MistMurder VS KaleidLiner ◆2kaleidoSM
「ねえルビー」
『何でしょうかイリヤさん』
「これ、どういうことなんだろう…?」
『それが、私にも何がなんだかですね』
木々の鬱蒼と生い茂った森の中。
真っ暗な闇に包まれたその空間に、照明のような光を照らして歩く一人の少女がいた。
年は10歳ほど。日本人離れした白い肌に銀色の長髪、赤い瞳を持った、まるで雪を思わせる少女。
その横には、羽のついた星型のオブジェにも似たようなものが浮遊していた。
彼女の名は
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
外国人であることを除けば、どこにでもいる普通の少女――――だった。数ヶ月前までは。
入浴中、窓を開けた隙に浴室に入り込み謎の杖、カレイドステッキ、ルビーに無理やり契約させられ。
その元の持ち主に、クラスカードなるものを集めることを強要され。
何度も死にそうになりながらも戦い、生き延び。しかしその中で出会った同じ魔法少女と友達になり。
平和な日常が戻ったと思ったら、もう一人の自分が現れ、命を幾度も狙われ。
それでも和解したところで執行者の襲撃、全て集めたはずのクラスカードの残りの一枚の存在。
それらとの戦いの中で知った、友達の真実。
激戦の果てに、その奪われた友を取り戻し。
なのに別の誰かが現れ、友を連れ去り。
そして意識が反転したと思ったら、こんなところにいた。
幸い手元に星型のオブジェ―――ルビーがいてくれたおかげで、こんな暗い深夜の森の中でもどうにか行動することができたわけだが。
「あのポーキー・ミンチって人、あの時現れた二人の仲間なのかな…?」
『そうかもしれないですしそうじゃないかもしれないですね。要するに全く分かりません!ということなんですが』
「う~ん…」
とりあえず、とここにきていた時に渡されていたランドセルを開く。
中をまさぐったとき、最初に出てきたのは四角い端末。
「これ、スマホだよね。お父さんがよく使ってた」
タッチパネルに触れ、起動させる。
すると中には
マップ、参加者名簿、メモ機能のアプリらしきものが見える。
まず時間を確かめた。今は深夜、いつもだったら寝てるようなはずの時間帯だ。
続いてマップ。今自分達はどこにいるのか。
『このE-3ってところですね。トキワの森っていう場所に入ってます。
一番近い建物は、この月海原学園ってところです』
「ねえ、ちょっと気になったんだけど、この柳洞寺って、さっきまで私達のいたあそこだよね…?」
『どうなんですかねぇ。もしかしたら同じ名前の別の建物って可能性も否定はできないですし』
続いて、参加者名簿。
多くの名前がずらりと表示される。
日本人だったり外国人だったり、イリヤには読めない一文字の漢字の名前もあったし、食べ物みたいな名前もあった。
そしてその中で見覚えのある名前。
「クロ…、美遊?!」
クロエ・フォン・アインツベルンと美遊・エーデルフェルト。
もう一人の自分ともいうべき妹(ここ重要)と、同じ魔法少女であり、あの黒化した英霊との戦いで取り戻したはずの大切な友達の名前。
「いかなきゃ……!美遊…!」
『落ち着いてくださいイリヤさん!』
「でも…、美遊が…!」
『このだだっ広い場所を無闇に探し回っても見つかるわけがありません。もしかしたら私とイリヤさんのように、サファイアちゃんが一緒にいるかもしれません。
今は冷静に、落ち着いて行動しなければ危険です』
「…う、ごめん」
急ごうとするイリヤを宥めたルビー。
とにかく、今はどこへ向かうのかを定めなければいけない。
一番近いこの月海原学園へいくか、それとも遠いが縁のある施設かもしれない柳洞寺へ向かうか。
と、そんな時だった。
「あれ?ねえルビー、何か声が聞こえない?」
『うーん、何か子供の泣いているような声が聞こえますね』
「どっちから聞こえるか、分かる?」
『少々お待ちを。――――――――こっちですね』
ルビーの示した方に走るイリヤ。
泣き声は進むたびに大きくなっていく。
―――――――ママーーーーー!パパーーーーー!どぉこーーーーーー!!
