしら?
まあ、桐乃も趣味への思い入れや責任感は人一倍に強いから、適当なことは言
えないのでしょうけど。
まあ、桐乃も趣味への思い入れや責任感は人一倍に強いから、適当なことは言
えないのでしょうけど。
桐乃と沙織の横では、隣では兄さんが大きく頷いていた。
私の視線に気が付いたのか、得意気に口元までも緩めて。
私の視線に気が付いたのか、得意気に口元までも緩めて。
な、言った通りだろ?
その笑顔に吸い込まれそうになって、慌てて私は視線を逸らした。
少なくとも今はまだ。
兄さんには勿論、桐乃や沙織にだって悟られるわけにはいかないのよ。
グループ内での色恋沙汰は、崩壊の引き金になるとは、よく聞く話だしね。
兄さんには勿論、桐乃や沙織にだって悟られるわけにはいかないのよ。
グループ内での色恋沙汰は、崩壊の引き金になるとは、よく聞く話だしね。
それに何よりも。
桐乃の秘めた気持ちを、酷く傷つけてしまうことになりかねないから。
桐乃の秘めた気持ちを、酷く傷つけてしまうことになりかねないから。
ことは慎重に、そして確実に進めなければならないわ。
私にとっては桐乃も沙織の二人も、もはや誰と比べられる存在ではないもの。
私にとっては桐乃も沙織の二人も、もはや誰と比べられる存在ではないもの。
兄さんへの想いを成就させて、一緒に歩める未来を掴むのと同時に。
桐乃と沙織との友好もまた、その未来の中でとこしえにならしめる。
桐乃と沙織との友好もまた、その未来の中でとこしえにならしめる。
ふふっ、我ながら大層な目標を掲げたものだと解っているけど。
それでも必ずや成し遂げてみせると、私自身に誓ったのだから。
それでも必ずや成し遂げてみせると、私自身に誓ったのだから。
それに、ね。
今、私の眼前にある、まさに春のような暖かな光景を見ていると。
遠からぬ先に辿り着けるものだと、この時の私は心から信じることが出来たわ。
今、私の眼前にある、まさに春のような暖かな光景を見ていると。
遠からぬ先に辿り着けるものだと、この時の私は心から信じることが出来たわ。
本当、何の根拠もないのだけどね。
* * *
なんて、あの時は確かに思っていたのだけど。
まさかその確信が、あっという間に覆されるだなんて。
我が左目に宿る『邪眼』の力を駆使しても、そんな未来を見通すことなど適わ
なかったのよ。
我が左目に宿る『邪眼』の力を駆使しても、そんな未来を見通すことなど適わ
なかったのよ。
あの花見から程なくして、桐乃は陸上の留学でアメリカに行ってしまったから。
私や沙織だけでなく、家族である『先輩』にすら、何も告げることもなく、ね。
私や沙織だけでなく、家族である『先輩』にすら、何も告げることもなく、ね。
出発した当日のSNSの日記には、短く事情らしきものは書かれていたけれど。
『アメリカで今のうちから本場の陸上の指導を受けて、自分がどこまでやれるの
か、試してきたいと思います。頑張るぞー、あたし!』
か、試してきたいと思います。頑張るぞー、あたし!』
などとさも大したことがないように書かれていたものだから、てっきり春休み
の間だけの話と思っていたのだけど。
の間だけの話と思っていたのだけど。
でも既に新学期を迎えたというのに、それからも私たちに一切の連絡もないし。
日記もツィッターすら更新がないものだから、しばらくは海外に留学する心算
だったのだと、嫌でも察するしかなかったのよ。
そして今日。高坂家に半ば強引にお邪魔して、その裏付けも取れてしまったわ。
それ以外にありえないと覚悟していたとはいえ、先輩の口からその事実を聞か
されるのは、思っていた以上に胸の苦しいことだった。
日記もツィッターすら更新がないものだから、しばらくは海外に留学する心算
だったのだと、嫌でも察するしかなかったのよ。
そして今日。高坂家に半ば強引にお邪魔して、その裏付けも取れてしまったわ。
それ以外にありえないと覚悟していたとはいえ、先輩の口からその事実を聞か
されるのは、思っていた以上に胸の苦しいことだった。
かろうじて『仮面』を被って桐乃への憎まれ口を叩くことで、沙織や先輩には
誤魔化せたとは思うのだけど。
折角、今日は『後輩』になった自分が先輩の家を訪ねるという、最大限に効果
的なイベントにする心算だったというのにね。
誤魔化せたとは思うのだけど。
折角、今日は『後輩』になった自分が先輩の家を訪ねるという、最大限に効果
的なイベントにする心算だったというのにね。
そんな薄情な桐乃に対して、皆で抗議の意思を示すためにも。
その後は三人でパーティゲームに興じたり、私の構想中の物語にアイディアを
出し合ったりしていたのだけど。
