卑怯なお人形◆HoYWWMFJdI


―――月が照らす海。
波間に揺蕩う一人の少女。

月の女神アルテミスと、海の覇者レヴィアタン。
自身を構成する三柱のうち、二つの力を色濃く受け、緩やかに傷が癒されていく。

「まったく……初手からこれでは先が思いやられるわね」

身体を休めながら、メルトリリスは独りごちる。

「あの召喚術師―――確か、メラグ……だったかしら。
 後で復讐はするにしても。
 初手から油断してはダメね。私の悪い癖。
 ……このゲームに参加するくらいですもの。
 サーヴァント級とは言わないまでも、ウィザード級はゴロゴロいるんでしょうね」

―――BBを出し抜こうとした結果がこれだけれど。
制限があるゲームというのも、また面白いのかもしれない。
少なくとも、BBはまだ直接手を出してくるつもりはないのだろう。
なら。

「もしも貴女が生きていたら。
 状況を深く考えたりせず、単純に楽しむのかしら。
 ねぇ、お馬鹿なリップ―――」

ソラを眺めながら。
散っていった片割れをなんとなく思い出し。
潮の流れに身を任せ、少女が進む先を月が照らしてゆく―――


■■■

「な、なな、なんだここ……」

自分が自分で無いような。
時間が今で無いような。
どちらが上かわからないような。

不可思議な空間に、藤木茂は存在している。

「お、落ち着くんだ。何があったか思い出さないと……。

そうだ、あの変な髪型の少年を撃って。
杖とスイッチを拾って……。
スイッチを押したら、こんなところに。

あ!そういえば銃!
あれ、ランドセルもないぞ!?
あ、あれがないと戦えない!殺されてしまう!?」

あたふたと辺りを探るが、ここには何も存在していない。
自分がいるだけである。

―――罠だ。
罠だったんだ。

あの少年は卑怯にも、あのボタンを押させて、他人を閉じ込めようとしていたのだ。

「そうだよ……こっちが撃たなきゃやられてたんだ。
 どいつもこいつも出し抜こうとしているに違いない。
 ぼくは卑怯なんかじゃない。だってみんなの方がもっと卑怯じゃないか」