舌足らずな口で、親を探すために必死で叫んでいるのが分かる。
だが、ここでそれをすることは非常に危険な行為である。それで寄ってくる者が安全であるとも限らない。
しかし果たして、この声の主にその判断はできているのかどうか。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「大丈夫?!」
走り声の主まで辿り着いたイリヤが見つけたのは、自身と比べてもなお小さな少年だった。
幼稚園に通っているであろうくらいの、小さな子供。
それがこんな真っ暗な森の中に一人放置されればどうなるか。
泣き声も当然だろう。
「うぇ…、ぐす…、だれ…?」
「私はイリヤ。ボク、名前何て言うの?」
「…たつや。かなめ、たつや、3さい」
「タツヤ君、だね」
よしよし、とタツヤを宥めるイリヤ。
かなめたつや、という名前がさっき見た名簿に載っていなかったか確かめる。
「かなめたつや…、かなめたつや…、う~ん、ないなぁ」
『もしかしたら、ポーキー・ミンチの言っていた後から追加された5人っていうやつなんじゃないでしょうか?』
「そうなのかな?」
「おもちゃ!」
『痛いイタイイタイ!!引っ張らないでくださいー!』
喋るルビーが珍しいのか、その両側についた羽を引っ張るタツヤ。
「あ、そういえばルビー、隠れなくていいの?この子の前で」
『何をおっしゃいますかイリヤさん痛い!私はカレイドの魔法少女の礼装なのですよ!』
「カレー?すきー」
『魔法少女というのは子供にとって夢と希望に溢れた憧れの存在なのです。そんな、夢に溢れた小さな子供を前にしてどうして隠れる必要があるんですか?!
痛い痛い、あっ、そこはらめぇ!』
「ねえタツヤ君、君、家族の名前、分かる?」
「えーと、ママと、パパと、ねーちゃ」
「お姉ちゃん、だね。名前は?」
「まろかー!」
再度名簿を開く。
舌足らずな言葉で呼ばれた名前がどこまで正しいのかは分からない。
だが、一番近い名前は見つけられた。
鹿目まどか。
しかめ、と読んでしまったせいで気付かなかったが、この子がタツヤの姉である可能性が高い。
ともあれ、この少年を放っておくことはできない。
まどかという子を早く探し、この子と会わせてあげなければ。
「じゃあ、行こう。タツヤくん。そのお姉ちゃん、私も探してあげるから」
「ありがとー、えーと……」
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン…って長いな。
イリヤでいいよ」
フルネーム全てで呼ぶことはまずないだろうし、とりあえず呼びやすい3文字の名前で伝える。
「イリヤ、おねーちゃん?」
「うんうん、そう。イリヤお姉ちゃん」
「イリヤおねーちゃん!」
「もう一回!はい!」
「イリヤおねーちゃん!」
「ああ、お姉ちゃん…!何ていい響き…!」
『ルビーデコピン!』
「アウッ!?」
イリヤおねーちゃん、という単語を連呼させるイリヤの額を、その羽で引っ叩いて制止するルビー。
「何するのよ…」
『小さな子供に何をさせてるんですか?!おまわりさんが見たら事例扱いにでもなりそうなくらい、イリヤさんの目が据わってましたよ!』
「だって、しょうがないじゃん…、クロも私のこと妹扱いばっかりして、全然お姉ちゃんって呼んでくれないんだから…」
『まだ引きずってたんですね、その勝負』
数ヶ月前にいきなり妹ができた姉の心は複雑なのだ。
『ともあれ、イリヤさんにはもう少し自重していただかないと、そんな調子だと子供に悪影響を及ぼす存在として認定されかねませんよ。
例えばギャルゲーでメインヒロインでありながら専用ルートをハブられてしまう、みたいな目に合っても知りませんからね』
「どういう例えなのよそれ」
そんな漫才のようなやり取りを繰り広げながら。
タツヤの手を取り。
「じゃあ行こう、タツヤくん」
「はぇ!」
「何か霧が濃いみたいだし、ちゃんと手を握っていてね。
どこかお姉ちゃんの行きそうな場所に、心当たりは――」
と、足を一歩踏み出したとき。
「うわっ、と」
思わず石に足を取られて転びかけ。
シュッ
「え…?」
ほんの一瞬前に立っていた場所。
その、おそらく首が位置していただろう箇所の高さの木に、1本のナイフが刺さっていた。