でも結局、三人でどんな遊びをするにしても、正直に言えば、よ。
その度に桐乃がいない現実を思い知らされるようで、どうしても素直に楽しむ
ことなんて出来なかったわね。
その後は三人でパーティゲームに興じたり、私の構想中の物語にアイディアを
出し合ったりしていたのだけど。
でも結局、三人でどんな遊びをするにしても、正直に言えば、よ。
その度に桐乃がいない現実を思い知らされるようで、どうしても素直に楽しむ
ことなんて出来なかったわね。
そもそも冷静に今の状況を判断をするのなら。
私にとっては本来、千載一遇の機会になっているとも言える。
なにせ私の想いを成就させるための『最大の関門』が、労せずして開け放たれ
ているのだから。
この期を逃さずに『本丸』へと雪崩れ込めば、一気に大将の首級を上げられる
ことでしょうけれど。
私にとっては本来、千載一遇の機会になっているとも言える。
なにせ私の想いを成就させるための『最大の関門』が、労せずして開け放たれ
ているのだから。
この期を逃さずに『本丸』へと雪崩れ込めば、一気に大将の首級を上げられる
ことでしょうけれど。
--でもそれでは余りにも、火事場泥棒すぎるじゃない……
それに親友が単身、自らの人生すら賭して、異国の地で戦っているというのに。
私がその間にあの娘の『一番大切なもの』を掠めとるなんて真似が、できるわ
けもないでしょうに。
例え戦略的に正しい判断だろうと、道理が通らぬものに真の勝利はないのよ。
私がその間にあの娘の『一番大切なもの』を掠めとるなんて真似が、できるわ
けもないでしょうに。
例え戦略的に正しい判断だろうと、道理が通らぬものに真の勝利はないのよ。
それに私自身、友人に大事を何も告げられなかったという、ショックもあるし。
何より今日まさに実感したように。時が経てば経つほど、桐乃がいないという
喪失感もまた、己を苛むことになるのでしょうしね……
何より今日まさに実感したように。時が経てば経つほど、桐乃がいないという
喪失感もまた、己を苛むことになるのでしょうしね……
こんな気持ちを抱えたまま、果たして目標のために邁進することが出来るのか。
想定外すぎるこの事態に対して、今後の戦略を練り直す必要もあるでしょうし。
想定外すぎるこの事態に対して、今後の戦略を練り直す必要もあるでしょうし。
ああ、そうね。今から考えれば、だからこそ、だったのでしょう。
今日、先輩に私の本名を聞かれた時に、学生証を見せたのだけど。
私の誕生日が来週末にあることを知った先輩と沙織が、誕生日パーティをやら
ないかと提案してくれたのよ。
私の誕生日が来週末にあることを知った先輩と沙織が、誕生日パーティをやら
ないかと提案してくれたのよ。
『……いえ、その週末は家族で用事があるから、生憎だけど二人の気持ちだけ有
難く受け取っておくわ』
難く受け取っておくわ』
けれど私はその申し出を、素気無く断ってしまったのよ。
でも別段、嘘をついたわけではないのよ?
実家では例年通りに、私の誕生日パーティを開いてくれることでしょうし。
その週末は私と珠希の入学のお祝いも兼ねて、家族皆で温泉旅行に行く予定に
なっているのだから。
実家では例年通りに、私の誕生日パーティを開いてくれることでしょうし。
その週末は私と珠希の入学のお祝いも兼ねて、家族皆で温泉旅行に行く予定に
なっているのだから。
でも私が本当にやろうと思えば、別の日に改めるとか。
家族に相談した上で、今年は二人とのパーティを優先しても良かった筈だもの。
家族に相談した上で、今年は二人とのパーティを優先しても良かった筈だもの。
でもあの時は、いいえ、今でもだけど。
『三人』だけで特別なパーティを楽しむことを、自分自身、許せなかったのよ。
『三人』だけで特別なパーティを楽しむことを、自分自身、許せなかったのよ。
--折角の機会をみすみす逃したのは、後々に響きそうだけれども、ね。
でも現状では、これで十分だとも思っているのよ。
新たに創り上げた装束と、『後輩』となった自分を先輩には見て貰ったわ。
今までの私と違う、確かな変化と関係を印象付けられたことでしょうから。
それに先輩が卒業するまでの一年間に、何度でも好機は訪れるはずだもの。
新たに創り上げた装束と、『後輩』となった自分を先輩には見て貰ったわ。
今までの私と違う、確かな変化と関係を印象付けられたことでしょうから。
それに先輩が卒業するまでの一年間に、何度でも好機は訪れるはずだもの。
急いては事を仕損じる。
ましてや私は対人関係の知識も技術も経験も、全てがまるで足りていないのよ。
いかに『兵は拙速を尊ぶ』とはいっても、私の覚悟がついていけないようでは、
本末転倒なんてものではないでしょう?
