間違いの非劇 ◆1Udq39SlSU
雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)は考えていた。
勿論、考えているのは今自分が置かれている殺し合いの事だ。
名簿にあった知り合いは名は二人。レヴィと同じマテリアルズの闇統べる王(ロード・ディアーチェ)星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)。
そして見覚えのある知り合いの名が一つ。高町ヴィヴィオ。
(僕が居るんだし、王様やシュテるんが居るのは何となく予想してたけど。
高町ヴィヴィオって誰だろう? ナノハと同じ苗字なだけかな)
高町という苗字が珍しいかはレヴィには分からないが、それでも言うほど変わった苗字でもない。
名前が被ってもおかしくないだろう。
知り合いの参加を確認しつつ、レヴィは黒い杖状の物を取り出す。
レヴィのデバイス、バルニフィカスだ。ランドセルから出してから二、三度振るってみたり、調子を見る目的で近くにあった岩へとデバイスを刃へと変形させ切り付ける。
数秒の後、岩は見事に二つへと別れ上部分が大地へと倒れる。
「あれ? なんかいつもと違うな」
普段と違い、僅かに威力が落ちている気もするが、戦闘に然程の支障は無い。
あまり深く考えずレヴィはバルニフィカスを元の杖へと戻す。
「さて、じゃあ行こうかな」
先ずは近くの建物から見て回ろう。
そう考えたレヴィは、先ず地図にあった近場のミレニア城塞へと向かう事にした。
―――――
「すいません九十九さん。取り乱しちゃって」
「ああ、気にするなよ」
ミレニア城塞の前で九十九遊馬と風間トオルは出会った。
当初は殺し合いの恐怖、疑心暗鬼から遊馬を警戒し涙を見せるほどだったが、遊馬が持ち前の明るい人柄で接していく内に段々と風間も警戒を解いていった。
今ではある意味、遊馬以上に丁寧で冷静に物事を考えられるぐらいだ。
「にしても良かったぜ。最初に出会ったのが、殺し合いなんかしてない奴でよ」
「それは僕の台詞ですよ。九十九さんと会えたお陰で、何とか落ち着けましたし。
ところで、話は変わりますけど。
野原しんのすけと佐藤マサオっていう、僕と同じ歳の男の子を見ませんでしたか?」
「友達か? 悪いけど知らないな」
友達。
脳裏を過ぎるのは真月零いやベクター。
一時期は遊馬の友達として友情を育み。その実、決闘を有利に進める為にその友情を利用した男。
許せない存在ではある。だが、だとしてもやはり憎みきれないのか。
「……俺も友達が、居るんだ」
「え?」
「お互い、頑張ろうな! 俺も友達を救ってやりたいんだ!!」
友を救うという遊馬の決意に頼もしさを覚えるも、何処か暗い表情が風間の印象に深く残った。
「そういや風間、地図に何処か見知った場所は無いか?
多分、ここは参加者に由縁のある場所のレプリカが存在するかもしれないみたいなんだ」
事前に、遊馬がアストラルに指摘された事を今度は遊馬が指摘する。
そんなことに風間は気付くことも無く、スマートフォンの地図を開く。
「あっふたば幼稚園?」
「幼稚園って、友達も同じ幼稚園に通ってるのか?」
「はい」
「じゃあ多分、お前も友達もそこに集まってるかもな」
僅かに思案しながら遊馬は再び口を開く。
「行くか、ふたば幼稚園ってところに」
『遊馬? 良いのか、ハートランドに行くのでは?』
風間には視認出来ず聞こえないが、アストラルの声が遊馬の耳を響かせる。
遊馬も仲間とまた合流したいという思いはある。
だからこそ、見知った施設を見て回ろうと考えていた。
しかし、その思いを後に回し今は風間の人探しに付き合おうとしていたのだ。
「そんな、遊馬さんだって友達が……」
「皆の事は気になるさ……でもこんな殺し合いで死ぬような奴らじゃない。
俺は、そう信じてる……!」
風間への問いの返しでもありアストラルの問いの返しでもある。
遊馬は仲間の安否を気にしながらも、彼らの力を信じている。
生きていればまた会える。遊馬はそう考えていた。
「あっ、そういや初めて名前で呼んだな俺の事」
「ご、ごめんなさい。つい……」
「良いよ。俺も苗字で呼ばれるのって堅苦しいし。
俺もトオルって呼んで良いか?」
「良いですけど……」
思えばしんのすけにも名前で呼ばれた事は無かった。
少し斬新で、嬉しい感じがした。
「よし! じゃあ先ずはミレニア城塞を調べて、その後ふたば幼稚園だな!!
