ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

Quinty

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Quinty ◆MjBTB/MO3I





裏? 違うって! ちーがーいーまーすー!
裏口入学とかありえないよう! 確かに皆と比べるとちょっと頭は残念かもだけどさあ!
断じて無いから断じて! 誤解を振りまかないでー!


                                ――――春田浩次


       ◇       ◇       ◇




実際のところ、彼女らが力を合わせて思考を巡らせようと考えたのは、手持ち無沙汰からであった。
だが更に加えるならば、ただただ言われたとおり留守番をするだけでは物足りないと考えてしまう性格。
駄目押しで、とにかくこの不思議な街から脱出したいという最終目標の一致。
これらが組み合わされる事により、少女達は遂にこの世界の本質を探らんとする為の行動を開始したのである。

つまり解りやすく言うと、二人は壁じゃないらしい"黒い壁"をどうにかしようと頑張り始めたということだ。
具体的には、空間移動や発火といった彼女ら自身の能力でアプローチをかけたりといった方法で。

「科学的に判断すると、正直今の状態では全く解りかねますわ」
「魔術的に判断すれば……やっぱり、結界?」

だが、それでもそう簡単に上手く行くようなものではないわけで。
二人は未だしっかりとした結論を出す事が出来てはいなかったのである。

「一応色々と思いつくだけモノを言えば当たるかもしれない、といった希望的観測の一つも抱きたいところですけれど……。
 やはり、その"魔術的視点"に頼るしかないのでしょうか。正直、いまいち未だに納得がいかない部分も少々あるのですけれど」
「けれどそう言っていたって始まらないでしょ? 私だって学園都市なんてやっぱり知らないわけで……まぁそれはもういいわ」

とはいえ、収穫が全く無いわけでは無い。

一つ、腕や足といった体の一部を挿入。成功。
二つ、空間移動による内部への侵入。失敗。
三つ、発火魔術による破壊目的の攻撃。無意味。
四つ、コンクリートの欠片を発見したので投石。小石は空白内部へ侵入。
五つ、同じくコンクリートの欠片を空白内部に空間転送。失敗。
六つ、空白部分に片腕を挿入し、内部から発火魔術を発動。失敗。
七つ、同じく空白部分に片腕を挿入した後、予め持っておいたコンクリートの欠片を空間転送。失敗。

以上が、目の前の黒い空白――人類最悪も言っていたので呼称を"壁"から変更する――に対して行った彼女らの実験。
見ての通りアプローチの方向性によって、この黒い空白は様々な一面を現している。
当然そうなれば、今の黒子達のやるべき事はこの実験から互いが感じた事の報告、及びそこからの推察である。
決してこの空白に対する愚痴を延々とこぼし続ける事ではないのだ。

「まずこの黒い空間は、確かに壁というよりももっと別の呼称が必要であるべきだと言う事は確信できました。
 内側に手を伸ばせば中に入っていきますし、後先を考えなければ体も入るはず……これは非常に重要な事実ですの」
「私達の進路を防いでいるという意味では、"壁"である事には変わりはないけどね」
「そして直接手を伸ばせば入る事が出来るというのに、わたくしの空間移動によって中へ侵入する事は出来ないようですわね」
「こっちも同じ。手足は飲み込まれていくのに炎はどうにも駄目だったわ――まるで本当に"壁"にぶつかったみたいに四散した」
「貴女に出会う以前、対戦車榴弾発射兵器をこの"黒"に対し発射した場面を目撃出来たのですが、それはそのまま飲み込まれたのですのよね……」
「なんかえらく物騒な話ね――――ああ、だけどそれでなんとなくこの黒いのが"何を迎えて何を送り返すか"は掴めた気がするわ」
「ですわね。わたくし達の持つ"力"に即した様なものには強固に、それ以外のものには柔軟に受け流す形を取ると考えて良いでしょう」
「私達の攻撃をそっくりそのまま反射してこない分まだマシってところかしらね」

