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学校の会談

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学校の会談 ◆mk2mfhdVi2


「――誰かを救うために、誰かを殺すことの是非について、貴方はどう思われますか?」

あまりに、唐突に。
とある校舎の屋上にて、給水塔にもたれ掛かるよう座して名簿を眺めていたぼくの前に現れた青年は、
名乗りもせずにそんな物騒な問いを投げ掛けてきたのだった。

「…………………………とりあえず、一概に言えることでは無いのは間違い無いね」

少しの時間黙した後、そんな風に返してみる。
別に嘘でも何でもなく、一応はこれがぼくの本音である。
最適解なんて、存在しない。置かれている状況で、答えはいくらでも変化するのだから。

「その通りですね。テンプレートな回答、ありがとうございます」

質問してきた青年――制服を着ているところをみると、断定はできないけど恐らくは高校生なのだろう――も、
特にぼくの答えに気分を害した様子も無く、整ったマスクに笑みを浮かべている。

「では、今僕たちが――おっと、別に大した話ではありませんので、そのままの姿勢で聞いてもらって構いませんよ」

質問だけでは話は終わらなそうだったので、
ひとまず広げていた名簿をディパックに戻そうとしたのだけれど、そう言われてはしかたがない。
かと言って再び開くのも憚られるので、とりあえず折衷して膝の上にでも置いてみる。

「…………」

しかし、『大した話ではない』。
そんなことを述べておきながら大した話を持ってきた人間は今まで何人いただろうか。
そんなぼくの心を知ってか知らずか、再び高校生は言葉を紡ぎ始める。

「ではもう一度最初から。今僕たちが陥っている状況において、救うための殺人についての是非はどうなるでしょうか?」
「つまりそれは――誰かを生き残らせるために、他の誰かを殺す、と。そういうことかな?」

疑問文に疑問文で返してみた。
哀川さん辺りにすれば礼儀に反すると怒られそうな行為だけれど、別に高校生の笑顔が崩れることは無い。
もしかしたらだが、高校生にもなって読んでいないのかもしれない。だとしたら、実に嘆かわしいことである。

うん、戯言戯言。

まあ、わざわざ確認するまでも無く、この状況においての救うための殺人なんてそれしかないのは重々承知之助なのだけれど。

「ええ、そう思って頂いて問題ありませんよ」

予想した通りに、頷く高校生。
しかしというか、なんというか。
さっきから思っていたけれど、実に嘘っぽい笑顔である。
まるで、作り物みたいな。
まるで、誰かさんみたいな。

「ぼくの立場から言わせてもらえば、非としか言えないかな。
 君が誰かを生き残らせたいと思うのは自由だけど、その過程でぼくが死んでしまうのはごめんなんでね」
「そうですか……」

ぼくの言葉に、ややオーバーリアクション気味にがっくりと肩を落とす。
その態度が、実に嘘っぽい。
ますますもって、誰かさんみたいだ。

「それに、その方法じゃどうせ君も死ぬんじゃないか。
 生き残れるのは一人だけ。あの趣味の悪い仮面を被った実は何も考えていない人類最悪男も言っていたことだろう?
 他の参加者を皆殺して、最後の二人になったら自分は自殺して、そこまでしてその『誰か』を生き残らせても、
 生き残った『誰か』は今度は近しい人間を失った状態で、今度は現実と言う新たな生き残りゲームに挑むことになる。
 それでも『誰か』が生きていてくれれば満足かい? 安っぽいヒロイズムは大概にしといた方が身のためじゃないかな?」
「……まるであの狐面の男と知り合いのような口振りですが、まあいいでしょう。
 ――それより、誰が一人だけを救うなんて言いましたか?」
「え?」

我ながら、間抜けな返事だったと思う。
けれど、それも致し方ない事だろう。
『生き残れるのは一名のみ』。そのルールを目の前の高校生の発言は完全に無視していたのだから。

「どういう……ことかな?」
「おや、興味を持っていただけましたか? 詳細を説明する前に、今更ですが名乗っておきましょう。
 僕の名前は古泉一樹。SOS団副団長にして――」

