運命のルーレット廻して(中編)◆CFbj666Xrw
紅く染まり煙る世界。
ずぶりと肉を抉る音。
絶叫。悲鳴。断末魔へと続く声。
「あはは、あはははは、ははっ、あはははははははははははははははははははははははは」
狂った笑い声が響く度、肉を抉る音がする。
骨を削る音がする。神経を千切る音がする。間接を砕く音がする。
人が壊れる音がする。
「あ……が…………っ」
声にならない声と共に、小指一本しかない腕が、目的すら定まらずに掲げられた。
それともそれは体がたまたまそう反応しただけなのか。
どちらにしろ関係無く、その前に立つ狂気はそれを見て愉しげにくすりと嗤って。
杭を打つように無造作に、金属バットを叩き込んだ。
ぐしゃりと腕が潰れても、上がる声は掠れるような吐息だけ。
ぴくりぴくりと動くだけ。
「……あれ、もう壊れちゃった?
ちょっと急ぎすぎたかな、もう少し長く遊びたかったのに」
もう一度、肉に鋭い刃物が突き刺さる音がして、その動きは更に小さくなった。
まだ、死んではいない。すぐに死ねはしない。
致命傷を与えられて、肉塊と人の狭間で死を待つ惨劇。
「でも欲張りすぎちゃだめだよね。玩具にできるのはまだまだ残ってる」
それに興味を失った少年は、くるりと振り返って残った皿に目を向けた。
一人の少女と、さっきは食べ損ねた一人の少年。
少年を引きずって、少しでも逃げようと這いずる少女。
「まだこんなに残っているんだもの。僕達はまだまだ殺す事が出来る」
ずぶりと肉を抉る音。
絶叫。悲鳴。断末魔へと続く声。
「あはは、あはははは、ははっ、あはははははははははははははははははははははははは」
狂った笑い声が響く度、肉を抉る音がする。
骨を削る音がする。神経を千切る音がする。間接を砕く音がする。
人が壊れる音がする。
「あ……が…………っ」
声にならない声と共に、小指一本しかない腕が、目的すら定まらずに掲げられた。
それともそれは体がたまたまそう反応しただけなのか。
どちらにしろ関係無く、その前に立つ狂気はそれを見て愉しげにくすりと嗤って。
杭を打つように無造作に、金属バットを叩き込んだ。
ぐしゃりと腕が潰れても、上がる声は掠れるような吐息だけ。
ぴくりぴくりと動くだけ。
「……あれ、もう壊れちゃった?
ちょっと急ぎすぎたかな、もう少し長く遊びたかったのに」
もう一度、肉に鋭い刃物が突き刺さる音がして、その動きは更に小さくなった。
まだ、死んではいない。すぐに死ねはしない。
致命傷を与えられて、肉塊と人の狭間で死を待つ惨劇。
「でも欲張りすぎちゃだめだよね。玩具にできるのはまだまだ残ってる」
それに興味を失った少年は、くるりと振り返って残った皿に目を向けた。
一人の少女と、さっきは食べ損ねた一人の少年。
少年を引きずって、少しでも逃げようと這いずる少女。
「まだこんなに残っているんだもの。僕達はまだまだ殺す事が出来る」
厄種ヘンゼルの言葉を背に受けて、灰原哀は望みを絶たれるのを感じた。
逃げることも戦う事も出来ない。
小狼は切り刻まれ叩き潰された。
コナンは目を覚まさない。
覚ました所で、コナンも灰原も『足の筋を斬られて』しまった。
足首から先は動かず這いずる事しか出来ない。
手の方は残されたけれど、武器もなくてこれでは何もできない。
梨花やリンクに悲鳴や絶叫は届いただろうか。
届いたとしても彼女達は間に合うだろうか。
間に合ったとしても彼女達は勝てるだろうか。
武器は有れどもあまりに消耗し、力を失っている彼女達で。
(ダメ……来ないで。せめて梨花達だけでも逃げて!)
背後から近づいてくるヘンゼルの気配を感じて、灰原は背中から江戸川コナンを振り落とした。
せめて彼を少しでも長生きさせるために。
それから少しでも堪えようと歯を食いしばり、痛みを待った。
それを見たヘンゼルが極上の悪意を湛えて嗤う。
「ねえ、お姉さん達の足の方だけを切ったのはどうしてかわかる?」
「…………え?」
愉しげに、楽しげに。
無邪気な心に悪魔的な残酷さを湛えて笑う。
「指の感覚が無くなっちゃうからだよ。
指には痛みが詰まっているんだ。手でも足でも、指を潰すとみんな激痛に悲鳴をあげる。
遊ぶところが減っちゃったら、つまらないでしょ?」
灰原は絶句した。
後ろに立つ者の……全てに。
「だからさ」
バットを振り上げる音がした。
後ろを振り返るまでもない。少年の嗤う顔がありありと脳裏に映る。
「ヒッ……」
灰原は恐怖に息を呑み、体を丸めた。
ヘンゼルはじっくりと間を伸ばし、獲物の恐怖を愉しんでから。
「良い悲鳴上げてよね」
激痛を振り下ろした。
逃げることも戦う事も出来ない。
小狼は切り刻まれ叩き潰された。
コナンは目を覚まさない。
覚ました所で、コナンも灰原も『足の筋を斬られて』しまった。
足首から先は動かず這いずる事しか出来ない。
手の方は残されたけれど、武器もなくてこれでは何もできない。
梨花やリンクに悲鳴や絶叫は届いただろうか。
届いたとしても彼女達は間に合うだろうか。
間に合ったとしても彼女達は勝てるだろうか。
武器は有れどもあまりに消耗し、力を失っている彼女達で。
(ダメ……来ないで。せめて梨花達だけでも逃げて!)