ましてや私は対人関係の知識も技術も経験も、全てがまるで足りていないのよ。
いかに『兵は拙速を尊ぶ』とはいっても、私の覚悟がついていけないようでは、
本末転倒なんてものではないでしょう?
え、そんなの小心者の言い訳に過ぎないだろうって?
物事には分相応というものがあるのよ。上策が必ずしも最善ではないようにね。
まずは自分を知り、相手を知るものこそが、勝利への術を見出せるものなのよ。
あなたも『闇の道』を歩むつもりなら、そのことをしかと覚えておきなさいな。
物事には分相応というものがあるのよ。上策が必ずしも最善ではないようにね。
まずは自分を知り、相手を知るものこそが、勝利への術を見出せるものなのよ。
あなたも『闇の道』を歩むつもりなら、そのことをしかと覚えておきなさいな。
ま、まあ、その辺りは今は置いておきましょうか。
今年の私の誕生日は金曜日なわけだけど。
実家では平日ながらもささやかなパーティ-少しばかり豪勢なお料理とケーキ、
それとプレゼントあるくらいだけどね-を家で行うことになっていたわ。
実家では平日ながらもささやかなパーティ-少しばかり豪勢なお料理とケーキ、
それとプレゼントあるくらいだけどね-を家で行うことになっていたわ。
「ルリ姉、また『沙織・バジーナ』さんから、荷物が届いてるよ?しかも今度は
クール宅急便で」
クール宅急便で」
その誕生日当時の朝、時間指定の宅急便が沙織から送られてきたわ。
日向からクール宅急便と聞いた時には、まさかとは思ったのだけど。
案の定、送り状には『ケーキ』と、予想通りの内容が書かれていた。
日向からクール宅急便と聞いた時には、まさかとは思ったのだけど。
案の定、送り状には『ケーキ』と、予想通りの内容が書かれていた。
『不躾とは思いましたが、間近に迫った黒猫さんの誕生日を知れたのも何かの縁。
せめてものプレゼントとして、わたくしと京介さんから誕生日ケーキを贈らせて
頂きました。半日ばかり冷蔵庫で解凍してお召し上がり頂ければ幸いです』
せめてものプレゼントとして、わたくしと京介さんから誕生日ケーキを贈らせて
頂きました。半日ばかり冷蔵庫で解凍してお召し上がり頂ければ幸いです』
同封されていた手紙には、そんな文面が書かれていた。
沙織は兎も角、まさか先輩までお金を出してくれたということかしら。
ケーキボックスのサイズからして五号のホールケーキだと思うから、冷凍の工
程を含めれば恐らくは五千円を下らないと思うのよ。
沙織は兎も角、まさか先輩までお金を出してくれたということかしら。
ケーキボックスのサイズからして五号のホールケーキだと思うから、冷凍の工
程を含めれば恐らくは五千円を下らないと思うのよ。
……いえ、すぐに所帯じみたことを考えてしまうのも、私の悪い癖だけど。
でも桐乃から訊いている先輩のお小遣い事情を考えれば、二人で折半したとし
ても、決して安い代物ではないはずよ。
単なる『妹の友人』や『サークル仲間』に贈るプレゼント代としては、ね。
でも桐乃から訊いている先輩のお小遣い事情を考えれば、二人で折半したとし
ても、決して安い代物ではないはずよ。
単なる『妹の友人』や『サークル仲間』に贈るプレゼント代としては、ね。
文字通り、現金な話だとは思うけど。
だからこそ籠められた二人の気持ちを慮って、目頭が熱くなってしまったわ。
だからこそ籠められた二人の気持ちを慮って、目頭が熱くなってしまったわ。
「へぇ、沙織さんって人。ルリ姉の誕生日にわざわざケーキを送ってくれたの?