かっとビングだーおr『かわせ遊馬!!』
「!?」
アストラルの叫びに応じる形で遊馬が前方へ駆け出したのと、遊馬の居た場所を青い雷光が抉ったのはほぼ同時だった。
二人を襲ったレヴィ・ザ・スラッシャー。その様はまさに雷刃の襲撃者その者。
反面、ツインテールに結んだ青い髪、髪の色に合わせたかのような紫の瞳、黒色の杖に青のマントとスカートをはためかせる姿はまるで風間が好きな魔法少女もえPのようだった。
とうの風間は目の前の事態に腰を抜かせ、座り込んでしまっているが。
『不味い、風間と我々は分断されてしまった!』
「分かってる!」
アストラルの懸念は遊馬と風間の位置だ。
遊馬と風間の間にレヴィが割り込んだせいで分断された形になってしまった。
こちらを狙われるのも困るが、遊馬と違い戦う術を持たない風間が狙われれば、確実に死が待っている。
「お前、殺し合いに乗ってるのかよ!!」
故に取るべき行動は一つ。
レヴィの気を引き、可能な限り風間から引き離す。
出来れば風間自身に走って逃げてもらいたいが、無理そうだ。
最悪の場合は遊馬が囮になってこの場を離れ、レヴィを引き付けるしかない。
「うん! そうだよ!」
笑顔でレヴィはそう答えた。
何の迷いもないのだ。かといって、ベクターのような悪意は感じない。
時間稼ぎ目的の為に問いかけた遊馬が逆に度肝を抜かれてしまった。
「何でだ……何でこんな殺し合いに乗っちまうんだよ!」
遊馬の心の底からの叫びだった。
理解できないのだ。何故、こんな殺し合いに自らの望んで乗ってしまうのか。
命を握られているというのは分かる。けれど、それを差し引いても人を殺そうとし、実行してしまうなんて遊馬には考えられない。
「優しいんだね。君は」
レヴィは少し寂しそうな顔を見せた。
アストラルやレヴィからすれば後ろに居る風間は気づかなかったが、遊馬にはそう感じられた。
「王様やシュテるんも優しいんだ」
「王様?」
「うん! 王様だよ」
一瞬、皇の鍵の事かとも思ったが違うようだ。
「好きなのか? そいつらが」
「まあね。でも優しいから、こういう場だと少し不安なんだ。
だって殺し合いでしょ? 多分悪い奴も一杯居ると思うんだ」
悪い奴。確かに真月、いやベクターのような危険人物が複数参加者として選定されている可能性は高い。
「だからボクも考えたんだ。王様やシュテるんが死なないようにどうすれば良いかって」
『そこで、その王様とシュテるんとやら以外を殺す、か。
一見無謀に見えるが、戦闘力に自信があるのなら下手に他人を信用しポーキーへの抵抗を露にするよりは、奉仕対象の生存率は上がるかもしれないな』
レヴィが喋るより早くアストラルが言葉を紡いだ。
「お前、言ってる意味分かってんのか?
そんな事しても、皆悲しむだけじゃないのか!?」
仮に遊馬の友達が遊馬の為に殺し合い血に濡れるとしよう。
例え遊馬は助かったとしても、素直に喜ぶことなど出来る筈がない。
「殺し合いに乗ることが友達の為なんて間違ってる!!」
退くわけには行かない。
この少女はここで絶対に倒し、その間違った信念を打ち砕かねばならない。
左腕の決闘盤(デュエルディスク)を展開し右手をデッキのトップへと構える。
「決闘(デュエル)だ!」
遊馬はレヴィの話を聞く内に、時間稼ぎというよりも激情に駆られていた。
そして彼は普段元の世界での揉め事の大半をこの決闘によって解決してきていた。
よって遊馬にとっての戦いとは決闘であり、ある種の習慣なのだ。
『駄目だ遊馬! 相手は決闘者(デュエリスト)では……!!』
身に染み付いた習慣はすぐに取れる物ではない。
アストラルの叱咤で我に返り咄嗟にデッキからカードを引き抜こうとするが遅い。
「!! ぐわああああああああああああ!!!」
『遊馬!!』
レヴィはまさに雷の如き速さで遊馬へと接近し、鎌状にしたバルニフィカスを振りかざしていた。
遊馬が左の腕に着けたカードで、何かをしようとしていたのを察知したレヴィはカードを抜こうとした右腕を片ごと切断。
カードを引く(ドロー)することなく、遊馬の右腕は鮮血を拭きながら地面へと落ちた。
(や、やべえ……!)
