砲と盾、天使と不死鳥 ◆PsYvyHEupY


灰色の髪が、吹き荒ぶ夜風に揺れる。
一人佇む少年。彼もまたこの殺し合いに巻き込まれた蠱毒の虫……名を、ドルベといった。
彼の眼鏡の向こうから覗く双眸に灯る色合いは、困惑と落ち着きという、決して交わることなき弍つの感情に相克していた。

――――君達と出会えて、本当に良かった……!

脳裏に広がる記憶は、共に同じ目的へ向け歩んだ少女を守り、光となって消え失せるその瞬間。
未来へ想いを託し、一片の悔いもなく自らの生涯へと幕を下ろした。
彼女はどうなったろうか。
忌まわしき裏切り者に勝利し、ナッシュを取り戻すことが出来たろうか。
それを知る術はドルベにはない。
気掛かりな事項ではあったものの、今は思考を其処ばかりへ割いている訳にもいかないのが現状だった。

肉体を失い、力を吸収されてベクターの糧となる筈が、気付けば眼前にあったのは不気味な老人の姿。
最初は、ドルベとて困惑した。
が、老人の語る企ての全容を耳にし、実際に行われた開会セレモニーの映像を見せられた時、芽生えた感情は途方もない嫌悪。

殺し合え。

そう言って気味悪く嗤う歪んだ顔面が。
彼が執り行った、開幕宣言の虐殺劇が。
その全てが、彼に自分は只ならぬ事態へ巻き込まれたのだとどんな判り易い説明よりも正確に理解させた。

奴は、外道だ。
あのベクターを彷彿とさせる悪辣さと、彼にも勝り得る残虐さ。
ポーキー・ミンチの語ったことに嘘偽りは無いだろう。
仮に参加者の全員が一斉に反旗を翻したとしたら、奴は須臾の逡巡も無しに、自分達60人の首を飛ばすに違いない。

溜息が零れる。
まず、殺し合いに乗るという選択肢は論外だ。
ドルベは人間達と敵対していた身だが、それは飽くまでもバリアン世界を救うという大義あってのものである。
どうせ、一度は終わった命。
あんな外道の傀儡となって踊るくらいならば、限りなく低い勝率に賭けて奴の鼻を明かしてやる方が幾分有意義というもの。

とは言ったものの、何から始めればいいものか。
周囲に細心の警戒を払いながら、ドルベは支給された背負い鞄――ランドセル(ちなみに手に持っている。背負ってはいない)の中身をそっと取り出す。機械端末や食料などの他にも、武器や道具などが収納されていた。
その中でも彼が最も興味を惹かれたのは、参加者全員の名前が記された名簿。
今の段階で知っている名前があるかは分からないが、確認するに越したことはあるまい。
ランタンを取り出し、それを灯りとして名簿の内容へ目を通し……そして思わず瞠目し、驚愕の声をあげた。

「……! 神代凌牙に、璃緒……ナッシュとメラグ、だとっ!?」

心の中に、沸々と怒りがこみ上げてくる。
彼らはドルベにとって、親愛なる仲間だ。
気高き強さを胸に秘め、未来を切り開いてくれる。
決して、こんな場所で狂人の道楽に付き合わされるような安い存在ではない。

「それに九十九遊馬……彼までも……」

ポーキー・ミンチは、絶対に倒さねばならない。
嚇怒の念がより強く胸の内側で燃え上がる。
猛る感情を持ち前の沈着さでどうにか抑え込みながら、不安を抱いて名簿の先を読む。
ギラグ、アリト、ミザエル――残る七皇の名は、しかし紙面に載ってはいないようだった。
安堵しかけたのも束の間。
ドルベはある三文字を名簿の中に見つけ、何ということだ、と眉を顰める。

「真月零……ベクター……ッ!」

最悪だとしか言いようがなかった。
よりにもよって最悪の男が、最悪の催しに参加していることになる。
奴だけは野放しにしておけない。
もし放っておけば、必ずや多くの犠牲を生み出す。
絶対に、早急に倒す。
またアレの毒牙にかかる者が増える前に今度こそこの手で、地獄の底へ送り付けなければ……!

