とある魔法少女の再会(リユニオン) ◆1Udq39SlSU


「な、なんですか……これは……」

ポーキーが強制した殺し合いだが、何も手ぶらで殺し合えと言っている訳ではない。
各々に支給されたランドセルに武器が入っており、それを用いて殺し合えと暗に言っている。
そこで参加者はどんな方針であろうと大抵何かしら武器が入っていると考え支給品を確認するものだ。
この円谷光彦も例に漏れず、同じことを考えランドセルを開けたのが数分前のこと。
そして現在、目の前に広げた自分の支給品を眺め光彦は唖然としていた。

「外れにしてもこれは酷いですよ……」

全自動卵割り機。
かつて磯野波平がほれ込み、強い主婦の味方と購入した稀代の発明品である。
後に波平はこの卵割り機をきっかけにグルグルダシトールなる物を思いついたがそれはまた別の話。
光彦は他にも何か無いか探してみたが、少なくとも光彦の知る範囲で武器になりそうなものは無かった。

「卵を割るだけの機械で何をしろっていうんですか……」

この謎の機械は阿笠博士の発明品か何かなのだろうか。
そんな疑問を抱えつつ、光彦は卵割り機をランドセルへ仕舞う。

「不味いですよ。今の僕は完璧に無防備ですし万が一の事があったら……」

殺し合いなどするつもりもないが、誰かが襲ってきたのであれば応戦しなければならない。
しかし武器も無しに素手だけというのは、恐らくは武装しているであろう襲撃者と比べれば圧倒的に不利になる。

「ともかく隠れる場所ですね。ここは些か目立ちます」

今、光彦が居る場所は荒野だ。
見通しが良く銃か何かで狙い撃つには格好の場所。
武器も無しに、こんな場所をうろつくのは自殺行為もいいとこだ。
確か近くにラセツ族アジトなるものがあった筈。先ずはそこへ行き体制を整えよう。
ランドセルを背負い光彦は歩みだした。

――妙に明るい。
光彦は不意にそう思った。
時刻は深夜、良くても黎明。こんなにもくっきりと足元が見えるのは不自然だ。
月明かりに照らされてると言っても異常過ぎる。

「え、太……陽?」

顔を上げるとこの明かりの正体が分かった。
何と赤色の炎弾が光彦へと向かってきていた。
先ほどまで、灯されていた光の正体はこれだったのだ。

「熱――」

動けなかった。いや動く暇すら無かったというべきか。
もし炎弾が銃声でも伴っているのであれば、光彦は危険なものだと直感し避けていたかもしれない。
だがこれは、一般人からすれば音も無く無音で動くただ光の塊にしか見えない。
危険性に気付いた時には焼き焦げた炭が一つ出来るのみ。





「――――伏せろ!!」



響く叱咤。
いきなり頭を押さえつけられ光彦は抵抗できず顔面を足元の砂へと沈めた。
炎弾は光彦の真上を通り、間一髪光彦は命を拾ったのだと安堵した。

「な、何ですか一体……?」

光彦が砂塗れの顔を上げるのと、奇怪な杖を持った二人の少女が激突するのはほぼ同時だった。
二人の少女の内の一人に光彦は見覚えがある。
ディアーチェと名乗る傲慢な雰囲気の少女だ。光彦から話を引き出すだけ引き出し、後は放置して何処かへ行った筈だが、たまたま同じ経路を辿っていたのだろうか。

「何の真似だ? シュテル!」
「見たままの通りです。王」

まるで歴戦の剣士の如く杖を使いせめぎあった二人は今度は距離を取る。

「お前にしては珍しい冗談だな? レヴィじゃあるまいし」
「冗談ではありませんよ」
「何だと……?」

光彦が見る限り、ディアーチェとシュテルと呼ばれた少女は知り合いなのだろう。
とはいえ普通の知り合い同士の合流にしては幾らか殺気立ち過ぎる。
会話に割り込むことも出来ず、ただ二人の会話を眺めるくらいしか光彦には出来なかった。

「私は王……貴女を生きて返す。それが使命です」
「馬鹿な、だからといって殺し合いに乗ると?
 手当たり次第に参加者を殺して回るというのか?」
「ええ、敵になり得る存在全てを抹消します」
「……ふん、他の連中など知ったことではないが、仮に我が生き残ったとして、ポーキーとやらが帰してくれるという保障もない。
 第一、レヴィはどうする? 同じように殺すのか?」
「レヴィは死にました。つい先ほど」
「……!」

今までのディアーチェの堂々とした振る舞いに乱れが生じる。
それは動揺。自身の配下たるレヴィが死んだという報せが、ディアーチェへと重く圧し掛かってきた。

「“私達”の為に、あの娘は命を張って戦い抜きました」
「……」
「私もそうです。既に王に希望を託し一度消えた身、だから――」

シュテルの言葉は最後まで頭に入らなかった。
それ以上に、おかしい言葉をディアーチェは聞いたからだ。

(一度消えた?)