結論。

一つ、空白は"無能力者の手の届く範囲程度の攻撃"を受けると、そのまま内部へと飲み込む。
二つ、受けた攻撃が"能力者や魔術師特有の領域"になると、ぶつかった攻撃は四散。消滅させる。
三つ、現段階では、白井黒子黒桐鮮花には空白の破壊活動は行えない。

以上。

「しかし、実際どうなのですの? 結界と言いましたが、今」
「あくまで可能性の話だけどね……断定出来ないから具体的にどうだとかそういうのは、今は言えない」
「あら、そうでしたの……残念」
「色々考えてもヒントが足らなさ過ぎてどうにもならないわね。正直袋小路かも……」
「意外に強固ですわね……様々な意味で。困り者ですの」

煮え切らない結果には、うんざりする。

「しかしそうなると……あの"人類最悪"はどこにいるのでしょう」
「――――そういえば、確かに」

というわけで。
今のところ空白地への介入が不可能と知った途端、二人の疑問の焦点は流れるように変化した。
そのものずばり、この椅子取りゲームの"主催側"がどこに居るのかである。

「考えなかったわけではありませんが……改めて疑問が強まったといいますか、そんな具合ですの。
 衛星で撮影された映像などで遠くからわたくし達を観測する物見遊山気取り……というのも考えましたが」
「科学的に考えればそれもありかもしれないけど、私としてはそれは否定したい。
 ああした空白を魔術で作り出しているとしたら……私なら何かバグが発生しないか心配で離れられないもの」
「それは科学技術でも結局変わりませんわ。特にあの空白が異常を来せば、この"ゲーム"の成立も危ぶまれるはず。
 もしも問題が起こった後では遅いですし、その"もしも"を可及的速やかに解決させる為に近場で監視をするのは道理ですの」
「その場合でも監視員として置いているのは自分じゃなくて部下だけ、という可能性も高いけどね……。
 どちらにしろあの最悪な狐さんをこちらに引っ張り出してタコ殴りにするまでには、もっと色々な壁がありそうね」

そして、もう一つ。

「では仮に部下か本人が私達の居るこの街に潜伏したとして……わたくし達から姿を消しておく必要があります。
 個人用のステルス迷彩など、そういった方面で話を進めたとしても……拠点とする隠れ家や人間自体の気配が問題ですの」
「そうね、私達に察せられたら終わりなんだから……一応、人避けの力も含めた結界を張ればそんな不安は消せない事は無いけどね。
 むしろ焦点はどこに居を構えるか――か。徐々に空白に埋められて街が消えてしまうっていうシステムが何より問題よね、この場合」

人類最悪、または仮にいるとしてその一派が潜伏した場合の隠れ家などが問題である。
自分たちも世話になった摩天楼、クルツ達の向かった百貨店など、この街に拠点として構えられる建物は少なくない。
しかし、"だがその程度だ"。この街は端から徐々に狭くなるわけで、そうなると当然問題も山積みとなる。
街の端にある施設ならばすぐに空白地となって終了。馬鹿正直に真ん中潜伏するなど問題外。
そもそもある程度狭くなった時点で、潜伏者達が見つかる可能性は自然と非常に高くなってしまうはずなのだ。

「実は"人類最悪"はこの街に近い"外側"に居て、いつでもこちらに急行する事が出来るという説はどうでしょう。
 つまりあの空白地を通り抜ける事が出来ないという話自体が"人類最悪"のブラフで……なんて、ナンセンスの極みですわね」
「実は"人類最悪"はそこのところ全然深く考えてない、とか……うん、無い無い。流石にそれは無い」