ゾワッ
同時に、肌が感じ取ったピリピリとした気配。
自分はこの気配を知っている。
「ルビー!!」
『コンパクトフルオープン!! 鏡界回廊最大展開!!変身バンクはキ○クリです!』
瞬時にルビーを構え、掛け声もそぞろにその身を転身させる。
光がその身を包み込み、晴れた頃にはピンクの衣装が身を包み込んでいた。
その服装こそ、イリヤのもう一つの姿。
カレイドの魔法少女、プリズマイリヤとしての姿。
「タツヤくん下がってて!どこから…?!」
『今の一撃、私ですらも感知できませんでした…!イリヤさんのその高い幸運がなければどうなっていたか…』
霧に包まれた森の中。
ナイフの投擲者の姿はどこにも感じられない。
「イリヤおねーちゃん…」
ふと、後ろに庇ったタツヤがイリヤの服の裾を掴む。
「ごめん、今ちょっと手が離せなくて…!」
「めがいたい~」
「えっ?」
そう、涙交じりに言うタツヤに振り向き。
『イリヤさん!!』
「っ?!」
ルビーの声に反応して、咄嗟に前面に魔術障壁を展開。
襲撃者のナイフを受け止めた。
「むぅ…。うまくいかない」
「えっ…?」
「霧も、何かおかしい。どうなってるの?」
目の前に立っていたのは、おそらく自分とそう年も離れていないだろう、少女。
肌の露出が多い衣装を纏い、短めの銀髪にアイスブルーの瞳。
一見すれば、大きな脅威には見えない小柄な少女。
だというのに。
己の直感は、最大限にその存在を警告していた。
そして、それはかつて最も死を意識したあの戦いをイメージさせる。
黒い体に髑髏の仮面を被ったあの暗殺者の軍団のような。
『イリヤさん、この気配…、クラスカードの英霊のものに非常に酷似しています…!』
「あなた、誰なの!?」
「うーんとね、言ってもいい名前で言うなら、アサシン、かな。黒の」
「!!」
そしてその直感は的中する。
目の前の少女は、己の名をアサシンというクラス名で名乗った。
それはすなわち、この少女があの時の軍団、ハサン・サッバーハと非常に近い存在であることを示す。
いや、近い、などではない。
己の自我を持ち、意識を持っている。これはクラスカードの現象などではない。
「それじゃ、ばいばい」
と、少女はその細い体からは想像もつかない俊敏な動きで、イリヤに斬りかかる。
必死で障壁を貼り、その一撃一撃を受け止めていく。
力自体はあの黒化英霊であるバーサーカーやセイバー達と比べれば及ぶべくものではない。
だが、その一つ一つが首を、心臓を、あるいは脛や腕の筋など、急所、あるいは行動を阻害する箇所を的確に突いてきている。
「っ!このぉっ!!」
イリヤは咄嗟にタツヤを抱き寄せ、そのまま地を一気に蹴り上げる。
「斬撃(シュナイデン)!!」
薄く鋭い魔力の斬撃を、空中から広い範囲に射出。
しかしかつての黒きライダーのように、それをヒラリと回避される。
『イリヤさん!アサシンは速さに長ける反面、力や守りにおいて穴があります!』
「なら、範囲を増やして!散弾!!」
地に足をつけると同時、大量の細かな魔力弾を一斉に射出。
霧に包まれた周囲を更に土煙で埋め尽くしその姿を見えなくさせる。
「当たった?!」
『分かりません!ですが今が逃げるチャンスです!』
「うぇ~…」
そう言って、アサシンのいたであろう場所に背を向け撤退しようとした、その時だった。
――――――解体聖母(マリア・ザ・リッパー)
不気味な声とともに、イリヤの全身に悪寒が走り。
「がっ!?」
己の内臓をかき乱されたかのような、恐ろしい痛みが体を襲った。
「あれ?」
そんな呑気そうな声と共に、煙の奥からアサシンが姿を見せる。
体のところどころに小さな傷が見えるが、大きなダメージを受けている様子はなかった。
「どうして死なないのかな?条件は揃ってるはずなのに」
「ぐ…ぁ…!」
「まあいいや、さようなら」
と、イリヤに向けてナイフを振り上げた時。
「だめー!」
イリヤに抱かれたタツヤが、立ち上がって大声を上げた。
「おねえちゃんいじめちゃ、だめ!」
「――――邪魔」
しかしアサシンはそんなタツヤを手の一振りで払う。
地面に転がったタツヤ。
「う、うえええええぇぇぇぇぇぇ!!」
体を地面にぶつけた痛みで泣き出す。