古泉一樹。
さて、そんな名前は名簿にはあっただろうか? まだ軽く見てみただけなのでイマイチ自信が無い。
『SOS団』なるワードにはそれなりに興味を惹かれないことも無いのだけれど、
まあ、今の所は彼の話に耳を傾けるのが先決か、と思い直したところで。

「――超能力者です。以後、御見知りおきを」

赤い光球を、掲げた左手の上に浮かべながら、一樹君は言ったのだった。

時間が停止した――気がした。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆





あまりにショッキングな突然の告白。
だがしかし、呆気に取られる暇も与えられずに一樹君の話が始まってしまったために、
やむなくぼくは彼の話に意識を集中させる。

「まずは、名簿を見てください。涼宮ハルヒという名前が表記されているでしょう。
 彼女が僕の学友にして、SOS団団長。これから説明する計画の、鍵となる存在です」

膝の上に乗せてあった名簿を開き、右上から順に名前を確認していく。
程無くして、その名前は見つけることができた。

「涼宮ハルヒ、彼女は一見普通の少女に――多少夢見がちなだけの、普通の少女に見えますが、
 その実態は、恐るべき力を秘めた【神】と呼んでも差し支え無い存在です。
 いまだ自分の力に気付いていない……ね」

神。紙でも髪でも無く、神。
いきなり出てきた単語に思わず一樹君の顔を見るが、本人はいたって真剣な表情で、とても冗談を言っているようには見えない。
なんとなく嫌な予感がしてきたが、今から逃げる算段を立てておくべきだろうか?
しかし、この場所から校舎内へ入るための直線上に一樹君が陣取っているため、それは難しい。

「彼女が持っている力とは、世界を改変する力。彼女が望む通りに、世界を作り替える力。
 世界を壊すのも、新たに作るのも、彼女の気分次第なのです。
 そして、力の暴走によって発生する世界の崩壊を止めるために日々奮闘している機関の超能力者、それが僕なんですよ」
「機関――玖渚機関?」
「はい?」
「いや、なんでもないよ。続けて」

聞き覚えのある単語が出てきたのでつい反応してしまったけれど、どうやら無関係らしい。
まあ、当たり前か。そうそう都合良く事が運ぶはずもない。

「何はともあれ、僕は涼宮さんに接触しました。――正確には逆で、接触してきたのは涼宮さんの方なのですがね。
 そして、SOS団――まあ、部活のようなものと認識してください。に所属して、影ながら色々やっていたんですが」
「やっていたんだ」
「ある日突然、世界は崩壊寸前まで追い込まれました。無論、涼宮さんの力によってです」
「…………一体、何が?」

世界の崩壊。
狐さんの目的、世界の終わりにもよく似たフレーズ。
そんな事を一樹君と同年代であろう少女が望むとは、何があったのだろうか。
世界の崩壊を望んでしまうほどの事件が、涼宮ハルヒの身に降りかかったのだろうか?

「説明すればそれなりの長さになってしまうのですが、一言で言えば若さゆえの過ち、と言ったところでしょうか」
「若さゆえの過ちで世界を滅ぼされてたまるか」
「まあ、何はともあれ崩壊はギリギリのところで止められて、ひとまずはこれにて一件落着。
 めでたしめでたしとはいかずとも、再び平穏な日々が戻ってくるはずでした」

でした、か。
つまりは、そうそううまくはいかなかったわけだ。

「ええ。その後も色々とありまして。そして、今回僕を待っていたのが、この生き残りゲームへの強制参加だったわけです。
 まったく、少しは休ませてほしいものです」
「…………今の状況も、一樹君の言うところの『涼宮ハルヒの力』が引き起こしている?」

無論、別に一樹君の説明を一から十まで信じているわけでは無いけれど。
涼宮ハルヒが彼の説明したような力を実際に持っているのであれば。

「いえ、それはありえません」

しかし、一樹君の口から出たのは否定の言葉だった。
すぐさま、そう言い切れるだけの根拠を問う。

「涼宮さんの力が原因なら――僕ら、団員が巻き込まれているのはおかしいのです。
 一人しか生き残れないゲームに、大切な存在――これは僕の自惚れかも知れませんが――を、参加させるとは思えないですからね。
 さらに言えば、自由奔放で天馬行空な彼女ではありますが、こんな狂ったゲームを好むような人間ではありませんし」