結論は、なかなか出ない。
このままでは会話の種も尽きてしまうだろう。

「……まぁ、今はひとまず。あの百貨店に向かったチームとの合流まで気を抜かずに待つ事と致しましょう。
 彼らが戻ってくれば必ずや、嫌でも動きが出てくるでしょうし……英気を養う意味合いも含めて、体を休めるべきと思いますの」
「そうね……」
「うんうん唸って考えても仕方が無いという場面が出てくる……なんて、そんな事もありますわ。
 しかしこれは屈服ではございませんことよ。人類最悪を"表に出ろ"とばかりに引きずり出せる時は必ず来る、と信じていますから」
「うん」
「しかし本当、如何するべきなのでしょうね……」
「確かに……」
「ふぅ…………」
「はぁ…………」
「…………」
「…………」

そして会話終了。
遂に目の前の問題に関する対話の時間は終わりを告げてしまった。
共通の目的に走る間は仲が良く見えても、決してこの二人はそりが合わない間柄であったのだ。
そもそもかたや監視する側とかたや監視される側だ。友情が生まれる余地は、今のところは正直ほぼ無い。
だからすぐに、この話が終わった途端に静寂が生まれたのは道理である。

一寸の時間だけが、流れた。




       ◇       ◇       ◇


ん? 裏だって? ……ああ!
ぎゃははっ! ぎゃははははっ! 確かにその考え方も解りやすいな!
いいねえいいねえ<<表裏一体>>か! そりゃあ良い!
表向きは名探偵、だが果たして"その裏では殺し屋が隠者じみた暗躍を"!
確かにメインだとかサブだとか言うのと同じくらいはこっちもしっくりくるかもなあ!

そう。あいつと僕の"双り組"!
二人で一人、一にして二の存在……それが僕ら匂宮兄妹!

そうらそらそらビビったならさっさと逃げちまいな!
こちとらまだ殺しの為の一時間を過ごしちゃいないんだ……意味解るかよ?
そう! 大っ正解! つまりこんなところで居座ってたら、僕に欠片も残らず喰われるかもよってワケ!!
おー怖い怖い怖いわ怖い! さあどーするどーする!? 君ならどうするぅーううううう!?

ぎゃはははははははははっ! イエーっ!!



                                ――――匂宮出夢


       ◇       ◇       ◇




やはり、二人は反りが合う同志などではなかったのだ。
共通の話題、つまりはこの世界に関する話題が尽きた今になってそれは一層感じられることだろう。
黒桐鮮花はもう白井黒子と話す気もすっかり失せており、無言。
果てに恐らくは相手も似たようなものだと断定し、もう目も合わせる様なこともしなかった。
白井黒子はといえば監視を続ける意味でこちらに視線を向けたりはしているのだが。

なんとなく、目の前の黒い空白へと再び視線を向けた。
「黒いのに空"白"」だとかつまらない言葉が浮かび上がったが口にせずに堪えた。

"こんなもの"を用意して自分達を閉じ込めた"人類最悪"は、本当にどこにいるのだろう。
出来るならば引きずり出して燃やし尽くしてやりたい。目指すは市中牽き回しの刑だ。
それだけではない。蹴りたい、蹴り飛ばしたい。踵で頭を叩きつけてやりたい。
どこか柔い土の上で連続で叩き続ければ釘の様に埋まっていくのだろうか。
そしてそのままあの狐面を取り外して、膝で綺麗に割ってやったりして。ざまあ。

あーあ。

蒼崎橙子に会いたい。師である彼女ならば何か、この場をどうにかする方法を知っていそうだから。
知らなくとも、"あの"蒼崎橙子なのだからとてつもない方法を編み出してくれそうな気もする。
というか、今こうしている間にあの黒い部分の中からひょっこり現れたりして。

なんて。

そんな希望的観測とも言えない様な荒い戯言はやめよう。
愛する兄を殺した万死に値する何者かを探すという目的もあるのだ。こんな馬鹿な事を考えている暇は無い。
自分の成すべき事を成した後に、ここから無事平穏に帰宅する為のプラン。
それを時間内に見出だせない限り、自分達はこんな謎の場所で"終わってしまう"のだ。
白井黒子の姿に目を移せば、彼女も同じ様に考え事をしているようだった。
再び空白地に手を伸ばしたりを繰り返しているのが証拠だ。そういう部分だけは、ありがたい。

