時空を超えた因果◆0qUJjM2GRw


ドルべと響。

共に人ならざる存在である彼らは、早々に森を抜け出すべく歩を進めていた。

奇しくも二人とも、命を賭した戦を馳せた経験を持つ身だ。
前世で、という点まできっかり一致している。

陸と海、戦場の姿形こそ違えど不意討ちの恐ろしさは共通のもの。

特に響は生前、不意の一撃でもって姉妹を喪っているのだ――考慮に入れない訳がなかった。

しかし彼らの判断は至極真っ当かつ、現在この森が魔界の相を呈しつつある現実を予期せぬ形で射止めていたのだ。

森に降り立った霧都のシリアルキラーとの遭遇を避け、無事二人は鬱蒼と繁った木々の群体からの脱出を果たした。



「……よし、此処が出口のようだな」

「入口かもしれないよ」

「この際森から出られれば何でもいいだろう。細かいことは置いておけ」



やけに細かく指摘してくる響へ肩を竦めて返答すると、彼女もどこか茶目っ気を含ませた微笑で「そうだね」と一言。

出会って数十分ほどの短い時間ではあったが、双方信頼関係を築き上げることに成功し、同行者への警戒・打算の一切がその脳裏には存在しない。

森から抜けたところで、ドルべは支給されたスマートフォンを取り出すとマップのページを開く。

使い方の分からない響に代わってドルべが先程からこの機械を扱っていたのだが、使いこなせている実感が徐々に沸いてきた。

元よりドルべは聡明な性格だ。
個性派、曲者揃いのバリアン七皇をリーダー不在の間単独で纏め上げていた手腕は予想外の箇所で発揮される。

彼にしてみれば、互いの存亡を賭けたデュエルの方が何倍も難しいというものだった。
其に比べたらこの程度、何ということもなし。

完璧とは流石にまだ云えないものの、そうなるまで時間は掛かるまい……取り敢えず、マップが開ければ今は十分だ。



「それにしても、何だか全然殺し合いが始まってるって気がしないや」

「……そこについては私も同感だ。あまりにも静かすぎて、気を抜くと命が懸かっていることさえ忘れそうになる」



60余りにも及ぶ大人数を放り込んだとはいえ、一個の孤島を舞台とした殺し合いともならばそうそう乗った人間に出会さなくとも不思議なことではなかったが、やはり平穏というものは思考を鈍らせる。

そんな慢心で前後不覚を晒し、不意の一撃で終いとなっては笑い物だ。

或いはそれこそが、あの忌まわしい男……ポーキー・ミンチの狙いなのかもしれないが。



「さて、響。施設は数あるが……先ずは何処へ向かう?」

「……ドルべにお任せ、かな」

「良いのか? 私達の命運を分ける判断だ、君の意見も――」

「ドルべに任せる、それが私の意見さ。私が決めるよりかは、君が決めた方がいい方向に転ぶよ、きっとね」




響に軍師の経験はない。
元々彼女は艦船だ、ならばそれを導くのは提督――彼女の「司令官」の役目。
無論司令官はこの場にいないが、今自分の隣には同じ道を歩む同胞の姿がある。
だったら彼に従おう。それが響の下した自己の指針だった。

羅針盤もいない、司令官の指揮もない状況だからこそ、信用できる存在に早々巡り合えたのは僥倖。

「随分と過大評価されたものだが……どうなっても知らないぞ?」
「その時はその時さ。慣れっこだし」」

羅針盤が思い通りの方向に向いてくれないことから突然の予期せぬ事故まで、色々と経験してきた。
一度や二度、三度や四度の失策で目くじらを立てていては艦娘は務まらない。
彼女の所属する軍の事情について疎いドルベには何とも言い難い話だったが、信用されているなら応えぬ訳にもいくまい。
薄っすらとむず痒いものを感じつつ、マップの主要施設を順に見ていく。
見るとそれらは”天空への塔”などという仰々しい名前のものから、”野比家”や”ふたば幼稚園”のようにごくごく平々凡々なものまで、この小さな島の中に所狭しと押し込まれているようだった。
ドルベの手元で照り輝くディスプレイを響も覗こうとするが、哀しいかな体格の差で届かず仕舞い。