背後から近づいてくるヘンゼルの気配を感じて、灰原は背中から江戸川コナンを振り落とした。
せめて彼を少しでも長生きさせるために。
それから少しでも堪えようと歯を食いしばり、痛みを待った。
それを見たヘンゼルが極上の悪意を湛えて嗤う。
「ねえ、お姉さん達の足の方だけを切ったのはどうしてかわかる?」
「…………え?」
愉しげに、楽しげに。
無邪気な心に悪魔的な残酷さを湛えて笑う。
「指の感覚が無くなっちゃうからだよ。
指には痛みが詰まっているんだ。手でも足でも、指を潰すとみんな激痛に悲鳴をあげる。
遊ぶところが減っちゃったら、つまらないでしょ?」
灰原は絶句した。
後ろに立つ者の……全てに。
「だからさ」
バットを振り上げる音がした。
後ろを振り返るまでもない。少年の嗤う顔がありありと脳裏に映る。
「ヒッ……」
灰原は恐怖に息を呑み、体を丸めた。
ヘンゼルはじっくりと間を伸ばし、獲物の恐怖を愉しんでから。
「良い悲鳴上げてよね」
激痛を振り下ろした。
「ぎゃああああああああっ、が、あがっ、がああああああああっあぐっ」
激痛の悲鳴が音となって漏れる。
すぐ横から。
「工藤君!?」
「は、灰原……? くそ、何が…………うっ」
激痛にたたき起こされた江戸川コナンは痛みの源を見て、青くなった。
最初に潰したのは横に転がった江戸川コナンの、左手の小指。
バットで叩き潰されて、圧力に負けて引き裂かれた肉が千切れ、
砕けた骨の白い欠片とピンク色の肉片が真っ赤に吹き出る血の中で存在感を主張する。
それを認識した瞬間、再び押し寄せた痛みが思考の全てを焼き尽くした。
「ひっ、な、こんっ、あ、あがっ、ぎやあああああああああああああっ」
「工藤君!!」
這いずって必死に駆け寄ろうとする灰原の無防備な右手の甲を鋭い刃が貫通。
「ギッ」
激痛。そして恐怖。
動かせない。バルキリースカートの鋭い刃は手の甲を貫いて地面に串刺している。
「やっぱり観客も居た方が面白いな。
それは鋭いからそんなに痛くないよね。もちろん、それだけじゃないよ」
「え……」
振り下ろされた金属バットが串刺して固定した手の親指を無造作に叩き潰した。
視界が、真っ赤に染まった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
肺の中に溜まっていた空気が一気に抜けた。
「二本目はゆっくりと」
ヘンゼルの声。人差し指の爪先に金属バットの角が当たる。
体重が掛けられて、ぺきりと爪が割れて、くちゃっと小さな音がして。
そこからテコの原理で金属バットの先の面を使って指を圧し潰した。
指の骨が砕ける音。
更にぎゅるっと金属バットが芯を軸に回されて。
ぬめった音と共に指が、擦り潰された。
「――――――――っ」
今度は肺の中の空気が全部抜けていて、悲鳴すら出せなかった。
ぱくぱくと生け簀から上げられた魚の様に口を動かす。
ぼろぼろと涙が零れて表情がぐしゃぐしゃに染まりあっというまに何も考えられなくて痛くて痛くて痛くて
のたうち回り貫かれた手の甲がズタズタに引き裂かれてまた痛くていたくてイタクテイタクテイタクテ――
何故かその刃が引き抜かれ新たな痛みが無くなった瞬間、灰原は考えるのを止めた。
激痛の悲鳴が音となって漏れる。
すぐ横から。
「工藤君!?」
「は、灰原……? くそ、何が…………うっ」
激痛にたたき起こされた江戸川コナンは痛みの源を見て、青くなった。
最初に潰したのは横に転がった江戸川コナンの、左手の小指。
バットで叩き潰されて、圧力に負けて引き裂かれた肉が千切れ、
砕けた骨の白い欠片とピンク色の肉片が真っ赤に吹き出る血の中で存在感を主張する。
それを認識した瞬間、再び押し寄せた痛みが思考の全てを焼き尽くした。
「ひっ、な、こんっ、あ、あがっ、ぎやあああああああああああああっ」
「工藤君!!」
這いずって必死に駆け寄ろうとする灰原の無防備な右手の甲を鋭い刃が貫通。
「ギッ」
激痛。そして恐怖。
動かせない。バルキリースカートの鋭い刃は手の甲を貫いて地面に串刺している。
「やっぱり観客も居た方が面白いな。
それは鋭いからそんなに痛くないよね。もちろん、それだけじゃないよ」
「え……」
振り下ろされた金属バットが串刺して固定した手の親指を無造作に叩き潰した。
視界が、真っ赤に染まった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
肺の中に溜まっていた空気が一気に抜けた。
「二本目はゆっくりと」
ヘンゼルの声。人差し指の爪先に金属バットの角が当たる。
体重が掛けられて、ぺきりと爪が割れて、くちゃっと小さな音がして。
そこからテコの原理で金属バットの先の面を使って指を圧し潰した。
指の骨が砕ける音。
更にぎゅるっと金属バットが芯を軸に回されて。
ぬめった音と共に指が、擦り潰された。
「――――――――っ」
今度は肺の中の空気が全部抜けていて、悲鳴すら出せなかった。
ぱくぱくと生け簀から上げられた魚の様に口を動かす。
ぼろぼろと涙が零れて表情がぐしゃぐしゃに染まりあっというまに何も考えられなくて痛くて痛くて痛くて
のたうち回り貫かれた手の甲がズタズタに引き裂かれてまた痛くていたくてイタクテイタクテイタクテ――
何故かその刃が引き抜かれ新たな痛みが無くなった瞬間、灰原は考えるのを止めた。
* * *
「――どうして」
問い掛ける。
「ねえ、どうして?」
理解できないものを。
「どうしてあなたは、そんな事をするの?」
少しでも理解するために問い掛ける。
「どうしてあなたは、そんな事ができるの?」
その心に触れる為に問い掛ける。
問い掛ける。
「ねえ、どうして?」
理解できないものを。
「どうしてあなたは、そんな事をするの?」
少しでも理解するために問い掛ける。
「どうしてあなたは、そんな事ができるの?」
その心に触れる為に問い掛ける。
「――何を言っているのさ」
答えには一片の迷いも有りはしない。
「これは世界の仕組みなんだ」
それは当然の事なのだから。
「僕達は殺すことで生きる事ができるんだ。
殺す事でその分だけ生きる事が出来るんだ」
「違うよ。ジェダの言った事なんて間違ってる。
それに殺すだけなら、こんな事をする必要なんて、無い」
「ジェダ? 違うよ、僕達はそうじゃない。ジェダはルールを知っていただけさ。
殺す事はただ死を与える事なんかじゃないんだもの。
死を飾るんだ。絶望や苦痛、恐怖と激痛、そういったもので飾るんだ。
みんなを愉しませてみんなで愉しんで殺すんだ。殺して、殺して、殺すんだ。
それこそがこの世界の仕組み」
