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『偽りの肉体』

胸パッド疑惑事件を受けて書き始めました。
つい見栄を張っちゃう瑠璃ちゃんマジ天使。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


身に付けていた衣類を全て脱ぎ捨て、
縦長の姿見の前にその肢体をさらす。

そこに写るのは、魔力に溢れた豊満な肉体ではない。
貧相な体――偽りの肉体だ。


「ふぅ……」


非常に頼りない、人間の身体。
しかし、明日はこの肉体を、あの人に晒さねばならない。

これは一つの試練。

私は面積の小さい布地を手に取ると、身に纏う。


「少し大胆じゃないかしら……」


ピンク色の水着。
つい今日の昼間、桐乃に選んでもらったばかりのものだ。

明日は、そう。
京介と一緒に、海水浴に行くことになっている。

しかし――


「やはり、胸の辺りが寂しいわね」


じ、自分でつぶやいて悲しくなってきたわ。

でも、明日はせっかく京介と海に行く日だもの。
少しくらい……少しくらいは、いい格好をしたいじゃない。


「ふ……もとより仮初の肉体。
 少々割り増ししようとも、その事実は変わりはしないわ」


京介の持っていた、いかがわしい本の女を思い浮かべる。
そのまま、鏡の中の自分自身と見比べ――


「もう少し……」


私はしなやかな手つきで、水着に『ソレ』を詰め込んだ。



◇ ◇ ◇



「じゃ、着替えたらココ集合ねっ!」

海に到着するや否や、ハイテンションに桐乃が宣言する。
久しぶりの海が楽しみで仕方ないらしい。


「拙者の水着姿、楽しみにしておいてくだされ」
「高坂くん、今日のあたしは地味じゃないからね!」
「海、楽しみです~♪」
「マッチョメンがあっちにもこっちにも!!!」


沙織と日向、珠希。それに瀬菜も、なんだかいつもより楽しそうね。

男性陣は、京介と真壁先輩と瀬菜のお兄さん。
3人と別れ、私達は更衣室へと向かった。


「ルリ姉、昨日の水着……着るんでしょ?」
「えぇ……昨日、見ていたの?」
「う、うん。 えっと、さ」
「?」
「な、なんでもない」


日向の様子がなんだか少しおかしいわ。
何かしら。

あまり気にしてもしかたないので、私は水着に着替えることにした。
ちなみに珠希の着替えは、日向が手伝ってくれている。



私が水着に着替えて更衣室を出ると、
そこにはソワソワして待ち切れない様子の桐乃が待っていた。

まったく、子どもみたいに楽しみにしていたのね。
日向や珠希と変わらないわ。

フッと、微笑が漏れる。


桐乃は私に気付くと、振り返った。


「あんた遅かったじゃ……な……」


桐乃が静止している。
いったいなんだと言うのだろう。

私はわけが分からないという顔をして、桐乃に問いかけた。


「どうしたのかしら?」
「……」


桐乃は少し顔を赤らめると、言った。


「あの……さ。 それ……」


桐乃は私の胸を指差す。
ま、まさか……胸パッドがバレてしまったというの!?


「な、ななな何かしら」
「その、さ。 えっと……」

気まずそうな顔をしないで頂戴。

「その胸パッドさ……は、半分くらいでいいんじゃないかな?」
「そ、そうかしら……」


そういえば、胸パッドの枚数は独断で決めてしまったものね。
桐乃にはあらかじめ相談すればよかったかもしれないわ。


「ご忠告ありがとう。 ちょっと、減らしてくるわ」
「うんっ!!! それがいいと思うっ!!!」


分かったから、そんなに力強く言わないで頂戴。


私は更衣室に戻り、胸パッドの枚数を半分に減らす。
私の理想の大きさからはだいぶ小さくなってしまったわね。

でも、言われてみれば不自然な大きさだったかもしれない。
京介の鈍感さを考えても、気付かれてしまう危険があった。


ふぅ。 と、自分を納得させ、更衣室を出た。


「あ、黒猫……氏……」


沙織が固まった。


「な、なにかしら沙織」
「うむ……ひ、非常に言いづらいのですが……」
「……何?」
「もう2、3枚、減らしてもよろしいのではないでしょうか?」


そう言うと、沙織は私の胸を指差す。
こ、これでもまだ多いというの!?


「その、少々不自然と言いますか」
「そ、そうかしら」
「えぇ……」
「わ、分かったわ」
「ほっ……」


な、何安心した顔になっているの!?
でもまぁ、沙織が言うのなら間違いないのだろう。

私は再び更衣室に戻ると、2枚ほど胸パッドを減らした。


「また少し小さくなってしまったわね……はぁ」


寂しくなった胸を見て、ため息をつく。
でも仕方ないわね。

もとがあまり大きくないんだもの。
大きくしすぎても、確かに不自然かもしれないわ。


私はだんだんと落ち込んでくる気持ちを奮い立たせると、
更衣室をでた。


「あぁ五更さん、遅いじゃない……です……か……」


瀬菜が固まった。


「ご、ごごご五更さん!!!」
「な、何かしら」
「何かしらじゃありません! なんですかその偽乳は!?」


に、偽乳だなんて失礼ね!!!
ほんの少し割り増ししただけよ!!!