人間の感情なんて、そう当てになるものじゃない。
経験上そうは思ったけれど、言葉せずに心の内に留めておく。
代わりに、本日何度目かの質問。まだ、肝心要の部分を話してもらっていない。

「――『救うための殺人』の具体的な方法ですね?」

無言の視線で、肯定する。

「ではお話しましょう。先に述べた通り、涼宮ハルヒには、無自覚ながら自らの願望を実現する力があります。
 ですから、涼宮さんが『このゲームから解放されたい。傷ついた人、死んだ人も元通りになってほしい』とさえ望めば、
 そこでゲームセット。僕らは無事に脱出し、死んだ人間も生き返る。完全無欠のハッピーエンドですよ」
「そんな、うまい話があるのかな」

まだ話は続くようだが、無礼を承知で口を挟む。

「一樹君の理論が正しければ――君はもう、こんな所にいないんじゃないか?
 彼女が脱出を望みさえすれば、それでいいんだろう?」
「ええ。涼宮さんが本気でそれを望めば、すぐにでも。先日のような新世界を作り出すのか、
 ワームホールでも作り出して脱出するのかは知りませんがね。
 しかしながら涼宮さんの性格を考えるに、このような場所へ連れて来られれば、勝るのは恐怖心では無く――好奇心」
「……好奇心」

反芻、する。

「彼女は、誰よりも不思議を求めているのです――同時に、誰よりも不思議な存在でもありますが。
 それでいて、すぐそばの不思議、僕の正体のような肝心なことには気が付かずに、不思議を探して町中を練り歩いたりする。
 ですから、彼女は恐怖こそ少なからず感じているでしょうが――その恐怖からの解放は、望んでいない。
 彼女は今、長年探し求めて来た、未知への扉の内へ踏み込んでいるのですからね。
 では、ここまで言えば貴方にも予想がつくでしょう? 僕が、何をしようとしているのか」

相変わらずの、嘘臭い笑顔のままで一樹君は僕に問う。
答えがぼくの考えている通りであれば、とてもそんな表情で言えることでは無いだろうに。

ぼくは――答える。

「涼宮ハルヒを絶望させる」

そして、この空間からの解放を、望ませる。
絶望させて――望ませる。

「その通りですよ。涼宮ハルヒを心の底から絶望させる。不思議への未練が湧かないほど、徹底的に。
 そのためになら、僕はいくらでも悲劇を演出しましょう。
 同じ釜の飯を食べた団員を殺すもよし、涼宮さんの目の前で誰かを殺してみるもよし。
 最悪、僕自身の命を投げ出すことになるとしても、彼女さえ生きていればどうにでもなりますしね」
「……どうして」
「はい?」

どうして。どうして。どうして。

「どうしてぼくに、そんな話を? 初対面の僕に、何故……」

ぼくに、そんな話をするメリットは、彼には一切無いはずなのに。
古泉一樹は、朗らかに笑いながら、その質問に対する解を、告げた。

「貴方もまた、誰かのために人を殺そうとする人間だからですよ」

「――――ッ」

反射的に、上着の裏ポケットに手を伸ばす。
見抜かれて、いた?

「上着の上からでも、結構形が出るものなんですよね、銃って。
 ああ、勘違いしないでください。別に、貴方をここで殺す気は無いんです。
 涼宮ハルヒさえ、殺さないと約束してくれれば、貴方が何をしようと構わない。
 貴方も惨劇を起こすための大事な一人ですからね」

完全に、してやられた。
隙を見て、背後から弾を撃ち込んで終わりにするはずだったのに。
今から銃を出して撃ったとしても、それより先にあの左手の上の赤い光球が、ぼくに牙を剥くだけだろう。
自分が超能力者であることを示すための、パフォーマンスだと思っていたけれど。
最初から、ぼくの銃を封じる牽制として出していたのか――

「他の参加者を皆殺しにして自殺? 安っぽいヒロイズム? 何を言っているんですか」
「…………」

「それは全部、貴方のことじゃないですか」

そうだ。
他の参加者を皆殺しにした後に自殺しようとしたのも。
安っぽいヒロイズムも、ぼくのことだ。

人を殺したことが無い。そんな、ぼくを辛うじて繋ぎ留めていた安っぽい矜恃も棄てて。
ぼくは、殺人鬼になろうとした。
一人残らず、殺して並べて解して揃えて晒そうとした。

誰のために?
友のために。

だってしょうがないじゃないか。
今まで、ぼくが生きてきた十九年。
ぼくの周りで、何人死んだ?
ぼくのせいで、何人死んだ?
そこに五十八人加わるだけだろう?