笑う。嗤う。笑う。嗤う。笑う。嗤う。嗤う。笑う。嗤う。嗤う。笑う。
無邪気に残酷に楽しく昏く嬉しく邪悪に冷酷に明るく深く壊れて正しく笑う嗤うわらうワラウ――
「お姉さん達は知らないだけ。僕達は知っているだけ。
殺した人の血でにかわのようになったドレスを身に纏って。
殺すように言われて殺した死体と寄り添って寝て。
殺すのを躊躇った日は殴られて叩かれて蹴られて顔を洗うだけでも痛くて。
殺して殺して手にその感触がこびりつき髪から血の臭いが抜けなかった日は柔らかい寝床で寝られて。
殺せなかった奴はクズ肉にされて。殺した奴は生きられて。でも殺した数が少ない奴は殺されていって。
殺す事だけが殺されない事で。殺せない事は殺される事で。
殺すのに迷うことは殺される事で。殺す事を愉しむ事は殺されない事で。
殺す事は生きる事殺される事は殺される事、生きることは殺して殺して殺す事だけしか無い事を。
お姉さん達は知らなくて、僕達は知っている。
それは世界の仕組み。神様が世界をそう作ったんだ」
命に感謝できる。人生を謳歌できる。今日がちゃんとあって明日もまだ生きている。
それらの事柄全てを手に入れた少年は幸福と共に笑っている。
「だからたくさん殺した僕達を殺す事は誰にも出来やしないんだ。
たくさんたくさん殺す僕達を殺す事は誰にも出来やしないんだ。
そう僕達はネバー・ダイ。Never dieなのさ
まだまだたくさんたくさんたくさん殺す為に生きていく」
答えには一片の迷いも有りはしない。
「これは世界の仕組みなんだ」
それは当然の事なのだから。
「僕達は殺すことで生きる事ができるんだ。
殺す事でその分だけ生きる事が出来るんだ」
「違うよ。ジェダの言った事なんて間違ってる。
それに殺すだけなら、こんな事をする必要なんて、無い」
「ジェダ? 違うよ、僕達はそうじゃない。ジェダはルールを知っていただけさ。
殺す事はただ死を与える事なんかじゃないんだもの。
死を飾るんだ。絶望や苦痛、恐怖と激痛、そういったもので飾るんだ。
みんなを愉しませてみんなで愉しんで殺すんだ。殺して、殺して、殺すんだ。
それこそがこの世界の仕組み」
笑う。嗤う。笑う。嗤う。笑う。嗤う。嗤う。笑う。嗤う。嗤う。笑う。
無邪気に残酷に楽しく昏く嬉しく邪悪に冷酷に明るく深く壊れて正しく笑う嗤うわらうワラウ――
「お姉さん達は知らないだけ。僕達は知っているだけ。
殺した人の血でにかわのようになったドレスを身に纏って。
殺すように言われて殺した死体と寄り添って寝て。
殺すのを躊躇った日は殴られて叩かれて蹴られて顔を洗うだけでも痛くて。
殺して殺して手にその感触がこびりつき髪から血の臭いが抜けなかった日は柔らかい寝床で寝られて。
殺せなかった奴はクズ肉にされて。殺した奴は生きられて。でも殺した数が少ない奴は殺されていって。
殺す事だけが殺されない事で。殺せない事は殺される事で。
殺すのに迷うことは殺される事で。殺す事を愉しむ事は殺されない事で。
殺す事は生きる事殺される事は殺される事、生きることは殺して殺して殺す事だけしか無い事を。
お姉さん達は知らなくて、僕達は知っている。
それは世界の仕組み。神様が世界をそう作ったんだ」
命に感謝できる。人生を謳歌できる。今日がちゃんとあって明日もまだ生きている。
それらの事柄全てを手に入れた少年は幸福と共に笑っている。
「だからたくさん殺した僕達を殺す事は誰にも出来やしないんだ。
たくさんたくさん殺す僕達を殺す事は誰にも出来やしないんだ。
そう僕達はネバー・ダイ。Never dieなのさ
まだまだたくさんたくさんたくさん殺す為に生きていく」
断片的で装飾的で抽象的であまりに不完全なその言葉。
だけど彼女はそこから真実を組み上げた。
高町なのはは理解した。
目の前の少年がどうやって生まれて、どういう存在で、どうやって生きていくのかを。
過去も現在も未来も少年の狂気の全てを理解した。
狂気を、理解した。
だけど彼女はそこから真実を組み上げた。
高町なのはは理解した。
目の前の少年がどうやって生まれて、どういう存在で、どうやって生きていくのかを。
過去も現在も未来も少年の狂気の全てを理解した。
狂気を、理解した。
くすりと笑ったヘンゼルが跳ね上がる。
バルキリースカートの二本のアームで跳ね上がり塀の上に立つ高町なのはに襲い掛かる。
対する高町なのはは呪文を詠唱
「リリカルマジカル 福音たる輝き、この手に来たれ」
「へえ、魔法使いなんだ。でも遅いよ」
振り下ろされる二本の金属バット。
なのはの攻撃は基本的に発動が遅く先手を取ることが難しい。
――当然高町なのははその事を知っている。だからヘンゼルに向けて左手を向けて。
「堅いね」
ヘンゼルの金属バットはなのはの前面に現れた半透明な障壁に防がれた。
ラウンドシールドだ。
攻撃を耐えて必殺の攻撃で叩きのめすのが彼女のやり口。
――もちろんヘンゼルも魔法使いの得体の知れ無さは知っている。
だから何時でも逃げれる余裕は残しているし、この攻撃は逃げる機会を作る為でもある。
なにより自在に動かせるバルキリースカート2本を残している。
一本のアームが塀に刺さり自らを支え、もう一本が障壁を迂回して横から襲う。
なのははヘンゼルの力を知らず、見た事も無い。
――それでも高町なのははヘンゼルを理解したのだから、これすらも判っていた。
殺して殺して殺して生きてきた彼はこの程度では止められない。
その上で呪文を詠唱したのは止める余裕を残したからだ。
右手の先に現れた二つ目のラウンドシールドがバルキリースカートの刃を食い止めた。
同時に左手の前に現れていた一つ目のラウンドシールドが消え去って。
「導きのもと、鳴り響け。ディバインシューター、シュート!」
至近距離からの魔弾が襲い掛かった。
――当然ヘンゼルは判っている。
魔法使いならその位してきてもおかしくない。
だから障壁が消える直前に自らを塀に固定するバルキリースカートの刃を抜いてくと同時に、
消える前の障壁を金属バットで強く押して推力を作り出していた。
空中に舞い上がったヘンゼルはディバインシューターのスフィアをかわしきる。
――高町なのはもその位なら予想は出来る。
「コントロール!」
だからそのスフィアが方向を転換してヘンゼルに襲い掛かった。
ヘンゼルはそこまでの予想は出来ていなかった。
咄嗟に金属バットで防御するのが精一杯、スフィアの直撃が少年を打ちのめす。
――だけどヘンゼルにも判っている。ただ攻撃だけでは攻めきれない。
攻撃の合間に空中に放り投げたフラッシュグレネードが起爆する。
至近距離の閃光と爆音は確実に敵の動きを奪うだろう。