そこまで仲のいい友達だったんだ」
「フッ、当然よ。以前にもあなたに説明した通り、私たちは前世からの『宿星』
に従い『運命の邂逅』を迎えたことで」
「あー、うんうん。もう学校いかなきゃだから、その辺はまた今度ね。ともかく
これは冷蔵庫に入れとけばいいのかな?」
「そ、そうね。帰って来たころには、丁度解凍されている頃合いでしょうし。後
でお母さんには、今日のケーキは必要なくなったとメールしておくわ」
そこまで仲のいい友達だったんだ」
「フッ、当然よ。以前にもあなたに説明した通り、私たちは前世からの『宿星』
に従い『運命の邂逅』を迎えたことで」
「あー、うんうん。もう学校いかなきゃだから、その辺はまた今度ね。ともかく
これは冷蔵庫に入れとけばいいのかな?」
「そ、そうね。帰って来たころには、丁度解凍されている頃合いでしょうし。後
でお母さんには、今日のケーキは必要なくなったとメールしておくわ」
私も日向も、既に遅刻ギリギリの時間になってしまっていたから。
手早くケーキの処置を済ませてから、すぐに学校へと向かったわ。
手早くケーキの処置を済ませてから、すぐに学校へと向かったわ。
だから二人から贈られてきたケーキが、果たしてどんなものなのか。
実際に確認出来たのは、私が家に帰ってからになったというわけよ。
実際に確認出来たのは、私が家に帰ってからになったというわけよ。
「で、で、どんなケーキなの?早く開けようよ、ルリ姉!」
「わたしはいちごのケーキだとうれしいです!」
「……落ち着きなさい、急かさなくても別にケーキは逃げないわよ」
「わたしはいちごのケーキだとうれしいです!」
「……落ち着きなさい、急かさなくても別にケーキは逃げないわよ」
帰宅の挨拶を言う暇があればこそ。
玄関に一目散に走って来た日向と珠希が、そう急かすものだから。
私は着替える間もなく、ケーキボックスを開ける羽目になったわ。
玄関に一目散に走って来た日向と珠希が、そう急かすものだから。
私は着替える間もなく、ケーキボックスを開ける羽目になったわ。
まあ、人のプレゼントを勝手に開けなかった分別に免じて、二人の希望を聞い
て上げなければならないでしょうから。
て上げなければならないでしょうから。
「お帰りなさい、瑠璃。早速ケーキを開けてみるのかい?」
「ただいま、お母さん。この場にいない、お父さんには少し悪い気もするけれど。
でもどんなものか確認しておかないと、配分も決まらないものね」
「ただいま、お母さん。この場にいない、お父さんには少し悪い気もするけれど。
でもどんなものか確認しておかないと、配分も決まらないものね」
台所ではエプロン姿のお母さんが、今晩の料理の数々に奮闘していたわ。
仕事ではプロジェクトリーダーな分、普段の帰宅は遅くなりがちだけど。
『こういう日』には必ず早退してくる辺り、メンバーからの厚い信頼と。
お母さんらしい辣腕を揮って、プロジェクトを纏めているのでしょうね。
仕事ではプロジェクトリーダーな分、普段の帰宅は遅くなりがちだけど。
『こういう日』には必ず早退してくる辺り、メンバーからの厚い信頼と。
お母さんらしい辣腕を揮って、プロジェクトを纏めているのでしょうね。
そしてそれは家事の腕前に関しても、全く同じようにね。
今日の晩餐にしても凡そ調理をし終わっているようで、今は大皿への盛り付け
方に拘っている様子だったもの。
私も家事を手伝い始めて、もう数年が経つけれど。
これだけの『御馳走』は、とても一、二時間では用意は出来ないでしょうから。
一端の『母親』になるには、いまだ修練が足りないと思い知らされるばかりよ。
今日の晩餐にしても凡そ調理をし終わっているようで、今は大皿への盛り付け
方に拘っている様子だったもの。
私も家事を手伝い始めて、もう数年が経つけれど。
これだけの『御馳走』は、とても一、二時間では用意は出来ないでしょうから。
一端の『母親』になるには、いまだ修練が足りないと思い知らされるばかりよ。
まあ、今はお母さんの話も完全に余談よね。話を戻すことにしましょうか。
私は冷蔵庫から真っ白なケーキボックスを取り出すと、居間のテーブルの上へ
と静かに置いた。
元々冷凍ケーキだから、解凍しても崩れにくい加工がされていると思うけど。
折角の二人からのプレゼントだもの。丁重に扱わなければ罰が当たるわよね。
と静かに置いた。
元々冷凍ケーキだから、解凍しても崩れにくい加工がされていると思うけど。
折角の二人からのプレゼントだもの。丁重に扱わなければ罰が当たるわよね。
そして側面のシールを慎重に剥がし開けると、トレイをゆっくりと引き出した。
トレイの上に乗っていたのは、たっぷりな生クリーム-冷凍する必要上、そん
なに複雑な絞りはないけれど-で飾られたシンプルなホールケーキだった。
そのケーキの中央にはチョコペンで枠取られ、色粉やピューレで塗り分けられ
た、一際大きなイラストが描かれていた。
なに複雑な絞りはないけれど-で飾られたシンプルなホールケーキだった。
そのケーキの中央にはチョコペンで枠取られ、色粉やピューレで塗り分けられ