「……ふむ、俄かには信じ難いが、これは……」
「ちょっとドルベ……見えないよ」
「異なる場所の施設を、何らかの方法でコピーしたとしか考えられないな……我々バリアンをも容易く手中へ引き込んだ男のことだ、そんな常識外れの技術を持ち合わせていても不思議ではないが……」
「ドルベー……」
「? ああ、すまん。考えるのに夢中になってしまっていた」

少し身を屈めると、ドルベの手元を彼の背後から響が覗き込む形になる。
彼女も興味深げに会場の様子を暫し眺めていたが、やがて「む」と小さく漏らし、その手を伸ばして地図上のある点をタッチした。
鎮守府。海に隣接していることから、海上系の施設なのかと一瞬思い、すぐにドルベは彼女の言わんとすることを理解する。

「まさかこれは、君の勤め先か?」
「多分、ね。雷たちもここにいるらしいから、間違いないと思うよ」
「そうか……共通点と言っていいかは微妙なところだが、私にも覚えのある場所が一つ」

言ってドルベが指すのは”ハートランド”。
響が挙げた鎮守府に比べ、此方は現在位置からほぼ真っ直ぐ進んだ先だ。

「確定、かな」
「間違いないだろう。この会場そのものが、奴によって体よく仕立て上げられた闘技場なのだ」

こうまでくると、怒りや恐れを通り越して嘔吐衝動に駆られそうだった。
如何様な目的があってかは知る由もないが、単純な邪悪の総量において奴は余人の想像に余りある。
望郷の夢寐に浸っている閑は無い。
響はドルベの険しい表情と、記憶に未だ色濃く残る笑顔で充たされた鎮守府の映像を脳裏に描きそう思う。
あんな外道に模造された鎮守府へ想いを馳せるなんて、それだけで姉妹たちと過ごした時間の侮辱に等しい。
強い嫌悪を懐きながら、なるだけ覆い隠して再びドルベの姿を見守る。
453 名前: 時空を超えた因果 ◆0qUJjM2GRw [sage] 投稿日: 2014/02/11(火) 00:22:22 ep3laaZU0
「気になる箇所は無い訳でもないが、奴がそう開けっ広げに手掛かりを残しているとも考え難い。ここはやはり、一度互いの知り合いとの合流を優先するのが得策かもしれないな」

先も挙げた”天空への塔”を始めとし、”ラセツ族アジト”なども興味を牽かれる名称ではある。
しかしこうしている今も安楽椅子に坐し、愉悦に想いを焦がしながら見下ろしているのだろう男の目線から考えれば、飽くまで駒達が潰し合い食らい合う土壌へ態々自分の居場所を辿らせる足標を残しておく利がない。
それこそゲーム感覚で楽しもうとしているならば、この推測は全くの無意味となる訳だが。
どちらにせよ、あらゆる面で体制の不十分な現状、先んじては外濠を埋める事を優先すべきとドルベは判断を下した。

「なら、暫くは今まで通りに行こうか。勿論、警戒は怠らずにね」
「ああ。幾ら危険地帯を抜けたとはいえ、油断は出来ん」

彼らの最初に目指した指標、”森から抜け出る”というのは至極順当なものであった。
もし森の探索を行おうとどちらかが打診していたなら、彼らはこの時無傷ではいられなかったやもしれない。
否、命が在ればまだ僥倖か。
それほどの存在が、あの静謐の底を狩場として暗躍しているのだ。
弐つの命が魔の刀刃に削がれ、魂を糧とされた。
その事実を知れば彼らとて罪悪感、後ろめたさには囚われたろうが、兎も角命は繋がったと言えよう。
命に勝る宝など、極論この死線には存在しない。

