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ルドラの秘宝

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ルドラの秘宝 ◆MjBTB/MO3I



言葉とは時に難解で、時に単純だ。
では今回は? 坂井悠二が"少佐"と名乗る男より受け取った言葉はどうなのか。
答えは前者だと、悠二はそう確信する。


悠二は走る。目的は警察署。人を殺害したと自称する何者かが居るであろう場所だ。


警察署。この言わば"過激な椅子取りゲーム"の中で誕生した殺人者がいるとされる建物。
そこに向かうために疾走する悠二は、同時に"少佐"とのやり取りを心中で何度も何度も反芻していた。
考える。"少佐"は何を求めていたのか。あの男の言葉は、行動は、どんな意味を孕んでいたのか。
こうした頭脳労働は最早慣れつつあるとは言えど、この特殊な場では中々に骨が折れるものであった。

(でも、こうやって考えていけば……あの"少佐"の思惑はいくつかに絞られる)

まず、"少佐"が情報を欲した理由は既に本人より語られている。
それはあの"狩人"フリアグネより優位に立つ為、である。
これに関しては、筋は通っている。何せこの特殊な状況。情報というのは重宝されるものである。
生き残りたければ、周りにあるモノ――目に見えるものも、見えぬものも全て――を須らく有効活用するべきである。
この世界では、情報は尊く得難いものだ。故に人は、"それ"を手にすることで一秒でも長く生きようと努力をする。
今回の"少佐"の行動は、結局そういうことだ。あの対面を期に自分を殺害しようと画策している、ということはまずないだろう。
それにあの時だって、こちらに"殺し"を向けてこなかったのだから。

では、あの"少佐"がいつかフリアグネを裏切るとして。
彼がいつかフリアグネを裏切り、優位に立った後は何をするつもりなのだろうか。
今回の問題の焦点は、主にそこだ。


悠二は地を蹴り、跳んだ。着地した先は低い建物の屋根。少し遠くが見えやすくなった。


裏切った末、どうするのか。フリアグネの力を何らかの方法で奪い取ろうとでも言うのか。
それとも散々利用した末に、ここから自分だけでも脱出しようという寸法か。
もしくはあの狩人を飼い慣らした上で排除し、無力な者達の為に改めて動き始めるのか。
裏切る、という言葉自体がブラフである可能性だけは考えたくないものだが。

それにそもそも、彼が何故"紅世の王"と行動を共にしているかということも重要だ。
ほとんどの"王"達は、基本的に自分の欲望を優先する。
勿論"愛染他"や"千変"の様な例外も存在するのだが、少なくともフリアグネは"紅世の王"としては典型的な性格を持つ男だ。
そんな自分勝手な存在と好き好んで結託した"少佐"の胸の内は如何なるものか。
いずれ裏切る。それはわかっている。ならば何故"裏切ることを前提にした上で付き合っている"のか。
フリアグネに価値を見出した理由は? そして逆に、フリアグネ自身が"少佐"との結託を決意した理由は?

"少佐"がフリアグネに追従する理由として最も濃い線は、"紅世の王"の"力"だろう。
"存在の力"を行使し、場慣れした人間すら軽く蹂躙出来るパワー。
"都喰らい"という衝撃的な悪行を成し遂げる事すら不可能ではないレベルにまで備わった、フリアグネ自身の行動力と戦闘力。
シャナによって討滅されたものの、この力は無視できるものではない。事実、彼の力によって幾人ものフレイムヘイズが命を落としたとも言う。
そんな強大な力自体が狙い、なのではないだろうか。


地図を取り出し、確認する。現在地は未だ警察署から少々遠いようだ。


そして今のところ、"少佐"はあの落ち着きようからして特に彼個人とのトラブルは起こっていないようだった。
これは彼が上手くフリアグネと付き合っている証拠だろう。他人を使うことには慣れている、ということだろう。
自分だって、あの場で上手くコントロールされてしまっていた様なものだ。恐らく彼の持つ知性は、並ではない。
"あの"フリアグネから一定の信用を得ているのだ。そして、その上で"いつか裏切る"というのだ。
やはり、"紅世の王"にでも成り代わろうとでも言うのだろうか。彼を出し抜く理由としては、適当であるようだ。
だが人間が"紅世の王"になれるわけがない。出来てもフレイムヘイズだろうが、それにはフリアグネの了承が必要である。
それ以外の方法があるというのならば、話は別なのだが。

