比較検証
初夏氏「愛ある世界」と、西村しのぶ氏「ライン」1巻の比較検証
パク:初夏氏「愛ある世界」
「…あー、新しい恋人欲しいなー」
うちの店から数軒先にあるオープンカフェは、毎朝店内で焼き上げているというこだわりのパンが美味しくて人気だ。
そこの絶品バケットサンドを食いながら、ガミの近況聞いてたら、途中からどんどんノロケ話にシフトしてってさ。思わず、こんなぼやきが零れてしまった。堀田ってほんっと、このバカのこと甘やかしすぎだと思う、いつもいつも。
「丹さん、頭の中身漏れてる漏れてる。…なによ、今、つきあってるヒトいないの?」
余裕ぶって、にやにや笑いながら聞き返してくるのが、なんとも憎たらしい。そーだよ、悪いかよ!
「あー、いないねー。寂しい独り寝よ~」
ラレ:西村しのぶ氏「ライン」P.12-13より引用
「あーーー 新しい恋人欲しいなぁ」
「頭のなかみもれてるよリツコ」
「つきあってるひといないの?」
「いない」
パク:初夏氏「愛ある世界」
「…で、なんの用だよ、いきなり呼びつけやがって」
人がこう、ノスタルジーに浸っているところを、いきなりばっさりだよ。あー、ヤダヤダ。
俺だって忙しいんだ、ふざけた用事だったらぶっ飛ばすぞ、なんて生意気言いやがるので、カチンときた。忙しいのはてめえだけじぇねえよ。
「いーよ、そんじゃ聞かせてもらうけどね、シルクツイルのシリーズ、なんであんな入荷状況なの? スカートは発注数の半分しか来てないし、トップスもバラ。別注かけても揃いやしねえ。どーゆーことだよ、よその店に持ってったわけ?」
今でこそ、俺の趣味で取り扱いメーカーどんどん増やして、セレクトショップになっちゃってるけど、ウチはもともとメーカー直営店としてスタートした店舗だ。ので、やっぱそっち系の品揃え良さを期待していらっしゃるお客さんも、いまだ多い。なのに、今シーズン一番人気のシリーズが、予定通り入荷できませんでしたじゃ、困るんだよ。
「いや、単純に生産が追いついてない。とりあえずある分だけ、お前んとことよそとで分けたんだよ。もうちょい待て」
「待てるか!」
アホ抜かすな、ウェアの旬は短けーんだぞ! そりゃ、『上質なオトナの女』をターゲットにしたラインだから、渋谷系リアルクローズみたく、わずか数日でアウトなんてこたぁないが。
「先月・先々月の売上目標、余裕でクリアしたろ? 去年の同月だって、きっちり完売してるしさ。大体、ああいう価格帯をデパートに置いてたってどうせ動きゃしねえんだから、こっち寄こせ。盗んででも! 以上」
「盗むって…お前なぁ…」
もうちょい包めよ、オブラートによ…とあきれ声を上げたものの、堺はそこで無理だとか、できないとかいう弱音を吐かなかった。ってこたぁ、まぁ明日までにはなんとかするだろ。文字通り、『盗んで』でも。
つきあうにはサイテーでも、仕事相手としちゃ有能で信頼度MAX。それが、現在のコイツに対する、率直な評価だ。
「うちは買い取りなんだから、優遇してよねダーリン?」
ちょっとした嫌がらせのつもりで、わざとらしくくねくねシナをつくり、ダメ押ししてやると。
「いつだって最大限に優遇してやってんだろーが。これ以上は鼻血も出ねーよハニー」
そっちの思惑なんざお見通しだよ、と言わんばかりの無表情&棒読みで、しれっと返してきやがる。あー、かわいくねえかわいくねえ、ほんっとかわいくねえ。
しかし、一時期はこれが、本気で無上にかわいく感じられてたってんだから、若気の至りって恐ろしいよなー。恋すると節穴に成り下がる眼窩、人体の不思議。
「ねーねー、そーやっていつまでも二人の世界作ってないで、ちょっとはこっちにもかまってくれるー?」
せっかく久々に会ったんだからさー。
ガミが子供のように唇を尖らせて、抗議した。
ラレ:西村しのぶ氏「ライン」P.14-15より引用
「顔出せつったのだれだ 忙しいんだよ おれだって 食いながら聞くぞ」
「いいわ シルクツイルのシリーズね スカート全部 半分しかこないし
トップスもバラ
別注かけてもそろいやしないどういうこと? よその店に持ってったの?」
「いや単純に生産がおいついてない
とりあえず ある分だけ リツコのとことほかで分けたんだろう もう少し待てよ」
「先月 先々月 予算クリアしたわ 去年だって 完売してるし
黒なんて百貨店においてたって 動かないわよ
デパート組の在庫 わたしのところにちょうだい!! 盗んででも!! ーー以上!!」
(中略)
「ねえ あたしのこともかまってくれる?」
(中略)
「うちは買い取りなんだから優遇してねダーリン おいでみーくん ママごはんね」
最終更新:2012年09月17日 14:59