覚えは幾つかある。以前、高町なのは達の戦闘において敗北した際にディアーチェ、シュテル、レヴィは消滅した。
更に言えば、少し前にもシステムU-Dに消された事がある。あの時はレヴィを即復活させたお陰で難を逃れたが。
だが様子が違う。そもそも希望とは何だ? もしも以前の事ならば、悪いがディアーチェにとって心当たりは無い。


(軽率でしたね……)

シュテルは心の中で舌打ちをする。
レヴィから魔力を引き継いだ彼女は、その力の試用と他参加者の探索も含め空を飛び移動していた。
だが恐らくそのせいでディアーチェに発見されてしまったのだろう。
合流自体に問題は無いが、最悪なのはタイミング。
参加者襲撃の際にディアーチェと鉢合わせし、尚且つ殺し合いには否定的な態度。状況は悪い。
戦闘に入ろうものなら、勝とうが負けようがシュテルには何の得にもならない。奉仕すべき対象と矛を交えることなど避けるべきだ。

(どうするべきでしょうか)

説得は難しい。
元よりプライドの高い彼女だ。ポーキーの言い成りになどなろう筈がない。
守るべき対象を前にして矛盾しているが、撤退すべきか。

(ですが驚きました。まさか赤の他人を身を張って助けるとは。
 思ったより、ナノハ達の影響が強いという事でしょうね)

それは決して、悲観するような事ではない筈なのに。今は何処か悲しい。

(矛盾していますね。私は……)

だが、これで良いのかも知れない。
ディアーチェは名の通り王なのだ。王は王らしく万人を惹き、頂に君臨すれば良い。
悪は一人、汚名を被るのは一人。自分は名の通り、殲滅者らしく王以外の敵を滅ぼすだけだ。

「シュテル……貴様」
「王、貴方は「おかしいですよ。そんなの!!」

意外にも声を荒げたのはシュテルが襲った光彦だった。
ディアーチェも面を食らっている。

「僕なんかが、口を出して良いことなんかじゃないかも知れませんが……誰かの為に人を殺すなんて間違ってます!」
「今はもう手段を選んでいる場合ではありません」

ルシフェリオンを光彦に向け、何時でも殺せると暗に伝える。
どうせ、命が惜しくて叫んでいるのだろう。少し脅せば黙る筈だ。

「それでも間違ってます!」

しかし、光彦は引かなかった。寧ろ、足を踏み出しシュテルへと前進している。

「僕は何十件もの殺人事件とその被害者、加害者を見てきました」

殺人事件。小学生が口にするにはおおよそ不釣合いな言葉だ。
それに何十件も関わったとなれば、異常にも程がある。少なくとも、普通の小学生の精神ではないのだろう。
ディアーチェが最初に肝が据わっていると見たのは、これが理由なのかもしれない。



「復讐とか、誰かの為とか色々な理由で殺し殺されて……理由は様々です。
 けれど、一つだけ僕には言えることがあります」
「なんでしょう?」
「人を殺して得る幸せなんて、何処にもありはしないんですよ。
 絶対に貴女も、ディアーチェさんも傷付き悲しむ事になります」 

ただ偽善を振っているのではない。経験から基づき、子供ながらも得た答えの一つ。
故に響いてくる。たかが小学生の戯言、甘っちょろい偽善と吐き捨てれば良いものを、それを感じさせない説得力がある。

「では、あのポーキーとやらに打ち勝つ術を貴方は見つけましたか?
 ……返答によっては、考え直しても良いかもしれませんね」
「そ、それは……でも見つからないと決まった訳じゃありません。
 最後の最後まで、足掻くまで分かりませんよ」

だが、やはり駄目だ。
如何に小学生離れした論理感を持っていようと所詮は一般人、何を期待していたのか。

(いえ、未練……ですかね)

ディアーチェが居て、レヴィが居て。
そして、なのはとの再戦の約束など。短い間で穏やかとは言えないながらも、悪くない時間だった。
だからあわよくば、もう一度あの場所へ戻りたいと思っていたのかもしれない。
こんな子供に一瞬でも期待してしまうとは我ながら情けない。

「……惜しいですね。次は明確な脱出プランを練ってから話してください」

最も次などありませんが。そう心の中で付け加え。シュテルはルシフェリオンを構える。
ルシフェリオンの矛先に業火が集まり、光彦を照らす。未練も何かも焼き切るかのように。

「ええい、下がれ!」

業火を放とうとした次の瞬間、光彦を庇うかのようにディアーチェが割り込む。
そのまま、ディアーチェもシュテルの業火に対抗すべく魔法を発動させようとする。
このままでは、互いに消耗してディアーチェを傷付けてしまう。

「……ディアーチェ、生きてください」
「何?」

ディアーチェの魔法よりも早くシュテルは業火を地面へと放つ。
大地は砕け、岩盤は抉れ、幾つもの土煙が舞う。それらはディアーチェ達の視界を塞ぎ、シュテルの逃走を許してしまった。
視界が晴れてシュテルの姿を探した時には既に遅く。周囲には、ディアーチェ達以外の参加者は消えていた。

