サイドチェンジ―逃げ場だって、あるかもよ― ◆qB2O9LoFeA
指を確かめるように動かす。軽く手首を振り、肩を回して辺りを見渡す。
「負けたのか‥‥」
自分が岩肌の影になる場所にいたのを見てアンチョビは一言そう呟くと、大の字になって寝転んだ。
(油断、してたのか‥‥)
ギリ、と奥歯を噛む。少女だと見くびって襲い、返り討ちに合い、挙げ句の果てに情けをかけられて捨て置かれる。完敗という言葉が頭に浮かんだ。
(何がいけなかった‥‥どこで間違えたんだ‥‥)
深く深呼吸をして目を閉じ、意識を内へと沈める。足音や気配などの余計な情報が入ってこないこの環境は考え事をするには持ってこいと言えた。
(‥‥やっぱり油断があったんだな。このゲームはようするにバトル・ロワイアル。自分一人で全員を殺す必要は無いのに、焦って突っ込むなんてね‥‥たった六十人でも、さすがに俺だけじゃムリってことか‥‥)
夜風に吹かれながら、更に意識を内へ内へと潜らせていくアンチョビ。と、唐突に起き上がるとランドセルからスマホを取り出す。なじみのない機械に悪戦苦闘しながらもどうにか
ルールが記される状態にできた。
(まて、このゲームもしかして。)
思わず目をこすり、ダメージで頭がよく回っていないのか、上手く操作できていなくてちゃんと表示されてないんじゃないかなどと焦る。
だが、どこをどうみても一番肝心な情報が無い。
「このゲーム‥‥どうすれば終わるんだ‥‥!?」
ルールが記されているはずのそこには『優勝』するための条件もゲームがどうすれば終わるのかも書かれていなかった。
「‥‥‥‥」
「眠ったか。これで少しは静かになる。」
そう言いつつ、ヴィクトリカはこわごわと
鹿目タツヤの頭を撫でる。さらさらとした髪の感触を楽しみながら視線を前に戻すと、目の前に広がる森を、正確には森から滲み出るように近づいてくる黒い霧を睨み付けた。
「誰の記憶にも残らない殺人鬼。さしずめ黒の暗殺者と言ったところか。」
既に霧は森の端にある図書館搭の近くにまで達している。このままだとG3エリアとの境にいるヴィクトリカも数十分と経たずに霧に呑まれるだろう。
「‥‥合流場所を決めておくのだったな。最寄りのランドマークはスカイロッド号か。」
スマホで地図を確認し、ヴィクトリカは北西の山頂を見る。ここでイリヤを待ち続けられない以上、後で合流できそうな場所に避難しなくてはならない。この格好で幼児を抱えて山を登るのはどう考えても無謀だが、一番近い地図上の場所はスカイロッド号であるならばイリヤもそちらに向かう可能性が高い。不幸中の幸いだが、今いる位置からは目的地まで比較的なだらかでもある。
(筆記具の類いは無いか。あの館で調達しておくんだったな。そういえばこのランドセル、これだけの荷物が入っているのにあまり重くないな。)
ヴィクトリカはそっとタツヤを地面に降ろすとランドセルから一本のワインを取り出した。そのラベルを外すと、近くに落ちていた小枝に土を付けてラベルの裏に文字を書いていく。
『このまま道なりに進む。 ヴィクトリカ』
(あかりかアインツベルンならどちらへ向かうかはわかるはずだ――ん?)
文字をフランス語とドイツ語で書き終え、念のために英語でも書こうとしたヴィクトリカの手がはたととまった。
今まで九城と同じ日本人と思われるあかりやタツヤ、アインツベルンという名前からドイツ系だと考えられるイリヤと会話が成立することに違和感を感じることは無かったが、よく考えてみればこれは明らかにおかしい。この三人は明らかに日本語で――日系人には見えないイリヤまで――話していた。またヴィクトリカ自身も普段使っているフランス語で話していたはずである。
それなのになぜ、問題なくコミュニケーションできるのか?
(考えられるのはこの『首輪』か‥‥それとも、私が理解できていない事象が起こっているのか――?)
考え始めればここは何処なのか?どうやってあれだけの人数を集め、また気づかれないうちに移動させることができたのか、などと疑問が尽きない。
「――まだ〈混沌(カオス)の欠片〉が足りないか。」
今は答えの出ない問題よりも逃げることを優先すべきだと思い直し、これまたランドセルから出した光るコインでラベルのメモの重石にする。ふと振り返れば図書館搭に黒い霧がまとわりついていた。あの暗殺者は内部にいる人間を標的にしたのだろう。
(今の私にできることは、この幼児と共にアインツベルンとあかりの帰りを待つことだけ、か。)
数瞬、心のなかで図書館搭に居るであろう者達を見殺しにすることを詫びると、ランドセルにタツヤを入れて歩き出す。手で持つよりは楽になったが10kgを越す重さがヴィクトリカの小さな肩へとのし掛かった。
「――重いな‥‥」
普段の彼女ならそれだけで涙目になりそうな鈍い痛みに思わず愚痴がこぼれる。
冷徹に判断すれば、この〈混沌(カオス)〉を解決するためにはタツヤは足手まといとしか言いようがない。それでも、背中で寝息を立てている小さな子供を見殺しにするようなことはできない。
だが、もし。
(もし、この幼児が図書館搭に居たとして、私は助けに行っただろうか。)
じわり、と心に浮かんだのはそんな疑問。
それが生まれたのは、図書館搭の者たちを見殺しにするのことの罪悪感からか。
それとも、子供のことを考えて危機から逃れようとするのを偽善だと思ったのか。
「会いたいよ、九城‥‥」
一言呟いて歩き出す。目指すは山頂、スカイロッド号。
灰色狼の心に浮かんだのは小さな闇。彼女の知恵の泉はこの〈混沌(カオス)〉を溶き明かすのか。
図書館搭の方角から閃光を感じても、今度は振り返ることはなかった。
【F-4/山岳地帯/早朝】
【鹿目タツヤ@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
[状態]:目、喉、肌に痛み、睡眠中
[装備]:防塵ゴーグル@ポケットモンスター
[道具]:無し
[思考・行動]
基本方針:帰りたい
1:zzz‥‥
2:イリヤおねえちゃんといっしょにいく
3:おねえちゃん(まどか)にあいたい
4:このおねえちゃん(ヴィクトリカ)こえがおねえちゃんみたい。おばあちゃんっぽいけど
※参戦時期は不明ですが、まどかのことを覚えています
※タツヤのランドセル(基本支給品一式、ランダム支給品0~2)がE-3のトキワの森内に落ちています
※ヴィクトリカのランドセルに入れられていますが、参加者を入れることはできないようです。なのでふつうのランドセルに突っ込まれて背負われている状態です。重さはなくならず、体もおもいっきりはみ出しているので蓋を閉めることができません。ようするにおじゃる丸スタイルです。
【ヴィクトリカ・ド・ブロワ@GOSICK】
[状態]:疲労(中)、右膝にばんそうこう、精神的疲労(小)
[装備]:パイプ@GOSICK
[道具]:基本支給品一式、ワイン(ラベル無し)@GOSICK、禁貨(96枚)@コロッケ!