高町なのはにそれに抗する術は無い。
――しかし高町なのはは信じていた。
「させるか!!」
突如飛来した手裏剣がフラッシュグレネードを弾き塀の向こうに跳ね飛ばした。
なのはもそれに応じて既に塀から飛び降りている。
これで直接フラッシュグレネードに晒される者は誰も居ない。
校舎に高町なのはが向かったという事を聞かされ、それを追いかけた犬上小太郎。
ネギの死体を置いて生きている仲間を心配して駆け付けた。それが彼の選択だ。
――ただし犬上小太郎は一つ勘違いをした。
彼はヘンゼルが投げた物が手榴弾だと思いこんだ。
しかし真実はフラッシュグレネード。
撒き散らされるものは殺人的な破片ではなく、閃光と轟音。
閃光は塀の向こうに遮断されて、しかし轟音は塀を越えて周囲を満たす。
犬上小太郎は獣人の血を引いている。
当然ながらその嗅覚や聴覚は人より格段に鋭くて、轟音を諸に受けた。
三半規管をやられ平衡感覚すら失いよろけてしまう。
――ヘンゼルはフラッシュグレネードの事を知っていた。
だからヘンゼルは閃光と轟音に備え、容易く轟音だけを耳を塞ぎ耐えきった。
地面に着地し、駆け出し逃げだそうと試みて。
「逃すかよ!」
近くに倒れていた江戸川コナンが上半身でヘンゼルに組み付いた。
――江戸川コナンもフラッシュグレネードの事を知っていた。
一度目に戦った時にヘンゼルが放り投げたそれを知っていた。
だから江戸川コナンはその轟音を耐えきって考えた。どうするか?
簡単だ、逃してはならない。
何故こうなったかの状況は理解できない。
メロは何処に行った? 自分は何故生きている? ここは何処でどうしてこうなった?
だけどヘンゼルが灰原を左手の指を二本、たった二本だけ潰したその場面は彼に衝撃を与えた。
近くに転がっている小狼の無惨な姿に気付いた時は恐怖に凍り付いた。
(こいつを逃がすわけにはいかない)
これまでに会ったどんな殺人鬼やテロリストでも、倫理は無くとも論理があった。
憎しみや汚い欲望、嫉妬に誤解、保身から自己満足まで。
中には同情の余地もない理由も有った。幾つも。
(だけどこいつは狂っている)
あの“黒の組織”の集団故の事務的な仕事とも違う。
快楽と愉悦と至福に包まれた拷問と虐殺。
絶対に止めなければならない行為。
(今なら止められる奴らが居る)
誰かは知らないが二人の、目の前の少年の敵が駆け付けた今なら。
こいつをどうにかする事が出来るはずだ。
江戸川コナンはそう考えた。
(だから止めなきゃならない)
何より許せないのだ。
正義を信じる名探偵には、彼の論理が許せないのだ。
殺せば生きられるだとか、殺さなければ死ぬだとか。
「殺人が世界の仕組みだなんて、そんなわけねーんだよ! バーロー!!」
バルキリースカートの二本のアームで跳ね上がり塀の上に立つ高町なのはに襲い掛かる。
対する高町なのはは呪文を詠唱
「リリカルマジカル 福音たる輝き、この手に来たれ」
「へえ、魔法使いなんだ。でも遅いよ」
振り下ろされる二本の金属バット。
なのはの攻撃は基本的に発動が遅く先手を取ることが難しい。
――当然高町なのははその事を知っている。だからヘンゼルに向けて左手を向けて。
「堅いね」
ヘンゼルの金属バットはなのはの前面に現れた半透明な障壁に防がれた。
ラウンドシールドだ。
攻撃を耐えて必殺の攻撃で叩きのめすのが彼女のやり口。
――もちろんヘンゼルも魔法使いの得体の知れ無さは知っている。
だから何時でも逃げれる余裕は残しているし、この攻撃は逃げる機会を作る為でもある。
なにより自在に動かせるバルキリースカート2本を残している。
一本のアームが塀に刺さり自らを支え、もう一本が障壁を迂回して横から襲う。
なのははヘンゼルの力を知らず、見た事も無い。
――それでも高町なのははヘンゼルを理解したのだから、これすらも判っていた。
殺して殺して殺して生きてきた彼はこの程度では止められない。
その上で呪文を詠唱したのは止める余裕を残したからだ。
右手の先に現れた二つ目のラウンドシールドがバルキリースカートの刃を食い止めた。
同時に左手の前に現れていた一つ目のラウンドシールドが消え去って。
「導きのもと、鳴り響け。ディバインシューター、シュート!」
至近距離からの魔弾が襲い掛かった。
――当然ヘンゼルは判っている。
魔法使いならその位してきてもおかしくない。
だから障壁が消える直前に自らを塀に固定するバルキリースカートの刃を抜いてくと同時に、
消える前の障壁を金属バットで強く押して推力を作り出していた。
空中に舞い上がったヘンゼルはディバインシューターのスフィアをかわしきる。
――高町なのはもその位なら予想は出来る。
「コントロール!」
だからそのスフィアが方向を転換してヘンゼルに襲い掛かった。
ヘンゼルはそこまでの予想は出来ていなかった。
咄嗟に金属バットで防御するのが精一杯、スフィアの直撃が少年を打ちのめす。
――だけどヘンゼルにも判っている。ただ攻撃だけでは攻めきれない。
攻撃の合間に空中に放り投げたフラッシュグレネードが起爆する。
至近距離の閃光と爆音は確実に敵の動きを奪うだろう。
高町なのはにそれに抗する術は無い。
――しかし高町なのはは信じていた。
「させるか!!」
突如飛来した手裏剣がフラッシュグレネードを弾き塀の向こうに跳ね飛ばした。
なのはもそれに応じて既に塀から飛び降りている。
これで直接フラッシュグレネードに晒される者は誰も居ない。
校舎に高町なのはが向かったという事を聞かされ、それを追いかけた犬上小太郎。
ネギの死体を置いて生きている仲間を心配して駆け付けた。それが彼の選択だ。
――ただし犬上小太郎は一つ勘違いをした。
彼はヘンゼルが投げた物が手榴弾だと思いこんだ。
しかし真実はフラッシュグレネード。
撒き散らされるものは殺人的な破片ではなく、閃光と轟音。
閃光は塀の向こうに遮断されて、しかし轟音は塀を越えて周囲を満たす。
犬上小太郎は獣人の血を引いている。
当然ながらその嗅覚や聴覚は人より格段に鋭くて、轟音を諸に受けた。
三半規管をやられ平衡感覚すら失いよろけてしまう。
――ヘンゼルはフラッシュグレネードの事を知っていた。
だからヘンゼルは閃光と轟音に備え、容易く轟音だけを耳を塞ぎ耐えきった。
地面に着地し、駆け出し逃げだそうと試みて。
「逃すかよ!」
近くに倒れていた江戸川コナンが上半身でヘンゼルに組み付いた。
――江戸川コナンもフラッシュグレネードの事を知っていた。
一度目に戦った時にヘンゼルが放り投げたそれを知っていた。
だから江戸川コナンはその轟音を耐えきって考えた。どうするか?