このまま閉じ込められるのか。
後で出されるのか。
どっちにしろ、出たら銃どころか、ごはんも水もなくなってしまうのだ。

『卑怯者の君らしい、当然の末路さ』

親友の声が頭に響いてくる。

『君は蜂の大軍に襲われた時も、僕をずっと盾にしていたよな。
 ―――君は、骨の髄から卑怯者なんだよ』

「うるさいなあ……。
 こんな時までぼくをなじらないでくれよ、永沢くん……。
 そうだ。変なこと考えても仕方ない。歌でも歌って時間を潰そう……。

 あ~。どうせこの世など~うらぎりだけの砂漠さ~。
 あ~。だからオイラは~すーぐ逃げるのさ~。
 ひーきょーうー。これがオイラの弱みさ~」

藤木の暗い歌声が、亜空間に響く―――


■■■

「……うん。大分時間経っちゃったけど。おかげで傷も塞がったわね」

砂浜に流れついたメルトリリスは、
ワルツを踊るように円を描いて自身についた水を振り払う。

「さて、と。どの辺りまで流されたのかしら」

ランドセルからスマートフォンを取りだす。

「……んもう!端末が小さすぎるわ。
 もう少し操作性のことも考えてくれないかしら……」

触覚障害により手先が不器用な彼女は、悪戦苦闘しながらもMAPを開き、現在地を確認する。
現在の場所は【A-5】。
細長い半島のような場所である。

「結構流されてきちゃったわね。
 まあいいわ。別に目的地があるわけじゃないし。
 とりあえずメルトウィルスが試せる相手でも探してみようかしら」

んー、と伸びをして。
歩き始めるメルトリリス。

―――しばらく歩いていくと、地面に倒れ伏す人間が見える。

「あら残念。先を越されちゃったわ」

自身はまだ一人も倒していないのに、
もう一人退場させた参加者がいるということだ。

じっくり見てみると、背中から何かで貫かれた少年が、
血を噴き出してうつ伏せで倒れている。

まわりにはランドセルが二つ。
その近くに銃と変なボタンも落ちている。

「普通に考えれば罠だけど。
 ……近くに気配はなさそうね」

一応付近を窺ってみるが、生き物の気配一つしない。


「支給品が残ったままになっているけど。
 バーサーカータイプにやられた……にしては、死体が綺麗よね。
 ま、いいわ。
 くれると言うのならありがたく頂戴しましょう」

少年の死体を持ち上げ。
スパン、と自身の右脚で宙に弧を描くように、少年の首と胴体とを引き離す。
そして首輪を奪って、死体を再び地面に捨てる。

「あの爺。どうすればこのゲームの勝ちか、をちゃんと言ってないわよね」

単純に考えれば生き残った一名が勝者。それならシンプルだ。
だがあの爺は恐らく『わざと』言っていない。

例えば、制限時間内で一番多く狩った者を勝者とするのか。
例えば、チームを組んで残ったチームを勝者とするのか。
全員殺してまわった後、
『君が殺したっていう証拠はないよね』なんてふざけた寝言を言いかねない。

「ゲームマスターが自由にブレちゃうのって、プレイヤーは面白くないわよね」
元の世界でのルールの書き換えなどを行っていた自身のことは当然棚にあげ、悪態をつく。

「ま、保険よね、これは」
なんて言いながら奪った首輪をくるくると回す。

―――と、メルトリリスの背後で突然気配が生じる。

「なっ!?アサシン級の気配遮断!?しまっ」

反射的に前に大きく飛び、着地と同時に後ろを振り向く。
紫色の唇をした少年が、地面に向かって飛びついている。


■■■
794 名前: 卑怯なお人形  ◆HoYWWMFJdI [sage] 投稿日: 2014/03/08(土) 03:29:22 qXqb2KB60

(なんだか分からないけど、チャンスだ!)

藤木が亜空間から出た途端、目の前には女性がおり、後ろを向いて油断している。

(ぼくはツイてる、これならいけるぞ!!)

急いで地面に落ちたままの銃に飛びつき。

(相手の女の人が振り向いたけれど……)
「……これなら!」

銃をメルトリリスに向け、躊躇なく引き金を引く。

(弾が飛んで行って、また血を噴き出すんだ)

―――キィィィィン!!

という音が鳴り響き。
脚を上げたメルトリリスが、血も噴き出さずにそのまま立っている。

「え……?」
「成程。その銃でコレを殺したのね。
 平凡そうなニンゲンのくせに、よくやるわね。
 もしかして貴方、やり手のウィザードなの?
 …………魔力も何も感じないけど」
「な、なんで……」
「……?
 ああ、なんで当たってないかってこと?
 そりゃ、そんなどこ狙ってるか丸わかりの銃なら、いくらなんでも弾けるわよ。
 だいたい、ハイ・サーヴァントでなくとも、例えば普通のサーヴァントだったとしても。
 礼装じゃない素の銃なんて効くわけないじゃない。
 まあその銃でも、あの海賊とか、噂に聞くフィンランドの死神とかが使えば一応効くんでしょうけど」
(まあ、制限がどうたらって爺が言ってたから、わざわざ当たってやるつもりもないけれど)

そして何かを行動しようとして、諦めたような顔をするメルトリリス。

「はぁ……はいはい。
 メルトウィルスは封印されてるってことね、BB。
 わかりましたよーだ」

腹いせに呆けている藤木の足を払い。
仰向けに倒れた少年に片足を乗せる。

「フフフ。さ、気を取り直して。おしおきの時間ね」

殺される。
殺される。
殺される。

藤木は上に乗られている女性から逃れられないことを悟る。

「どこから切り離してほしい?
 腕?足?マニアックに耳とか?」
「こ……」
「こ?こうべ?ダメよ、つまらないじゃない。
 首を斬るのは最後よ、最後」
「こ、こ……ころさないで……!!
 なんでも!!
 なんでもするから!!!!」
「へ?」