考えろ、考えろ。

ここに連れて来られる前に、いや、出会ったときから今まで蒼崎橙子から聞いてきた数々の話を思い出す。
自分が教わったのは当然炎を操る魔術だけではない。他にも大層な話題を提供され続けてきたのだ。
正直記憶も磨耗している部分はある。だがそれでも思い出さなくてはなるまい。
結局のところある種師匠頼りなのだろうが、それとこれとは話は別である。

"人類最悪"が魔術師だとしたら、どうするのか。

まず身の保身は最優先だろう。だがそれでも然程遠くにいけないはずだというのは、白井黒子との討論で出た結論だ。
では、ならば余計に疑問は膨らむ。こんな、徐々に狭くなっていく世界に逃げ道はあるのかということ。
蒼崎橙子の住処である"伽藍の洞"の様な"周りから察せられない"結界にも、限界はある。
魔術の心得のある人間には容易く見破られるし、兄の様な人間にもばれてしまうと言う。後者はイレギュラーだったらしいが。
例えその欠点を克服したとしてもどこへ逃げるのか。やはりやがて黒い空白に埋め立てられるこの世界の中には存在していないのか。
だが何がどうあろうと隠れ家は存在するはずだ。内でも外でも、本拠地を構えてそこにいるはずなのだ。
流浪しながらこんな大規模な魔術など展開出来るものか。かならずや何処か、"ゲームの参加者"の"目の届かない場所"にいるはず――――


『視界とは眼球が捉える映像ではなく、脳が理解する映像だ。
 私達の視界は、私達の常識によって守られている。
 人は自らの箱を離脱して生きていくことは出来ない』


師の言葉が浮かぶ。視界は常識によって守られ、自らの箱――世界を離脱する事は出来ない、と。

常識。箱。

隠れる、という常識的な行動に縛られない世界でも作ったのだろうか。あの狐さんは。
"隠れながら隠れない"。"隠れないように隠れる"。"隠れずに隠れる"。
――――色々と考えはするものの、意味の解らない言葉遊びに成り果てるだけでしかない。

(って、よく考えてみたら――サバイバルを強要されている今この状況こそ"意味のわからない常識外れ"なのよね……)

どうしろというのか。




       ◇       ◇       ◇


裏、か――ああ、なるほど。なるほどな。確かにそうだな。確かにその通りだ。
協会から封印指定も受け、それを是とせず退避した今の私は十分に"裏世界"の住人と呼んで差し支えは無いだろう。

ここまで来るのに苦労が無かったわけではないさ。
確かに今は悠々自適の生活だがね。こんな環境を作るための努力は惜しんではいない。
住む国を変えた。魔術師である事も隠した。結果を張ってまでも外的の存在を防いだ。
偽り続ける事を続ける毎日だったし、それはこれからも続くだろう。それこそ延々と、な。
逃げるという事はそういう事だよ。隠すという事は、そういう事だよ。
どんな形であろうとも、ね。楽観視していては意外と難儀な事になるものだぞ、世の中って言うのは。

ん? 結界については前にも話したはずなんだがな。
――そう、それは記憶違いじゃあない。まさしくその通り、私が張った結界は"気付かれない"為のものだ。
"関心を寄せられる事が極端に無い"と言っても良いのかな。まあどちらでも問題はないさ。
とにかく、存在を悟られない。張った結界に皆も気付かないので怪しまれない。そんな種の術だ。
それでも完全とは行かないけどな。魔法でも使えればそこらへん、楽なんだろうが。