「なんかすっごく鬱陶しい。お前から殺す」
アサシンはタツヤへとターゲットを切り替え、その手のナイフを煌かせる。
その瞳には少女らしい外見からの情け容赦など一片も感じられない。
タツヤを一撃で殺すだろうその刃を振り向け足を踏み出したその瞬間。
「シュート…!」
その目の前を、小さな魔力の弾が通り過ぎる。
ふと一瞬、それに意識を取られた、その時だった。
「タツヤ君!」
地を這っていたイリヤがタツヤの手を掴み。
「強制転移!」
イリヤの体が光に包まれたと同時、姿が掻き消えた。
「転移魔術…かな?でもまだ霧の中にいる…」
ここは自分のフィールド。ある程度のことは分かる。
具体的な位置こそ分からないが、ここから出るほどの距離を移動したわけではないことは分かる。
「かくれんぼかな。いいよ。私達が鬼ね」
◇
「はぁ…はぁ…」
『先ほどの一撃は、高度な呪いです。一定の条件下において相手に死を与える呪いをかけるのでしょう。
イリヤさんの内臓にかなりのダメージがきています』
アサシンの見立てどおり、イリヤ達はこの森の霧からは抜け出せていなかった。
イリヤとルビーとしてはもっと遠くに逃げるはずだったのだが、何故か直線距離にして100メートルほどの転移しかできなかったのだ。
そして三人がいる場所は1本の巨大な樹の上。
少なくともここならば発見されるまでの時間はある程度稼げるだろうという、せめてものルビーの考えだった。
『あと分析の結果ですが、この霧もあのアサシンの能力でほぼ間違いないでしょう。強い魔力を感じます』
「う~」
イリヤの膝の上で体の不調を訴えるタツヤ。
特に痛むというのは目と喉だ。
ここへ辿り着いて水で洗い流しはしたものの効果は薄い。
イリヤが支給品に入っていたゴーグルを被せたところでようやく落ち着いたというところだ。
『あと、転移と治癒の魔術効率がおかしいように思えます。まるで能力自体に制限がかかっているかのような…』
「…ねえ、ルビー」
体を押さえながら、イリヤは呟く。
「あれ、どうしたらいいと思う?」
『もしも冷静に、的確に判断するのであれば、真っ直ぐに逃げるしかないでしょうけど…、それにはイリヤさんのダメージが大きすぎます。
かといって全快するまで隠れきるのも厳しいですし…、これもう詰みですかね…?』
「……」
ルビー自身の諦めというその絶望的な状況。
打開する術はもう無いと言ってるに等しい。
イリヤの支給品に使えそうなものは無かったし、タツヤのランドセルは自分と出会う前にどこかへやってしまったのか行方不明だ。
『たぶんさっきの呪い、同じのがもう一回来たら間違いなく死ぬでしょうね。だったらせめて、多少の無理をしてでもここから離れたほうが生き残れる確率も「ねえ、ルビー」
ルビーの説明に割り込んで、イリヤが問いかける。
「さっき言ってたことだけど、魔法少女って何だっていったっけ?」
『イリヤさん…?いきなり何を?』
「いいから」
『「魔法少女というのは子供にとって夢と希望に溢れた憧れの存在」だと、さっきは言いました』
「そう、子供にとって夢と希望に溢れた存在なんでしょ?」
言葉を復唱し、イリヤは立ち上がる。
『イリヤさん!まだ立ち上がっては!』
「だったら、こんなところでこんな小さな子に絶望を感じさせるような、そんなことだけは絶対にできないでしょ…!」
まだ内臓のダメージは残っており、口から血が漏れる。
だが、それがどうした。かつてこれ以上の痛みに耐えながらも友達のために戦ったではないか。
「あいつは、この子を傷つけた…。それは絶対に許せない」
『イリヤさん……』
「イリヤおねーちゃん?」
「私は絶対に希望を捨てたりなんてしない…、だからルビー」
ふらつく体を支えながらそういうイリヤに、ルビーは溜め息を一つつく。
『やれやれですね。私のマスターになった人は皆無理な注文ばっかり仰るんですから。
でも、イリヤさんのそういうところ、私嫌いじゃありません』
「ルビー…!」
『付き合ってあげましょうか、地獄まででも』
その言葉と共にイリヤはルビーを掴みタツヤを抱きかかえて。
ふとその時タツヤのポケットに手が触れた。
何か固いものがそこに入っていた。
「…!タツヤくんこれは…」
「カード!おねえちゃんにあげるー」