簡単だ、逃してはならない。
何故こうなったかの状況は理解できない。
メロは何処に行った? 自分は何故生きている? ここは何処でどうしてこうなった?
だけどヘンゼルが灰原を左手の指を二本、たった二本だけ潰したその場面は彼に衝撃を与えた。
近くに転がっている小狼の無惨な姿に気付いた時は恐怖に凍り付いた。
(こいつを逃がすわけにはいかない)
これまでに会ったどんな殺人鬼やテロリストでも、倫理は無くとも論理があった。
憎しみや汚い欲望、嫉妬に誤解、保身から自己満足まで。
中には同情の余地もない理由も有った。幾つも。
(だけどこいつは狂っている)
あの“黒の組織”の集団故の事務的な仕事とも違う。
快楽と愉悦と至福に包まれた拷問と虐殺。
絶対に止めなければならない行為。
(今なら止められる奴らが居る)
誰かは知らないが二人の、目の前の少年の敵が駆け付けた今なら。
こいつをどうにかする事が出来るはずだ。
江戸川コナンはそう考えた。
(だから止めなきゃならない)
何より許せないのだ。
正義を信じる名探偵には、彼の論理が許せないのだ。
殺せば生きられるだとか、殺さなければ死ぬだとか。
「殺人が世界の仕組みだなんて、そんなわけねーんだよ! バーロー!!」
――ヘンゼルは置かれた状況に気付いた。
即座に足にまとわりつくコナンを排除しようとし、しかしその表情が焦りに染まる。
もっとも手っ取り早いのはバルキリースカートで切り裂くことだ。
足を掴む腕を、腕を動かす脳を切り裂いて殺すことだ。
だがコナンはバルキリースカートを装着する根本、足に組み付いている。
アームの第一関節まではコナンの体に邪魔されて動きを制限されていた。
無理に切り裂こうとすれば自らの足まで切断しかねない。
(まさかこいつはそこまで考えて――この!)
ヘンゼルは金属バットをコナンに振り下ろした。
一撃、二撃。徐々にコナンの腕の力が抜けていく。
即座に足にまとわりつくコナンを排除しようとし、しかしその表情が焦りに染まる。
もっとも手っ取り早いのはバルキリースカートで切り裂くことだ。
足を掴む腕を、腕を動かす脳を切り裂いて殺すことだ。
だがコナンはバルキリースカートを装着する根本、足に組み付いている。
アームの第一関節まではコナンの体に邪魔されて動きを制限されていた。
無理に切り裂こうとすれば自らの足まで切断しかねない。
(まさかこいつはそこまで考えて――この!)
ヘンゼルは金属バットをコナンに振り下ろした。
一撃、二撃。徐々にコナンの腕の力が抜けていく。
――そして、高町なのはは答えにたどりついた。
高町なのは轟音による影響をそこまで受けていなかった。
彼女の聴力は現在大幅に低下している。
普通に会話できる程度まで回復したものの、それでも今彼女の耳は、鈍い。
だから予想だにしなかった轟音を受けても、少しくらくらした程度で耐えきった。
即座に状況を把握して思考する。
犬上小太郎は轟音により予想以上の被害を受けて戦力外になっている。
組み付いている江戸川コナン以外の戦力は無い。
裏門から梨花とリンクが向かっているかも知れないが、それも恐らく間に合わない。
彼らは消耗し、小太郎はとてつもない俊足でここまで駆け付けたのだから。
ヘンゼル、江戸川コナン、そして自分だけがこの戦場の要素として残される。
――ここに江戸川コナンの誤算は有った。
それは乱入してきたはずの犬上小太郎が戦力外になった事。
そして同じ魔法使いであっても、なのははネギほど多用な魔法を使えるわけではない事だ。
そもそも、超実戦派魔砲少女である高町なのはの魔法にはかなりの偏りが見られる。
ネギは『どんな相手でも柔軟に対応する』遠近両方で戦える魔法剣士型の修行を積んでいたが、
なのはは『どんな相手でも自分の間合いに引きずり込む』遠距離に特化した砲撃魔導師だ
魔法学校でみっちり基本を積んできたネギと最初から実戦の中で叩き上げられたなのは。
それを“似たようなもの”と考えてしまった事が、江戸川コナン最大の誤算だった。
(ディバインシューターを……)
なのはは一瞬そう考える。今度こそそれでヘンゼルを仕留めようと。
しかしすぐにそれを否定。彼はその程度で仕留められる相手ではない。
誘導操作弾は高町なのはが砲撃魔法と並んで攻撃の軸とする有力な魔法ではあるが、
如何せんデバイス無しでは数が少なすぎ、この世界で相手を戦闘不能にするには威力が足りない。
(それじゃやっぱり……)
ミニ八卦炉を堅く握り締めて思う。
エヴァがヴィータを仕留めた、ヴィータを焼いた出力を絞った細い光線でも無理だ。
恐らくヘンゼルは、それを回避するだけの余裕を作り出してしまう。
高町なのははヘンゼルの脅威を理解していた。だから判った。
彼女に今できる一番正しい選択肢が何かを。
(そんな事できるわけがない)
即座に否定する。それは人として絶対にしてはいけない選択だと。
しかし判る。それがこの状況において最も正しく多くを救える選択だと。
それでも許されない事だと。
それでもやらなければならない事だと。
否定するのは感情。ある種の弱さ。人間的な資質。
肯定するのは理性。ある種の強さ。悪魔的な資質。
理性は感情と戦った。
弱さは強さと戦った。
人間は悪魔と戦った。
結論は……出た。
「『にっくきターゲットを狙い、放つは恋の魔砲』」
小さな呟きと共に、魔砲の予兆となる光の筋がヘンゼルを照らした。
高町なのは轟音による影響をそこまで受けていなかった。
彼女の聴力は現在大幅に低下している。
普通に会話できる程度まで回復したものの、それでも今彼女の耳は、鈍い。
だから予想だにしなかった轟音を受けても、少しくらくらした程度で耐えきった。
即座に状況を把握して思考する。
犬上小太郎は轟音により予想以上の被害を受けて戦力外になっている。
組み付いている江戸川コナン以外の戦力は無い。