ん? 完全に干渉されない様にするには、だと?
それはまず魔法を使うか、もしくは長い時間をかけて大掛かりな魔術を展開するくらいになるな。
だが後者は高い魔力や技術力を要するわけだし、前者にいたっては私達としては埒外だ。
ああ、どこぞの荒耶の様に自分を結界で囲み続けるという方法もあるな。割と面倒なんだが。
まあ何事も――完全に、なんてそうそう出来はしないという事か。

ああ、手間や必要な力が問題外だから薦められんが、良い方法がある。
ずばり"自分だけの世界を創る"――――例えば"世界を二分して、もう一方にだけ自身を移してみる"とかな。
ま、独りで出来るものならやってみろと言いたいが。

ん? ああ、確かにそうだな……面白い事を言う。
確かに言う通りだ。二分した世界の片割れに住居を構えれば言葉通りの"裏世界の住人"か。
それも今の私達の住む世界を"表"と考えた場合の話だが――まあそんな細かい事はどうでもいいか。



                                ――――蒼崎橙子


       ◇       ◇       ◇




白井黒子は、黒桐鮮花を監視しながら考える。
目の前の黒い空白は果たして科学の結晶であるのか、と。
そしてなおかつ、仮にこれが残念ながら"魔術"の産物であったならどうするべきかと。
二人掛かりで考えても駄目だったものを独りで解決出来るなどと、奇跡でも起きない限り不可能なのは黒子も納得の上でだ。

(魔術……やはり今の様に、悠長に保留などと言っていてはいけませんわね。中途半端の極みですの。
 とは言えすぐに頭を切り替えろとなると……今の私には、その為の知識というものが明らかに足りてはいない)

だが超えるべきハードルは相応に高く、彼女には足りないものが多すぎた。それの最たるものが"経験"である。
齢十三にして大能力を手に入れた能力者であれど、まだまだ世界の全てを自身の目で確認出来るようなものではない。
知識として仕入れたものは沢山あれど、その中で"実際に"触れたものがどれだけあるものか。

特に、魔術師に関する経験ばかりはどうにもならなかった。
自覚無き邂逅を含めても明らかに経験不足。実に運が悪いとしか言いようが無い。
もう少しだけ経験を重ねていれば、現時点で発想の飛躍を敢えて行う事で道を切り開く事も出来たかもしれない。

しかし、もしもその問題が解決したとしても、もう一つ彼女らの邪魔をする抑止力が存在する。
それは誰しもが持つ各々の"常識"という壁だ。
当然の話だが黒桐鮮花にも白井黒子にも、人生経験の中で積み重ねた各々の常識というものを持っている。
だが今はそれを遥かに逸脱した状況である。常識外れの中に置かれ、状況は芳しくも無い状態。
そんな中で更に常識を覆して何かを考えようとしても、それはもう難儀な話であろう。
己の力、その道が何であるかを知るが故に、壁は高くなる。誰が悪いとかそういう話ではなく、今はただ、状況が悪かった。

(不愉快ですわね……何か、何か一つ取っ掛かりがあれば……科学的にしても魔術的にしても、何か……。
 やはり意地を張らずに魔術というものに理解を更に示し、相克する二つの合間で物事を俯瞰するのが……大事なのかもしれませんわ)

黒子は見る。黒桐鮮花の姿を。
彼女の立つ姿が秘める、魔術師としての姿を。
だがまだ彼女らは、会話を再会する様子も生み出さない。生み出せない。
残念ながら、そういう空気ではなくなってしまったから。
そこまで心を許しあったわけではないのだから。


魔術と科学は、未だ交差せず。
物語が加速するのは、果たしていつか。


黒桐鮮花と白井黒子。二人の立つ位置は近く、遠い。









これは余談だが、白井黒子の"物語"には興味深い一片が――彼女自身と"縁は合わなかった"が――存在する。
ある錬金術師が結界によって身を隠し、世界を敵に回しながらある少女を救おうとしていた、そんなお話。