きょとんとするメルトリリス。

「もう一度、言ってみなさい」
「な、な、なんでもするから……」
「もう一度」
「な、なんでも、します……!!」

涙を流しながら答える藤木少年。
そして、パァァと華が開くかのように喜んでいるメルトリリス。

(そう、これよこれ!
 ムーンセルの連中、擦れてたり潔かったり強情だったりして、全然面白くないんだもの)

「……私に全てを捧げる気はある?
 YESかNOか。天国がいいのか地獄がいいのか。
 聞かせなさい?
 貴方の返答如何によって、今後の処遇を考えてあげるから」
「は、はい。イエスです、イエス!」

必死に首を縦にうんうんとふる藤木。

「ふふふ。じゃあ、今から貴方は私のお人形ね」

メルトリリスは自身のランドセルから小さな何かを取りだすと、
上に放り投げ、右脚の先の針で器用に引っ掛ける。
―――そして、藤木の左腕にそれごと突き刺す。

「ぎゃああああああああ!!!!
 いたいいたいいたいいたい!!!!」
「我慢しなさい、お人形さん。
 これは刻印。
 貴方が私のモノだという、ね」

メルトリリスは右脚を引き抜き。
藤木は右手で左腕を押さえる。


「貴方、お名前は?」

痛そうに腕を抱えながら立ちあがった少年に質問する。
紫の唇の色が更に蒼みを帯びている。

「ううぅ……藤木……藤木茂、です……」
「そう、フジキね。
 私はメルトリリス。貴方のご主人様よ」
「は、はい……ご主人様」
「ふふ、いいお返事ね」

なんのプライドもなく従う藤木。
(プライド?そんなもの、生きるためならいくらでも捨ててやるさ。
 それにしても……)

改めてメルトリリスを見る藤木。

(なんでこの人、ほとんど下半身が裸なんだろう……
 目のやり場に困るよ……)

と思いつつ、頬を赤らめてちらちらと見る。

「さて、フジキ」
「は、はいっ!」
「貴方には餌になってもらいます」
「え、えさ?」
「そう」

ふふ、と笑いながら、くるりと回る。

「一人一人、参加者を私のところに連れてきなさい。
 強者に対抗しようという善人の集団に入って、
 上手く言いくるめて一人連れてくるとか。
 一人でも多く殺そうと、一人で彷徨ってるような強者をこっちに誘導してくるとか。
 やり方は貴方に任せるわ」
「は、はい!」
「ふふ、本当にいいお返事ね」

三つのランドセルの中を確認し。

「……あら。この杖。魔力の流れを感じるわ。
 そんな『玩具』より、この杖で叩いた方が、私にはダメージが通ると思うわよ」

なんて言いつつ、ランドセルを一つ藤木に渡す。

「持っていないと逆に怪しまれるでしょう?
 まあ、銃とか杖とかは、そのうち貴方の働き次第でご褒美に渡してあげるわ」
「あ、ありがとう……ございます」
「さ、行きなさい」

二人で合図などを決めた後、藤木が南へと歩きだす。


■■■


(た、助かった……)
南へ行くと見せかけて、西へと走る藤木。

(居場所もわからないのに、手下も何もないだろ。
 だいたい、ぼくは笹山さんのような、優しいお淑やかなタイプが好みなんだ。
 あんな裸でいるような……。
 ま、まあ、そりゃあ……綺麗な人だったけどさ)

