忍び寄る闇 ◆OFEY/nqyTI


 「一体どうなってやがる……ここはバリアン世界じゃねえのか?」

薄暗い街灯が照らす暗闇の街に1人の男がいた
黒を基調とした服を着たオレンジ髪の少年は鋭い目つきで、自分の親指の爪を齧る。
彼の名はベクター。異世界バリアンに住まう者達の中心的存在、バリアン七皇の1人である。

彼はバリアン界に一足先に到着し、メラグとドルベの魂を喰らうため
ナッシュの玉座で待ち構えていたばかりだったのだ。

 「それに、俺の中にいるドン・サウザンドの気配も消えている。
 姿も見せねぇし、声も聞こえねぇ……」 

かつてベクターは九十九遊馬とアストラル達とのデュエルに敗北し、重傷を負った。
復讐に燃える彼はその傷を癒すためバリアン世界の神であるドン・サウザンドと契約し、
魂を心臓に宿すことでさらなる力を得ることに成功したのだ。
言うなればドン・サウザンドとベクターは同じ命を共有する一蓮托生の状態である。
しかし、この命を落としかねない危機に晒されているのにも関わらず、
一向に姿を現さないバリアン世界の神にベクターは訝しむ。

 「俺様の身に良からぬことが起こっているのは確かだ……試してみるか」

ベクターは両手を横に構える。
すると、ベクターの周りを赤い光が発し始めたとともに、胸に赤い菱形の水晶が浮かび上がる。
赤い光が収まると、ベクターの姿は変貌していた。
体と髪の色はグレーに変わり、下半身には腰布をつけ、背中には悪魔のような黒い翼が生えている。
これがベクターのバリアルフォーゼした姿。バリアン界における本来の姿なのだ。
しかし、バリアルフォーゼを終えたベクターの体は突如がくりと崩れ落ちる。

 「ぐっ……何だ!?この感覚は……」

ベクターの体に今まで感じることの無かった重たい感覚に襲われる。
思わず膝を地面に突きそうになるものの、何とかその場で踏ん張り、立ち上がる。
体の心臓は早い動悸を打つ。バリアルフォーゼをした瞬間、彼の体力は削られていたのだ。

 「あのブタ野郎……俺の体に何かしやがったな……!?」

鼻と口が無いバリアン態のベクター表情は憤怒の色だった。
顔に唯一ついている目は吊り上り、眉間に皺を寄せている。
彼は自分の思い通りに動かないことは何よりも嫌いとするからだ。

「……この姿で気軽に暴れまわれねぇとなるとやることは1つだ」

ベクターの体を再び赤い光が包み込み、人間態の姿に戻る。
しかし、彼の服装は先ほどの黒に包まれた服とは違っていた。
赤いネクタイをしめている白制服に青いズボン。
彼が人間界で、『真月零』と名乗り九十九遊馬とその仲間達に近づいた時の姿だった。
あの時と同じように殺し合いに反対する者達の中に潜入し、殺し合いをやり過ごそうと考えていた。

人間態に戻ったベクターは自分の近くに置いていたランドセルを拾い上げ、カバーを開ける。
中には自分のいつも使用している紫色のデュエルとカードが入っていた。
しかし、ベクターが取り出したのは別のアイテムだった。

 「ほぉ、これは……」

ベクターは手の平に収まるほどの機械を取り出す。
機械に付属されているメモ用紙にはこう書かれていた。

『首輪探知機 スイッチを押すと今いるエリアの中にいる者が分かる』

ベクターは機械に備えられているスイッチを押すと、電源がつき、今自分のいる地点であるD-4の文字が現れる。
それと同時に画面には赤い点が2つ点灯していた。
自分以外に殺し合いに巻き込まれたいることを確信したベクターはニヤリと笑みを浮かべる。

 「ククッ……さぁ、良からぬことを始めようじゃねぇか……!」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 「ここ……どこなんだろう……」

セーラー服に身を包んだ茶色い髪の少女が
漆黒に包まれた闇の街をとぼとぼと歩いている。

 「司令官……響……お姉ちゃん……」

呼びかけに答える者は誰もおらず、少女の呼ぶ声はむなしく町の中に消えていく。
彼女の中にあるのは突然殺し合いに巻き込まれたことによる不安と恐怖心だった。

 「まずは鎮守府に向かわなきゃ……誰かいるかもしれないのです」

少女は片手に持ったスマートフォンの地図と進行方法を交互に見ながら進む。
自分の姉の雷や仲間の響もそこに向かっているかもしれない。
淡い期待を胸に抱きながら彼女は、スマホ内の地図に表示されている鎮守府を見つめる。
スマートフォンの画面を眺める電。そこに、どこからともなく彼女の前方から人影が現れていたが、
画面を凝視していた彼女はその存在に気づくことはなかった
人影の方も画面を見つめている電に気づいていないのか、走りを止めることはない。
お互いに存在を両者の体はぶつかってしまう。

 「きゃっ!?」

電は走ってきた人影をかわしきれずにぶつかり、思わず尻餅をつく。

 「ご、ごめんなさいなのです! 大丈夫ですか?」

 「ひっ、ひぃぃぃぃいいいいいいいいい!!!」

電が謝罪しながら立ち上がると、そこには頭を両手で抱え、うずくまる少年の姿があった。
縮こまった体は恐怖のせいか、ブルブルと震えている。

 「ど、どうしたんですか!?」

心の中の不安を殺し、電は地面に丸まったまま動かない少年に声をかける。

 「た、助けてください…… 僕を殺さないで……!」

電がぶつかった少年に近づこうとするも、
うずくまっている少年は今にも泣き出しそうな震える声で命乞いの言葉を叫ぶ。
少年は電のことを殺し合いに乗っている者と勘違いしているようだ。

