王の怒りの矛先は ◆c92qFeyVpE


エリアB-2。
地図上に記載されている施設も無いこのエリアは、大半を荒野が占めている。
僅かにある草原には、子供程度なら容易に隠れられそうな大きな茂みが要所にあるのが目につくが、それ以外はこれといった物はない。
そんな場所において、草原の中に疎らに生えた木々の一本へと、背を預けている少女がいた。
少女の服は全て黒で統一され、月明かりだけでは詳細を知ることは難しい。
だが少女が操作しているスマートフォンの明かりによって、銀の髪や整った顔などは確認できる。
その表情から読み取れる感情は一つ。

怒り。

端正な顔立ちを怒りの表情で歪めながら、スマートフォンの使用可能な機能について調べを進めていく。
参加者名簿、会場の地図と現在位置、そしてルールの説明を読了したところで――限界が来た。

「―――っの、塵芥共がああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

こめかみに青筋を立てて少女―――闇統べる王、ロード・ディアーチェは叫ぶ。
当然その声は虫の音一つ無い草原に響き渡るが、そんな事を気にするだけの精神的余裕は無さそうだ。

「ゲームだと? 殺し合いだと? 我をそのような悪趣味な催しに巻き込んだというのか!
 この我にこのような首輪を付けて! どこの有象無象とも知れぬ輩と殺し合えと! そう言うのだな!」

参加者達へと逃げることはできないと知らしめ、殺し合うしかないのだと思わせるための首輪。
だがそれは、彼女に対しては完全に逆効果となっている。
プライドが高く、何者にも縛られることのない自由を求めている彼女にとって、首輪などという物で従わされるというのは最も嫌悪する事柄だと言えよう。

しかし、彼女が怒りを感じているのはそれだけではない。

「シュテル……レヴィ……」

先ほどまでの怒りに満ちた声から一転、愛おしそうに二つの名を呟く。
それは彼女の最も信頼し、大切な存在である二人の臣下。
長き眠りの中で、ようやく取り戻すことのできた大切な名前。

『王様ー! ボクのオリジナル、みんなの名前のこと褒めてたよ!』
『ナノハも、私の名を格好良いと』

敵からの言葉だというのに、とても嬉しそうに告げてきた二人の事を思い出す。
それほどに、彼女達は自らの名前を取り戻せたことを喜び、その名を大切に、誇りに思っている。

そう、彼女が怒りを感じているのは名簿の表記。
「ディアーチェ」ではなく「闇統べる王」と、名前を失っていた時の個体識別名で書かれていることに強い怒りを見せているのだ。

「……いつまでもこうしているわけにもいかぬ。シュテル達もいるのであれば合流することが先決か」

溜まった怒りを吐き出すことを止め、思考を回す。
実際の問題として、考えるべきことは無数に存在しているのだ。

砕け得ぬ闇を探していた自分をどのようにして捕らえたのか、
紫天の書のシステムである自分たちに殺し合いなどという無意味なことをさせてどうするのか、
彼女の使用する魔法に幾らか制限がかかっているようだが、一体何をされたのか、
この首輪を外す手段は存在するのか、
時空管理局はこの事態を把握しているのだろうか、etc...

これらについて推察することは可能であるし、解を導き出せる事柄も幾つかはあるだろう。
だがその解が正しいものであると確証するには情報が足りず、肝心の首輪の解除方法などについては推察すら難しい。
ならば今は後手に回ろうとも足場を固める事が優先される。

そう結論づけ、ディアーチェは徐ろに側の茂みへと顔を向けた。

「そこの貴様、いつまでそうやっているつもりだ?」
「ひぃっ!?」

小さな悲鳴を上げつつ、倒れこむように茂みから現れたのは一人の少年。
自分の存在に気づいているとは思っていなかったようで、かなりの動揺が見て取れる。

「我のことを覗き見るとは、随分と無礼な真似をする」
「すっ、すみません! 怪しい者じゃないんです! 怒鳴り声が聞こえたから誰かいるのかもと思ったんですが、
 その、失礼ですが危険人物ではないかという可能性も考えられましたので」

動揺しながらもしっかりとした口調で返してくる少年を、ディアーチェは改めて観察する。
年はディアーチェの外見のオリジナルである八神はやてよりも少し下、魔力の反応は感じない。
ならば体力はどうかと言えばどうにも弱々しい印象を受けてしまう、魔法無しの腕力勝負でも勝ててしまいそうだ。

(されど、肝は座っているらしい)

不意を突かれ慌てふためいてはいたが、その前後の対応は歳相応とは言えない落ち着いた物である。
最初の部屋で起きたポーキーによる殺戮、あれを目にすれば大抵の子供は泣くか夢と思うかだ。
だが、この少年はディアーチェが危険人物でないかを確かめるだけの余裕を持っていた、
人の死というものに対して、随分と場慣れしているようであることが見て取れる。