[思考・行動]
基本方針:殺し合いという〈混沌(カオス)〉を解決して、九城のいる聖マルグリッド学園に帰る。 1:スカイロッド号を目指して霧から避難してイリヤが戻ってくるのを待つ
2:〈混沌(カオス)の欠片〉を集める
3:赤座あかりを忘れてきたことと見殺しにした図書館搭にいた者への罪悪感
4:九城‥‥
5:
黒のアサシンを警戒
※参戦時期は、『仮面舞踏会の夜』編(1924年、 秋)以降です。
※スマホの扱いをマスターしました
※スマホ内に黒のアサシンが小狼、真帆を殺害した現場の写真が収められています
※言葉の問題やランドセルなどについて疑問を感じています。
※イリヤと大まかな情報交換を行いました。
※イリヤと別れた地点に禁貨4枚で重石されたワインラベルの書き置きがあります。禁貨が光っているため夜は見つけやすいですが、なにも知らない参加者が見つけられる可能性は低いです。また、文字はフランス語とドイツ語で書かれていますが参加者全員が読めるようになっているかは後続の書き手にお任せします。
「完全再生(パーフェクトリバース)」
立ち上がったアンチョビは頭の皮を引っ張り、体に負ったダメージをゼロにする。まるで心まで一新したかのようにその目は先程までとはうってかわってギラギラとした、それでいてどこか静かなものになっていた。
(ルールにはどうすれば勝つのかが書いていなかった‥‥これってもしかして、勝つための条件はいくつもあるってことじゃないか――!)
アンチョビが考えたのは、なぜルールが不完全なのか。彼はその答えを、『複数の勝利条件がある』と考えたのだ。
(勝つための条件は、最後の一人になるっていうこと。これはほぼ間違いない。でもそれ以外にもあるとしたら?例えば十人以上のチームを組むとか、一人で五人殺すとか。)
(もしそうなら、なにも考えずに殺して回るのは危険だ‥‥知らないうちに勝つための条件を潰すかもしれない‥‥なら!)
「チームだ。」
その結果行き着いたのがこの『チーム』という考え方。勝つための条件を満たす可能性があり、戦力の結集も図れる一石二鳥の策。
だが、本来ならチームには裏切られる可能性がある。
しかし。
(完全再生を持つ俺なら、たとえ殺されかけても直ぐに殺し返せる。)
これがアンチョビだけに許された後だしの権利。致命的なダメージを負っても何事もなかったかのように戦うことのできる無敵の能力。
(殺しあいに乗ってないと言ってチームを組んで数を揃える。もし裏切るヤツがいればそれをタネにキルスコアを稼げるしさっきのアイツみたいなのは数でぶち殺す。これでいくっ!)
笑いを堪えながらアンチョビは歩き出す。自分の策に自身を持った彼の歩みは軽やかだ。
本当に勝つための条件は複数あるのか、完全再生を過信しすぎなのではないか。
そういった疑問は今は彼の頭にはない。
ただひとつ、その頭を悩ませていたことは。
「ひとまずアイツが行きそうにないところに行くか‥‥街はやめておくか、人が集まるところを目指してたかもしれない。とりあえず、この柳洞寺ってところだな。島の端なんて行こうと思わないだろ。」
【G-5/山岳地帯/早朝】
【アンチョビ@コロッケ!】
[状態]:疲労(大)、ちょっとハイ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3(武器はない)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに乗る
1:とりあえず柳洞寺ってところに行くか
2:殺しあいに乗ってないと言ってチームを組む。自分より強い相手は数でぶち殺す。
3:さっきのアイツ(アインハルト)はいつかぶち殺す
※勝つための条件が複数あると考えていますが、あくまでもアンチョビがそう思っているだけです
【ワイン@GOSICK】
ヴィクトリカに支給。
ブロワ伯爵が出産中のコルデリアにぶっかけてたアレ。
高級品(たぶん)。
【禁貨@コロッケ!】
ヴィクトリカに支給。
金色に光る金貨のような謎の物体。
これをバンクと呼ばれる貯金箱に一杯にするとバン王と呼ばれる存在を呼び出すことができる。
百枚支給された。
最終更新:2014年03月26日 09:08