 「落ち着いてください。電は殺し合いには乗ってないのです。」

少年の誤解を解くため、電は優しい口調で言葉をかける。

 「い、命だけは……え?」

少年の体の震えがぴたりと止まる。

 「ホントなのです。 信じてほしいのです」

少年は電の言葉を聞き、うずくまっていた顔を上げる。
白い服と青いズボンを履いたオレンジ色の髪をした少年は
少年の狐に包まれたような顔をしていた。
それを見て電の顔は微笑む。

 「ははっ、良かったぁ……助かったぁ……」

少年はおぼつかない足取りで立ち上がり、ほっと胸を撫で下ろす。

 「ぶつかっちゃってごめんなさいなのです。前をよく見てなくて……」

電はぶつかった少年にぺこりと頭を下げ、謝罪する。

 「いえ、大丈夫です。全然気にしてませんから!」

電の謝罪を見た少年は電よりも深く頭を下げて、90度の角度で謝罪する。

 「急に殺し合いに巻き込まれちゃったら無理もないのです。その気持ち、分かるのです」

 「ところで、どうしてそれをよそ見なんかしてたんですか?」

少年はぶつかった衝撃で落としてしまった電のスマホを指す。
それを見た電ははっとした表情で慌ててそれを拾う。

 「それは……行きたい場所があったからなのです」

電は先ほど拾った自分のスマホを少年に見せる。
そこには鎮守府と表記された黄緑色の点があった。

 「この、鎮守府ってところです。」

 「ちんじゅふ……何ですかそれ?」

聞き慣れない言葉に少年は首を傾げる。

 「えっと……電のお家みたいなところです。そこに電の知ってる人がいるかもしれないと思って……」

電は鎮守府を知らない顔をする少年に言葉に詰まりながらも分かりやすい言葉で説明する。 

 「そうだったんですか。電さんのお友達もこの殺し合いに……」

暗い顔で少年の言葉に電は静かにうなづく。

 「僕もご一緒させてもよろしいでしょうか?さっきのお詫びがしたいですし、それに……」

 「それに……?」

少年の言葉が途切れ、電から目を反らす。

 「僕よりも年下の子なのに情けない姿を見せてしまいましたから」

少年は照れながら頭をかく。先ほどの大げさに
パニックに陥った少年の姿を思い出し、電はクスリと笑う。

 「ありがとうなのです……えっと……」

電は口ごもったのを気づいた少年ははっとする。

 「あっ、すみません!まだ名前を名乗ってませんでしたね。
  僕は真月。真月零です。以後お見知りおきを!」

 「これからよろしくお願いしますのです。真月さん」 


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 (ひとまずは殺し合いに乗ってないヤツと出会えたが……)

ベクターは自分の目の前にいる電と名乗る小さな少女を見る。

 (しばらくはこのチビで我慢するか……役にたたねぇなら
  切り捨てて、魂でも貰うか。)

ベクターはこの殺し合いに巻き込まれる直前にナッシュとメラグを待ち構えていた。
それは七皇の魂を喰らうことによりその力を自分の物にする指令をドン・サウザンドから受けていた。
遊馬とアストラルの雪辱を晴らし、さらなる力を得たいベクターはこれに賛同し、
一足先にバリアン世界で待ち構えていたのだ。
しかし、その計画もポーキーのせいで頓挫してしまった。
自分の良からぬ計画を邪魔したポーキーへの怒りの炎は
心の中でふつふつと煮え滾っていた。

 (俺以外の七皇の魂が欲しいが状況が状況だ。少しでも力をつけ、
  俺を殺し合いに巻き込んだポーキーとかいう白ヒゲブタをぶっ殺す……)

自分の命を握っているのも同然なポーキーを出し抜くため、
自分に架せられたバリアルフォーゼの制限を克服するため、
ベクターのドス黒い野望を誰にも聞こえないよう心の中で呟く。

 (見極めさせてもらうからな、いなずまちゃぁ~ン。
  てめぇがこのベクター様のコマに相応しい魂かをなぁ……)

ベクターはニヤリと笑い、瞳が紅く光らせる。
まるで獲物を前にした肉食動物のように。
真月の前を歩く電はその不気味な彼の変貌を知る由もなかった。

【D-4 市街地 /深夜】
【真月零@遊戯王ZEXAL】
[状態]:疲労(中)、人間態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、決闘盤とカード(ベクターのカード)@遊戯王ZEXAL、首輪探知機@LSロワ2014オリジナル、
不明支給品×0~1
[思考・行動]
基本方針:良からぬことを企む
1:真月零の姿で殺し合いに乗っていない者達の中に潜む
2:電が利用できる存在か見極め、用済みならば魂を喰らう
3:遊馬とアストラルは必ずぶっ殺す!
4:主催者を乗っ取りさらなる力を得る
※アニメ130話、メラグとナッシュがバリアン世界に戻る直前からの参戦です
※バリアン体での分身能力、瞬間移動が可能かどうかは不明です
※バリアンズスフィアキューブなしでバリアルフォーゼは可能ですが、体力を消耗します


【電@艦隊これくしょん】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない
1:真月さんと鎮守府に向かう
2:司令官や響、お姉ちゃんに会いたい


【支給品紹介】

【首輪探知機@LSロワ2014オリジナル】
スイッチを押すことで、自分のいる1エリア内の
参加者の居場所がわかる。首輪に反応し、
画面に赤い点で表示されてる。


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最終更新:2014年03月21日 19:25