裏門から梨花とリンクが向かっているかも知れないが、それも恐らく間に合わない。
彼らは消耗し、小太郎はとてつもない俊足でここまで駆け付けたのだから。
ヘンゼル、江戸川コナン、そして自分だけがこの戦場の要素として残される。
――ここに江戸川コナンの誤算は有った。
それは乱入してきたはずの犬上小太郎が戦力外になった事。
そして同じ魔法使いであっても、なのははネギほど多用な魔法を使えるわけではない事だ。
そもそも、超実戦派魔砲少女である高町なのはの魔法にはかなりの偏りが見られる。
ネギは『どんな相手でも柔軟に対応する』遠近両方で戦える魔法剣士型の修行を積んでいたが、
なのはは『どんな相手でも自分の間合いに引きずり込む』遠距離に特化した砲撃魔導師だ
魔法学校でみっちり基本を積んできたネギと最初から実戦の中で叩き上げられたなのは。
それを“似たようなもの”と考えてしまった事が、江戸川コナン最大の誤算だった。
(ディバインシューターを……)
なのはは一瞬そう考える。今度こそそれでヘンゼルを仕留めようと。
しかしすぐにそれを否定。彼はその程度で仕留められる相手ではない。
誘導操作弾は高町なのはが砲撃魔法と並んで攻撃の軸とする有力な魔法ではあるが、
如何せんデバイス無しでは数が少なすぎ、この世界で相手を戦闘不能にするには威力が足りない。
(それじゃやっぱり……)
ミニ八卦炉を堅く握り締めて思う。
エヴァがヴィータを仕留めた、ヴィータを焼いた出力を絞った細い光線でも無理だ。
恐らくヘンゼルは、それを回避するだけの余裕を作り出してしまう。
高町なのははヘンゼルの脅威を理解していた。だから判った。
彼女に今できる一番正しい選択肢が何かを。
(そんな事できるわけがない)
即座に否定する。それは人として絶対にしてはいけない選択だと。
しかし判る。それがこの状況において最も正しく多くを救える選択だと。
それでも許されない事だと。
それでもやらなければならない事だと。
否定するのは感情。ある種の弱さ。人間的な資質。
肯定するのは理性。ある種の強さ。悪魔的な資質。
理性は感情と戦った。
弱さは強さと戦った。
人間は悪魔と戦った。
結論は……出た。
「『にっくきターゲットを狙い、放つは恋の魔砲』」
小さな呟きと共に、魔砲の予兆となる光の筋がヘンゼルを照らした。
――ヘンゼルは世界の仕組みを信仰していた。
ヘンゼルは最早一秒の猶予すら無い事に気づいた。
同時にこの状況を打破する手段に気が付いた。
(簡単な事じゃないか。殺せば良い)
世界は殺す事で廻っている。
誰を殺せばその分だけ生きることが出来る。
ヘンゼルはすぐさまルールに従った。
バルキリースカートの刃の部分に手を掛け、それを外す。
このまま使った所でアームによる鋭い動きは得られない。
この体勢でコナンに振り下ろしても殺し損ねるかもしれないし、腕を切り落とすなんてまず無理だ。
だからそれを振り上げ、投擲した。
「キャァッ」
……小さな悲鳴が響いた。
江戸川コナンが俯いていた首を上げて、その音の発生源に向けて傾げた。
そして灰原と、その音源の名前を呼ぼうとした瞬間。
ヘンゼルはコナンの腕から逃れ跳躍していた。
魔砲の予兆となる光の筋からも抜け出して。
ヘンゼルは最早一秒の猶予すら無い事に気づいた。
同時にこの状況を打破する手段に気が付いた。
(簡単な事じゃないか。殺せば良い)
世界は殺す事で廻っている。
誰を殺せばその分だけ生きることが出来る。
ヘンゼルはすぐさまルールに従った。
バルキリースカートの刃の部分に手を掛け、それを外す。
このまま使った所でアームによる鋭い動きは得られない。
この体勢でコナンに振り下ろしても殺し損ねるかもしれないし、腕を切り落とすなんてまず無理だ。
だからそれを振り上げ、投擲した。
「キャァッ」
……小さな悲鳴が響いた。
江戸川コナンが俯いていた首を上げて、その音の発生源に向けて傾げた。
そして灰原と、その音源の名前を呼ぼうとした瞬間。
ヘンゼルはコナンの腕から逃れ跳躍していた。
魔砲の予兆となる光の筋からも抜け出して。
――――だけど高町なのはは、それも判っていた。
判っていてこれを選んだ。
恋符「マスタースパーク」では仕留められない事を知っていてこれを選んだのだ。
ヘンゼルなら避ける事を理解していてこれを選んだ。
その為にどんな外道な手段を選ぶかも予想できていて、その上でそれを見逃した。
なのはにはそれを止める適切な手段が無かった。
灰原を守ろうとすればヘンゼルはコナンを殺して逃げきれると判っていた。
コナンを守る手段はヘンゼルを逃し最悪敗北し皆殺しにされる選択だった。
だから高町なのはは正しい答えが何かに気付いた。
その時点で思いつく限り全ての選択肢の中で最も適切な答えが何かに気付いたのだ。
判っていてこれを選んだ。
恋符「マスタースパーク」では仕留められない事を知っていてこれを選んだのだ。
ヘンゼルなら避ける事を理解していてこれを選んだ。
その為にどんな外道な手段を選ぶかも予想できていて、その上でそれを見逃した。
なのはにはそれを止める適切な手段が無かった。
灰原を守ろうとすればヘンゼルはコナンを殺して逃げきれると判っていた。
コナンを守る手段はヘンゼルを逃し最悪敗北し皆殺しにされる選択だった。
だから高町なのはは正しい答えが何かに気付いた。
その時点で思いつく限り全ての選択肢の中で最も適切な答えが何かに気付いたのだ。
そして全てが決着する。
感情は理性に挫折した。
弱さは強さに敗北した。
人間は悪魔に屈服した。
その時に思いつくありったけの選択の中で最も正しく冷酷な選択が選ばれた。
「恋心『ダブルスパーク』」
高町なのはは命を賭してヘンゼルに組み付いた江戸川コナンを、見捨てた。
感情は理性に挫折した。
弱さは強さに敗北した。