た、一際大きなイラストが描かれていた。
「わぁ、これは姉さまのあたらしいおようふくですね!」
「え、ってことはこのケーキのイラストって、沙織さんが描いたの?」
「流石にこのケーキ自体は、専門店で作られたものじゃないかな?いや、プロ並
みの腕前を沙織さんが持っているのかも知れないが」
「え、ってことはこのケーキのイラストって、沙織さんが描いたの?」
「流石にこのケーキ自体は、専門店で作られたものじゃないかな?いや、プロ並
みの腕前を沙織さんが持っているのかも知れないが」
しかも珠希の言った通り、この前の花見でお披露目をしたあの服の、ね。
「そこまで料理上手とは、訊いていないわね。でもこのイラストの元絵は、沙織
が描いたのかも知れないわ。あの時、みんなで記念写真を何度か撮ったのだけど。
私はこんなポーズをした覚えもないから」
が描いたのかも知れないわ。あの時、みんなで記念写真を何度か撮ったのだけど。
私はこんなポーズをした覚えもないから」
何よりイラストの私は、実に穏やかに微笑んでいたのだから。
あの時を思い返してみると、先輩と新たな約束をしたり、何よりも皆が揃って
いた楽しい一時だったとはいえ。
ここまで無防備な笑顔を、流石に晒してはいなかったと思うもの。
あの時を思い返してみると、先輩と新たな約束をしたり、何よりも皆が揃って
いた楽しい一時だったとはいえ。
ここまで無防備な笑顔を、流石に晒してはいなかったと思うもの。
だからそう、この『ケーキの上の私』は。
きっと沙織から私へと向けた、メッセージではないかと思うのよ。
きっと沙織から私へと向けた、メッセージではないかと思うのよ。
何時までも落ち込んでいないで、元気を出してください、と。
この服を着ていた時のように。共に楽しくやっていきましょう、と言いたいの
ではないかしらね。
この服を着ていた時のように。共に楽しくやっていきましょう、と言いたいの
ではないかしらね。
まったく、あなただって桐乃がいなくなってからというもの。
今まで見たことがないくらい、意気消沈した姿を見せていたでしょうに。
今まで見たことがないくらい、意気消沈した姿を見せていたでしょうに。
本当、どれだけあなたに恩義を感じればいいというのよ、私は。
これはいよいよ、生涯をかけて報いる必要があるのでしょうね。
これはいよいよ、生涯をかけて報いる必要があるのでしょうね。
「へぇ、やっぱルリ姉のオタク友達なだけあって、イラストとかも上手いもんだ
ねぇ。そういえばこっちのチョコプレートの方は?」
「『ハッピーバースデー黒猫。この一年もみんなであそぼうぜ!』って、かいて
ありますね?」
「ん?その沙織さんって娘は、わりと男勝りな言葉使いなのかい?」
ねぇ。そういえばこっちのチョコプレートの方は?」
「『ハッピーバースデー黒猫。この一年もみんなであそぼうぜ!』って、かいて
ありますね?」
「ん?その沙織さんって娘は、わりと男勝りな言葉使いなのかい?」
--前言撤回よ、沙織!あなた、絶対に解っていて仕組んだのでしょう!!
きっとイラストは自分が書くからと、ケーキに入れる『お祝いの言葉』を先輩
に考えさせたのでしょう?
先輩が『こちらの事情』とか、気遣い出来るタイプではないことを見越してね。
に考えさせたのでしょう?
先輩が『こちらの事情』とか、気遣い出来るタイプではないことを見越してね。
この私に『男友達』がいるだなんて家族に知れたら、間違いなく一騒動になる
だろうと目論んだのでしょう。
後からその時の話を聞き出して、私や先輩を恥かしがらせて楽しむ心算よね。
だろうと目論んだのでしょう。
後からその時の話を聞き出して、私や先輩を恥かしがらせて楽しむ心算よね。
「……フッ、沙織は普段はオタク丸だしの身なりと口調で『擬態』しているけれ
ど。その実、彼女は幾つもの『化身』【アバター】を秘めていて、その中の一つ
に『男装の麗人』も持っているわ。私も詳しくは知らないのだけど、家の事情も
込み入っているようだから、使い分けも必要なのでしょう」
「ふぅん、色々と複雑なんだねぇ。だから趣味とか大切にしてるってことかな」
「なるほど、瑠璃と気が合うのも頷けるな。いつも瑠璃がお世話になっているの
と、このケーキのお礼もさせて貰わなければね。近いうちに沙織さんたちを家に
招待しなさい、瑠璃」
「え、ええ、そうね。前向きに検討しておくわ」
ど。その実、彼女は幾つもの『化身』【アバター】を秘めていて、その中の一つ
に『男装の麗人』も持っているわ。私も詳しくは知らないのだけど、家の事情も
込み入っているようだから、使い分けも必要なのでしょう」
「ふぅん、色々と複雑なんだねぇ。だから趣味とか大切にしてるってことかな」
「なるほど、瑠璃と気が合うのも頷けるな。いつも瑠璃がお世話になっているの
と、このケーキのお礼もさせて貰わなければね。近いうちに沙織さんたちを家に
招待しなさい、瑠璃」
「え、ええ、そうね。前向きに検討しておくわ」
ひ、ひとまずは誤魔化せたかしら?