名簿をランドセルへ仕舞うと、取り出すのは携帯端末(スマートフォン)。
使い方については門外漢も良いところだったが、画面へ触れることで機能を扱える道具のようだ。

「便利なものだな」

少々苦戦しながらも、三分ほどで目当ての情報、会場地図を引っ張り出す。
どうやら現在位置は「F-1」……「トキワの森」なる森林の中。
この程度で迷うことは無かろうが、不意の襲撃には注意を払う必要がある。
ここは殺し合い。デュエルで勝敗をつける手段を普遍のものと考えていては痛い目を見かねない。
足音の音量にまでも気を配って、取り急ぎ森を抜けることを第一の目標と据えた。
如何せん、視界の悪い場所に長居するのは気が引ける。

「ん……?」

その時だ。
小さな足音が、前方から聞こえてきたのは。
木陰に身を寄せつつ、確認した姿は背の低い銀髪の少女。

彼女が丸腰ということも手伝って、ドルベは警戒を解き、一度接触を試みてみることにした。
一面暗闇の覆い尽くす空間を恐れることなく歩く彼女の進路上へ、両手を挙げて立ち塞がる。
少し驚いた様子だったが、少女も此方が敵意を持たないことに気付いてか、素直に足を止めた。

「不躾に済まないな。……在り来たりな質問をするが、君もあの老人に喚ばれた〝参加者〟か?」

こくり。少女は小さく首肯する。
その後、「殺し合いには乗ってないよ」と、澄んだ綺麗な声で付け足してくれた。
ベクターに散々騙され欺かれた己が評せたものではないと自嘲的な感情を抱かずにはいられないが、彼女は大丈夫だろう。
彼女は、どこか独特な雰囲気を醸している。
穏やかなのに、決して弱々しさを感じさせない……少なくとも、あのような老人の戯言に耳を貸すタイプではないと思えた。

「私は響っていうんだ。君は?」
「ドルベ。あの悪趣味な虐殺で殺された者達の、埋め合わせで放り込まれた身だ。だから、名簿には名前が無い」
「そっか。じゃあ、信じるよ」

ドルベが名簿を読んだ際、自分の名前が載っていないことに気付くまで然程時間は要さなかった。
ナッシュとメラグ、九十九遊馬やベクターが参加者となっている衝撃ですぐに思考を塗り潰されてしまったが、〝名前が無い〟という事実は彼へとある一抹の器具を懐かせた。

即ち、〝主催者の手駒である可能性〟を疑われかねないことだ。

ゲームを盛り上げる為の調整役、或いは反乱分子の報告、位置付けは何でもいい。
兎に角主催の息のかかった人間と見られ、孤立を余儀なくされるかもしれない。
後々面倒になるくらいなら、最初からそう告げてしまった方がいいと思い自己紹介の最後に補足したのだが。
……〝信じる〟などと面と向かって、ほぼノータイムで返応されるとは些か予想外だった。

「どうしたの、私の顔に何かついてるかな」
「……いや、少しは疑われるかと思っただけだ。気にしないでくれ」
「?」

ドルベの反応に反して、響にはそも疑うという発想がなかったらしい。
毒気を抜かれた様子で、ばつが悪そうにドルベは顎を掻く。

「ドルベの仲間や家族も、ここにいるの?」
「ああ。仲間が二人、知り合いが一人。そして敵が一人」
「敵だなんて物騒だね。
 私が言えたことじゃないけど……私は姉妹が、この会場にいるんだ。
 でもある意味一番子供っぽい一番艦(おねえちゃん)がいないのは、ひょっとすると僥倖かも」
「そう、か。――私は、何としても彼らを生きて帰したい。
 その為に、主催者……ポーキー・ミンチを倒すつもりでいる。有り体に言えば反逆だ」

危険は承知の上だ。
現にこうしている今も、生殺与奪はポーキーの手に握られている。
スイッチ一つで、命は露と消し飛ぶ。

だが、それでも。
必ずや主催を打破し、親愛なる友をこの閉ざされた屠殺場から逃がす。
その目的は、諦められそうにもなかった。

「私もそうだよ。姉妹を……雷や電を、こんなところで無碍に、〝また〟沈ませるわけにはいかないからね」
「目指す所は同じか。なら、私と共に来てはくれないか? 
 情けないが、こればかりは私一人でどうこうできる範疇を過ぎている。……協力を、頼みたい」
「私も、丁度そう言おうと思っていたところさ。
 雷や、電だけじゃない。みんな――みんな、返してあげたいんだ。一人も死なせたくない」
「みんな、か」

みんな。
そう語る彼女の瞳には、単なる安っぽい義憤の域を超えた、強い意思が輝く。
それは戦いを知る者の目。
安穏な日常を過ごしてきただけの者には及びも付かない、悲劇を知っている目だ。