人間は悪魔に屈服した。
その時に思いつくありったけの選択の中で最も正しく冷酷な選択が選ばれた。
「恋心『ダブルスパーク』」
高町なのはは命を賭してヘンゼルに組み付いた江戸川コナンを、見捨てた。
――ヘンゼルはその答えを知った。
逃げる方向は右か左かと考える。
左は塀の壁によって塞がれていた。
だから右に逃げて――逃げた先もまた光に照らされていた事を知ったのだ。
真っ白い明るい光の領域。
死を約束する光の領域。
有り得ない。
「だって僕達はネバー・ダイなんだ。そう、Never」
信仰への祈りの言葉が断ち切られた。
強烈な閃光と高熱が全身に襲い掛かった。
盾と掲げたバルキリースカートのアームが一瞬で砕け散る。
皮膚が沸騰し肉が溶解し骨が焦げて砕け散る。
だけどそれをヘンゼルが知る事はない。
真っ白い光の中で、ヘンゼルの上半身は瞬時に焼き尽くされた。
それと共に、当然。江戸川コナンも上半身を焼き尽くされた。
逃げる方向は右か左かと考える。
左は塀の壁によって塞がれていた。
だから右に逃げて――逃げた先もまた光に照らされていた事を知ったのだ。
真っ白い明るい光の領域。
死を約束する光の領域。
有り得ない。
「だって僕達はネバー・ダイなんだ。そう、Never」
信仰への祈りの言葉が断ち切られた。
強烈な閃光と高熱が全身に襲い掛かった。
盾と掲げたバルキリースカートのアームが一瞬で砕け散る。
皮膚が沸騰し肉が溶解し骨が焦げて砕け散る。
だけどそれをヘンゼルが知る事はない。
真っ白い光の中で、ヘンゼルの上半身は瞬時に焼き尽くされた。
それと共に、当然。江戸川コナンも上半身を焼き尽くされた。
最初に照準を定めた以上、それを変える事も片方だけ止める事も出来はしない。
ヘンゼルを殺すために二本の魔砲。
その一本はヘンゼルに振り解かれた勇敢な江戸川コナンだけを殺すため。
本当の狙いであるヘンゼルを殺すためにどうしても必要だった、犠牲の魔砲。
ヘンゼルを殺すために二本の魔砲。
その一本はヘンゼルに振り解かれた勇敢な江戸川コナンだけを殺すため。
本当の狙いであるヘンゼルを殺すためにどうしても必要だった、犠牲の魔砲。
――二つの死体が転がった。
* * *
灰原哀はそれを見た。
バルキリースカートの刃を投げつけられ、
激痛と共に覚醒した少女の目が最初に映したのは、二人の少年が焼き尽くされる光景。
二人とも綺麗に下半身だけが残っていた。
死者の頭数を間違える事は有り得ない、腰から下が二揃え。
熱で焼き切られた断面はもちろん血を吹いたりなんてしていない。
綺麗な下半身が二揃え。その上にある続きを幻視しそうな不思議な悪夢。
「あ……あぁ…………」
こぽりと血が溢れる。
ヘンゼルの投げた刃は胸に刺さっていた。間違いのない致命傷。
もはや喉は血を湧き出す泉と化している
「ぁ、ああ、ああぁ……あ……あああ…………ぁ………………」
喉から浮かぶ譫言のような声は、その内に小さな塊を紡ぎ出した。
こぽこぽと溢れる血の泡が弾ける音に紛れて。
「………………悪魔…………」
と。
バルキリースカートの刃を投げつけられ、
激痛と共に覚醒した少女の目が最初に映したのは、二人の少年が焼き尽くされる光景。
二人とも綺麗に下半身だけが残っていた。
死者の頭数を間違える事は有り得ない、腰から下が二揃え。
熱で焼き切られた断面はもちろん血を吹いたりなんてしていない。
綺麗な下半身が二揃え。その上にある続きを幻視しそうな不思議な悪夢。
「あ……あぁ…………」
こぽりと血が溢れる。
ヘンゼルの投げた刃は胸に刺さっていた。間違いのない致命傷。
もはや喉は血を湧き出す泉と化している
「ぁ、ああ、ああぁ……あ……あああ…………ぁ………………」
喉から浮かぶ譫言のような声は、その内に小さな塊を紡ぎ出した。
こぽこぽと溢れる血の泡が弾ける音に紛れて。
「………………悪魔…………」
と。
恨める道理なんて無いのかも知れない。
ヘンゼルが生きていたらどんな惨事が起きていたのか、判りきった事だ。
状況を把握すれば。理屈で考えれば。
彼女を責める理由なんてきっと無い。
だけど人間というものは、理性だけで考える事なんて出来はしないのだ。
感情が、思う。憎いと。悲しくて、許せないと。
「………………」
高町なのははその言葉を聞いても何も言わなかった。
いや、言えなかった。
悪魔でも良い。
それが彼女のした選択なのだから。
「なの……は……!」
ようやく轟音から回復した犬上小太郎が立ち上がる。
「高町なのは! 何を……何しとんのや、おまえは……!」
なのはは答えない。
ただ自らの手の内を見下ろした。
ミニ八卦炉。ヘンゼルと江戸川コナンを同時に焼き尽くした凶器。
才賀勝が危険すぎる武器として一時は封じようとした炎の源
しかし判っていた。
彼らを殺したのはミニ八卦炉ではない。
彼らを殺したのは。
「なんで……なんであのガキまで……」
「そう。殺したのはわたし」
彼らを殺したのは高町なのはだ。
武器が勝手に人を殺したわけではない。
「わたしがあの二人を、殺した」
高町なのはが、ヘンゼルと江戸川コナンの命を奪った。
ヘンゼルが同情すべき境遇にある事を理解した上で、殺した。
江戸川コナンを助けられるなら助けるべき事を判っていて、殺した。
「…………おかしいな」
茫洋とした声。
心の欠け落ちた音。
冷たくて震えのない、正しい言葉。
「わたし、どうしちゃったのかな。…………おかしいな……」
その手は震えていなくて。
その足はしっかりと地面を踏みしめていて
「人としてやっちゃいけないって思うのに。
悪魔って言われるのがあんなに怖くて、辛かったのに。
ううん……今でも、そうなのに」
涙すら流れなかった。
「どうしてわたし、こんな事が出来るんだろう」
鋼の意志。如何なる選択すらも惑わない鋼鉄の選択。