沙織に関しても、まるきりのでっち上げというわけでもないことだし。
まあ、家に連れてくるタイミングは、熟考する必要がありそうだけど。
沙織に関しても、まるきりのでっち上げというわけでもないことだし。
まあ、家に連れてくるタイミングは、熟考する必要がありそうだけど。
……っと、お母さんは今、なんて言ったのかしら?
「ま、今はそれより、早くパーティを始めようよ!さっきから良い匂いがするか
ら、おなかがぐーぐーなってて辛いんだってば!」
「わたしもケーキ、はやくたべたいです!」
「こらこら、お父さんが帰ってくるまでは、おとなしく待ちなさい。今日は定時
で上がる約束だから、もう少しの辛抱だよ」
「そうよ、日向。そんなことを言うなら、少しは準備も手伝いなさいな」
ら、おなかがぐーぐーなってて辛いんだってば!」
「わたしもケーキ、はやくたべたいです!」
「こらこら、お父さんが帰ってくるまでは、おとなしく待ちなさい。今日は定時
で上がる約束だから、もう少しの辛抱だよ」
「そうよ、日向。そんなことを言うなら、少しは準備も手伝いなさいな」
私はひとまずケーキをボックスに入れ直してから、冷蔵庫へと戻しておく。
そして居間に戻る時に、盛り付けが終わった大皿を運ぼうとしたのだけど。
そして居間に戻る時に、盛り付けが終わった大皿を運ぼうとしたのだけど。
「あー、今日はそういうのはいいんだって、ルリ姉。少しは『本日の主役』って
自覚を持ってくれないとさ」
「姉さまはおちゃをのんで、ここでくつろいでいてください!」
自覚を持ってくれないとさ」
「姉さまはおちゃをのんで、ここでくつろいでいてください!」
でも私が運ぼうとしたお皿は、日向と珠希に持っていかれてしまった。
手持ち無沙汰になった私を、お母さんが実に愉快そうに笑っていたわ。
手持ち無沙汰になった私を、お母さんが実に愉快そうに笑っていたわ。
普段からこれくらい率先して家事を手伝ってくれると、助かるのだけどね。
私は肩をすくめて大袈裟に溜息をつくと、お母さんにそう返したのだけど。
私は肩をすくめて大袈裟に溜息をつくと、お母さんにそう返したのだけど。
でも私もお母さんと同じように、顔が綻ぶのを抑えられなかったわ。
私には勿体ないくらいの、頼もしい妹たちの姿を見せられては、ね。
私は一度自室に戻って、制服を着替えることにした。
普段は部屋着にしている、いつものえんじ色のジャージではなくて。
折角ケーキに描いて貰った、一度しか袖を通していないこの服にね。
普段は部屋着にしている、いつものえんじ色のジャージではなくて。
折角ケーキに描いて貰った、一度しか袖を通していないこの服にね。
ふふっ、昨年は私にとって、大きな変化が沢山あったのだけど。
この一年は、きっと比較にならないくらいに変わっていかねばならないから。
この一年は、きっと比較にならないくらいに変わっていかねばならないから。
その決意の表れがこの服なのだと、彼の人も言ってくれたのだし。
一番の親友からも、この姿の私に祝福と激励を送ってくれたから。
一番の親友からも、この姿の私に祝福と激励を送ってくれたから。
今度は私の家族に対して、改めて自分の覚悟の程を示せるように。
今日のパーティは、この恰好で胸を張って迎える必要があるのよ。
今日のパーティは、この恰好で胸を張って迎える必要があるのよ。
そして勿論。改めて自分自身へ向けて。
己が『理想』へと至る道を邁進すると、この服に誓っていたわ。
己が『理想』へと至る道を邁進すると、この服に誓っていたわ。
* * *
* * *
「そっか、あの花見の時の服には、そんな意味まで籠められてたんだな。随分と
印象の違う感じになったとは思ってたんだが」
「ええ、あなたにそう思って貰えていたなら成功だったわね。だから私にとって
もあの服は、今の私たちに至る鍵となった大切なものなのよ」
印象の違う感じになったとは思ってたんだが」
「ええ、あなたにそう思って貰えていたなら成功だったわね。だから私にとって
もあの服は、今の私たちに至る鍵となった大切なものなのよ」
すっかりと春めいた陽気となった、昼下がりの高坂家のリビングで。
私と京介は学生時代のアルバムを引っ張りだして、思い出話に興じていた。
私と京介は学生時代のアルバムを引っ張りだして、思い出話に興じていた。
季節柄、町中の桜はすっかり満開になっているところだし。