ならば別の説。結局フリアグネを単なる盾か何かとしてしか見ていない場合だ。
例えば"少佐"が銃器や拳法、その他諸々の才を持つ"戦闘のプロ"だとしよう。
だがそれでも"紅世の王"やフレイムヘイズには決して敵わないのは常識だ。少なくとも、悠二達のいる世界では。
故にその"常識"を何かの拍子に知った"少佐"が、何らかの契約を提示することでフリアグネをボディーガードとして雇ったとしたら。
それなら、フレイムヘイズの様な強力な邪魔者が居なくなった時点でフリアグネを謀るのも不自然ではないだろう。

(けれど、重要なのはこれから。そしてこれらが一番、"今断定するのは厳しい")

しかし、そうなると"少佐自身の意思"はどうなのだろうか。
力を手に入れる説、ボディーガードとして雇った説。どちらにしろ"果たして少佐自身はどんな存在なのか"がわからない。
何せ、まさかのフリアグネを選んだ人間だ。はっきり言って何を考えているかわからない。

私利私欲に塗れた悪人なのだろうか。
それとも人の為世の為に動く際には手段を問わない過激な人間なのだろうか。

フリアグネにとっての害である存在だという事は明確であるのに、肝心のその先が解らない。
言葉の端からもその腹の内を感じさせる強い"何か"は無かった。結局のところ、素性だって明らかにしていない。
安易に喋ることで自分の首を絞めるような人間では決して無い。本当に警戒心の強い男なのだろう、あの"少佐"は。
"殺し"が無かったとはいえ躊躇無くこちらに銃を向ける行動。"相手の話をきちんと聞く"という姿勢。
それらは彼の慎重さの証左であると取れる。この修羅場の中で"これ"なのだ。きっと"こういった業界には慣れている"のだろう。
やはり、彼自身が何かしでかす可能性を考慮するのが妥当だろう。勿論、これから次第で説が右往左往上下左右する可能性もあるのだが。

(と、結論付けたは良いものの……希望的観測もあるんだよな、一応)

しかし悠二は、"少佐が所謂悪人である"という事を前提としたその二つとは違う、別の説をも考えていた。
というより、悠二としてはこちらを信じたいのが正直な想いだ。
はっきり言って現在の情報だけでは線が薄いであろう第三の説。それは。

(フリアグネの力を巧くコントロールして、このゲームを終わらせようとしている場合、だ)

そう、何もフリアグネの有する破壊の力をこのゲームの参加者のみ向けさせる必要は無い。
彼を巧くコントロールし、あの狐面の男を討伐する様仕向ける。そうすれば、このゲームも終焉を迎えるはず。
とは言っても彼を手懐けるにはきっと賢者が三人いても不可能であろう。
"紅世の王"達は人間という存在を"麦の穂"程度にしか考えていない、そんな傲岸不遜な者だらけなのだ。
文殊の知恵があろうとも、厳しい。まず自分ではフリアグネを利用する方法は思いつかないし、まずやろうとも思わない。
今は無事に彼を動かすことが出来ているようだが、正直ここから先は同じように巧く進むような気はしない。

(明らかに無謀だし、失敗すればどんな事になるかは解らない。あの"少佐"があからさまに危険を冒す人間とは考えられないけど……)

もしこの説が当たっていた場合、少なくとも"少佐"がとんでもない物好きであることが確定するだろう。
もうぶち上げた話、あまり係わり合いにならないほうが良いのかもしれない、とさえ思う。
だが事実、自分はフリアグネを自分の思い通りに動かせるような策は持ち合わせてはいないのだ。
この作戦は"少佐"以外が下手なことをすれば破綻する繊細なものである事は、想像に難くない。
触らぬ神に祟りなし。今はやめたほうが良いだろう。