舞台の名は三沢塾。それは"表と裏"に二分された、所謂一つの要塞。


"通常、干渉は不可能"という世界を構築した男の、努力と涙の物語。




       ◇       ◇       ◇


裏、か。

外敵から身を守る。当然、そういった意味も含んではいる。
だがそれだけではない。私の生み出した世界は、内に入り込んだ敵を逃がさぬよう工夫されたもの。
依然、この要塞と化した三沢塾は鉄壁。心配などする必要もなく何もかも十全である。

世界の二分。表と裏。単純な二という数。それだけで良い。
メカニズムなど単純な事に過ぎん。この結論に至るのは最早、自然。
それだけで"何も知らぬ者達"は我々を知れず、"知る者"は知らぬ者に干渉する事も叶わぬ身となる。
理解出来ぬか? ならば少しだけ話してやらんでもない。


「"札をこの手に。種別はトランプ。用途は解説。数は一枚で十二分"」


……さて、ここに一枚のカードがある。
当然だがこのカードというものには必ず表と裏という概念が存在する。
そして私は、三沢塾全体を"それ"に当てはめたのだ。
「"カードの表"は生徒」「"カードの裏は外敵"」といった具合にな。

"カードの表"の住人、何も知らぬ生徒諸君は"カードの裏"である外敵に気付く事が無い。
"カードの裏"の住人、哀れかつ残念な外敵は"カードの表"である生徒への干渉が不可能。

今回のケースでは私は三沢塾の建物自体も"カードの表"へと当てはめている。
そうする事で"裏の住人"を表たる建物へ干渉させず、扉も満足に開けぬ身へと堕としたというわけだ。
つまりは何を"表"とし何を"裏"とするかといった細やかな調整も可能という事。
その程度の備えなど、当然。状況によって変化を与える事も必要不可欠なのだから。
例えば……自身と自身の生活する一室のみを"表から裏へと"変化させたならば、世から姿を消す事も不可能ではない。
事態はまさに、忽然。人間一人の消失など実に容易い。

とは言え、人避けの結界でも張る方が労力は然程かからんのだが。
しかし、当然。私がその方法を選ばなかった事には相応の理由もあるというもの。
その"誰もが自発的に近づかない"という結果を引き起こす結界にも限界はある。私はそれが気に入らぬ。
私が今望む結果にその限界は不要。些細なミスで自身を破滅に導くなど、決してあってはならぬのだから。
……さあ、これで私の講釈は終了。これにてお開きとする。


「"故に、私に関する全てを忘れ、安全安楽に家路につくがいい"」


――――俄然、計画は未だ留まることを知らず。
後は最早吸血鬼の降臨を待つのみ。
この学園都市内部にて、既に準備は整いつつある。

美しき禁書目録よ。来るべき日は目の前に。

これでもうすぐ、私は……。


                         ――――アウレオルス=イザード


       ◇       ◇       ◇




【B-5/飛行場/1日目・午後】


【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:強い復讐心
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界、コルトパイソン(6/6)@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、包丁×3、ナイフ×3、予備銃弾×24
[思考・状況]
基本:黒桐幹也の仇を取る。そのためならば、自分自身の生存すら厭わない。
1:クルツたちが戻るまで飛行場で待機。"黒い空白"や"人類最悪の居場所"など、色々と考えたい。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦。
白純里緒(名前は知らない)を黒桐幹也の仇だと認識しました。


【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖、鉄釘&ガーターリング@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、姫路瑞希の手作り弁当@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
0:これは魔術に更に理解を深める良い機会なのでしょうか……? いや、ですが……。
1:クルツたちが戻るまで飛行場で待機。"黒い空白"や"人類最悪の居場所"など、色々と考えたい。
2:“監視”という名目で鮮花とクルツの動向を見定める。いつまで行動を共にするかは未定。
3:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
4:できれば御坂美琴上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
5:伊里野加奈に興味。浅羽が隠していただろう事柄についても詳しく知りたい。
[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
 現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。




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