この天気なら、近くの公園はお花見で盛り上がっていることでしょうね。
この天気なら、近くの公園はお花見で盛り上がっていることでしょうね。
きっと『あの時』の私たちのように。
でも今の私たちは、再来月にようやく満一歳を迎えることになる、大切な娘た
ちの子育ての真っ最中だもの。
アウトドアなイベントなどには、中々参加できるような余裕はないのよ。
ちの子育ての真っ最中だもの。
アウトドアなイベントなどには、中々参加できるような余裕はないのよ。
なにせ片時も目が離せない存在が、二人も一緒にいるのだから、ね。
京介やお義母さんが積極的に育児に参加してくれているとはいえ、季節柄の行
事に参加するどころか、気の休まる時間も殆どないのが正直なところよ。
京介やお義母さんが積極的に育児に参加してくれているとはいえ、季節柄の行
事に参加するどころか、気の休まる時間も殆どないのが正直なところよ。
子育ては戦場。まさにその言葉の意味を噛みしめ続けた十カ月だったわね……
とはいえ今は二人とも、大人しく寝付いてくれたところだったから。
束の間の安らかなる平穏を、こうして京介と過ごしているところよ。
束の間の安らかなる平穏を、こうして京介と過ごしているところよ。
折角、桜が咲いているご時勢だから、そんな思い出を肴にして、ね、
「そういやあの服から結構、白い服のチョイスが増えた気もするな」
「あなたに白が似合うと言われれば、そうもなるでしょう?」
「そ、そうだったのか。まあ、ダーク系を着てる瑠璃も、凛々しくてカッコいい
んだが。やっぱ清楚で可憐なイメージこそ、ぴったりだと思ってるからな」
「あなたに白が似合うと言われれば、そうもなるでしょう?」
「そ、そうだったのか。まあ、ダーク系を着てる瑠璃も、凛々しくてカッコいい
んだが。やっぱ清楚で可憐なイメージこそ、ぴったりだと思ってるからな」
今となっては私も随分と慣れたものだとは思うけど。
当時の私が聞いたのなら、とても平常心ではいられないような台詞を、真顔で
言ってくれるのだからね、うちの旦那様は。
当時の私が聞いたのなら、とても平常心ではいられないような台詞を、真顔で
言ってくれるのだからね、うちの旦那様は。
「でも、瑠璃が新しい服を着てくる度に、何度も惚れ直したのも本当だぜ。瑠璃
のいろんな恰好を見ていると、今まで見えてなかった新たな魅力ってものに気付
かされてたからなぁ」
「まったく、あなたは。そんなことを言われてしまったら、逆に服の選び甲斐が
ないじゃない」
のいろんな恰好を見ていると、今まで見えてなかった新たな魅力ってものに気付
かされてたからなぁ」
「まったく、あなたは。そんなことを言われてしまったら、逆に服の選び甲斐が
ないじゃない」
でも結局のところ、私の全てを見てくれているからこそ出る話だものね。
「いやいや、どんな恰好でも良いって言ってるわけじゃないんだぜ?瑠璃が選ん
だ服だからこそ、お互いに高め合うっていうか。何よりも瑠璃のセンスがあれば
こそって話であって」
「ふふっ、そんなに慌てなくても解っているわ。あなたがどんな時も、私のこと
を理解しようと努めてくれているからでしょう?だから私のセンスというより」
だ服だからこそ、お互いに高め合うっていうか。何よりも瑠璃のセンスがあれば
こそって話であって」
「ふふっ、そんなに慌てなくても解っているわ。あなたがどんな時も、私のこと
を理解しようと努めてくれているからでしょう?だから私のセンスというより」
大切に想う人の、あるがままを受け入れながらも。
本人だって気付いていなかった魅力を、そこに見出してくれるのだから。
本人だって気付いていなかった魅力を、そこに見出してくれるのだから。
それは初めてあなたのために創り上げた、この服の時から変わらずにね。
だからこれからも何度だって、新しい服をあなたに見て欲しいと思うわ。
だからこれからも何度だって、新しい服をあなたに見て欲しいと思うわ。
「あなたの誠実さと私への気持ちの現れだもの。いつも有難く思っているのよ?」
ありがとう、と微笑を浮かべると、京介もまた、おう、と得意気に頷き返す。
さっきのお返しをしようと思ったのに、この程度では京介も動じてくれない。
さっきのお返しをしようと思ったのに、この程度では京介も動じてくれない。
我ながら私たちも擦れてしまったものよね?