瀬菜はサッと眼鏡を外し、私の胸を検分する。


「最低でも、あと4枚は外してください!」
「そ、そんなに外したら――」
「外してください!! 絶対にバレます!」


くっ……
でも、この魔眼使いの眼力は侮れない。

瀬菜が『気付かれる』と言うのなら、そうなのだろう。


「し、仕方ないわね……外してくるわ」
「……そうしてください」


私は悔しい想いをかみ締めながら、更衣室に戻った。


「かなり……小さくなってしまったようね」


瀬菜の言うとおり、胸パッドを外した。
京介にバレてしまっては元も子もないものね。

はぁ……

私は半分泣きそうになりながら、更衣室を出た。


「あ! ルリ姉!!!」


日向が元気に私のところに駆け寄ってきた。
ふふ、桐乃に負けず劣らず、楽しみにしていたものね。


「よかったルリ姉! 思いとどまったんだね!!!」


日向がなんの話をしているのかサッパリ理解できないわ。


「黒猫氏~」
「あんた……ま、まぁそのくらいなら」
「この程度なら許容範囲でしょうか」


口々に何を言っているのかしら。
人間風情はたまによく分からないことを口にするのね。

と、みんなの後ろから、珠希が顔を出した。


「姉さま」
「どうしたの? 珠希」


珠希はキラキラした目で私を見つめる。
なんだか照れるわね。


「姉さま、綺麗です」
「そ、そう?」
「はい! いつもよりお胸が大きいですね!!!」


……。

珠希も、特別な"眼"を持っているということかしら。



◇ ◇ ◇



今日は一日、とても楽しかったわ。

あの後、待ち合わせ場所で、京介はしばらく私に釘付けになっていた。

「可愛いよ、瑠璃」

そんなことも言ってくれたわね。
ふふ……水着を選んでくれた桐乃には感謝しなければならない。


一日中遊んで、泳いだり、スイカ割りをしたり、海の家でゴロゴロしたり。

そうそう、桐乃の"大親友"を豪語していたあの女も途中から参加したわ。


「こんな所で会うなんて、 "ぐ う ぜ ん" だね~!」


実にわざとらしい。
後ろにいたツインテール(スイーツ3号と名付けたわ)も呆れていたわ。


日も少し落ちてきて、今は花火の準備をしているところよ。
ちなみに服はもう水着から普段着に着替えている。
花火をするにはまだ少し明るいのだけど、日向や珠希もいることだし、ね。


「なぁ瑠璃」
「どうしたの? 京介」
「いやそのなんだ……」


京介は頬をかき、少し照れながら言った。


「今度二人きりのとき、また今日の水着、着てくれないか?」
「あら、私の魅力にあてられたのかしら……」
「ま、そーゆーこったな」


そのまま、顔をほんのり赤くして、視線をそらした。
ふふ、こんな言葉で喜んでしまう私も、現金な女ね。


「あ、ちなみに……その。 お前はお前のままで魅力的だと思うぞ」
「?」
「えっと、変に見栄を張ろうとしなくてもだな、十分可愛いと思う」
「? そう……」


京介が何を言っているのかはよく分からなかったけれど。
私のこの貧相な体でも、京介は満足してくれる……ということなのかしら。


「ちなみに、私のどこが魅力的だった?」
「……言わなきゃダメか?」
「えぇ、言わないと死の呪いが降りかかるわ」
「……分かったよ」


京介は私の耳に口を近づけ、小さい声で言った。


「黒い髪と、白いうなじと、白い太もものコントラストがだな……」


耳元で吐かれる恥ずかしいセリフに、私の体は固まってしまう。
というか、あんまり胸は関係なかったのね。

なんだか取り越し苦労をしたような気がして、ふっと力が抜ける。

と、こちらを振り返った日向が突然大声を上げた。


「 あ あ あ ー ー ー ! ! ! 」


一体何かしら。


「 高 坂 く ん が ル リ 姉 に チ ュ ー し て る ー ! ! ! 」


――――なっ!?


「ち、違うわ、ご、誤解よ!!!」


た、確かに角度的にはそう見えたかもしれないけれど。
今やみんなの目線が私達に釘付けになっていた。


「お兄さん?」
「ひぃぃぃっ」


新垣あやせ――スイーツ2号が、花火を片手に京介の前に立つ。
京介は情けない声を上げて後ずさる。

まったく、たいしたヘタレね。


「ひ、人前で、小さい子もいるのに――――この変態っ!!!」
「ま、待て!! 誤解だ!! ってか火はやめ熱っっ」


凄い形相で追いかけっこをしている京介たちを、私達は笑いながら見ていた。
慌しい夏の一日。

沙織と、桐乃と、京介と。
ふふっ。みんなと出会わなければ、こんな夏は経験できなかったわね。

来年も、再来年も、永遠に。
みんなと一緒にこんな夏を過ごしたい。
今私は、心の底からそう願っている。



おわり
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