ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

バロール

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バロール ◆EA1tgeYbP.


 常人ならば黒い影としか見えぬ速度で一人の男が星明りの下、草原をを駆け抜けていく。
 男の名前は甲賀弦之介
 服部半蔵が配下の忍、甲賀卍谷衆の次期首領にして、このたび長年の宿敵怨敵であった伊賀鍔隠れ衆が首領お幻の孫たる朧との祝言を挙げる男である。

 あの奇怪なる場所にて、狐面の男の言質より自らが殺し合いなどという悪質なる催しに巻き込まれたことを弦之介は理解し、
今この無意味なる殺し合いを終結させるために弦之介は駆けて行く。

 本来、忍びにとっては己の命とて使い捨ての道具に過ぎぬ。すなわち、弦之介の命は弦之介の物に非ず。
 彼の命は服部半蔵の、その主君たる徳川家のために使い捨てるべきものだ。他の者がどうなろうとも一切係わり合いにならず、速やかに主君の下へと帰るのが忍びとしての本道。
 だが敢えて今、弦之介はその本道を無視しひた走る。

 無論、弦之介とて甲賀の里では十指に数えられる忍びである。一時の感情に流されてかような決断を下したわけではない。
 ――実際、目覚めた当初の弦之介はただ己一人が脱出できれば良い、そのような心積もりであった。
 その方針が切り替わるのは気が付いてから二、三十分。
 風呂敷とはまるで様式の異なる「でいぱっく」とやらに四苦八苦したあげく、何とかこじ開けたそれの中身を見た後のことである。
 彼に支給された武器は白金の腕輪なる代物だけであった。
 付記された紙に書かれていることが真ならば「阿上君(あうえくん)」なる輩に願いをささげ獣を使役するための道具らしい。
 最も彼がその輩を呼んではみても何事も起こらなかった為に彼はそれを専用の使い手が必要な道具のたぐいと判断した。

(……これは一先ず身につけておくか)

 この道具の使い手の気性が知れない以上それが最善の手段と判断する。
 信頼できる相手が使い手ならば後で渡せばいいことだ。

 次に彼は参加者の名が記された絵巻を取り出す。
 そこに記されていた中に甲賀の仲間の名はなかったが、代わりに伊賀者の名前が3つ。そのうち一つの名前を見た途端、弦之介の思考は己一人の脱出からこの殺し合いから朧の身を守りきることへと変化した。

(……朧どの!)

 彼と同じく、この悪趣味なる遊戯に巻き込まれた祝言を挙げる愛しき相手のことを弦之介は思う。我が身と彼の人の命は今はただの道具に非ず。
 甲賀卍谷衆、伊賀鍔隠れ衆。この二つの一族の争いを終結させし掛け橋となる命。
 断じてこのような場所で失われて良いものではない。
 仮にこの地でいずれかの命が失われるようなことにならば、2つの里の争いは未来永劫止まる事などありえなくなる。かような悪夢、想像するもおぞましい。

(……だが)
 そう、だがしかしと弦之介は考える。

 いかなる最悪の状況にあってもそれを好機に変えるもまた忍び。
 その点で言えば弦之介の忍びとしての資質は超一流。この状況さえ弦之介にとっては好機と変わりうる。

 甲賀卍谷、伊賀鍔隠れ。この二つの里にとってお互いは源平以来の怨敵だ。仮に両者の次期首領同士が祝言を挙げようと、先祖代々心の中に溜められ続けた相手への恨みはそう容易く消えるものではない。
 だが、仮に両者が、いや両者のみならず伊賀の重鎮までもが手と手を取り合い力を合わせてこのような悪趣味極まる催しを叩き潰したともなれば里の者達はどう思うであろうか?
 実際に合い争ってきた年寄り達ならばともかく、親や師よりの教えのみで相手を怨む若者達なれば、これを機としてきっと変わっていけるはず。弦之介はそう信じる。

 だからこそ今弦之介は争いを止めに走る。
 今気がかりなのは朧の安否それ一つ、己の身に関しての不安なぞ、どこにもあろう筈がない。
 無論、慢心などとは無縁、彼にあるのは己が術への確たる信頼。