それを取り出したタツヤは、イリヤに渡す。
ロクにランドセルを運ぶこともできないタツヤが、唯一持って運ぶことができたそれ。
「 み つ け た 」
と、次の瞬間、目の前にアサシンが姿を現す。
小柄な体を巧みに動かして、高い木々の間を渡ってイリヤ達を見つけ出したのだ。
「かくれんぼは終わり?」
「…うん、もう隠れない。ここであなたを倒す」
「そう、それじゃあ」
と、ナイフを振りかざす。
タツヤを抱きかかえたまま受け止めたその一撃。
バランスを崩したイリヤは木の上から落ちる。
まただ、とイリヤは感じた。
あの時と同じ殺気と悪寒。
また、あれを発動させるつもりなのだろう。
ルビーの言っていたことは本当だと思う。
またあれを食らったら、たぶん内臓がズタズタになる。そんな予感があった。
でも。
(―――諦めない)
この手の中にいる、小さな命を守るのだ。
(――――絶対に、)
その手が、さっきタツヤのくれたそれに触れる。
(―――諦めないから!!)
そしてイリヤは。
「解体―――――」
その名が解放されると同時。
それを発動させる言葉を、叫んだ。
―――――夢幻召喚(インストール)!
「―――聖母」
◇
「今度こそいけたかな?」
墜落するイリヤに対して解体聖母を発動させたアサシン。
しかしその成果は地面に降り立ってみなければ分からない。
いけていれば少女は内臓をズタズタに引きずり出されて死んでいるはずなのだが。
「よいしょっと」
その木の高さをものともしない身軽さで地面に降り立ったアサシン。
「!」
次の瞬間、強い敵意を感じナイフを構えた。
振るわれた武器は、長い両刃の西洋剣。
「…どうして?」
アサシンは問いかける。
少女が生きていること。それもまた大きな疑問だ。
だが、それだけではない。
少女の服装が変化していること。疑問ではあるが今感じている疑問に比べれば些細なものだ。
なぜなら、そこに立っていた少女が。
白と銀の鎧を纏ったイリヤスフィールが。
かつて殺し損ねた赤きセイバーに、あまりにも酷似していたように感じられたのだから。
黄金の剣を構えるイリヤスフィール。
その服装はピンク色のカレイドの魔法少女の服ではない。
白を基調とした、銀色の鎧。
まるで白百合をイメージするような可憐さと清楚さを備え。
しかし騎士の王である力強さをも感じさせるその井出たち。
彼女が使用したカード、それはクラスカード「セイバー」
そして、そこに込められた魂。
それは最強の聖剣、エクスカリバーを所有する、イングランドの王。
アーサー・ペンドラゴン。
「ハァッ!」
「く!」
素早い動きで聖剣を振るうイリヤ。
その重く鋭い一撃を受け止め、後退するアサシン。
今放った解体聖母は通っていないようだ。それは目の前のセイバーを模した少女が、呪いに対して高度な抵抗を持っているということになる。
「何それ」
アサシンには分からなかった。
英霊を己の体に宿らせる、なんてことができるなんて。
と、イリヤの構えた剣から、まるで暴風のような、風の奔流が巻き起こる。
本来ならば剣を隠すために使われてたらしい風の結界を、イリヤは聖剣に纏わせたのだ。
「――!」
「風王鉄槌(ストライクエア)!!」
アサシンに向かって放たれたその奔流を、彼女は難なく回避。
傷一つ負わせることもなく。
しかし。
「…!霧が…」
空気が乱れたことで自身の結界宝具、暗黒霧都の大部分が吹き飛んでしまった。
こうなっては目の前の二人を殺すことは難しい。
暗黒霧都の補助も無しに、セイバーを宿したような相手と戦うなど自殺行為だろう。
忌々しい。
ああ、忌々しい。
本当に、あの赤いセイバーを連想させるものばかりだ。
「……、次は殺すから」
そう言って、アサシンはイリヤに背を向け。
目にも止まらぬ速さで、森の木々の間を駆け抜け去っていった。
◇
「………」
『霧も晴れました。どうやら戦術的に私達の勝利のようです』
イリヤの体からクラスカードが飛び出す。
同時に聖剣はルビーの姿へと戻る。
『いやぁ、土壇場だったとはいえ、まさか夢幻召喚までやってのけるとは思いませんでしたよ』
「おねーちゃん、かっこよかったー」
まるでヒーローを前にしたかのように、タツヤははしゃぐ。
