土場藩国

ブルルとそらとびわんわん

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ブルルとそらとびわんわん


犬が空を飛んでいた。

人ひとりの他に幾つもの荷を積まれてはいたが5mに迫る巨体は疲れを感じさせない安定した
速度で空を駆ける。時折り地図を確認しながら騎乗者が指示を出すと犬は身体を傾けて進路を
変えた。幾度目かの指示を受けると徐々に高度を下げ、遂には土煙を上げて一人と一匹は荒野
に降り立った。

NW広しといえど空を飛ぶ犬がいるのは土場藩国くらいのものなので所属は知れていたが、犬
とそれに跨る者の周囲に広がる荒れ地は土場藩国ではなかった。厳密に言えば荒れ地と言うよ
りも農地になる一歩手前の開拓地であるそこには、一機の農業用I=Dブルルが開墾作業に励
んでいる。帝國内の経済後進国に対する農業の近代化政策により導入されたブルルは人力を遙
かに上回る力で大地と格闘を続けていた。その勇姿はさほどの時をおかずにこの荒れ地が立派
な農地に変貌するであろう事を予想させるに充分なものである。

犬の背を降りた来訪者は作業中のブルルに近づき手を振る。動きを止めたブルルのコクピット
が開き農夫が顔を覗かせると。来訪者は土場から来た事とブルルの定期点検整備を行う事を告
げ、整備道具一式を背負ったまま伏せている犬のほうを指差した。ブルルが犬の側まで移動を
終えると、農夫に変わってコクピット内に入り警告表示灯の点灯の有無をチェックし始める。
異常のない事を確認し終わると機体各部の動きを実際に操縦し確かめた。一通りの動作を終え
るとブルルのエンジンを止め、ダッシュボードを開き点検記録表を取り出し点検項目にチェッ
クをけ、コクピットを後にした。

エンジンルームを開けるとエンジンの熱気と供に内部に溜まっていた土ぼこりが辺りに広がっ
た。防塵マスクとゴーグルをつけていたが反射的に顔を背ける。手招きで呼んだ犬が側に来る
と整備道具の中から小型のコンプレッサーを背から降ろしエアホースとガンノズルを繋ぎ作動
させた。加圧された空気がタンク内に満ちるのを待ちエンジンルーム内に向けたガンノズルの
引き金を引く。先程とは比べ物にならないほどの土ぼこりが舞い上がり続けた。辺りを覆った
土煙が晴れる。

続いてエアエレメントを取り外すと更に高圧エアを使い、付着した埃を吹き飛ばす。あらかた
の清掃を終えたエアエレメントを取り付け直すと冷却水の残量を調べ、適量になるまで注ぎ足
した。エンジンオイルの状態を見る。ウェスでふき取ったオイルの具合から交換すべきと判断
し、トルクレンチを使いドレンボルトを外す。オイルドレンより黒く濁ったオイルが流れ出し
予め据え置いた缶の中へと溜まっていく。しばらくしてオイルが抜けきったところでドレンボ
ルトを閉め新しいオイルを注ぐ。

オイル交換が終わるとタイミングベルトの張りに異常がないことを確認しエンジンルームを閉
め、エアホースの先をグリスガンに換え機体の駆動部のグリスアップを始めた。グリスニップ
ルを通して高圧の空気によって送り出されたグリスが駆動部に注入されていく。平行して油圧
ホースに損耗がないかも点検が行われた。最後の駆動部にグリスを注し終えると、点検記録表
に記入を行いダッシュボードに入れブルルを再始動させ試運転を行った。

全ての点検を終えると農夫にその旨を告げ整備点検の証明書にサインを貰い写しを渡す。整備
道具をまとめて犬の背に積みなおし自らもその背に乗った。最後に農夫に別れを告げると犬が
大地を蹴り宙に飛び立つ。作業を再開したブルルの上空を旋回する犬の背で整備士は手帳を取
り出し次の目的地を記したページを開くと犬に指示を出す。

この地方に配備されているブルルの数は多いのだ。整備士の1日は始まったばかりだった。
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