「ふむ……とはいえ、我の臣下としては相応しく無いな」
「へ?」




「ちぃ、やはり念話も通じぬか……面倒な事をしてくれる」

都市部を目指しながらディアーチェは表情を歪ませる。
念話が通じない以上自らの足と目で探す他ないが、地図を見てもシュテルやレヴィが向かいそうな場所の見当が付かない。

「天空への塔、か、レヴィならここを目指す可能性もあるな」

何とかと煙は高い所が好きと言うし。
などと口には出さずに思いつつ、歩いて来た道を振り返る。

「……少々早計だったか? 他にも利用価値はあっただろうが……」

思い出すのは先程出会い、別れた少年。
戦闘力こそ無いに等しかったが、生かして側に置いておくことでコマとして扱うことはできたかもしれない。
情報は引き出せるだけ引き出しはしたが、第97管理外世界―――地球出身であることが判っただけであったし、
折角の交流を成果の無いまま終わらせるというのは些か勿体無かったのでは、と後悔の念が湧く。

「いや、過ぎたことを気にしても仕方があるまい。我が覇道に迷い無しぞ!」

気合を入れ直し、再び都市部へと向けて歩を進める。
目指すは東京タワー、高所からこの島の全景を確認するのが目的だ。
シュテルやレヴィが飛行魔法を行使していればその姿を確認することもできるかもしれない。
ランドセルを片手に(背負う気などありはしない)ふと思う、
少し前の自分であったなら、あの少年に対してどうしていたか。

「……殺していた、だろうな。
 我も子鴉共に毒されたか……全く、忌々しい」

そう吐き捨てるディアーチェの表情はどこか優しく、穏やかな物であった。




「あっ、ほ、解けた!」

少年―――円谷光彦にかけられていたバインドの効力が切れ、木に拘束されていた身体が解放される。
自由になれたことに胸を撫で下ろすも、その表情はすぐに曇ってしまう。

「ど、どうすればいいんでしょうか……先程の人もどこかに行ってしまったし」

彼がディアーチェから一方的に質問攻めにされていたのはほんの数分前である。
聞きたい事が尽きたのか、さっさと移動しようとするディアーチェに付いていこうとしたところ「邪魔だ」の一言と共に拘束されてしまった。
突然殺し合いの場に放り出され、いつもの仲間たちもおらず不安に怯えていたところを、
高圧的ではあったもののディアーチェとの会話に救われていたのだ。
再び一人になってしまったことで、隠れていた恐怖心が再び顔を出す。

ディアーチェは度胸はあると評価したが、実際のところ光彦は人より臆病な性格だ。
実際に最初の部屋で起きた殺人の瞬間には、悲鳴を上げながら友人である江戸川コナンにしがみついてしまっていた。
それでもすぐに落ち着きを取り戻せたのは通常ではありえないほどの数、殺人事件に関わった経験があるからだろう。

「そうだ、コナン君もここにいるんです! きっとコナン君ならこんな事件チョチョイのチョイですよ!」

同じ年齢とは思えぬ知識と洞察力で幾つもの謎を解き明かしてきた頼れる友人。
自分一人でないということに喜びを見せ、同時に危険な目にあっているかもしれないと不安になる。
あまりにも理解を超えていたために後回しにしていたが、ディアーチェが使用した拘束魔法とて光彦にとっては恐怖の対象であった。
この島には見たこともない、常識外の力を持った人間が存在する。
そんな得体の知れない物が相手では、コナンとて敵わない可能性があるのではないか。

「い、いえ! だからこそ僕がいるんです!
 みんながいない分、僕がコナン君をサポートしなくては!」

ネガティブになりそうな考えを、無理に声を張り上げて頭から追い出して行く。
少年探偵団は決してコナン一人に頼り切るようなチームではない、
時に支え、助けあえる素晴らしき仲間なのだ。

「少年探偵団、オー!」

その仲間たちがいない今、
上げる声が震え出しそうなものであることは、仕方がないだろう。

【B-2/草原/深夜】

【闇統べる王@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:エルシニアクロイツ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、紫天の書@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:首輪を外し反抗する手段を探す、仇なす者には容赦せぬ!
1:島の全景の確認
2:シュテル、レヴィとの合流
※A’s PORTABLE -THE GEARS OF DESTINY-のSEQUENCE10、システムU-Dとの対決前からの参戦です。

【円谷光彦@名探偵コナン】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する
1:コナンとの合流

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円谷光彦の登場SSを読む

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最終更新:2014年03月11日 16:13