だがこの説を信じようとすると、"少佐"の「フリアグネを裏切る」という言葉が邪魔をする。
このゲームを破壊しようとでも考えているなら、どこで情報が漏れるかわからない以上は口を慎むべきだろう。
そんな危険を冒してでも、フリアグネと同類だと思われるのを避けたかったのだろうか。それにしたって、語り過ぎだ。

まあいい。ここまで話を複雑に右往左往させる、あの"少佐"の言霊は恐ろしいが、まあいい。
とにかくフリアグネを利用していることはわかった。これから注目すべきは、やはりフリアグネの力で"少佐"が何をしたいかだ。
もしも善行を働く気ならば協力してやろう。シャナとフリアグネが共倒れになれば良い、と言い放ったことだけは気に入らないが。
そして悪行を働く気ならば全力で止めよう。自分の力でどれだけできるかは解らないが。それでも出来るだけの事はしてみせる。
それだけだ。難しい話だが、それだけ。


空が白んでいる。明るくなったおかげか、遠くに見えるは天守閣。そして近くには堀。だいぶ走ったのだと実感する。
しかし少々難儀だ。素直に道を進むのではなく、屋根伝いにでも真っ直ぐ走った方が早く辿り着けるだろうか。


さて、城がある敷地内を真っ直ぐ行けば警察署には近い。もうすぐで電話越しに話した何者かとの再会が始まる、はず。
あの"少佐"の言葉遊びが、様々な推測を生み出す装置と化している事も重要だが、そろそろ別の準備もしておくべきだろう。
結局"少佐"が何を考えていようとも、フリアグネがこの場でも変わらず危険である事は明白なのだ。
討滅されたはずの"王"がいる事に対する疑問も今は無視しよう。この街事態が異常である時点で、今更フリアグネの生死が何だ。
"狩人"が無力な鹿や兎を探しているというならば、再び殺さなければならない。その事には変わりは無いのだから。

(とは言っても、"少佐"の真意の謎にも気を配らなくちゃいけないのが辛いところだけど……いや、実際はそれだけじゃないな)

強大な"王"たるフリアグネへの対策。
何を考えているか解らない"少佐"に対する慎重な備え。
これから出会うことになるであろう殺人犯との邂逅。
シャナや吉田一美、ヴィルヘルミナといった仲間達との再会。
最終的にはこの街からの脱出。
嗚呼、坂井悠二が背負うものは実に多く、そして重い。

(五つも実行しなくちゃいけないのが骨の折れるところだな……)

覚悟は出来ているだろうか?

(ああ、出来たさ。というか、しなくちゃ生き残れない。少なくとも今は、電話越しの誰かさんの迎撃の用意は有りだ)

その為の力は?

(一般人以上にはあるとは思うけど、まだまだだな。決してシャナには敵わない。けれど)

けれど?

(ベストを尽くさないといけないのは、どんな時でも一緒だから。だから、頑張る)


悠二は屋根から跳躍した。堀の近くに着地し、西へと向かう。
目指すべきはC-4にある、城の敷地内へ入ることが出来る北側の入り口だ。
既に手前の橋は越えた後は突っ切るだけ。それが滞りなく進めば、警察署などあっという間だ。


時は進んでいる。もうすぐ放送の時間だ。
坂井悠二は果たしてこれからどのような状況に飲み込まれるのだろうか。
それは神すらも解らぬことだろう。
女神だろうが、戦いの神だろうが、雷神だろうが、天罰神であろうが、創造神であろうが、無理。
故にこの先は語らない。いや、語る事は出来ない。

この世界で奔走する幾多の囚人達の辿る、運命という名の道。
それはあの"少佐"の言葉の如く難解な形をしているのだろう。

そう、例えば蛇のような。




【C-4/東部/一日目・早朝】

【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康、強い不安
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)、不明支給品0~1個
[思考・状況]
基本:シャナ、吉田一美、ヴィルヘルミナを捜す。
1:警察署を目指す。
2:“少佐”の真意について考える。
3:他の参加者と接触しつつ、情報を集める。
[備考]
※清秋祭~クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻~14巻の間)。
※警察署に殺し合いに積極的な殺人者がいると思っています。


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