「……ドルベ、静かに」
「どうした」

そうと決まれば、取り急ぎこのまま真っ直ぐに北上、ハートランドを目指し進もう――思った矢先、響がドルベを制した。
人差し指を一本立てて、声を抑えろとジェスチャーを示す。
その意味が介せない虚けは居るまい。
ましてこの状況だ、ドルベもすぐに彼女の言わんとするところを理解し、息を殺して様子を静観する。
すると、二人の鼓膜を叩く音があった。
さくさくと、規則的に土を踏み締める音。
他の参加者が近付いていることなど、もはや語るにも及ばない。
重要なのは、どちらであるかだ。
ポーキーの甘言に、或いは身を焦がす恐怖に狂わされた殺人者か、自分達と同じく反逆を志す善徒か。
場合によっては―――ドルベは無言で、自身の片手に装着された決闘盤へと視線を落とす。

「はあ……」

やがて、接近する人物の面影がはっきりと視認できるようになってきた。
現れるのは少女。悩ましげな吐息を零しながら、とぼとぼと歩み来る。
その手に武器の類は無く、正真正銘無防備な状態だ。
万一彼女の命を獲らんと目論む不貞輩があったなら、彼女の命は呆気なく散らされてしまうに違いない。
とてもではないが、殺し合いでの優勝を企む者の姿には見えなかった。

「どうする、接触してみるか?」
「私はそれでもいいと思うな。見るからに、乗ってはなさそうだ」

分かった。応えるとドルベは、初邂逅の際響へそうしたように、両手を挙げて少女の行き先を遮るように姿を現す。

「ほえ!?」

少女は甲高い、実に子供らしい悲鳴で驚きを表現する。
その声量に面食らったのは彼女も同じだったようで、一瞬固まった後ばつが悪そうに口許を両手で押さえた。

「えと……ごめんなさい。ちょっとびっくりして、それで……」
「いや、いいんだ。驚くのも無理は無いさ。私の名はドルベ。こっちは響」
「ドルベさんに……響ちゃん」

よろしくね、と響が小さく会釈をした。
彼女にも二人が殺し合いに乗っていないことは伝わったようで、その双眸にはどこか安心した落ち着きが見え隠れしている。
響は最初から落ち着き払っていたが、これが普通なのだろう。
年頃の女児が命の奪い合いに巻き込まれ、挙句いきなり鬱蒼とした木々群の中へ放り込まれた。
それで恐怖や不安を感じない筈がない。響はある程度、この手の状況へ慣れていたから別だっただけの話。

「聞くまでもないとは思うが、念の為だ。君は、殺し合いに乗っているか?」
「ち、違います! 私、みんなを傷付けたりなんてしなくありませんから!」
「そうか。我々もそうだ。この殺し合いに、乗っていない」

聞くなり、少女の顔にぱあっと輝きが満ちる。
やはり不安だったらしい。自分の知る人間以外が全て殺し合いに乗り、狂い果てている……そんな映像を一瞬でも想像してしまえば、どうしてもその疑念はなかなか離れなくなる。あとはそれが疑心暗鬼に発展するか、今の彼女のように孤独を解消する他者へ出会わせるかの二極だ。

「よかったー……。私、もう不安で不安で。……あっ、私、木之本桜っていいます! よろしくおねがいします」
「私達も嬉しいな。仲間が増えるのは、それだけで心強いからね。よろしく、さくら」

それから、ドルベと響はさくらと現在出来る最大限の情報交換を行った。
どのエリアに初期配置されたのか、誰とも出会わしていないかに始まり、殺し合いに招かれている知り合いについてまで。
時間にして十分弱ほど要して行われた情報交換の内容を箇条書きでメモ。
そして最後に、接触したい面子と避けたい面子を分けて明記することとした。

接触したい面子。
九十九遊馬、神代凌牙、神代璃緒。
雷、電。
李小狼

避けたい面子――もとい、最大限の注意を払わねばならない者。
真月零……ベクター。

警戒を要する者の方が少ない事実は喜ばしいが、未だ未知数の八百萬がこの会場に数ほど居る。
先行きは暗澹としている。……なればこそ、点した反逆の焔を消す訳にはいかない。
決意を新たにしながら、ドルベは名簿へと再び目をやり――そして、気付いた。

「……もしや、これは」
「どうかしたの、ドルベ?」
「これを見てくれ。私の名は無いが、九十九遊馬にナッシュ……もとい凌牙、璃緒。少し下がって響の隣に雷、電」
「私の隣には小狼くんが……もしかしてこれ、”知り合い同士が近くに配置されてる”……?」