 愛しき相手の姿を求めてただ一人、弦之介は夜闇の中を駆けて行く。

 (……む?)
 そうしてしばらく駆けた後、この地に送られてより初めて弦之介は人影を見つけた。
 見慣れぬ奇妙な形の衣服を身につけた人形のような少女。

「そこの者、少し待て!」
 弦之介の呼びかけにふらふらと歩いていた少女は足を止め、こちらのほうへと視線を向ける。 

 ――瞬間、奇妙な寒気が弦之介の背中を走り抜けた。

(……!?)
 慌てて当たりの気配を探っても殺気はおろか、目の前の少女以外の物の気配は感じ取れない。

 その少女にしても殺気も無しにただ弦之介を見ているのみだ。

(過敏になりすぎておるか?)
 胸中で彼はそっと苦笑する。

「……あの? 何か御用でしょうか?」
 呼びかけるのみで話を続けることもない、そんな彼を奇妙に思ったのか少女のほうから弦之介へと話し掛ける。
 まるで人形のような少女であった。
 その整った容姿も、恐ろしいほどの静かな気配、生気のなさもその印象を裏付ける。

「あ、いや済まぬ。少々気になることがあってな。それより御主これまでに朧という女子と出会ってはおらぬか?」
 そう問いかけ目の前の少女に向かって弦之介は朧の容姿を伝える。

 もちろんこの少女が朧に害を成しうることはないと判断してのことである。
 忍びや侍のごとき、鍛え上げ研ぎ澄まされた手足ではない。
 また仮に鍛えておらぬが少女の罠で、何らかの術を用いる可能性もあるが、その場合もいかなる忍術・妖術であろうと打ち破る「破幻の瞳」をもつ朧には無意味。

「……いえ、知らないです。私が最初に会ったのがあなたですから」
 少女の返答に弦之介はやや落胆する。

 とはいえまあ、それほど都合よく物事が上手くいくはずもない。
 そう気を取り直す弦之介に今度は少女が問い掛ける。

「……啓太さん、湊啓太さんをご存知ないでしょうか?」
「……湊啓太?」 
 この殺し合いに巻き込まれ、名簿にその名が記されしは50人。その中にそのような名前はない。
 先の少女の言葉を信じればこの地で最初に少女と会ったのはこの自分。故に名簿外のものを少女が知りうる道理はない。
 つまりはそう、彼女の言動はすぐわかるほどに破綻している。

(……気狂いか。哀れなものよ)
 目の前の少女に対し、弦之介はそう判断を下す。
 元々か、あるいは殺し合いという壷毒の中に巻きこまれたという重圧のせいかこの少女の内に正気はすでに残ってはいまい。



 ――その判断は真に正しい物だった。



(捨て置くしかないな)
 目の前の少女に対しての決断を弦之介は下す。
 哀れではあるが、一刻も早く朧の身を探さねばならぬ彼にとって今この少女を連れて行くことはできない。

「……無事を祈る」
 後々仲間が増えた後、きっとおぬしを迎えに来よう。
 そういい残し弦之介はこの場を去る。
 ……いや、去る「はず」であった。

「――答えて、くれないんですね」
 やっぱり、と少女は去り行く弦之介に視線を向ける。

 ――殺気はない。
 ――気配もない。

 ――――ゆえに気づく道理もない。

 正しい意味での彼女の「狂気」に気が付かなかった弦之介は奇妙な事態に遭遇する。
 地を駆けようとした己の足が、勝手に動く。関節が骨ごと捻れる。捻れ狂う。
 ――そして終に捻じ切れる。

「!?」
 ちぎれた足とともに転倒する。
 勢いのまま大地へと倒れ、何とか姿勢を整えるも

「ぐわあああぁああぁああ!?」
 一拍遅れて襲い来た激痛に絶叫を迸らせる。痛みをこらえ周囲を見回し、弦之介は己の不覚を自覚する。

 ……人形のような容姿にだまされた。
 ……物静かな気配に油断した。
 ……気狂いと思って侮った。

 ――どうして最初に出会ったとき、いや今の今まで気が付かなかった。
 アレの中身は魑魅魍魎の類なり!

 弦之介はそう断じる。

 アレはこの場で討ち果たさなければならぬ悪鬼。
 そして不幸中の幸いに、自分と同じく彼の者も油断した。
 おそらくは自分を逃がさぬため、そしてこれから自分を弄るため、足を奪うに留めたのであろうがそれこそが最大の失策と心得よ!