思い出話を語っていたら、ついついそんな感傷にも浸ってしまうわ。
まあ、夫婦生活ももう三年。子供も生まれたのだから当然といえば当然だけど。
思い出話を語っていたら、ついついそんな感傷にも浸ってしまうわ。
まあ、夫婦生活ももう三年。子供も生まれたのだから当然といえば当然だけど。
「ああ、そうね。いい機会だから今年の誕生日は、この服を着てみようかしら?」
育児でそれどころではないし、そもそももう二十九歳になるのだから、当初は
見送ろうと思っていたのだけど。
今年は家族が増えて初めての誕生日だから、是非ともやっておこうと京介から
も熱望されて、ささやかなパーティを開く予定になっているのよ。
見送ろうと思っていたのだけど。
今年は家族が増えて初めての誕生日だから、是非ともやっておこうと京介から
も熱望されて、ささやかなパーティを開く予定になっているのよ。
とはいえ、実際のところは。
桐乃からの矢のような催促-勿論、璃乃と悠璃に会う名目の-が、あったので
はないかと睨んでいるのだけど。
桐乃からの矢のような催促-勿論、璃乃と悠璃に会う名目の-が、あったので
はないかと睨んでいるのだけど。
まあ、その辺りは兎も角。私としても『母』となった、最初の誕生日だもの。
在りし日の時のように。改めて決意と覚悟を示す必要があると思っているわ。
在りし日の時のように。改めて決意と覚悟を示す必要があると思っているわ。
「ってまだ残っていたんだな、この服。でもあの花見の時から、あまり瑠璃が着
ていた記憶もないんだが」
「それはそうよ。あなたとはあれからすぐに別の関係性が出来たでしょう?」
「ああー、そうなるのか。それで私服の出番はあまりなくなったと」
「ええ。『部活の後輩』は実に効果的だったわ。服装的な意味でもね。もっとも、
それもあなたのお節介のお陰なわけだし。ああでも、今から考えてみれば、それ
もあなたの狙い通りだったと言えるのかしら?」
「いや、それは人聞きが悪くないか?俺は断じて後輩萌えなわけじゃないからな」
「解っているわよ。『瑠璃萌え』だと言いたいのでしょう?」
「おうよ。そこだけは声を大にして、言わせて貰いたいところだ!」
ていた記憶もないんだが」
「それはそうよ。あなたとはあれからすぐに別の関係性が出来たでしょう?」
「ああー、そうなるのか。それで私服の出番はあまりなくなったと」
「ええ。『部活の後輩』は実に効果的だったわ。服装的な意味でもね。もっとも、
それもあなたのお節介のお陰なわけだし。ああでも、今から考えてみれば、それ
もあなたの狙い通りだったと言えるのかしら?」
「いや、それは人聞きが悪くないか?俺は断じて後輩萌えなわけじゃないからな」
「解っているわよ。『瑠璃萌え』だと言いたいのでしょう?」
「おうよ。そこだけは声を大にして、言わせて貰いたいところだ!」
まったく、もはや二児を持つ父親だと言うのにね。
でも、それでこそ私の愛する旦那様でもあるけど。
でも、それでこそ私の愛する旦那様でもあるけど。
「でも服はあるとしても、だ。今も問題なく着れるものなのか?そもそも……」
京介の視線を追うまでもなく、何が言いたいのかはすぐに察せられたわ。
「い、いらぬお世話というものよ。このくらいなら問題なく対応できるデザイン
になっているわ」
になっているわ」
そもそもあなたのせいじゃない、とは流石に自重しておいたわ。
大体、自分にも原因があることだし、出産でサイズアップもしているのだし。
それに元々魅惑の魔力を籠めるための余地だから、なんて理由にしても、それ
こそ胸に秘めておくべき話だと思うもの……
大体、自分にも原因があることだし、出産でサイズアップもしているのだし。
それに元々魅惑の魔力を籠めるための余地だから、なんて理由にしても、それ
こそ胸に秘めておくべき話だと思うもの……
「なら来週のパーティは、清楚でお嬢様な主役の御姿を拝見できるのを、楽しみ
にさせて貰うとするかね」
「ええ、沙織はきっと心配ないでしょうけど。年甲斐もなく、とか絶対に桐乃は
揶揄ってくると思うから、そのフォローもよろしくお願いするわ」
「任せとけって。何人たりとも、俺の世界一の奥さんを馬鹿にするなんて真似は
許しはしないからな」
にさせて貰うとするかね」
「ええ、沙織はきっと心配ないでしょうけど。年甲斐もなく、とか絶対に桐乃は
揶揄ってくると思うから、そのフォローもよろしくお願いするわ」
「任せとけって。何人たりとも、俺の世界一の奥さんを馬鹿にするなんて真似は
許しはしないからな」
まあ桐乃に凄まれたら、きっとその限りではないでしょうけれど。
それはそれで、私たちの昔から変わらぬ日常というものだけどね。
それはそれで、私たちの昔から変わらぬ日常というものだけどね。
そう、だからこそ。
あの服と共に誓った未来が、間違いなくここにあると言えるのだから。
あの服と共に誓った未来が、間違いなくここにあると言えるのだから。
愛する人たちと歩んできた日々を、二人で懐かしく思い返しながらも。
願いを成就して迎えられたこの時を、私は心から幸せに感じていたわ。