少女の心。鋼鉄の選択すらも裏切って逃げ出した弱さ。人間らしさ。
矛盾している。
相反している。
ただ間違いなく言える事が一つ有った。
「でも、まだ終わってないよ。……終わらせない」
それは、今の高町なのはを動かしているのは紛れもなく鋼の意志という事だ。
ヘンゼルが生きていたらどんな惨事が起きていたのか、判りきった事だ。
状況を把握すれば。理屈で考えれば。
彼女を責める理由なんてきっと無い。
だけど人間というものは、理性だけで考える事なんて出来はしないのだ。
感情が、思う。憎いと。悲しくて、許せないと。
「………………」
高町なのははその言葉を聞いても何も言わなかった。
いや、言えなかった。
悪魔でも良い。
それが彼女のした選択なのだから。
「なの……は……!」
ようやく轟音から回復した犬上小太郎が立ち上がる。
「高町なのは! 何を……何しとんのや、おまえは……!」
なのはは答えない。
ただ自らの手の内を見下ろした。
ミニ八卦炉。ヘンゼルと江戸川コナンを同時に焼き尽くした凶器。
才賀勝が危険すぎる武器として一時は封じようとした炎の源
しかし判っていた。
彼らを殺したのはミニ八卦炉ではない。
彼らを殺したのは。
「なんで……なんであのガキまで……」
「そう。殺したのはわたし」
彼らを殺したのは高町なのはだ。
武器が勝手に人を殺したわけではない。
「わたしがあの二人を、殺した」
高町なのはが、ヘンゼルと江戸川コナンの命を奪った。
ヘンゼルが同情すべき境遇にある事を理解した上で、殺した。
江戸川コナンを助けられるなら助けるべき事を判っていて、殺した。
「…………おかしいな」
茫洋とした声。
心の欠け落ちた音。
冷たくて震えのない、正しい言葉。
「わたし、どうしちゃったのかな。…………おかしいな……」
その手は震えていなくて。
その足はしっかりと地面を踏みしめていて
「人としてやっちゃいけないって思うのに。
悪魔って言われるのがあんなに怖くて、辛かったのに。
ううん……今でも、そうなのに」
涙すら流れなかった。
「どうしてわたし、こんな事が出来るんだろう」
鋼の意志。如何なる選択すらも惑わない鋼鉄の選択。
少女の心。鋼鉄の選択すらも裏切って逃げ出した弱さ。人間らしさ。
矛盾している。
相反している。
ただ間違いなく言える事が一つ有った。
「でも、まだ終わってないよ。……終わらせない」
それは、今の高町なのはを動かしているのは紛れもなく鋼の意志という事だ。
「な、何をする気や!?」
小太郎の問い掛けを無視して、なのはは灰原哀に歩み寄る。
「ちょっとだけ我慢してね」
そう言って、そっと灰原哀を動かした。
李小狼のすぐ横に。
「何……を……?」
「この男の子、まだ息があるんだ」
なのはの言うとおり、李小狼はまだ呼吸をしていた。
ゆっくりと息を吸い、吐く。あまりにか細い小さな呼吸。
「でもこのままじゃ、あなたも男の子も死んじゃう」
それは灰原哀も同じ事。
確実な死へ向かってゆっくりと転がっていく少年と少女。
違うのは少年の方がより死に近いという、ただそれだけの事だ。
「だから、あなたたち二人に聞こうと思うの。
ねえ……どちらが生き残りたい?」
「え…………」
高町なのはは、言った。
「わたしは今さっき、二人殺してしまった。……ううん、殺した。
だから、あなた達の片方だけなら助ける事ができる」
だからで文章が繋げられたその理由。
その意味に気付いた時、その場にいる誰もが絶句した。
高町なのはだけが、言葉を続けた。
「3人を殺した人は、ある程度のお願い事を一つだけ叶えて貰える。
だからわたしは、あなた達の内の片方だけなら助ける事が出来る」
それは悪魔の選択。
一人でも多くの人を助けたいという真摯な想いが選んだ、残酷すぎる選択肢。
悪魔は依然その場に在りて、人々に悪夢を突きつけた。
小太郎の問い掛けを無視して、なのはは灰原哀に歩み寄る。
「ちょっとだけ我慢してね」
そう言って、そっと灰原哀を動かした。
李小狼のすぐ横に。
「何……を……?」
「この男の子、まだ息があるんだ」
なのはの言うとおり、李小狼はまだ呼吸をしていた。
ゆっくりと息を吸い、吐く。あまりにか細い小さな呼吸。
「でもこのままじゃ、あなたも男の子も死んじゃう」
それは灰原哀も同じ事。
確実な死へ向かってゆっくりと転がっていく少年と少女。
違うのは少年の方がより死に近いという、ただそれだけの事だ。
「だから、あなたたち二人に聞こうと思うの。
ねえ……どちらが生き残りたい?」
「え…………」
高町なのはは、言った。
「わたしは今さっき、二人殺してしまった。……ううん、殺した。
だから、あなた達の片方だけなら助ける事ができる」
だからで文章が繋げられたその理由。
その意味に気付いた時、その場にいる誰もが絶句した。
高町なのはだけが、言葉を続けた。
「3人を殺した人は、ある程度のお願い事を一つだけ叶えて貰える。
だからわたしは、あなた達の内の片方だけなら助ける事が出来る」
それは悪魔の選択。
一人でも多くの人を助けたいという真摯な想いが選んだ、残酷すぎる選択肢。
悪魔は依然その場に在りて、人々に悪夢を突きつけた。
「わたしは、どちらを生かそうか?」
――わたしは、どちらを殺そうか?
――わたしは、どちらを殺そうか?
【江戸川コナン@名探偵コナン 死亡】
【ヘンゼル@BLACK LAGOON 死亡】
バルキリースカート(核鉄状態)@武装錬金が転がっています。
ただし午後の時点ではアームの3本あるいは全てが破損しています。
その他のヘンゼルの装備は全て焼失しました。
【ヘンゼル@BLACK LAGOON 死亡】
バルキリースカート(核鉄状態)@武装錬金が転がっています。
ただし午後の時点ではアームの3本あるいは全てが破損しています。
その他のヘンゼルの装備は全て焼失しました。