「あら、どこへ行くのフジキ?」
「わわっ!?」

走っていく先に、メルトリリスが待っている。

「まさか逃げよう……だなんて思っていないわよね?」

冷たい目で、睨みつけてくる。
その目だけで、藤木は心臓を掴まれたような状態になる。

「も、もちろんです。
 こっちの方に人がいるんじゃないかな、って」
「そ。まあいいわ。
 貴方の居場所、常に把握できているから。定期的に情報を伝えなさい。
 ……ああ、あと言い忘れてたことがあって」
「は、はい」
「メラグって言う女。『氷の剣』を名乗る青い髪の女。
 そいつは他人を安心させた後、変身して人を襲う化物で、用心するように、って。
 もし集団に入りこめたら伝えなさい」

メラグの変身前と変身後の特徴を、詳細に藤木に伝えていく。

「えっと……」
「なあに?フジキ」
「その……ぼくも……。
 永沢君っていう、タマネギみたいな顔をした少年がいて。
 その人に会ったら……」

その人だけは殺さないで。
と言おうとして。次の言葉が出ない。

「その人に会ったら……。……どうか、殺してください」
「あら。人形のくせに生意気。
 ご主人様におねだりする気なの?」
「い、いえ!!」

ぶんぶんと首を振る藤木。

「まあいいわ。次からは気をつけなさい。
 ……さ、そろそろ行きなさい」
「はい!行ってきます!!」

再び走り始める藤木。

(なんとかご主人様を出し抜く方法を考えないと。
 それにしても、何故ぼくは、あんなことを言ってしまったんだ……。

 ……でもきっと、これで良かったんだ。
 友達を直接自分の手にかけるなんて、それこそ卑怯者のすることだもの)

果たしてどちらの方向に向かうのか。
月の女神が見下ろす中、藤木少年は走っていく。


【A-4 荒野/一日目 黎明】

【メルトリリス@Fate/EXTRA CCC】
[状態]:負傷(小)、疲労(小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式×2、受信機@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ランダム支給品×2
     首輪(スネオ)、拳銃@現実、ふっかつのつえ@DQ5
[思考・行動]
基本方針:このゲームをクリアして、月の裏側に帰還する。
1:お人形さん(藤木茂)を餌に釣りを楽しむ。
2:メラグ(神代璃緒)に復讐。
3:まあ、タマネギ男(永沢君男)は見つけたら殺してあげる。
4:メルトウィルス、やっぱり使えないわね……。封印でもされてるのかしら。
※原作5章からの参戦です。
※クライムバレエとメルトウィルスの制限に気づいています。メルトウィルスは封印されていると思っています。
※メルトウィルスは少なくとも人間態の璃緒レベルの相手には使えません。
※一人生き残こることが、必ずしもゲームの勝利条件だとは考えていません。
※BBが主催者の背後にいると考えています。


【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:左腕負傷(小)
[装備]:発信機@魔法少女リリカルなのはシリーズ(左腕埋め込み)
[道具]:基本支給品一式、どくさいスイッチ@ドラえもん(使用済)
[思考・行動]
基本方針:仕方ないから殺し合いをする
1:参加者を見つけてメルトリリスのところに誘導する。
2:メルトリリスに従って参加者を減らす。
3:メルトリリスを出し抜く方法を考える。
4;でもあの人、綺麗だな……。
5:メラグ(神代璃緒)が危険人物だと流布する。
6:永沢君を……。けど、仕方ないよね……。
※銃が効かない化物クラスが参加者にいることを把握しました


【発信機/受信機@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
メルトリリスに支給。
「魔法少女リリカルなのはViVid」に登場。ノーヴェ・ナカジマがアインハルトと対峙した際、
リボルバー・スパイクで蹴った時に発信機を付け、後にアインハルトの位置を発見することができた品。
受信機は発信機の位置を正確に把握できる。

≪042:とある魔法少女の再会(リユニオン) 時系列順に読む 044:情報交換(大嘘)
≪042:とある魔法少女の再会(リユニオン) 投下順に読む 044:情報交換(大嘘)
≪005:全て壊すんだ メルトリリスの登場SSを読む
≪021:仕方がない 藤木茂の登場SSを読む

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最終更新:2014年03月13日 23:32