その在り方には覚えがある。
自分もまた――かつては、全てを守る為に戦った騎士であったから。

だから分かった。
彼女は打算など一切なしに、守れる限りを守ろうとしていることが。

「……それも、良いのかもしれないな」

ぽつりと、呟く。

「え?」
「いや、此方の話だ。
 それより、君にも話しておかねばならないことがある。〝ベクター〟という男についてだ」
「ベクター……?」
「そいつが君の目の前に現れたなら、何を口にしようとも絶対に耳を貸すな。
 奴はゲスの極みだ……どんな境遇、姿を取っていても、いつか必ず寝首を掻いてくる」

下手な殺人者(マーダー)よりも余程質が悪い。
達者な弁舌と演技を駆使して徹底的に虚を突き、最後には裏切って高笑いする……姑息な男。
もし遭遇を果たしたなら、確実に摘み取っておきたい悪党だ。
ドルベの真剣な瞳に只ならぬものを感じたのか、響はゆっくりと頷く。

「……わかったよ。そのベクターって人が現れたら、倒せばいいんだね」
「だが無理はするな。奴が強大なこともまた事実……私も一応戦う手段は持っているが、確実に優れる保証はない」
「なら安心だよ」

響は少しだけ微笑んで言う。

「こう見えても、私も戦えるんだ。二人で協力したら、きっと勝てるよ」
「……ひょっとして、君も決闘者(デュエリスト)なのか?」
「でゅえりすと……? よく分からないけど、私は駆逐艦だから。有り体に言ってしまえば、戦いの道具さ」

駆逐艦と自らを称した響の言葉に、思わずドルベは耳を疑う。
人間界の道理に詳しくはないが、駆逐艦とは鋼の船ではなかったか。
こんな小さな少女が砲弾を放ちながら戦う光景など、それこそデュエルモンスターズの世界でしか見たことがない。

ドルベと響は、そもそもからして住んでいる世界が異なる。
人間界とバリアン世界という意味合いでなく、法則や歴史の一切が異なる異世界からポーキー・ミンチに集められた。

響の住まう世界では、かつて大きな戦乱があった。
第二次世界大戦と名された、数多の犠牲と悲劇と損害を生んだ、悲惨な戦火の記憶。
彼女は大戦を生き延びた。

――姉妹や戦友が沈んでいく姿を、その幼い瞳に厭というほど焼き付けながら。

「私は二度と、姉妹が沈むところも、人が死ぬところも見たくない。
 ……〝信頼〟の名に誓って、この戦いに私は勝つ」

死に場所を逃し続け、ただ一人戦い抜いた。
そうして艦娘(かんむす)として生まれ変わった彼女は、再び姉妹と会うことができた。
共に暮らし、共に戦い、笑い合うことができた。

「一緒に戦おう、ドルベ。必ず、私達が勝利を刻むんだ」

その幸せを、つかの間のものにさせてたまるものか。
今度は必ず勝つ。絶対に、負けたりなんかしない。
彼女の胸にもまた、強い覚悟と闘志の炎が燃え滾っていた。

――――暁の水平線に、勝利を刻みなさい。

誰かの台詞が、ふと脳裏をよぎる。
それが何故だか、百人力にすら思えた。

「……そうだな。勝とう、必ず」

ドルベは静かに返す。
静かなれど、彼もまたポーキーを許せない想いは同じ。
二人共、一度は大切な者を失い、そしてまた再会を果たした身。
もう失いたくはない。そんな当たり前の、けれど何より強く気高い戦意を抱き――

バリアンの白き盾と、暁型の不死鳥は、ここにポーキー・ミンチへの反逆の旗を掲げた。


【F-1 トキワの森/深夜】
【ドルベ@遊戯王ZEXAL】
[状態]:健康、人間態
[装備]:決闘盤(ドルベ)@遊戯王ZEXAL
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:ポーキー・ミンチを倒し、殺し合いを終結させる
1:響と行動。探索しつつ仲間を増やして行く
2:ナッシュ(神代凌牙)とメラグ(神代璃緒)、九十九遊馬を探す
3:ベクターに強い警戒。
※ベクターに吸収された後からの参戦です


【響@艦隊これくしょん】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いの打破。一人でも多くを生きて帰す
1:ドルベと共に戦う。
2:雷、電と合流を目指す。
3:ベクターなる人物には注意。
4:暁がいないのは……ちょっと安心、かな。

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最終更新:2014年03月11日 15:26