その目の前で、イリヤの服装は普段着へと戻り。
「……」
「おねーちゃん?」
ただ静かに、何も言うことも無くその小さな体を抱きしめていた。
(――あー、やっぱり怖かったんですねぇ…。強がってはいても、まだイリヤさんも子供であることには違いないのですから)
震えながら、タツヤに見えない場所で静かに涙を流すイリヤを、彼女にしては珍しく黙って見守っていたルビー。
(でも、よく頑張りましたよ、イリヤさん)
ルビーはそんなイリヤに対し、心の中で静かに讃えていた。
己が主を、静かに見守りながら。
◇
黒のアサシン。
その本当の名を、ジャック・ザ・リッパー。
数多く語り継がれる、連続殺人犯の名を冠した英霊。
数万以上の見捨てられた子供たち・堕胎され生まれることすら拒まれた胎児達の怨念が集合して生まれた怨霊。
この怨霊が母を求め起こした連続殺人事件の犯人として冠された名前、それがジャック・ザ・リッパー。
少女達の願いは、母親のお腹の中に帰る事。
聖杯を求めて戦っていたのも、全てはそのため。
「おかーさんは…、たぶんいない」
何となく直感で感じ取っていた。この場に母と慕う己がマスター、六導玲霞はいない、と。
だったらやることは簡単だ。皆を殺し、彼女の元へと戻る。
そして、聖杯を手に入れるのだ。
「…やっぱり、色々おかしい」
だが、宝具の不調は如何ともしがたい。
霧の宝具は大きくその威力を削がれており。
条件が揃っていたにも関わらず、解体聖母であの白い少女を殺しきることができなかった。
さらに、解体聖母の魔力消費がかなり激しい。
今アサシンを襲っているのは、恐ろしいまでの空腹感だった。
ここまで魔力効率の悪い宝具ではなかったはずだというのに。
「じゃあ、さきにごはん探す」
だが、これらが測れただけでも収穫だろう、と。
特に深く考えることもなく、アサシンは夜の森の中、一人走り続けた。
純粋な願いと狂気、そして殺意に身を窶しながら。
【E-3/トキワの森/深夜】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、内臓にダメージ(中(回復中))
[装備]:マジカルルビー@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、クラスカード・セイバー(2時間使用不可)@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ、ランダム支給品0~1(武器はない)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには絶対に乗らない
1:怖かった…
2:タツヤを姉(鹿目まどか?)に会わせる
3:美遊、クロを探す
※ドライ開始直前からの参戦です
【鹿目タツヤ@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
[状態]:目、喉、肌に痛み
[装備]:防塵ゴーグル@ポケットモンスター
[道具]:無し
[思考・行動]
基本方針:帰りたい
1:イリヤおねえちゃんといっしょにいく
2:おねえちゃん(まどか)にあいたい
※参戦時期は不明ですが、まどかのことを覚えています
※タツヤのランドセル(基本支給品一式、ランダム支給品0~2)がE-3のトキワの森内に落ちています
【黒のアサシン@Fate/Apocrypha】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、魔力消耗(大)
[装備]:解体聖母×4@Fate/Apocrypha
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:皆殺しておかーさんのところに帰る
1:おなかすいたから何か(人間の魂を)食べたい
2:白い子(イリヤ)はいつか殺す
※解体聖母について
本ロワでは条件が揃っていても即死は不可能であり、最大効果で内臓ダメージ(大)を与えるものとします。
また、使用には大きく魔力を消耗し、消耗ゼロから使用しても回復無しで使用可能な回数は4回が限度であるとします。
最終更新:2014年03月11日 16:13