「おのれシュテル、勝手な真似を……」

まだそう遠くへは行っていないはず。
他参加者の目に付くリスクは増えるが空を飛べば、今なら追い付けるかもしれない。

「で、ディアーチェさん後ろ!!」
「なっ……?」

シュテルの魔力で精製された炎弾が腹部へと命中する。
バリアジャケットによって守られていたため火傷こそはしなかったが、その衝撃で横方へ吹き飛んでしまう。

「くっ……お、のれ……」

先の衝撃によるもので軽い脳震盪を起こしたのか、あるいは何処か頭を打ってしまったのか、それ以外の要因か。
視界が歪み、徐々に意識が闇へと落ちていく。

(待て……この程度で……我が気絶……? )

気にはなっていた。
紫天の書のシステムの自分たちに殺し合いという意味のない行為。
だが、もしもマテリアルズの体が、人間と同等の物となっていたとしたら?
魔法に制限が掛かっていたのだ。体そのものを弄られた可能性も決して否定は出来ない。
何より、今のディアーチェの現状がそれを裏付けている。
普段ならばこの程度、痛みは感じても意識を飛ばすほどではない。
だとするならば、ここでの死は文字通り絶対な死であり。既に命を落としたレヴィは……。

「ディアーチェさん? ディアーチェさん!!」

ディアーチェの耳に光彦の言葉はもう入っては来なかった。




【B-3/黎明】

【闇統べる王@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:気絶
[装備]:エルシニアクロイツ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、紫天の書@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:首輪を外し反抗する手段を探す、仇なす者には容赦せぬ!
0:……
1:島の全景の確認
2:シュテル、レヴィ……
※A’s PORTABLE -THE GEARS OF DESTINY-のSEQUENCE10、システムU-Dとの対決前からの参戦です。
※肉体の制限に気付きました。

【円谷光彦@名探偵コナン】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2(光彦が見て武器になるものはなし)、全自動卵割り機@サザエさん
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する
1:コナンとの合流
2:ラセツ族アジトに向かう予定だったが……
3:ディアーチェさん?








「ナノハが使っていた戦法ですが、上手くいったようですね……」

あのままではディアーチェとの激突は避けられない。
かといって、簡単に撤退させてくれる筈もない。
そこでシュテルが使ったのは、最初光彦へと放った炎弾だ。
あれをディアーチェの背後へと待機させておき、期を窺いディアーチェへと向かわせる。
生身ならともかく、バリアジャケットに覆われている部分に当てれば大したダメージもない。
シュテルが逃げたB-2にディアーチェの姿がないことから、妨害は成功したのだろう。

「……思った以上に、甘いですね私は」

あの時、ディアーチェではなく、光彦に炎弾を当てることも出来た。
そうなれば、間違いなく光彦は絶命する。本当にディアーチェ以外の全てを殲滅するならばそうするべきだった。
撤退を優先していたにしろ、ディアーチェが光彦の側に寄る間に逃げることも出来た。
やはり、まだ戸惑いがあるのかもしれない。思った以上に、光彦の言葉はシュテルに重く圧し掛かったようだ。

―――シュテるん

体の内から、僅かに響いたレヴィの声を聞き、シュテルはルシフェリオンを強く握る。

「ええ、分かっています。迷うのは、揺れるのはこれで最後。
 次こそはあの少年も確実に殺します」

レヴィはシュテルにディアーチェを守って欲しいと魔力を預けた。
しかし、殺し合いに乗れとは一言も言っていない。
果たして最後に聞いたレヴィの声はシュテルを叱咤し、殺し合いへと奮い立たせるためのものだったのか。
それとも―――。


【B-2/黎明】

【星光の殲滅者@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:健康、レヴィの魔力を引き継ぎ
[装備]:ルシフェリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ、決闘盤(遊馬)&D・ゲイザー@遊戯王ZEAL、デッキ(遊馬)@遊戯王ZEAL
[道具]:基本支給品一式×4、ランダム支給品3~7
[思考・行動]
基本方針:ディアーチェを守るため、殺し合いに乗る
1:参加者は見つけ次第、燃滅
2:ディアーチェは……
3:少年(光彦)は次会えば絶対に殺す。
※A’s PORTABLE -THE GEARS OF DESTINY-のSEQUENCE10、消滅後からの参戦です
※レヴィの魔力を引き継ぎました
 詳細は不明ですが、雷の魔力変換を行えるようになったかもしれません




【全自動卵割り機@サザエさん】
文字通り自動で卵を割ってくれる機械。あっと驚く主婦の味方。
コンセントと卵があれば快適に卵料理が作れるだろう。
尚、この機械で割った卵で作った料理は、フグ田マスオによると一味違うらしい。
ようは外れ支給品である。

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最終更新:2014年03月13日 23:30