更にレヴィは鎌を振り上げ、止めを刺そうと構えている。
かわさなければ、今度こそ絶対に死ぬ。
分かってはいるのに、あまりの激痛と生まれて初めて四肢を無くしたというショックに遊馬の脳の伝令が遅れた。
「っが、はあ……!」
結果、レヴィの鎌が遊馬を切り裂く寸前に足は回避を始め。
しかし完全な回避は行えず、遊馬の胴を袈裟懸けに一閃。
血が更に噴出し視界が曖昧になり、体がふらつくがそれでも即死というには浅い傷で済んだのは幸いだったのか。
とはいえ、最早死に掛け限界なのは誰の目に見えても明らかであり。遊馬は前のめりに倒れた。
『遊馬! 遊馬!!』
アストラルの呼びかけにも反応は薄い。
遊馬は何もせずとも死んでいく。
レヴィもそれを理解したのか、矛先を背後の風間へと向ける。
「う、うわああああ助けて!」
「逃げろォ!トオル!!!」
遊馬の声で座り込んだ風間は何とか立ち上がり走ろうとする。
だが年齢的に見て、一回り歳が上のレヴィに足で勝てる筈がない。
遊馬は最後の力を振り絞り、失った右腕のかわりに口でカードを引く。
「た、頼むぜ……ガガガマジシャン!!」
レヴィの鎌が風間を引き裂こうとしたその時、レヴィの腕に鎖が巻きつけられる。
即座に鎖の方を見ると、そこにはレヴィと同じく魔導師の類か。如何にも魔法使いのような帽子を被り、鎖を持った不良のような男が居た。
「くっお前……!」
レヴィは舌打ちする。
まるで気配に気付けなかった。一体何時からこの場に現れたのか。
そこでレヴィは死にかけていた遊馬が妙な事をしている事に気付いた。
「あいつのデバイスかな?」
放っておけば死ぬだろうと高を括ったのが失敗だった。
これ以上、厄介な事をされる前に殺す。
バルニフィカスを持つ手を変え、鎖を叩き切るとレヴィは遊馬へと魔力弾を放つ。
「ま、だだ……俺はガガガウィンド発動!
ガガガモンスターのレベルを一つ上げ特殊召喚する!!」
魔力弾が遊馬のマジックカードより現れた旋風により弾かれる。
旋風が止み、中から遊馬の呼んだモンスターのシルエットが浮かびだす。
ガガガマジシャンと似た帽子を被りながらも、丸みを帯びた女性らしい体つき。
更に整った美しい顔に加え、手に持った携帯電話が印象的な美女。
「来い! ガガガガール!!