 ……そして弦之介は己が忍術を発現させる。

 ――彼の忍術。それはいかなる術も攻撃をも其の相手へと跳ね返す必殺の瞳術である。彼の瞳を見た敵はそのまま敵意を跳ね返されて攻撃の対象、己の敵意を向ける相手を弦之介から自分へ変える。
 この術を破ろうとするならば彼の瞳を見ないこと、己の眼を潰すよりない。

 ――まさしく一瞬、刹那の間に弦之介は見た。
 この星明りの下にあってもなお、爛、と螺旋を灯す彼女の瞳を。

 ――そう、それはまさしく一瞬のことだった。

  ごきり、と

 ただそれだけ。

 其の一瞬で決着はついた。

(……みな、すまぬ……)
 ――最期に、星空の中に愛しい女子や家族たる里のものを幻視し、弦之介の体から力が抜ける。
 二つの里の融和を夢見た若者の理想はここに潰え去る。
 近い将来訪れていたはずの二つの里の殺し合いを彼が知らずに死にいくは、あるいはせめてもの慈悲であったかも知れぬ。

 とさ、と弦之介の体が地に伏せる。
 一体どのような力が加えられたというのか、その首は捻子繰れ、前のめりに倒れたというのに顔は空を見上げている。

 ……弦之介の瞳術は其の瞳に相手の瞳を映さなくてはならない。

――相手を見るだけで捻じ切れる少女のまえにしたそのとき、お互いが視線を交わさなければ発現しえないその力はただ、致命的に遅かったというだけのこと。

 ◇ ◇ ◇


 倒れ付す男の遺体を前に少女は呟く。

「――凶れ」
 彼女の友人は言っていた。繰り返す言葉は呪いとなると。

 そして呟きに答えるように男の腕が捻れ捻じ切れ、ぶちりと、本体からはなれどさりと、落ちる。
 その衝撃でびくりと、男の死体が動く。

 その光景をみつめる少女の口から「ああ」と、小さな呟きが漏れる。
 少女の名を浅上藤乃という。

 「ああ」
 もう一度、目の前の死体を見つめながら藤乃はもう一度呟く。
 なんて事をしているのだろう、自分は。そんな強い自己嫌悪さえ感じる。
 でも、きっとこうするより他になかったんだとも彼女は思う。
 だってここは殺し合いの場所なんだから。この人だってきっと自分を殺すつもりだったんだ。だからこれはお互いが殺しあったというただそれだけの話。
 ただ、この人と浅上藤乃とではその能力に違いがありすぎただけ。

「ごめんなさい、わたしこうしないといけないから」
 これはただの遠回りな復讐だ。 
 ずきりと痛む腹を藤乃は押さえる。
 きっと自分は自分をさした男達、その最後の一人である湊啓太を殺すまでは止まれない。
 藤乃はそう確信する。

「ごめんなさい」
 最期にもう一度だけ自分が殺した男に謝ると藤乃はふらふらと歩き出す。
 一歩を踏み出すたびにお腹が痛む。
 この痛みはきっと彼を殺すまで治らない。だから嫌だけど、仕方がないから殺そう。
 殺人という行為そのものとそれをなす自分に強い不快感を感じながら藤乃は歩く。


 ……星明りに照らされた夜の中、藤乃の口ははっきりと笑みの形に歪んでいた。


【D-1/一日目・深夜】
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:腹部に強い痛み
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:湊啓太への復讐を
2:そのために他の参加者から彼の行方を聞き出す。そのため街の方へ行く。
3:後のことは復讐を終えたそのときに
[備考]
※腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気のせいです。
※「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
※そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
※「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。
※「痛覚残留」ラストで使用した千里眼は使用できません。


【甲賀弦之介@甲賀忍法帖  死亡】

※D-1エリア中央にそこそこ離れた地点一つずつデイパックが放置してあります。
※うち、死体のそばのデイパックには基本支給品のみ。離れたほうにはランダム支給品1~3個が入っています。
※死体のそばに白金の腕輪が落ちています。

【歪曲@空の境界】
藤乃が生まれもった異能。手をふれずして物を曲げることができる。しかも曲げる際に物体の硬度は関係なし。作中では鉄橋さえ捻じ曲げている。
最も対象をきちんと見ていなければ曲げることはできない。
例え物陰に敵がいるとわかっていてもその目で相手を見るまでは相手を曲げることは不可能。
【白金の腕輪@バカとテストと召還獣】
「起動(アウェイクン)」の宣言とともに使用者の周囲に召還獣を召還することができるフィールドを発生させることができる装置。
ただし召還教科を選ぶことはできないし、フィールドの起動にも点数を消費する。
また使用者の成績が良すぎても暴走するために最低でも姫路瑞希は使用不可。








浅上藤乃  次:凶る復讐心
甲賀弦之介 死亡



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