あまりに――今更じゃないか。

「名簿の玖渚友と言う名前……さっきの発言からして、貴方の知り合いですよね?」

一樹君の発言に、背筋が凍る。
さっきの発言……? 玖渚機関か。馬鹿かぼくは。友の名前がある以上、安易に機関の名前を出すべきじゃなかったんだ。

「その反応を見るに、彼、もしくは彼女が、貴方にとっての『誰か』みたいですね。
 もし、涼宮さんが殺されたなら――僕は玖渚さんを殺しましょう。涼宮さんを殺したのが、貴方であってもなくてもです」

待ってくれ。
友は、関係無いじゃないか。

「涼宮さんさえ無事なら、別に何も手出しはしませんよ。玖渚さんから手を出してくれば別ですがね……」

そんな。
やめてくれ。それだけは、それだけはやめてくれ。

「では、ここらで僕は失礼しましょう。精々、頑張って参加者を一人でも減らしてください」

そう言い残して、屋内に通じるドアへと歩いていく一樹君。
今ならば、もしかして――

「無駄ですよ」

ドアまであと数歩といったところで、一樹君は歩みを止めて振り返る。
それを見て、ぼくは銃にかけた左手を、静かに放す。

「最後に忠告しておきますが――その懐中電灯の光、結構目立ちますよ?
 僕が飛ばされたのはそこなんですが、その光が無ければ多分貴方には気付きませんでしたから」

そう言った彼の指先が示すのは、隣の校舎の屋上だった。
成程、人が来ないと思ってセレクトした屋上に、彼が来たのはそういうわけか。

「……御忠告、感謝するよ」

辛うじて、そう言葉を発した時。
すでに一樹君は、ドアを閉めていた。

「…………畜生」


【E-2 学校屋上 1日目深夜】

いーちゃん@戯言シリーズ】
【状態】健康
【装備】森の人@キノの旅
【道具】デイパック、不明支給品0~2
【思考】1.友を生き残らせるため、他の参加者は殺す(涼宮ハルヒは除く?)




◆ ◆ ◆ ◆ ◆





「ふう……ようやく肩の力が抜けますね」

左手に浮かべていた光球をようやく窓の外に投げ捨てて、少年はふっと息を吐く。
直後に爆発が起こるが、それは少年が知るものとは違い、とてもとても小さなもの。

「能力が使えると思ったら制限……ですか。余計なことをしてくれたものですね」

これから、たくさん殺さなくてはならないと言うのに。と、付け加える。

そう、たくさん殺さなくてはならない。
朝比奈みくるも、長門有希も、『彼』も。
できれば他の誰かに殺してもらいたいが――他の誰かに殺されるぐらいなら、『仲間』は自分で殺したくもある。
そんな、矛盾した感情が、古泉の中で渦巻いていた。

「まあ、今の爆発に気付いた人もいるかもしれませんし。考え事は後にして、ひとまずここを出ますか」

とりあえずそう結論したところで、古泉一樹は思い出す。
先程会った、男のことを。

「しっかりと言いましたし、彼が涼宮さんを殺すことは無いでしょうが……」

もし、涼宮さんが殺されたらどうしましょうか。と、そう続けようとして、寸前で止める。

それは、あってはならないことだから。
涼宮ハルヒの死亡は、全ての終焉を意味する。

その事実を再認識して、古泉一樹は再び歩み始める。



全ては、生き残るために。

全ては、大切な仲間のために。

愛しき彼女に、絶望を。


【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】健康
【装備】
【道具】デイパック、不明支給品1~3
【思考】1.涼宮ハルヒを絶望させ、彼女の力を作動させる。手段は問わない。
※能力は使えますが、威力が大分抑えられているようです


【森の人@キノの旅】
キノの愛銃。
左利き用で、レーザーサイトが付属しており、命中制度は高い。







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