俺はレベル4のガガガマジシャンとガガガガールでオーバレイ! 二体のモンスターでオーバレイネットワークを構築!!」
二体のガガガモンスターが光となり一体のモンスターが形作られていく。
輝きはやがて収まり始め、光は人型となっていく。
「出でよ! No.39 希望皇ホープ!!」
白銀の装甲に手には一振りの剣。
先ほど召喚したガガガモンスターとは比べ物にならない。
レヴィは僅かに後退しホープを睨む。
「よ、し……ガガガガールの効果を発d……」
『遊馬! しっかりしろ遊馬!!』
「く、そ……意識が……」
ガガガガールはエクシーズ召喚として使われた際、相手モンスター一体の攻撃力を0にすることが出来る。
だが遊馬は意識を手放しかけたせいで、効果の発動タイミングを逃がしてしまう。
「これ以上何かされる前に、一気に決める……光翼連斬(こうよくれんざん)!!!」
レヴィはバルニフィカスを素早く振るい、縦回転する魔力刃を2つ遊馬へと飛ばす。
「ホープの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使いお前の攻撃を無効化する!!」
二つの刃が消えるも、それは遊馬の寿命を僅かに延ばしただけに過ぎない。
既に半分意識を失いながらも、遊馬を突き動かすのは燃え上がる闘志。
死ぬとして、何も為さぬまま死ぬのだけはごめんだ。
「か、かっとビングだ……俺ェ!!! 行け……希望皇ホープ! 攻撃だ!!!」
主の命を受けホープはレヴィへと駆け出す。
同じくレヴィも真っ向から突っ込む。
「雷刃封殺爆滅剣!!」
複数の雷球が雷の剣へと変わりその内の一本がホープへと向かう。
剣はホープを貫き雷は弾けホープは爆散する。
否、剣を跳ね除けホープは今だ健在。
遊馬の決闘への常識が自らの死を招いたのなら、今度はレヴィの決闘への無知が己の敗因を作る。
ナンバーズはナンバーズでしか倒せない。如何にレヴィであろうとも、この絶対の
ルールは覆せない。
レヴィは迎撃を諦めシールドを張り、ホープの攻撃へと備える。
ホープの剣はレヴィのシールドに遮られ止められてしまう。
「凌ぎ切れれば!」
「ホープの……効果……発、動……! ホープ自身の攻撃を……無効、化する……!」
「何だって?」
ホープは攻撃をやめる。
だが次の瞬間―――
「そ、攻……魔法、発、動……!!」
遊馬は震える口でカードを引き、左手へと持って行き天高く掲げる。
「ダブル・アップ・チャンス……モンスターの攻、撃が……無効になった時……そ、のモンスター1体を選択して、発動、できる……。
選択した……モンスターの攻撃力は、倍に、なる……!!」
攻撃の無効化。
先のホープの攻撃停止はこの為の伏線。
再びホープは動き出す。
攻撃力2500のホープは倍の5000の攻撃力を以ってレヴィのシールドを突破した。
「そ、そんな……」
「ホープ剣・スラッシュ!!!」
ホープの剣がレヴィを切り裂く。
血を撒き散らし倒れ付すレヴィ。
敵を倒した事に安堵したせいか、緊張の糸が切れ異常な程の眠気が遊馬を襲う。
「ありがとうな……ホープ。
それと、悪いアストラル……道連れにしちまって……」
『気にするな。君は良くやった。
もう休め』
「ああ……そうするぜ。……皆、ごめん……」
返り血に濡れたホープの顔が、まるで涙を流し主との別れを惜しんでいるように見えたのはきのせいだろうか。
たった今、九十九遊馬は絶命した。
「嘘……遊馬さん、遊馬さん!!」
風間が遊馬のへと近寄り体を揺らしてみるが反応はない。
既に遊馬は息をしておらず脈もない。
徐々に腐敗が始まり、顔色も肌色だったものから土気色に変わっていくだろう。
幼稚園児の風間もそれくらいは分かっていた。
「起きて下さい……起きて下さいよ……一緒にふたば幼稚園に行くんですよね……。
お願いですよ、目を開けて下さい」
目の前で起こった殺し合いと悲惨な死。
多少頭が良い程度の、ただの幼稚園児にこれ程、異常で恐怖を刺激するものはない。
風間の頭の中には、次殺されるのは自分かもしれないという混乱に近い恐れ。
「そうだ、このカード。これがあれば身を守れるんだ」
遊馬が召喚して戦っていたカード郡。
左腕に固定された機械ごと取ろうと遺体の腕を持ち上げ試行錯誤する。
風間の住んでいた時代より、未来の技術の結晶である決闘盤は風間の手に余り外せない。
「早く、外して……早く、早k」
最後まで言葉を紡ぐことはなかった。
胸を一筋の雷光が貫き、程なくして風間トオルは事切れた。
「―――ごめん、王様、シュテるん」
また一人地に墜ち。
全員死んだ。
ほくそ笑むのはポーキー・ミンチただ一人。
【A-2 ミレニア城塞/荒野/深夜】
【九十九遊馬@遊戯王ZEXAL】死亡
【風間トオル@クレヨンしんちゃん】死亡
【雷刃の襲撃者@魔法少女リリカルなのはシリーズ】死亡
最終更新:2014年03月11日 19:57