違う。ドルベは心中で小さく呟きさくらの言葉を否定した。
確かに知り合い同士が並んでいると見るのは容易い。
仮に己の名前が載っていたのなら、きっとベクターの隣辺りにでも置かれていたことだろう。
だが……何か間違えている気がしてならない。
――ふと、彼は響へ問いを投げた。
頭の中に不意に過ぎった、突拍子もない可能性。
我ながら戯けの妄言と切って捨てたくなる話だが、もしもこの問いで双方の認識に差異が出るならば。

―――この殺し合いの、規模が推測できる筈。

「響。君は―――“デュエルモンスターズ”を知っているか?」

デュエルモンスターズ。
ドルベにしてみればそんなものは普遍の常識で、知っていて当たり前の事象だ。
例えばスポーツの野球を知らない者など、真っ当な人生を送っている限りはまず居ない。
それと同じか、上回るだけ人々を熱狂させるカードゲーム。名を、デュエルモンスターズという。
世界の命運を分けた戦いすら、全てはデュエルに委ねられている。
斯く言うドルベが響へ語った戦う手段というのも、デュエルモンスターズのカードに描かれた事象を具現化させることに他ならない。
単なる遊びと侮るべからず。カードには魂が宿り、時に引き起こされる天変はヒトの理解の限界を優に超越する。
ドルベの問いへ、響が返す言葉は――

「……知らないな。なんだい、それは?」
「さくらは」
「私も知らないです」

返ってくるのは、知らないという答え。
この問いに何の意味があるのかと、二人は首さえ傾げる調子だ。
……もはや、間違いはあるまい。俄かには納得し難い道理だが、これならば辻褄も整おう。
ドルベは一度、深く吐息を吐き出す。溜息、と表現される動作だった。

「ポーキー・ミンチ……奴は、やはり一筋縄では卸せない大敵のようだ」
「……どういうこと?」
「“私の世界”では、デュエルモンスターズを知らない者はまずいない」

私の世界。
その言い回しこそが、彼の導き出した解の容を示している。
ポーキー・ミンチの主催するバトルロワイアル、殺戮場へ招かれた客人達は皆が皆同じ時空で生きているとは限らない。
人間界とバリアン世界、アストラル世界の垣根と比べて尚彼方の果て、決して繋がる筈のない並行世界。
其れが今この地で――交わっている。

「つまりだ。我々はそもそも、違う世界から此処へ連れて来られた人間なのかもしれない」



ドルベの語った“可能性”。
それは事の本質を過たず射止めていたが、かと言って即座に事態を転変させるかと問われればまた否。
殺し合いの赤い夜は耽けていき、箱庭の中に放たれた獣達は満月(ポーキー)を目指す。
白き盾が到達した真理は、果たして盤石の土台を突き崩す刃の鉄となり得るのか―――

答えは誰にも分からない。
それでも、彼らは歩んでいく。


【E-1/深夜】
【ドルベ@遊戯王ZEXAL】
[状態]:健康、人間態
[装備]:決闘盤(ドルベ)@遊戯王ZEXAL
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:ポーキー・ミンチを倒し、殺し合いを終結させる
1:響、さくらと行動。探索しつつ仲間を増やして行く
2:ハートランドに行く
3:ナッシュ(神代凌牙)とメラグ(神代璃緒)、九十九遊馬を探す
4:ベクターに強い警戒。
5:平行世界……か。
※ベクターに吸収された後からの参戦です
※参加者達が時空の垣根を超えて集められていることに気付きました。



【響@艦隊これくしょん】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いの打破。一人でも多くを生きて帰す
1:ドルベたちと共に戦う。
2:ハートランドに行く。
3:雷、電と合流を目指す。
4:ベクターなる人物には注意。
5:暁がいないのは……ちょっと安心、かな。
※参加者達が時空の垣根を超えて集められているという仮説を聞きました。


【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いはしない。誰も死なせずに帰りたい。
1:ドルベさんたちと行動。
2:小狼くんと合流したい。
※参加者達が時空の垣根を超えて集められているという仮説を聞きました。


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最終更新:2014年03月11日 20:48